モンスターイミテーション   作:花火師

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切り所を作ろうにも作れず。中身がゴチャゴチャでなんか色々詰め込み過ぎました。
頑張れ!頑張って着いてくるのです!三( ゜∀゜)


晴れ時々、超絶時空破壊魔法

右の掌を眺めた。

どうやら、しっかりと元の体には戻れたようだ。

 

体調の不具合。もしもの為に備えて思念体に意識と精神を移しておいて正解だった。

流石の俺でも、ジークレインを作りながら思念体を主体にして聖十とやり合うのは無理があったらしい。

 

眺めた右手で、疲れきった目許を覆う。

ずっと休ませていた本体だというのに、更に疲れが募っている。

ジークレインやさっきの体は死んでしまった。お陰で奴等(俺自身)に分け与えていた分の魔力も霧散、消滅してしまった。

 

……襲撃があるとさえ分かっていれば、こんなミスは犯さなかった。もう少しやり方を考えたのだがな。

 

それにしても。

 

「……はぁぁ」

 

一刀のカグラはとてつもなく厄介。現状の魔力は三分の一。謎の頭痛に思考能力低下。そして評議院はギルドを寄越して来た。

攻めてきたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だが、果たしてそんな無謀な強襲を実行するだろうか。否だろう。恐らく一つではなく複数のギルドが来ていると予測できる。

 

塔の完成はあと少し。

まさかここまで来て邪魔が入るとはな。

 

「……っはは。笑えるぜ」

 

夢の世界まであと一歩だというのに。

 

「こんな下らない所で躓いて、俺は何をしてるんだ」

 

今の俺にはもう、何も出来ない。

椅子に座り、目を隠すように覆いながら、塔が壊れていく音をただただ聞いているだけ。

 

……シモン。ショウ。ミリアーナ。ウォーリー。エルザ。あいつらは、無事でいるだろうか。

いくら正規ギルドが相手とは言え、命の保証があるわけじゃない。

 

「なぁ、ぜレフ。聞いてるか」

 

かつての幼い俺の心を狂わせた神の姿は、もうどこにも見えない。

いつもいつも、俺の瞳の中にいた病のような狂気は、気がつけばもうどこにもなかった。

 

「まぁどっちでもいい。いるなら頼む。奴等の命を守ってくれ。俺は新しい世界なんて、そんなもの要らな──あ"ぁ"あ"ッ!違う。違う違うッ!!」

 

頭の中じゃない。違う。これは、誰かの声じゃない俺自身だ。

 

──世界は俺のものだ。

 

「駒の命など、どうだっていいだろうが!!」

 

違う。違う。違う。違う。

……そうじゃない。そうじゃないんだ。

 

──世界はお前のものだ。

 

「いらない。俺は世界なんていらない!!」

 

──今こそ、本懐を遂げる時だ。

 

くそ。クソクソクソクソッ!なんなんだこの体は。どうなっている。

悲願は叶えない、世界はいらないなどと今までの苦労を全て水に流すような馬鹿げたことを吐き出す。

 

俺はどうなったんだ。仲間を対価にして得たモノに、釣り合うものなんてこの世にありはしない。だからこそ仲間の血を犠牲に陣を描こう。尊き生き血ほど魔力媒体として優秀なものはない。

 

「俺の駒は何よりも大切でッ……どんな存在よりも替えのきく……あぁクソッ!何がどうなってるんだッ!!」

 

頭の中がゴチャゴチャだ。

もう一人……そう、まるでふたつの思考が混ざりあったみたいな。

この新世界の支配者たる俺と、まるで家族を持つ馬鹿なガキのような意識。まるでそれらが絡み合っているようで、わけがわからなくなる。

 

今の俺はどっちなんだ。

 

仲間を愛したくて、だが仲間ほど使い勝手のいい兵隊はいなくて。

必要で、不要で、愛があって、関心などなくて。大切で、目障りで

 

 

俺は……。俺は……

 

 

「俺は……誰だ」

 

 

 

 

「新しい世界の神様は、ずいぶんお悩みのようね」

 

凛とした透き通った声が響いた。

 

それはまるで日本刀を模したかのような研ぎ澄まされた女。

一振りの業物を彷彿とさせる立ち姿に、頭へ血が昇っていくのを感じる。

 

「一刀……ッ!貴様、まだ俺の邪魔をするかァ!!」

 

この化け物め。どこまで俺の行く手を阻めば気がすむ!

