A.エルガドの狩猟笛は世界一ィイイ!!
どうしてこうなった。
遠い目で濁った空を見上げた。
廃れた街を一望できる最上階。この場でいったい何があったのやら。
考えるのも面倒だなぁ。
満身創痍。
もはや息も絶え絶えな、むくつけき男たちが全員、意識があるかどうかもわからないまま地べたに倒れ附していたのだ。
む、むっさい……。
見事に全員男。空から降りて来てみれば、そこに広がっていたのは地獄絵図。
見覚えある奴等もチラホラといる。
まぁどうでもいいんだけどさ。
「おぉ!我が竜よ、お目にかかれて光栄です」
着地して重っ苦しい銀の翼を消した。
こんなむさ苦しいところで、雇い主だったはずの
引き摺っていた
腕を前から上に上げてのびのびと背伸びのウンドー!
「……何を、なさってるのでしょう」
「ラジオ体操第一」
「は、はぁ……」
「で、リーダー。これどういう状況?」
「私のことはブレインとお呼びください」
「は、はぁ……」
ブレインとお呼びください……?
どゆこと。なんだこのおっさん。なんで急に腰低くなってんの、こわ。なに狙ってんだよ。
「我らに貴方の破壊をお導きください」
「えーと……どこから突っ込めばいいのか」
何を言ってるんだこいつは。頭でも打ったのか?強打したのか?なんなら俺が改めてその頭打ってやろうか。必殺チョップで。
あの高慢ちきが部下の前で膝まずいたり急に敬語になったりして。……何がしたいのか全っ然わからん。
ドッキリか?一種のハラスメントか?
まぁとにもかくにも、疑問はいくつかあるんだけど。とりあえず気持ちの悪いモノから片付けていくとしよう。
「リーダー。なんか俺と同じ匂いしない?」
このおっさん。なぜか俺と同じだ。いや、匂いと言ったものの、その表現も正確には違う気がする。
なにが同じなとかと言われると俺自身、確実なことはよくわからないのだが。
……うーん、どう形容すべきなのかと言われれば……俺の語彙力では
もしかすると、これがゼレフといた頃は感知出来なかった
僅かな疑問に、ブレインは浅黒い顔をさあっと青ざめさせながらもオーバーに頭を下げた。それはもう額をカチ割らんばかりの勢いで。
「ッ!まずは謝罪させて頂きます。無断でこのような無礼、申し訳ございません!!」
「いや、うん。謝罪はいいんだけどさーあ?」
「違うのです!!……い、いえ、確かに私は貴方様の魔力を掠め取るような盗人猛々しい真似を致しました。ですが!やむ得なかったのです!わ、私の忠誠に変わりはございません。何卒っ、お許しを!」
えぇ……(ドン引き)。
なにを必死になってるんだこいつは。というかキャラ変わりすぎィ!
数十分前までの高慢ちきなあのキャラはどこにいったの。ホント何があったのよアンタに。誰かに変な魔法でもかけられて性格逆転でもしてんじゃないの?
なんつってな!そんな頭の悪いトンでも魔法が存在する訳ないか!ガハハハ八!
そもそも忠誠とか誓われるいわれは無いんですが。
オッサンに忠誠とか貰っても微塵も嬉しくないんですが!誰得なんですかねぇ?
