モンスターイミテーション   作:花火師

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長いから分割しちゃったんだぜ!


盲目の世界

「ジ…………ァル。……い!」

 

 

なんだっけ。

 

あぁ。

 

日射し、暑いな。

 

空から俺を焼き殺そうと、ギラギラとした光が降り注ぐ。

……こんな人どころか、地上全てを焦土にしかねないものが大地への恵みを産み出すというんだから、わからないものだ。

 

薬は過ぎれば毒。毒も使いようには薬。つまりはそういうことなんだろう。

だが、もう少しでいいから俺たち人間にも配慮して光輝いて欲しいものだ。

 

「ジェ……ル!」

 

あぁ。

 

……頭が、痛い。

 

誰かが動きを止めた男へ石を投げた。それだけで、男は不細工な悲鳴を上げて涙を流しながら石材を担ぎ直す。

 

あぁ。

 

俺……なに、やってるんだっけ。

 

「聞いているのかジェラール!!」

 

「…………ん?」

 

俺の名を呼んだ誰かがそこにはいた。

真っ赤な緋色の髪をもった美しい女。無機質なプレートのついた服装をしていても尚、その美貌を失わない姿。

紺のスカートに、腰には長剣。なんとも愛らしさと無骨さを併せ持つ姿が、実に彼女らしかった。

 

「……エルザか」

 

「どうしたんだジェラール。ぼうっとして」

 

「いや……」

 

どうした……?俺がなにか可笑しかったか?

……いや、そんな筈はない。今日も今日とて塔の建設は順調だ。なんの抜かりもない。効率よく、首尾よく、計画は間違いなく進んでいる。

 

「なんでもない」

 

「なら良いのだが。無理はするなよ。お前ほどの男を早々に失う訳にはいかんのでな」

 

「はは、そうだな。俺も理想を叶える前に太陽に焼き殺される訳にはいかないな」

 

「まぁこの暑さだ。ほら、水はしっかり摂るのだぞ」

 

「あぁ」

 

差し出された水を受け取り、その中身を喉の中へと傾ける。

途端に潤っていく体に、なんだか頭も明瞭になっていく爽快感を覚えた。

 

なぜ、俺は曖昧な意識のまま立っていたんだ。

まさか、俺ともあろう男が本当に太陽にやられたか。だとしたら情けない話だ。

そんな男が、果たして本当にあれほどの大きな野望を叶えられるのか、少し不安になるというものだ。

 

「ジェラール……さま。ワシらにも水を……ォ。このままじゃあ、皆干からびて死んじまう」

 

ガリガリに痩せこけた老人が、働き蟻の群れの中から覚束(おぼつか)ない足取りで俺の足元へ膝まずいた。

 

「貴様、ふざけているのか?」

 

俺を押し退けると、そんな老人の頭を、エルザは足で踏みつける。

言葉のままに弱き者を威圧した。これが世界の在り方であり自然の在り方。弱肉強食。実にシンプルだ。

 

「まだ午前のノルマに届いていないではないか。その癖に水だと?面白い。貴様の冗句は後でまとめて聞いてやる。笑えなかったら殺す。さぁ、働け!!」

 

そのまま老人の顔を蹴りあげようとしたエルザ。

ふと俺は思い付いた妙案に、その暴力をすんでのところで止めた。

 

「待てエルザ。そう言うな」

 

俺はしゃがむと、老人の顔を上げさせる。手に持っていた水を、その老人へと手渡した。

 

「ぉぉ……。ありがたや。ありがたやぁ」

 

「なに、いいさ」

 

おい、ジェラールと俺の肩を掴んでくるエルザに振り返り、優しく微笑む。

 

「支配は力だけじゃ成り立たないぞ、エルザ。必要なのは暴力だけじゃない」

 

そう言って俺は再び、拝み続ける老人へと目を落とした。

 

「午前のノルマが終わったら全員に好きなだけ水を与えよう」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

今月の資材は確か余裕があった筈だ……。

ま、少しくらいならいいだろう。これも計画を早く実現するための投資だ。

 

