モンスターイミテーション   作:花火師

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間違えて内容調整中の予約を投稿してしまった。
ネタバレくらった人ごめんなさい((((;゜Д゜)))
お詫びの投稿。完成度には目をつむってくだされ…


精選、代替、予言

これは短期契約を勝ち取るための、あくなき戦いを続ける男のドキュメンタリーである。

 

プロジェクトZ ~挑戦者たち~

 

職無し男の朝は早い。起きるのは早朝11時。なんとお日様が真上に登る前である。

男は舗装された橋の下で、毛にまみれたマントを消して欠伸。背伸びをして川の水で顔を洗い、体を濡れタオルで拭いて歯を磨く。

寝起きのストレッチは欠かさない。それを終えて男は空を見上げた。快晴である。

ぼけーと三十分ほど過ごして、そこで男は思い出した。

 

 

あ、やべ。そういえば昼から面接だ

 

 

「では、志望動機を聞いてもよろしいかな?」

 

男は思った…………いやもういいやこれ。

飽きた。

 

「聞いてるかな?」

 

はえ?(オブリビエイト)

 

あッ(超理解力)

 

志望動機ですか!

 

志望動……あれ?

志望動機はえーと。なんだっけ。

 

あーーーっ♂

くっそ、暗記した志望動機がどっか行った!頭の中のどっかに旅立った!

どこにいったの俺の志望動機っ、出てきて思い出して!頑張って俺の脳内タンスっ引き出してー!

 

「えええたと。でそね。御社の理想打開姿勢に変態官命を受てけてでですね。……その、そのーーー…………。スゴイナと!!スゴイナと思いました!!」

 

男は思った。

行けたんじゃないか?行けたんじゃないか!?

完璧だった筈だ。完璧な受け答えだった筈だ。だってスゴイナって伝えられたし。

うん大丈夫!!(謎の自信)

 

「では次に、なぜ数あるギルドの中でもここを選んだのですか?」

 

 

はえッ!?何その質問!

返し方がわからんぞ!嘘だろ『バルカンでも(ウホ)れる面接』にはそんな例題書いてなかったぞ!

なんて返せばいいんだ!?

 

え、えーと。数あるギルドの中でもって言われてもな。

確かにギルドって一杯あるし。魔導士以外にもトレジャーとか盗賊とか商業とか漁業とか傭兵とか。ここを選んだのも紹介されたから偶々だし……。

 

よし、もう正直に。正直にいこう!!

 

「他のギルドも受けたけど落ちました!」

 

バッチリ!!

外しようも無いほどに的確な返答。確信を得たり。

正直者には福来たりって湖に斧を落とす童話で学んだんだ。これは間違いないだろう。俺は教訓から学べる男。

勝ったな。風呂入ってくる。

 

「ゴホン!では、このギルドに入って貴方が貢献出来ると思うこと。もしくは成し遂げたいことはなんですか」

 

 

…………しらねーよ!!!(ガチギレ)

 

俺は旅の生活をマシに出来ればそれでいいの!お金を稼げればそれでいいの!

別にお前らの為に何かしようだなんてそんな高尚な気持ちで来てるわけじゃねーーーゲフンゲフンアフンアフン。

いかん。いかん。落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。こういう本心っていうのは強く思いすぎると表に出ちまうモンだ。落ちケツ落ちケツ。

 

「…………み、皆さんの為になるように頑張りたいです」

 

ええい!これが俺の精一杯じゃい!

 

「ふっ。そうですか」

 

文句あんのかクソッタレエエエエエエ!!(ベジータ)

なんだよこるぁああああ!!何が面白いってんだ言ってみろよオラアアアン!!??言ってみろよ俺も一緒に笑ってやるからよお!!ええ!!?

俺の精一杯の返答なんだよ!他になんて言えばいいんだよ!しらねーよ!!別にてめーのギルドの為に何かしようなんて現時点で思えるわけないだろ!まだ入ってすらいないのに雰囲気も人員の顔も知らないのに何かしようだなんてそんな軽く言えることじゃねーだろうが!!今方針なんて言ってそれが何になんだよ、所詮まだ働いてもいない奴の空想上の妄言聞いてどうするんだよ!

教えてくれよ俺によおおおおおお!!

 

「少し話は戻りますが、貴方がなぜ他のギルドで落ちたのか。理由は何だと思いますか?」

 

……え?

 

イケメンで才能に溢れてるから?