なんでそこで女の子じゃないのよ。
あーあ、これ不具合ですよ。世界の不具合。修正キボンヌ。
……ま、いっか。あとで俺が修正すれば。
「まぁなんでもいいや。そんなことより、どうしたのそいつら」
後ろに散らばる有象無象の男たちを顎で指す。
「我らが道に立ちふさがるゴミを蹴散らしたまでです。残りの者共もすぐに」
「あーいや、そういうことを聞きたいんじゃなくてだなぁ」
あれかな。無知っ子アピールかな。「ぶれいん、わかんなぁい♪」とかいうあれか。
きっしょ死ねや!!(押し付けストレート)
「なんでそいつら生かしてんの。それでお前よく闇ギルドなんて名乗れたなリーダー。アンタ拾った猫の
「だから言ったじゃねえか、ブッ壊しておけってよ」
「きゃあああ!!オッサンが分裂したあああ!!」
思念体というやつだろう。幽霊のようにブレインからブレインが増えた(異様に気持ちの悪い光景だった為詳細な描写は省く)。
思念体の方のブレインは本体より四割増しで凶悪面である。殺人鬼のような面貌だ。
なんだこの地獄画図は。俺を含めたらオッサンジェットストリームアタック出来るじゃないか。誰が喜ぶんだこんなの。
いくぞガイア!オルテガ!マッシュ!お前誰だよ定期。
「申し訳ございませんノイズ様。ですが、貴方様の嗜好をまだ把握しきれていなかったもので、殺す前にまずは指示を仰ごうと」
「これだぜノイズ。こいつンな甘っちょろいことブツクサ言いやがってよ、殺すの渋るんだぜ」
「甘いぞ!ダメでしょ闇ギルドなんだから遠慮しちゃ。文字通り半分は優しさかよ、バファリンかよ」
「ばふぁ……?……で、では、今すぐ処理いたします」
更に深々と頭を下げるブレインに、しかし待ったをかけた。
妙案を思い付いた。
「あ、いやちょっと待って。まだ正規ギルドの仲間がいるだろうし、せっかく生きてるならちょっと軽くツツいて悲鳴をその他に聞かせてやろう。そうすれば、まだここにいない奴等も集まるだろうし。エリア指定で無差別に念話とか出来るっしょ?」
要するにこいつらを痛め付けて餌にしようというさくせんだ!あったまいいおれ!
フー!我ながら悪どい提案するー!
「はっ。問題ございません」
「なぁ、なんならその拷問役オレにやらせてくれよ。加減ミスって壊しちまうかもしれねーけど」
「何で俺に聞くのか謎だけど、はいキミ採用!やる気があって先生は大変嬉しいです!」
「ッシャ」
片手でガッツポーズをとる凶悪面に、笑顔を見せながらも内心で「なんだこいつ」と呟く俺であった。
というかサラッと流してたけど、何なんだこの分裂したオッサン。まさかこれがあの噂に聞くマスターゼロとか言うやつか。実質リーダーで幽霊部員とかいうなんちゃってマスターとか言うやつか。
なるほど、こいつが右脳か……。左脳か……?
「つかリーダー。他の六魔はどったの?」
「あの腑抜けたちなら今頃どこかで気を失っている、ないしすでに死んでいるでしょう」
「はへー、野郎共はともかくソラノちゃんは死んで欲しくないなぁ。せっかくの紅一点だったんだし。結構可愛いし」
ふははっとブレインは意外そうな喜色を滲ませて俺を上目遣いに見た。そこには悪どい笑みがありありと浮かんでいる。
「貴方がお望みとあらば、見目の良い女は後程いくらでも街から調達致しましょう」
うわ、犯罪者だ。さすが闇ギルド、言うことがちげえや。白昼堂々と拉致監禁宣言しやがった。そこに痺れる憧れ……ねえよ。
拉致はダメでしょ拉致は。女の子は普通に女の子してるから可愛いのであって、奴隷とかモノ扱いとかはあんまり趣味じゃない。
そういうのはね、互いに乗り気だから良いものなの!そういうプレイにしたってね!
愛し合うから意味があるんでしょうが!
そう、愛し合ってるから……。
…………愛し合ってるから。
カグラちゃんも、そうなのかな。あのチビデブとお互い合意なんだよなきっと……。
衝撃的過ぎて、認められなくて、男は全員殺してやろう!とか考えてたけど……。でも、そんなことを勢いに任せてやったとして。
カグラちゃんに嫌われるのは……ちょっと嫌だなぁ。
それに野郎共を全員殺すってことはジェラールも殺さなきゃいけない訳で。いやまぁいいんだけど。
「我が竜よ、いかがなさいました?」
「んー。いや、なんか俺間違ってるのかなぁなんて思っちゃってさ。こういうのを考えるのは得意じゃないんだけど」
ぼーっと街を見渡す俺の肩をブレインは飛び付く勢いで掴みかかった。
そしてガクガクとまるで親にパチンコの金をねだる駄々っ子のように揺らしてきた。
「そのようなことは御座いません!!貴方は間違ってなどいないのです!!破壊を!!貴方の力をこの世界に知らしめてやろうではないですか!!!」
「リーダー。今すぐ離せ、殴るぞ」
もちろん俺は抵抗するで、コブシで(21歳)。
オッサンに顔を急接近されて喜ぶ奴がいると思うか?