「じいさん、奴隷全員に通達しろ」

 

「は、はい。な……なんでしょうか」

 

恐る恐る、罪状を告げられる囚人のように、震えながら首を傾げる老体に微笑んだ。

 

「明後日までのノルマを全て、今日で済ませることが出来たのなら。褒美に今夜食事の食べ放題を行う。奴隷全員にだ。……そうだな、ついでに風呂も今日はお前らに開放してやるとするか。そう伝えろ」

 

言うが早いか目を見開いていた老人は、喜色の笑みを浮かべ、年寄りとは思えない速度で首を縦に振る。

そのまま、そそくさと蟻の群れの中へと走り去って行った。

 

それが伝わるや否や、奴隷たちの動きが目に見えて効率化されていく。

 

全員に与える。このフレーズひとつで効率は格段にあがる。なぜなら、明後日までという膨大な仕事に対して、ノルマを目指すのなら否応なく全員の力が必要だ。必然的に、奴隷内での上下関係を一時的に取っ払うことが可能になる。そうなれば、作業が効率化して当然だ。

むしろ上に立つ奴隷が働かず達成できなければ立場は逆転する。奴隷内で革命が起きる。最悪、命をとられる可能性だって出てくるだろう。それがわからない阿呆はともかく、理解できる奴ならばより必死に働くだろう。何倍も心血を注ぐことだろう。

 

「おいジェラール!何を勝手なことを!」

 

今にも殴りかかりそうなエルザを「どうどう」と抑えながらも、握りしめた拳を下ろさせる。

 

「私は嫌だぞ!奴等のような魔法も使えない下等種の出汁風呂に入るなど!」

 

お前が先に入ればいいだろう。

 

「やつらに私の残り湯を啜らせるなど許さん!」

 

……俺にその発想はなかったよ。

 

「ワガママ言うなエルザ。見ろ、蟻たちの動きが見るからに早くなっている。不完全とはいえ、一時的な支配だけなら確かに力でも出来る。だが、今俺たちがするべきは支配じゃないだろう」

 

「なに?支配ではないだと?……では何だ」

 

立腹の様子を見せるエルザを横目に、俺は奴隷たちを眺めた。

 

「使役だよ」

 

そう。今、やつらを支配(・・)したところで得られるものなど何もない。

俺たちはこの楽園の塔を完成させ、ゼレフを甦らせ、そこで初めて世界の支配へ一歩を踏み出す。

今するべきは一時の支配による優越感を得ることではなく、悲願のために蟻を効率よく使うことだ。

 

「その時だけの感情で、やりたいようにやっているだけではダメだ」

 

「……そういうものか?」

 

「そういうものだ」

 

納得のいかなそうなエルザをどうにか丸め込み、俺は再び降り注ぐ光の下で揺れる大地と、雲ひとつない鳥たちの泳ぐ青空を眺めた。

 

「……暑いな」

 

 

 

 

 

 

 

「ジェラール、聞いたぞ。奴隷たちに風呂を開放するんだってな」

 

「あぁ」

 

月明かりの中の会話だった。

 

「ったく、よくもまぁエルザが頷いたものだ。どうせまた言葉巧みに(たぶら)かしたんだろう?」

 

シモンが俺に並ぶように、バルコニーの高欄へともたれ掛かった。

 

誑かした、ね。随分と俗物的な表現をするじゃないか。自覚はあったが、やはり俺はシモンにはそういった類いの人種だと思われているらしい。心外な。

 

「ま、いいさ。どうせもう完成も間近だ。最後くらい奴隷たちにも良い思いをさせてやろうってところか」

 

「俺はそんな甘ったるい感情論で許したわけではない。お前の言う通り完成はもうすぐ。評議院も今更になって動き出している。駆け足になって然るべき時期だ。……評議院め、今まで通り黙っていればいいものの。いったいどこから嗅ぎ付けたのやら」

 

「ほんとにな。お陰で、エルザが間諜(スパイ)と疑った奴隷を全員斬り捨てちまった。作業も一部停滞。迷惑な話だ」

 