……かなしみの、波に溺れる。

 

それとも社会性がないから?

いやいやいやいや。伊達に何年も旅してないわ。社会性ありまくりだわ。コミュニケーション能力なら人類の上から数えて九億九千番目くらいだわ。

 

そいつらの見る目がないから?

いや違うな。むしろ俺を雇わないのは正解だ。何か事が起こるたびに色んなものをぶっ壊しかねん。

 

あれ……これじゃね?

し、しかし。そのまま伝えるのはダメだ。そんな事実を告げてしまったら雇ってもらえる訳がない。

考えろ。考えるんだ。灰色の脳細胞をフル稼働させるのだ!

マイブレイン!カムヒア!(混乱)

 

 

「有り余る能力を活かしきれないから、ですかね」

 

こ れ だ

 

間違ってはいない。

荷馬車をぶっ壊すのも。クズな依頼人をぶん殴ったのも。なんか偉そうな爺婆の集まりに楯突いたのも。魚の豊富な海域を蒸発させちゃったのも。霊峰ぶっ壊したのも。

 

「有り余る能力を活かしきれなかったからです」

 

勝ったな。風呂入ってくる(源 しずか)。

 

「なるほど能力ですか。では、貴方の魔法を見せてください」

 

「わっかりました!」

 

待ってました!正直これまでの感触はよくわかんなかったけどまぁ次に行けたんだからいいじゃない!

よし!ようやく見せ場が来たぞー!これこそお手のものですわ!得意分野というか、唯一の取り柄ですからねえ!これがないと生きていけないヒ弱な男なもんで!

まぁまぁ是非是非見てって下さいな!アっと言わせてみせますとも!

 

アっと…………言わせて…………みせ。みせ……。

 

その時である!俺の脳内に数秒前の台詞が甦った!!

 

『有り余る能力を活かしきれなかったからです』

 

そう。ここでこのオッサンを相手に龍種のブレスでも見せてみろ。この建物は吹っ飛び、オッサンも吹っ飛び、この最後の頼みの綱である採用案件も吹っ飛ぶ。

アっという言葉だけ残して全て吹っ飛んでいくだろう。

 

まままて落ちケツ!落ちケツ!

打開策を考えろ。まずは深呼吸だ。スーハースーハー水の呼吸!オーバードライブ霹靂一閃!

披露するのは規模の小さい物にしなくてはならない。小型モンスターにしなくてはならない。それでいて個性のあるものだ。なんだ。何がある。えーと。えーとっ。

 

せ、せや!マジックでも見せたろ!(ニュータイプ閃き)

 

「えと。失礼ながら、このコイン持ってて貰っていいですか?身につけてくれればどこにしまっても構わないので」

 

硬貨にウンコの絵柄を描いてそれをオッサンへ手渡した。

 

「……ふむ。まぁいいか」

 

一番安くて丈夫な硬貨を握らせると、オッサンはそれを内側のポケットへとしまった。

何をするのかと、怪訝そうな顔でこちらを見ている。やめて、オッサン。見つめないで。ギラついた目で見られるとなんか尻に寒気が走る。

 

「じゃ、じゃあ。失礼して『MODE:メラルー』」

 

オッサンに触れるのは大変遺憾であった。が、仕方なく俺はオッサンの肩を軽くポンと叩く。

 

「ハイー」

 

右手を開いて見せると、先程の硬貨は俺の手の中に収まっている。その硬貨には先程と同じウンコの絵柄。完全に同じ物だ。

なるほど、とオッサンも硬貨をしまった筈の場所を探って、それが本物であると同意した。

 

「…………で?」

 

「……へ?」

 

「…………で?」

 

これはあれだろうか。「かーらーのー?」みたいな。そんなノリを要求されているのだろうか。なんと性格の悪い。もっと他に聞き方というか、促し方があるでしょうに。

お前の頭の毛も盗んだろか。いやいらないけど。

 

「……い、以上です」

 

「はい不採用」

 

「上等だこのオッサン野郎!!だーれがこんなクソギルドに入ってやるかよバカバーーカ!!もういいわ畜生!下手に出てりゃあ威圧的で意地の悪い質問ばっかしやがって!!何様だ!!」

 

「お前の上司になる可能性あった雇い主様だ」

 

「言われてみればその通りですねすみません!お時間とらせちゃってごめんなさいね!!」

 

完全に俺の逆ギレだった。

ぐうの音も出ません。社会性なくてすみません。

くっ、まさか俺の方が世に蔓延るキレやすい若者と同類になってしまうとは……不覚ッ!