くそが。気にくわないが、今の俺じゃあこの化け物に正面きっては勝てない。

こんな時、エルザさえ居れば……。

ッチ!あの女、まだ下で他のギルドに手間取っているのか!過大評価だったか、使えん。

俺の今までの信頼を裏切りやがって!

 

「ジェラール……だったわね。今度は思念体じゃないことを願うわ。ま、いくら居ても何度でも斬ってあげる。体が分断される気分を好きなだけ味わうといい」

 

「ほざけ一刀。貴様がどれだけ優れた剣士だろうが知ったことか」

 

もういい。

 

もう沢山だ。やっていられるか。

 

奴隷も、駒も、また新しく調達させてもらおう。そしてこの俺を煩わせた全員を殺す。

だがその前に、まずはこの調子にのった勘違い女を粛清してくれる。

 

「お前は剣士である前に魔導士だ。そこから、指導してやろう。この俺が教鞭を執るのだ。生半では済まんぞ」

 

「…………あまり、舐めたことを言わないでくれる?」

 

一刀がここに来て初めて、ドスのきかせた低い声で威圧するように怒りを示した。

 

「私に教鞭を振るうのはこの世でただ一人。後にも先にも、あの人のみ。それ以上の軽口はあの人への侮辱よ」

 

「あの人ぉ?クハハッ、まさか貴様にその棒振りでも教えた師のことか?」

 

「あの人は私の師ではない……弟子でありたいが、しかし私の未熟さゆえ、最後まで弟子として認めて貰えることはなかったのでな」

 

体が、傾いた。

 

「抜刀ノ──」

 

抜く時が納める時、だったか。ならば、抜かせなければいい。

 

暗黒重力(ダーク・グラビティ)ッ!」

 

「体が……ッ重い……!」

 

「ハハッ!当然だ!成体のゾウですら起き上がれなくなる重力だ。まぁ、立っていられるだけでも常軌を逸しているがな」

 

彼女の本来の十何倍近い体重がその細い体にのし掛かっている。これでも刀を抜こうものなら、腕と、刀そのものがへし折れるだろう。

 

重力魔法がお前にしか使えないだなんて、馬鹿げたことは思ってないよな。

天体魔法とは本来占星術の派生した方角エネルギーの魔法だ。

重力魔法はそれをより解明した先の派生。だが派生とはいうものの、十ある数の中から無作為に取り出した数字のひとつに過ぎない。

 

つまり、全を揃える天体魔法の方が先を行く。

 

「……これじゃあ刀が抜けない。貴方も似たような魔法を使うのね」

 

気丈な台詞とは裏腹に、一刀は汗を垂らす。

 

「我らの本質は魔導にあり。刀などに(うつつ)を抜かしているから貴様は負ける。いや、末席だとしても貴様が聖十だなんて笑えるな。サムライギルドでも作ってみたらどうだ?そこで棒振りでもして遊んでいればいい」

 

「聖十の名に泥を着けているのは自負しているさ」

 

「ハハハッ!なら今すぐその星章を外せ!殺した後でそれを溶かし、妖精のシンボルを塗り潰してやろう」

 

「……とことん、私を煽るのが上手い男だ」

 

「そういうお前は煽りやすい女だ」

 

さて、殺すか。

 

暗黒の楽園(アルテアリス)

 