「フッ。まぁうちの女王(ティターニア)はそれくらいじゃないとな」

 

「ハハハっ、違いない」

 

笑い合う仲間がいる。

俺は、幸せだ。少なくとも一人ではない。

 

──誰かとGtpd6$!『─』)dhる

 

──幸せが5pjd?jmA「》:・+3て

 

──尊敬できるjdw.w@btと

 

──大切な724『…◇!$"」がいて

 

──……好きな人)『(7jd$《《3て

 

 

「いっ"」

 

頭痛が走った。

頭の中で何かが暴れているようだ。

 

「おいおい、どうしたジェラール」

 

心配そうに俺の肩に手を乗せるシモンに、大丈夫だと伝える。

……なんだ。今日はとことん調子が悪いな。集中力も持たない、考え事も深く続けられない。こんなことでは新世界の支配など夢のまた夢だ。

 

「どうしたんだお前。今日はなんだか可笑しいぞ。疲れているなら早めに休め」

 

「あぁ。そうだな。そうさせてもらおう」

 

今日はもう、寝てしまおう。

一晩寝てしまえば、明日の朝には元に戻っている筈だ。いつもの俺に。

 

──いつもの、俺に。

 

「ジェラール」

 

立ち去ろうとした俺の背中へ、シモンの声がかかった。

 

「お前は……エルザをどう思っている」

 

「どう……?」

 

どう、と言われてもな。俺としては良き仲間であり有力な戦士であり、新世界の自由を享受するに値する人間だと思っているが……。

きっとシモンが聞きたいのは、そういう事ではないんだろう。

 

こいつは昔からエルザに惚れていたからな。わかりやすい男だ。

 

「おい、なにをニヤついている」

 

「なんでもない。安心しろシモン。俺はエルザを仲間だとしか思っていない。それ以上の恋愛感情などありはしない」

 

「なっ、何をお門違いな!」

 

明らかな動揺に、少しながらの悪戯心が湧いた。

 

……しかしまぁ、俺も休みたい。ここで長引かせても仕方がないか。いつもならもっと弄ってやるところだが、今は止しといてやろう。

 

「そうかお門違いか。それはすまない」

 

シモンは気恥ずかしそうに少し赤くなった顔を月へと逸らした。

 

一時の間が生まれた。

 

奴隷たちの嬉しそうな騒ぎ声はすでに止み、夜風の吹く中で静寂が流れる。

 

「お前は本当にエルザのことを…………」

 

シモンの見せるそれは、迷い。

 

「いや、なんでもない。お休み」

 

なにか熟考した仕草を見せるが、だが結局シモンは何も言わずに海へと視線を戻す。

 

「あぁ。お休み」

 

疑問を抱えながらも、俺は自室へと向かった。

 

 

 

月影の生まれた廊下をひた歩く。

暑く日照るような熱気と喧騒に支配された昼とは対照的に、そこは只々冷たくて静かで、どこか美しい閑散とした景色だった。

 

夢の中のような世界だった。

 

……ぼうっと。またしても、空っぽになった頭がその世界を見つめていた。

 

俺が立つ。青白く冷たい灰色の世界を。

 

 

「待っていたぞ、ジェラール」

 

青と白で作られた世界に、ひとつの()が入り込む。

まるで暖かい日射しのような女が、勝ち気な笑みを浮かべて。俺だけの青白い世界へと、堂々と大胆不敵に侵入してきたのだ。

 

「……エルザ」

 

……俺は……。

 

あぁいけない。まただ。またボケッとしていた。

 

「待っていたぞ、ジェラール!」

 

二度目だった。いや、もうそれは聞いた。

 

自室で休む腹積もりだったのだが、そう上手くはいかないらしい。

困ったことに、道中でエルザに捕まってしまった。

なんと不運なことか。

 

「む。なんだその不服そうな顔は」

 

するなと言う方が無理があるだろう。もはや疲れを隠す気力すらありはしない。

むしろ、察しているのなら早々に開放して貰えないだろうか。

 

「エルザ。疲れてるんだ。今日はもう」

 