 

はぁーあ。また職探しか。せっかくのいい条件の職場だったんだけどなぁ。

今回も流れが来なかった。俺への流れが。

スゥゥゥ……何で来なかったんやろなぁ(Sy○mu)。

 

そんな盛大に落ち込む俺へ、ギルドのマスターはキザったらしく笑いかけた。

 

「冗談だ。採用だ。これから俺たちはここを立たねばならない。準備は手早くな」

 

「……え?採用…………マジd……本当ですか!?」

 

「お前はアイツからのお墨付きだ。まぁいいだろう。精々励め」

 

部屋を去っていくオッサンに、俺は言葉を失った。

 

オッサン……あんたってやつは!あんたってやつぁ!

……めっちゃ絡みにくいタイプだわ!

採用なら採用って普通に言って欲しかったよ。なんか無駄に逆ギレして恥ずかしいじゃん俺。器の小ささを披露しただけじゃん。

あとなんかごめん。言いたいだけ言っちゃった。今度機会を見てちゃんと謝ろう。

 

 

あ。

 

 

……このギルド、賄い飯とかあるのかしら。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「えー、では志望動機を聞いてもよろしいかな?」

 

志望動機。

特にこれといった動機があるわけではないのだが、さてどうしたものか。

 

「というかマスター。なんですかこの面接ごっこは」

 

ごっこと言われたのが不満なのか、マスターマカロフは少し拗ねたような声色を滲ませた。

 

「そんなこと言われてものぉ。仕方ないじゃろが、今回の作戦である六魔将軍(オラシオンセイス)の討伐者を選出したのにお前らと来たら。全員して平等だの不平等だのと喚きたてるから」

 

「確かにそうですが、別に面接じゃなくても良いのではないでしょうか?」

 

「それはあれじゃ、単純にワシがやりたかったからじゃ。考えてもみぃ。フェアリーテイルは基本的に来るもの拒まず。他のギルドみたいにちょっと真面目なのやってみたくてのぉほほほほ。わかるじゃろカグラ」

 

「はぁ」

 

よくわかりません。

 

闇ギルドの討伐。

それが今回私たちに課せられた任務。しかし今回の任務は数ある闇ギルドの中でもトップを誇る大元締め。三大闇ギルドのうちのひとつ六魔将軍(オラシオンセイス)を相手にしなくてはならない。

そして今作戦では、フェアリーテイルが他三つの正規ギルドと手を組み、連合軍として六魔将軍(オラシオンセイス)及び配下たちの闇ギルドと戦うことになる。

それこそ、生半可な覚悟で挑めば怪我ではすまないし、他ギルドの足を引っ張ることになるだろう。

 

「何せ六魔将軍(オラシオンセイス)を下せば泊がつく。それに、ミラちゃんも収穫祭で爆弾発言しちまったせいで男共が武勲を上げようと躍起じゃ。しかしワシとて責任ある立場。親としてもおいそれと適当な人選で行かせる訳にもいかん。しかし面談せずに選んだメンバーにはブーイングの嵐」

 

どれもこれも予想外の事態。

ミスフェアリーテイル。誰が一番人気があるか、という女性魔導士の競い合いで優勝したミラ(私は不参加だ)。

その際『頑張る人の応援をするのは好きかも』と言い寄られたミラの逃げ口上。それを真に受けた馬鹿たちが騒ぎだした。

ついでとばかりに、ラクサスが面白半分で伝言魔法を使い『六魔を一人でも獲った奴には百万ジュエルだ!』と置き土産。

くだらない催し事のように始まった六魔将軍の取り合いが始まり、現在に至る。

 

頭の痛い話よね。

今度落ち着ける時間を作れたら、あの馬鹿たちにはしっかり教育しておかないと。教育を。

 

「『全員の意見意気込みも織り込んだ上の判断じゃ』と馬鹿共に言うための、形だけの面接じゃ。あまり気にせんでええわい」

 

「ミラにも馬鹿たちにも困ったものですね」

 

「全くじゃ」

 

 

ホトホト、厄介な連中ばかりで困ったわ。特に

 

 

ラクサス

 

……と

 

ジェラール

 

 

さて、あの二人。どうしてやろうかしら。

 