黒い塊。

天体魔法の究極のひとつ。巨大な引力魔法。

膨脹していくその力が壁を砕いて呑み込み、月明かりが差し込む。

光を吸い込むことで、そこに黒としか表現できない何かとして存在している。

条件さえそろってしまえば、島ひとつだって呑み込める黒魔法。

これを食らえば、例え一刀と言えど木っ端微塵になるだろう。

 

「ちょっと、まずいかも」

 

当然だ。それこそ闇の系譜でも身に付けてなければ耐性もなくあっさりと、ポンッ。

 

「クアハハハッ!!さらばだ刀の化け物!!ここで大人しく消しと──ぁ"」

 

頭痛。

 

こんな時に

 

「あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"ッ!!クッソガアアアァアアアアアアアァアアアアアア!!こんな時にぃ!もう少しで、もう少しで殺ッッさせるかアアアアアァアアアアアア!この女は、俺が殺ッさせない!ダメだ!魔法を、止めなくては……ァッ」

 

やめろ。まて、何を魔法を解こうとしている。

ようやく一刀を抑えられるんだぞ!!ここでこいつを止めなくては、俺の野望が完全に潰えてしまう!

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおお」

 

魔力が、緩んだ。

 

重力(グラビティ)

 

 

一瞬の隙を相殺されたその瞬間、やつの姿勢が傾く。

硬直する体を魔力で叩き起こしてどうにか回避を取った。悪あがきの防御陣を三枚。

 

だが、月明かりに輝くその一刀(・・)

 

 

「『太刀刀(たちがたな)』」

 

 

無慈悲に、青く煌めいた。

 

 

「ぐァッ!!」

 

 

斬り裂かれた腹部から血が溢れ出る

 

噎せ返るような鉄の薫りと鉄の味

 

 

こんなところで、膝を着いていられるか

 

 

こんなところで、屈してなるものか

 

 

 

「こんな、ところで」

 

 

 

 

──自律崩壊魔法陣

 

 

 

 

「……なんだ、これは」

 

 

見上げる一刀の瞳に映るのは、膨大な真紅の羅列。赤い夜空。

 

空を覆い隠す血のように紅い魔法陣。それは天空で膨大な情報量を展開し、青白く冷たい月を真紅色に呑み込んだ。

 

「赤い、魔法陣」

 

今夜が満月で助かった。天体魔法を万全に使える夜だ。お陰で即席の防御魔法陣が間に合ったらしい。体が真っ二つにされることだけは免れた。

が、だがそれでもこの負傷だ。腹部は深く切り裂かれ、血が止めどなく溢れ落ちていく。早く処置を施さなければ長くは持たないだろう。

 

だが、ここだけは勝たせてもらおう。

 

死んでもらおう。

 

「何をした」

 

刀に手を添えたままの一刀は、最大限に警戒しているらしい。張り詰めた声色からもそれは察することが出来た。

 

「『自律崩壊魔法陣』それを生体リンクで繋いだ、と言えばわかるか?」

 

「生体、リンク?」

 

そう、生体リンク。文字通り生きているナニかと繋ぐ魔法、例えば……。

 

「全て。この塔の住人全てに繋いである。今現在、この塔の住人全てから魔力と血を奪い形成された。奴等の命を対価とした設置式儀式型超魔法。その名は」

 

 

 

自律崩壊魔法陣・贄(リンク・バースト)

 

 

「仲間を……犠牲にしたというのか」

 

「正確には違うな。これからあの術式が生命体を吸収しきって殺して初めて完成する。辺り一帯を巻き込み全てを塵へと還す!中々面倒な儀式魔術でな、まさかここでお披露目になるなんてなァ!!あははははははははははははははははッ!!」

 

「貴様ああ!!」

 

「安心しろ、俺にだけ影響がないように設定されている。まぁ海の上で一からやり直しだが、だがそれもまあいいだろう」

 

ここで貴様ら憎き者共を一掃できるのなら、その甲斐もあるというものだ!