「休ませろ、とは言わせんぞジェラール」

 

「……」

 

遮られてしまった。

というか、俺の言いたいことがわかっていてなぜ止める。なんだ、風呂を奴隷に開放した腹いせか。

 

「今夜は私と語らおうではないか。楽園の塔もじき完成だ。話せる機会もそろそろ最後になってしまうかもしれん」

 

「別に今夜じゃなくてもいいだろう」

 

「いいだろう。減るものじゃないんだ」

 

「……はぁ。疲れてるんだ、寝かせてくれ」

 

「ええい知るかッ!!」

 

知らないらしい。

 

こうなってしまったら彼女はテコでも動かないだろう。

……仕方ないか。

 

「わかった。わかったよ」

 

「うむ。よろしい」

 

両手を上げて降参する俺に、エルザは満面の笑みを見せる。

胸を張りながらも、どこからか取り出した酒瓶を掲げた。

 

「まさか、飲むつもりか?」

 

月光に輝く酒瓶(得物)を掲げて、したり顔で微笑むエルザ。

 

「たまには良いではないか」

 

「お前が酔うと面倒なんだがなぁ」

 

「なにをぉ?」

 

彼女の持つ酒瓶。

その葡萄酒にはどこか見覚えがあった。確か、中々に値の張るものだった筈だ。

……そう、確かそれは。

 

「ハルジオンの名産だったな」

 

「ん?あぁ、そうだが。フッ、流石はジェラールだな。まさかこいつのことを知っているとは」

 

「そりゃあ知ってるさ。なんたって、そいつが俺の額をかち割りかねなかったんだからな」

 

「お前の額を?……すまない、なんの話だ?」

 

「なんのって……」

 

 

……なんのって。

 

なんの話だ?

 

なんだ?

 

いやまて。なんだ。一瞬頭の中を巡った、どこかの風景。

チンピラたちのような人間が集う、どこかの汚ならしいギルドのような風景。

 

食い散らかされたテーブル。飛び散った果実酒。

 

周りは大人ばかりと、数人の子供。

 

殴り合う人間たち。

 

笑い声。怒鳴り声。野次と称賛。

 

そして額に目掛けて飛んでくる酒瓶。

 

 

それを受け止めてくれた──

 

 

「っつ"ぁ"」

 

頭が割れそうだ。

 

痛みに堪えきれなくなった俺は、力なく床に膝をついた。

 

「おいっ、ジェラール!ジェラールどうした!?」

 

「誰だ」

 

誰だ。いったい。

 

誰の記憶だ!誰の感情だ!なんだこの思い出は!?

なにがどうなっている。

 

頭が……頭が中から割れそうだ。

脳の中で稲妻が走り回っている。

 

誰かの顔が……見えないんだ。顔が見えないんだ。見上げたそれが、いったい誰なのかわからない。誰だ。

 

お前は、誰だ!!

 

 

 

 

その時、地響きが鳴った。

まるで建物そのものが爆撃されたような衝撃に、床が大きく揺らぐ。

 

「侵入者だああああ!!」

 

警備隊の声が伝声管を伝って楽園の塔全体へ届けられた。

その叫びは、彼らの悲鳴へと変わり、眠りついたいた楽園の塔が目覚めだす。

 

「ッチ!役立たず共が!侵入させる前に見つけて仕留めるのが仕事だろうに。事が済んだら始末してやる」

 

先程までの柔らかい笑みを消したエルザが、酒瓶を仕舞うと変わりに腰に挿した剣を取り出した。

 

「ジェラール。体調が優れないなら下がっていろ。侵入者程度、私一人で全員の息の根をめてやる」

 

「……いや、大丈夫だ」

 

いつの間にか、あれほど頭の中でがなり立てていた激痛も鳴りを潜めていた。

……また痛みだすかもしれないが、しかし戦えないということはないだろう。

 

「俺も行く」

 

「そうか。では、先に行っているぞ。無理はするなよ」

 

エルザは怒りに身を任せたように、叩き割った窓から外へと飛び降りていった。

建物の外壁を蹴りながら降りていくその姿に、器用なものだと感心した。

 