フェアリーテイルの中で……。

トーナメントがどうとか。

バトルロワイヤルがどうとか。

誰が一番強いだとか

誰が一番魔力があるだとか

誰が一番派手だとか

誰が一番モテるだとか

誰が一番カリスマがあるだとか

誰が一番次のマスターに相応しいだとか

バトルオブフェアリーテイルがどうだとか

あーだこーだあれだそれだ何だかんだ何だかんだとフザケタことを散々やり散らかしてくれて、挙げ句の果ては私の怒りなど知らん顔して「お前も参加したいんだろ」等とほざいて周りの迷惑も考えずにやりたい放題。最後に皆を煽るような発言をしたラクサスと、記録魔法でそれを残していったジェラール。

 

 

本当に。本当に。

 

 

本当に、どうしてくれようかしら…………。

 

 

「お、おお落ち着かんかカグラ!魔力が駄々漏れじゃわい!確かにあの馬鹿二人がやったことは迷惑千万でフォローのしようもないが、民間人にこれといった人的被害はなかった!それに祭りを盛り上げたことに変わりはないんじゃし、ええんじゃないかのォ!」

 

はぁ……。

そうね。確かに被害はなかった。今回は(・・・)

それにここで腹を立てても仕方ないものね。

 

「すみません。少し取り乱しました」

 

「お、おう。構わんじょ……」とマスターはなぜか冷や汗を垂らしながら腕を組んだ。

 

「しかしあの祭りのお陰でジェラールも明るくなったようじゃし。カグラ、お前さんもジェラールと何か話し合ったんじゃろ?前とは少し雰囲気が変わっとるわい」

 

この言葉には素直に驚いた。まさかそこまで見抜かれてたとは。

 

「ええ。まぁ私の愚兄のことで。ジェラールに色々と教えて貰いました」

 

私の兄。幼い頃に人拐いにあった実の兄、シモン。

ずっと長い間捜し続けた、たった一人だけの血の繋がった肉親。

兄を見つけるために旅を始め、フェアリーテイルまで辿り着いた私だが、まさか本当にここで兄の情報を得ることが出来るとは。これもあの人の導きか。

 

実の兄。愚かな兄シモン

兄がエルザ・スカーレットへ恋慕を抱き、悪事に加担したこと。どんな悪行を働いたのか。どんな結末に至ったのか。そして今、どこにいるのか。

楽園の塔で起こった色々なこと。全てをジェラールから教えてもらった。

 

もちろんショックだったし、落ち込んだ。寝られなかったし、刀もろくに振る気力さえ失った。

情けなさと不甲斐なさと、唯一の肉親である兄が苦しんでいた時、側にいてあげられなかった悔しさ。

 

だが、ジェラールは私に言った。

 

『やつは、自分に正直に生きた。やったことは最悪だし絶対に許されて良いことじゃない。が、それでも自分の気持ちに真っ直ぐに生きた。シモンはたぶん後悔してないと思う。だから俺もアイツを見習うよ。後ろばかり見てないでこれからをどうするか、それを考えようと思う』

 

ジェラールには感謝している。

 

してはいるが…………少なくとも祭りを滅茶苦茶にすることがこれからすることじゃないでしょう。事が収まった今だから言うが、不倶戴天で打ちのめしてやりたい。

 

「ありがとうございますマスター。でも大丈夫です。私も折り合いをつけました。そしてこれからの事を考えようと思います」

 

「子供の成長は早いのぉ」

 

染々と、マスターは呟く。

ゴホンと咳払いをひとつすると、話を戻すかと前置きをする。

 

「今回の連合軍なんじゃが、なんでも他のギルドからは新人が何人か派遣されるらしい、くれぐれも気を着けることじゃ」

 

「気を着けろ、とは。それはコミュニケーションの話でしょうか?それとも戦力としての足並みの話でしょうか?」

 

「それもあるが……」

 

何かを考え込むように、マスターは顎を触りながら虚空に視線をさ迷わせた。

 

「話によると、青い天馬(ブルーペガサス)は元評議院直轄のルーンナイトから新人をこさえたらしい。名は確か『聖夜のイヴ』」

 

「……それはまた」

 

つまり、フェアリーテイルに対して当たりの強い人間が来るかもしれないという話だろう。評議院はかねてよりフェアリーテイルを毛嫌いしている傾向がある(主に破壊活動に積極的な馬鹿たちのせいで)。