 

「これで全部灰になれ!!洗脳の魔法なら使える。また一から……いや、そうだな今度は準備を重ねて聖十大魔道でも駒にするとしよう!!そしてまたRシステムの再現を行うッ!この俺が!自由世界を作るた……」

 

 

言葉こそなかったが、その行動は俺の言動を遮らせるのに十分な圧力を帯びていた。

冷や汗がひとつ。嫌な予感がする。

 

 

 

一刀が、構えたのだ。

 

 

「貴様……何をしている」

 

 

一刀が、鋭く空を見た。

 

 

「待て、何のつもりだ!」

 

 

一刀が、その手に魔力を宿した。

 

 

「おい!ふざけるのも大概にしろ!」

 

 

一刀が、踏み込んだ。

 

 

 

「抜刀ノ四」

 

 

 

 

 

夜が、切り裂かれた

 

 

 

 

「な………………んだとっ」

 

 

 

 

半円になったふたつの魔法陣が粒子のように砕け、まるで紅の雪のように俺たちへと降り注ぐ。

 

 

 

 

 

「『夜斬(よぎ)り』」

 

 

 

 

魔法陣が砕けたことで、遅れてやってきた荒々しい吹雪。

紅い光の粒を乗せたそれが、艶やかな長い黒髪を(なび)かせる。

 

 

斬った?

 

斬った……だと?

 

はははっ……馬鹿げている。魔法を物理でどうにかするなど。そんなことはありえない。出来るはずが……っ。

 

そうか。

あの時、刀に魔力を宿せたのはこの為か。

だとしたって滅茶苦茶過ぎる!自律崩壊魔法陣はパスコードを打ち込まない限り解除されないように設計されている。それをまるで無視してこんなことが出来るだなんて

それこそ化け物(モンスター)じゃないかっ!!

 

 

「…………ッ!」

 

 

降り注ぐ紅い雪。それを映す彼女の瞳は、冷たい紅色に染まっていた。狩人を思わせるどこか既視感のある姿だった。

俺は、その一刀に誰かの影を見た。

竜瞳の男(モンスター)の影を。

 

 

幻影だとわかっている。それが目の錯覚なんだとわかっていながらも、失意からか、不意に四肢から力が抜けその場で崩れ落ちてしまう。

 

 

「……この、お……れ、が」

 

 

負け、た。のか…………

 

 

 

「…………ああぁあああああああ!!フェアリぃぃ、テイルゥアアアアッ!!邪魔をするなア!!俺は!俺たちは、こんなところで負けていられない。得なければいけないんだ!!ゼレフを!!自由を!!」

 

「哀れね」

 

初めの会話と同じ様に、心から哀れむような声色で這いつくばる俺にそう言った。

 

「自由、あなたにはわからないのね。その意味が。教鞭だなんだと言っていたけど、どうやらその立場を逆にしてあげるべきね」

 

「なんだと……?」

 

「いいかしら。心に刻みなさい」

 

カグラは既に納めたはずの刀を外すと、それを床に突き立てた。

まるで騎士が何かに誓うように。月光に照らされながら。

 

「自由の、その意味を」

 

その瞬間だけは、下で騒いでいる侵入者も、警備の喧騒も消え去った。

 

 

 

──自由とは

 

 

 

 

 

 

 

「フリーダムってことよ」

 

 

 

 

(まばた)きをした(まぶた)の裏に、彼がいた。

 

 

 

 

──ジェラール!てめえ俺があんな良いこと言ったってのに人の膝で鼻水垂らして寝てんじゃねえよ!!

 

──のぉおお!?なんだあれ!?なんで俺たち活躍したのに警備に追われんだあ!?え!?まじで?昨日壊したあれ王様の城だったの!?