……さて、さっきの痛みがなんなのかわからない。だが、今はそんなことを言っている暇はないようだ。

楽園の塔への侵入者。タイミングから察するに評議院の差し金だろう。

 

しかしなぜだ、ジークレインの視点では何も異常は起こっていなかった筈だ。

なぜ今になってこんな……。

 

「ジークレイン!何が起きて……ッ」

 

どういうことだ。ジークレインの反応が消えた……。

思念体とは言え、やつは俺の片割れだぞ!そう易々と敗れるほど(やわ)ではない。

 

「なぜだ。消滅前のジークレインの記憶にはなにも映っていない。これはまるで、誰かに背後から……」

 

「そう。今ごろマスターが背後から仕留めた頃だろう」

 

振り替えれば、そこには黒髪の女が立っていた。月光に照らされている様も相俟ってまるで剥き出しの刃を連想させる立ち姿だった。

一本の刀を引っ提げ白い衣服に、美しい黒髪を壊れた窓から入るそよ風が揺らす。

 

 

ピシリと頭痛がひとつ。

 

 

「誰だ、貴様」

 

……いや、この女。見覚えがある。

 

そう、確か聖十の……。

 

「私は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)所属。『一刀のカグラ』。恥ずかしながら聖十の末席を汚す身よ」

 

一刀の、カグラ。

 

フハハッ、なるほど。まさかここへ妖精の尻尾を。それも聖十の一人を寄越すとはな。

評議院も必死になって取りかかったとみた。

 

だがまさか、ジークレインの正体がバレてしまうとは。いったいなぜだ。どこでそんなヘマをした。

いや、そんなことよりジークレインがいないとなればエーテリオンをここへ誘導することが出来ない。

 

……ッチ。面倒な。

しかし、楽園の塔に関する知識を奴等が有しているとは思えない。エーテリオン投下と楽園の塔、Rシステム発動への紐付けが出来ているとは考えられん。まだ、やりようはあるか。

 

「私を前にして随分と余裕を見せてくれるな。評議院が一人、聖十のジークレイン」

 

「いや。ジークレインではない。俺はジェラール。いずれ世界を全て消毒し、自由世界を造る。本来なら貴様ら下民が崇めるべき男だ」

 

俺の言葉に、カグラは馬鹿馬鹿しいと鼻で息を吐いた。

 

「自由のなんたるかを履き違えた男、か。哀れね」

 

「哀れなのは貴様らだ。仮初めの自由に縛られた世界で、誰かの顔色を伺い続けて生きていくだなんて。俺には到底理解できん」

 

「人と人との繋がりはそういうものだ。人を見なければ、人として生きていくこなど出来ない。人を人として見ないなど、それはもはや人の所業ではない」

 

「ならば、俺は人である必要などはない」

 

「ほう?なら何だ。ジークレイン。お前は何だ?神とでも名乗るのか?」

 

「くくっ、わかってるじゃないか。そうだ。俺は貴様ら下等生物とは違う。本物の神となる」

 

俺の野望に、カグラは何が可笑しいのか心底呆れたように声を弾ませた。

 

「はははっ。黒魔導士ゼレフ。その力を借りて神になるですって?フフッまるで子供じゃない。そんな我が儘で世界を作り直すなんて正気じゃないわ」

 

「ほざけ。どんな手段を使おうと、上に立ったものが全てだ。それ以外に価値などありはしない!」

 

やり取りはもう、この辺でいいだろう。

元よりこの女と語ることなどありはしなかったのだ。

こうして対立している時点で、交わすべき思いも言葉もありはしないのだ。

 

「剛の型」

 

流星(ミーティア)ッ!」

 

 

速い。

一刀のカグラ。噂に違わぬ実力者か。

 

……だが。

 

エルザには遠く及ばない。

あの輝きには、お前では足りない!

 

お前等ごときが、俺の……俺たちの夢を阻むなァ!!