揚げ足を取ろうと邪魔すらしてくる可能性も否定はできない。

評議員が崩壊してまだ間もないが、新生評議員なるものが発足(ほっそく)を始めようと動き出しているらしい。この隙を利用して人員を送り込んできても不思議はない。

確かに、命を預け合うような事態になっても仲間が信用できないとなっては一大事だ。

 

「他にもあるんじゃ」

 

まだ不安要素があるのですか……。

只でさえ戦力になるラクサスとジェラールはマスターの怒りに触れて謹慎。

いい歳をしたワルガキ行為で自宅謹慎中だというのに。戦力が下がった上でまだ問題があるのなら、なんと頭の痛い話か。

 

「それで、他とは一体」

 

「三つのギルドは先程言った通りの者達だ。不思議に思っただろうが、連合軍にはひとつだけ名の通っていないギルドが参加しておる。化猫の宿(ケット・シェルター)。まぁあそこのマスターとは昔ちと縁があって知り合いなのじゃがのぉ……」

 

なんでも、新人が入ったらしいのじゃ。とマスターは皺のよった目頭を指でほぐしながら疲れたように言った。

 

「新人、とは。まさかまた元評議院でしょうか」

 

「それがのぉ。わからんのじゃ。身元不明、出身地不明、魔法不明。わからんことだらけじゃ。話に聞くには男らしいということだけ。それしかわかっとらん」

 

「なるほど」

 

化猫の宿(ケット・シェルター)のマスター、ローバウル。奴は確かに人格を持つ人間を投影して街ひとつ分の人口を創れる程の尋常ではないレベルの幻術使いじゃ。が、面倒な事情も抱えておる。お陰で奴自身余裕がない。加えて、いかんせんとんでもないお人好しじゃ。また変なのに騙されておらんとも限らん」

 

なるほど。

規模が規模なだけにリアクションがしにくい。

 

「……街を創れる、ですか。次元に差があり過ぎて全くピンと来ないですね」

 

「まぁそうじゃろうな。ワシも最初はそうじゃった。落ちた顎が上がらんかったよ」

 

ガッハッハと笑うマスターは、「おっと話がそれたな」とコミカルな態度を消した。

いつもの優しげな顔とは違う、真剣な面持ちに自然と背筋が伸びる。

何が来るのかと構えたところで、マスターは頭を私へ下げた。

 

「何も無ければそれに越したことはない。じゃが、あのお人好しが誰に騙されてるとも限らん。いざという時は、化猫の宿(ケット・シェルター)を助けてやってはくれんか」

 

マスターはその場で私へ頭を下げ、そう言った。

 

「マスターっ、頭を上げてください!」

 

マスターマカロフに頭を下げられるのは正直なところ心臓に悪い。

流石に私の恩人であるマスターにここまで言われてしまっては、全身全霊で応える他ない。

刀だって抜こう。それがこの人の願いの為になるのなら。

 

「大丈夫ですよマスター。私に任せてください」

 

「お前さんがそう言ってくれると頼もしいのお」

 

「それに、今回は私自身、少し楽しみでもあるんです」

 

「なにぃ!?い、いかんぞカグラ!いくら悪党だからと言っても、身分を奪い去り生涯衣服を着ることを許さず奴隷にしようなどと!そんな残酷な仕打ち……」

 

「私をなんだと思ってるですか、マスター?」

 

私に対するあんまりなイメージに、つい反射的に魔力と威圧感が溢れ出てしまった。

 

「…………な、ジョ、ジョークじゃよ!ジョーク!マカロフジョーーーック!!ナハハハハハハハ!ハ、ハ、ハハハ……」

 

そうですよ。私はフェアリーテイル所属といえど常識ある女です。非常識なことをするつもりはありません。

……というか、これでも女の子なんですから。あんまりな扱いをされ続けると最後には…………泣きますよ?

 

久しぶりに少し落ち込んだ。

 

「楽しみにというのは……カナに占って貰ったんです。今回の任務の運勢を」

 

「ほ、ほう……?」

 

カナのタロットカードはここぞという時には当たる。

それに、あそこまで確実に当たると念を押されては、楽しみにする他ないわよね。

 

 

「なんでも、運命的な出会いがある、と」

 

 

「運命のぉ」

 

 

「ええ、楽しみです」

 

 

私にとって運命…………

 

 

──まさか、ね

 

 




……ま、まさかね

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