 

──あぁあぁ、おいおいもっとゆっくり食えよ。ほら、水だ水

 

──おえええっ!でっげえ魚の骨が喉にさざった!おぇ"え"え"え"っ

 

──自由ってのはな、つまりフリーダムってことだ。

 

 

 

「あぁ。そっか。なんで、忘れてたんだ俺」

 

思い出した。

 

「さすがです。この言葉ひとつでジェラールを揺るがすとは……!」

 

 

俺は

 

 

「俺は、ジェラール・フェルナンデス」

 

 

そうだ。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員で。お前たちの家族で……」

 

「お前が家族だと?いったいなんの話を……」

 

 

お前の友で、兄姉(きょうだい)で、ライバルで

 

 

そして、あの人の弟子で。

 

 

エルザ・スカーレットに惚れた、馬鹿な男。

 

 

 

 

思い出したよ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「まさか、俺の黒魔法……『盲目の世界』から自力で出てくるとはな。悪に堕ちた世界で、よくもまぁ戻れたものだ。そのまま人格と記憶を上書きする禁忌魔法なんだが……。正直驚いたよジェラール」

 

目を空ければ、俺は食堂の椅子に腰かけていた。

その反対側。長いテーブルの先である上座に、その男は堂々と座っていた。

 

「お前が……なぜここに」

 

 

シモン

 

「ジェラール。俺は、お前の望み通りにさせる訳にはいかない。ゼレフは復活させる」

 

シモンは顔色ひとつ変えずに、淡々とそう言った。

 

「何を言っている、シモン!」

 

「分身体を作って評議院に潜り込んでいる。今頃、エーテリオンを射つ術式を起動させているところだろう。だが、他の連中のせいで建物の損害も大きい。まったく、余計なことをしてくれたな。この嘘つきめ」

 

「シモン」

 

壁に飾られた肖像画たちが俺を見た。

 

「闇ギルドの兵隊も補充しないとな」

 

「シモン!!」

 

旧友の無機質な瞳が、俺を見た。

 

「シモン。それが正しくないことくらい、お前ならわかるだろう。エルザは間違っている。お前だって知ってるだろう。もう、こんな非道なことをしなくたって、自由なら外にある!」

 

「自由だとか自由じゃないだとか、俺はそんなものに何の興味もない」

 

そう、吐き捨てるようにシモンは言った。

 

「じゃあ!なぜだ!なぜこんなことをする!俺に幻覚まで見せて、なぜなんだ!?」

 

「エルザが好きだからだ!!」

 

そこに始めて見た、シモンの感情だった。

まるで鉄のように無機質だったシモンが、始めて怒りに似た激情を発露させた。

 

……知ってたさシモン。昔から、お前がエルザに好意を抱いたいたのは。

 

だからこそ、納得がいかない。

 

「なら、なぜゼレフを復活させる必要がある!終わらせたいのなら皆ここから出ればいい、それで丸く収まるんだ!」

 

「終わらないさ」

 

「事態の収集なら憂う必要なんてない!エルザは俺が全力で弁護する!今だからわかるんだ、彼女は闇の魔法で洗脳されている!俺が八年前に見たあれは、明らかに洗脳魔法だった!安心してくれ、例え俺が聖十を剥奪されることになろうと、フェアリーテイルを追い出されようと、守ってみせる!」

 

「違んだジェラール。お前は俺とは違う」

 

「違うって……」

 

何が違うと言うんだ。

俺もお前も、同じくしてエルザに恋し、仲間を大事に思う人間だ。そこに、どんな違いがある。

 

「ゼレフの復活は、エルザが望んだことだ。もう、彼女の罪も引けないところまで来ている。例えエルザが洗脳されていたとしても、あいつの魂はもう引き返せないほど罪にまみれているんだ」

 

「だから、お前が何を言っているのか俺には理解できない!」

 

「俺は!!」

 

シモンは、涙を流していた。

昔とて、誰一人にも見せることのなかった、シモンの弱い姿。見たことのない、知ることのなかった姿。

 

「俺は、お前のようにはなれない」

 

屈強な男は、弱々しく、だが芯の通った言葉で紡ぐ。

 

「お前はエルザを想い、全力で救い上げようと手を伸ばした。だが俺にはそんなことは出来ない。俺にはそんな力も意思もないさ」

 

涙を拭ったシモンが、俺へと闘志を剥けた。

 