 

「剛の型・十連」

 

点の刺突。それが数を重ねるだけで、壁のように迫り来る。

しかしそのどれも、スピードはあれど単調だ。

 

……それにしても不気味だ。あの抜かない刀。

彼女についての噂は聞いている。あの刀を抜かせたのは、今までで片手で数えるほどしかいなかったとか。

 

果たして、中にはどんなネタを仕込んでるのやら。所詮下らぬ児戯と吐き捨てるのは簡単だ。最低限の警戒は必要だろう。

 

 

──頭にノイズが走る

 

 

「ッハァ!その程度か、妖精の尻尾!ゴミはの集まりは所詮ゴミだな!こんなのが聖十だと?評議院はよほど人手不足らしいな、くだらない!」

 

「よく、喋る口だ」

 

この……ッ!

 

「……下等生物の分際で。劣等種の分際で。なんだその口の聞き方はッ!!アァ!!?」

 

……なんだ。なにかが可笑しい。

俺はいつからこんなに沸点が低くなった。

 

「……支配者か。誰が上だとか下だとか。下らないことに固執している貴様の方が底が知れる」

 

思考が……乱れる。

 

 

──ノイズが走る

 

 

「黙れえっ!!」

 

右手に力を宿らせた。

籠めるのは、怒り。感情を纏わせ高ぶりによって相手を殺し尽くす魔法。

咎のような金色の炎ではなく、怒りに身を任せた赤黒い炎。

 

「救済の炎よ!!」

 

焼き殺せ!!

 

「喧嘩好きの炎の専門化が下にいるの。悪いけど、その系統の対処法なら嫌と言うほど知ってるわ」

 

そう嘯くと、頭の横で刀を水平に構えた。

 

「翔ノ型」

 

見えぬ斬撃に、不滅の炎が断ち斬られる。敵ながら見事な技術じゃないか。

大言壮語は嘘ではないようだ。腐っても聖十ということらしい。

その時、一刀から魔力が発せられた。

 

重力(グラビティ)

 

体全体が床に引き込まれるように沈み込む。

一刀のカグラ。名前とはまるで違った、面倒な魔法を使うものだ。

 

「くっ。重力魔法か」

 

だが、こんな子供騙しに誰が押し負けるものか。

 

「ふんッ、この程度では流星(ミーティア)を多少抑えることくらいしか出来んぞ」

 

「抑えることが出来れば十分よ」

 

カグラの手の添えられた刀が傾いた。

その瞬間を、俺は捉えることができなかった。

 

 

「刀を抜く時。それ(すなわ)ち、鞘に納める時。抜刀ノ三──」

 

一歩、踏み込んだその瞬間。

 

 

 

「『太刀刀(たちがたな)』」

 

 

 

俺は上と下でふたつに両断されていた。

 

……冗談じゃない。これ程の女が末席、聖十序列十位だと?

ふざけるな。化け物め。マスターマカロフに並んでも不思議はない力量だ。

 

「一刀。お前は、ここで消しておかなければな……」

 

地に落ちた俺の体は徐々に分解されていく。普通の人間ではありえない命の落とし方。

普通ではないその現象はつまり、この体が実体ではないことの証明。思念体であることを意味している。

 

「これも思念体なのね。思念体でその魔力は驚異的だ。聖十のジークレイン、やはり伊達ではないか」

 

抜刀の姿勢をやめると、一刀は長髪を払って暗闇に髪を(なび)かせた。

まるで余裕を現すようなその動作に苛立ちが募る。

 

「ほざけ化け物」

 

「乙女に対してそれは戴けない台詞だ」

 

意趣返しだった筈の台詞に、苦笑せざろ得ない言葉が返ってきた。

 

「乙女、ね」

 

……乙女など、貴様はそんな可愛らしいものでも、清廉潔白な美しいものでもない。もっと血の匂いを漂わせる怪物だ。

 

なるほど、確かに的を射た異名であるらしい。

 

 

──貴様はまるで、刀だ

 

 

ぴくりとも動かない鉄仮面の眼光を瞼の裏に残しながら、元の体へと意識が飛んだ。

 

 

 

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