「彼女が悪道へ堕ちるというのなら、俺もどこまでも堕ちていこう。どこまでも着いていこう。どこまでも汚れよう。同じ罪を被り、同じ苦しみにまみれて。共にあれるのならば、俺はエルザの罪だって背負おう。それが、俺の想いの形だ」

 

「……シモン」

 

そう……か。

納得はいかない。当たり前だ。仲間が苦しむ姿なんて見ていたいはずがないんだから。

 

なら、

 

「俺は救い上げる。シモンも、エルザも。お前らみたいな奴が苦しい世界で生きていくだなんて。そんなことは俺が許さない」

 

「いくぞ、ジェラール。昔の仲間だろうと手加減はしない」

 

「あぁ。俺を……妖精の尻尾(フェアリーテイル)妖精皇子(懐中電灯)を舐めるな」

 

俺が懐中電灯だというのなら……。

二人ぶんの道先くらい、照らして見せよう

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

はたと気がついた。

そういえば、この魔水晶(ラクリマ)のどこにも目的の男が映っていないことに。

 

けたたましい音と共に入り口の扉が吹き飛んだ。

 

「おやおや。そちらから顔を見せに来てくれるとはな」

 

一人の青年が部屋へ足を踏み入れた。

傷だらけの体。埃にまみれ、衣服も所々破れている。

整った顔立ちに右目には入れ墨。大望と使命感、隠しきれない消耗を宿らせた目で、私の前に一人立ちはだかった。

 

勇ましい限りだ。

 

「ようやく見つけたぞエルザ」

 

「ふむ。見つかってしまったな」

 

「エルザ。帰ろう」

 

手を差し伸べる間抜けな男にまたしても治まっていたはずの笑いがこみ上げる。

 

「くははッ。帰ろう?帰ろうだと?お前と言う男はどこまで楽観的なんだ。あまり失望させるなジェラール」

 

腰かけていた椅子から立ち上がり、魔水晶を手に取る。

 

「帰ろう。エルザ」

 

「くどいぞ。なぜ私が貴様ら虫けらと……」

 

いや……。違うな。

 

「貴様と、虫けら達と、共に行かねばならんのだ。違うだろうジェラール」

 

賢いお前ならわかるだろう。

 

「お前が私の駒になれ。そうすれば自由な世界が手に入るんだ。晴れて新しい世界の支配者となれるんだ」

 

この男は使える。少なくとも、その辺の闇ギルドを雇うよりも確実に。頭が回り、胆力も根性もある。優秀な人材だ。

旧知の仲でもある。ここで切り捨てるというのは少し勿体無い。使えるものは使うべきだ。

 

「帰ろう。エルザ」

 

繰り返すジェラールに、考えてもみろ、と誘うように笑いかける。

 

「素敵じゃないか?これまで私たちを苦しませた全てを殺菌して、私たち選ばれた者だけの自由世界を創り上げる。歴史上最も恐れられた大黒魔導士ゼレフが復活すればそれが叶うんだ」

 

「帰ろう。エルザ」

 

「どうだ。夢があるだろう。いつまでも善い子ぶる必用はないぞジェラール。自分に素直になれ。一時の意地で損をする必用はない。お前ほどの有能な男ならわかるだろう。それなりのポストだって用意しよう。こちらへ来い。お前なら正しい選択が出来るはずだ」

 

「…………」

 

「…………」

 

生まれた沈黙の中で、ジェラールが出した答えは

 

「帰ろう。エルザ」

 

「…………」

 

愚か者の選択だった。

悩む素振りがないのを見るに、どうやらこの部屋に入ってきた時点で奴の意思は決定していたらしい。

まさか、ここまで意固地な男だとは知らなかった。

こいつが頑固になるのは、いつだってショウやシモン。仲間がらみだ。

まだ健気にも、私を仲間だと思っているのだろう。

 

「はははッ。笑えるなジェラール。私はもうお前の知るエルザ・スカーレット(弱い少女)ではない」

 

「そんなことはわかっているさ」

 

「ほう?それでも私を連れて帰りたい、か。アプローチが強引過ぎないか?」

 

「俺のやるべき事は変わらないよ」

 

そうか。

 

「わかった。ではさよならだジェラール」

 

正しい選択が出来ない。そんな役立たずは生かしておく必要すらないだろう。それこそ、空気中のマナの無駄遣いというものだ。

ここまで私が(なさけ)をかけてやっているというのに、それを無下にするような無能はいらん。

 

「エルザ」

 

「なんだ。もう喋らなくていいぞ。お前のような青瓢箪はいらないのでな」

 

「……エルザ」

 

まるで覚えたての言葉を使いたがる子供のように、なんども私の名を呼ぶジェラールに苛立ちが生まれた。

 

「『換装:天輪の鎧』」

 

己のもつ異空間の中から自在に装備を取りだし扱う、私の最も得意とした魔法。

質素なローブはなくなり、変わりに豪奢なドレスへと姿を変える。刃で形成されたような鋭い美しさのドレス。

 

この男も、迸る魔力を駄々漏れにしている。

もともとやる気だったのだろう。ならばこれ以上の言葉を並べるのは無用か。速やかに殺して世界の誕生を待つとしよう。

 

せめてもの情けだ。私の愛用の鎧で殺してやる。

 

「貴様に貰ったこのスカーレットの名に免じて。今ここで貴様を殺す」

 

いい名をありがとう。もうお前に用はない。

できることならゼレフ誕生を見せたがったが……そこまで死にたいと望むのなら死ねばいい。

 

「……師匠。あなたのお陰で、俺は前に進めます」

 

どこか。私ではない誰かを見て、ジェラールはそう感謝の言葉を吐いた。

 

気にくわない。

 

……まさかここまで調子に乗っているとはな。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そしてなにより、その師とやら。ジェラールをここまで増長させるとは、余程過保護に可愛がったようだな。

私から気を逸らせるほど余裕を見せようなどと……とことん気にくわない。

どれ、少し煽ってやるとしよう。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。そして貴様の師とやらは、とんだクズのようだな」

 

「…………何?」

 

途端に、ジェラールの雰囲気が一変した。

鋭利な感情をむき出しにこちらを睨んでいる。

 

上手いことジェラールの意識を釣れたことに、無意識ながら口角が吊り上がる。

 

「訂正しろ。エルザ」

 

「ふん。貴様をそんな腑抜けた男へ堕とすような(やから)共だ。さぞ、公害のような人間たちなんだろうな」

 

「いくらエルザでも、その悪口は許せない」

 

「ほう?じゃあ証明してみるか?お前がそのギルドとやら、師とやらの下についてどう成長したのか。……もっとも、聖十にも届かぬようでは、たかが知れている……あぁいや、違うか」

 

そういえば、評議院に潜り込んでいるウルティアが、ついでにと報告していた気がする。

 

「空席に偶然入ることになったんだったな?……だが結局無駄だ」

 

なぜなら。

 

「クズの身内など、しょせんクズだからだ。訂正など必要あるまい。妖精皇子(懐中電灯)

 

 

──っ!

 

魔法の詠唱すら悟れなかった。

まるで光のように飛び込んできたジェラールの蹴りが、三挺の天輪の刃によって止められる。

だが、刃にヒビが入る不穏な音に、即座に残りの剣を舞わせた。

 

「取り消せ、エルザ!」

 

「ハッ!昔の顔つきに戻ってきたなジェラール!看守共に吼えていた時のことを思い出すぞ!」

 

消えたと錯覚するほどの速度で、ジェラールが私の背後へ回る。

剣たちが盾となりジェラールの天体魔法を防ぐ。だがどの拳も蹴りも重く、速く、剣たちが悲鳴を上げている。

 

「そうだ!それだ!お前は生ぬるい優しさだの愛だのに揺られてるより、怒りや焦りに震える姿の方が似合う!そうだ、なんなら新時代でその師匠とかいうクズを八つ裂きにして鶏の餌にでもしてやろう」

 

「笑わせるな。エルザ、お前は確かに強いが、お前が十人いようと師匠は越えられない。お前じゃあ泥を付けるのがやっとだ」

 

「ほう。お前にそう言わせるのなら、相当のものなんだろうな」

 

「あぁ。俺は師匠より強い人を見たことがないよ。……相当抜けた人だけど」

 

こんな状況だというのに、それでも昔を懐かしむようジェラールは小さくはにかんだ。

気にくわない。お前にそんな表情をさせる人間がいるなど。

 

「やはりその師とやらは、私が手ずから消してやるべきようだな!『換装』」

 

ジェラールに剣を全て打ち込み、それをやつが捌く。その捌ききった隙を作らせ、別の鎧へと装備を変える。

 

練極の鎧。そして黒羽(くれは)の剣。

 

長剣による強烈な一撃を放つ。攻撃特化の鎧。

基本的に鎧を着込むことない魔導士であれば一撃かすっただけでも命の危険に陥るだろう。

 

「いくらエルザでも、どうせ返り討ちに合うのが関の山だろうけど。でも……まぁ、あの人がやられる姿は少し見てみたいな」

 

楽しそうに笑うその顔に、苛立ちの感情が頭を(もた)げた。

笑顔。これほど私を苛立たせるものもそうはないだろう。それが、この男の物となると尚更腹が立った。

 

「笑うな。ジェラール」

 

「笑うさ。それがあの人の教えだ」

 

まるで大切な言葉であるような、確かな意思の色を感じた。

それが気にくわなくて剣を振るう。命を刈るべくして。

 

「なぜ笑える。私が憎くないのか。一杯殺したんだぞ。この塔の奴隷たちを。使い潰したんだぞ」

 

「あぁ。聞いたよ」

 

「使えないゴミばかりでな。沢山使い潰してやった。悲鳴をあげるやつも、殺してやった!!」

 

「そうか。なら償おう。俺たちで。皆で」

 

「お前の知り合いだっていた!許しを乞うのを笑いながら海に放り投げてやったんだ!」

 

私の言葉を遮るように、傲慢にもジェラールは声を荒らげた。

 

「それでも!お前は仲間だ!」

 

腹立たしい。

わかったような目で。わかったような口で。

 

「お前に何ができる!じきにここへエーテリオンが落ちてくる!そうなればお前も終わりだジェラール!」

 

こう言ってしまえば、お前は慌てるのだろう?

エーテリオンだ。お前も、仲間も全て吹き飛ばす最高峰の兵器が降ってくるんだ。

 

 

だが──

 

 

「なんとかなる」

 

わかったような顔で、ジェラールはまるで似合わない楽観的な言葉を簡単に言ってのけた。

 

「ふざけたことを抜かすなッ!!なんとかなるだと!?なるわけないだろうが!貴様は本気で言っているのか!!」

 

本気で、そんな戯言を言ってるのか。

なんとかなるだと?この長い八年という時間。私たちの積み上げてきた計画が、たった今思い付いたような顔で、そんな陳腐な思い付きでなんとかなるだと?

 

 

ふざけるな

 

 

「どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもォォ!」

 

もう、我慢がならない。

 

「私を馬鹿にしているのかジェエエエエラアアアル!!」

 

こいつはここで仕留める。

四肢をもいで、縛り付けて、その師とやらを目の前でなぶり殺してやる。

 

「黒羽・月閃」

 

流星(ミーティア)

 

 

流星と剣戟。

願いと欲望。

 

それらがぶつかり合うその瞬間。晴れ空の奥から、それは落ちてきた。

 

 

超絶時空破壊魔法・エーテリオン

 

 




空間斬れるやつがいるんだから魔法陣も斬れる(名推理)

ちなみに、自律崩壊魔法陣はへもかわさん繋がりでリンクバーストにしたら響きが意外としっくり来ました。
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