ねえよッ!!!!(憤死寸前)
「も……ッ、っ、申し訳、ございませんッ……」
持病だろうか。唐突に息を詰まらせたような浅い呼吸になったブレインは、脂汗のようなものを顔中に滲ませながら後ずさった。
おいおい大丈夫か?薬とか持ってる?飲んでからにしなさいよ、それくらい待っててあげるから。
子匙一杯分の心配をする俺と、ブレインのその後ろでは腹を抱えて地面を殴りながら爆笑している
「ハハハッ馬鹿だ!気迫に当てられてチビってやがる!ハハハハハハッ!!まぁ気持ちはわかるけどよォ!」
「黙、れッ」
おい。なんだその俺が悪いみたいな言い方。
たいへん不快でなんすが。
ま、いっか!
「さて、んじゃ。ちゃっちゃと鳴かせて下さいな。でも女は殺さないからな!目の保養、だいじ!」
「へいへい。ったく、我が竜は色狂いで困るね」
ケッ。性欲がないとか言う男は皆嘘をついてるだけなんですぅー。性欲がない男なんていませんー。自分に正直で何が悪いんデスカー。
それに、別に手当たり次第に好き放題するわけじゃないし。あくまで俺は女の子を尊ぶだけだ!本人の承諾なしに手は出さんよ失敬な!あいあむじぇんとるめん!
事を始めようと動きだし、ゼロが選んだのは、ひときは男臭いガチムチのハゲだった。
「うわ」
ついそんな言葉漏れてしまうのも無理からぬこと。なぜそこを選んだのか。
考えると
だらんと力の抜けた腕を無理矢理に持ち上げて体を浮かせているだけだが。だがその距離感の絵面はあまり見ていたいものじゃない。
『聞こえるかゴミ共!!これから貴様らにいい音色を聞かせてやる、ありがたく聞けェ!!』
指先から放った螺旋の魔法に右肩を貫かれ、その激痛に目が覚めたようだ。オッサンの低音甚だしい苦痛の呻き声が辺りに響いた。
うーむ。これが皆の頭の中から聞こえてくるのか。いやだな。むさ苦しいものが夢にまで出てきそうだ。
「あとはレスポンスが来るのを待つだけだな」
俺の言葉に頷くリーダーを横目に見た。
そういえばコイツ。狂竜症にかかってないけど……魔法で防ぐ手立てがあるのか?それとも克服して狂撃化してるのか……。もしかして、生き残ってる連中も結構いるのかもしれない。カグラちゃんあたりは確実に狂撃化するだろうから安心として省いてたけど、それにしたってガバガバな能力だ。
やはりこれは世の男どもを駆逐するのには向かない能力だな。いや、そもそも無差別じゃ向いてないか。
にしても……。
──コイツら、いつ殺そっかなぁ。
元より男は皆殺す予定だし。例外はない。なんでここまで他人に殺意が湧くのかは自分でもよくわからん。が、殺したいものは殺したい。あとはタイミングか。
「ハハハハッ楽しいなオイ!」
ノリノリでハゲのおっさんをボコボコにしているゼロを眺めながら、暇を自覚して欠伸が出た。
にしてもうるせえなアイツ。なぜおっさん相手にそこまで興奮できるんだ、性癖がマニアック過ぎるぞ。まさか貴様HENTAIか。
ふとした瞬間。ゼロが高笑いに身を委ねたその一瞬。
ハゲのおっさんが目を見開き、魔法の発動と共に叫んだ。
「喝ッ!!」
その一声で床は隆起しゼロを殴り飛ばし、俺たち三人とその野郎共を分断する巨壁を築き上げた。
「おお~やるー」
口笛が吹けないのでふひゅーと抜けた音しかでない。
しかし感心した。あそこまでギッタギタ(死語)にされてもまだ奮起できるなんて。俺だったら鼻水たらして逃げてるぞ。
「ハハッ!ボロ雑巾のクセに面白れえ事すんじゃねえか!」
ゼロが喚いてる。
ハゲ同、なんつって!ハゲだけに。だっはは!
「アイスメイク──」
魔法の詠唱。
「ランス!」
声の元をたどれば、いつの間にやら、壁の上から「はい、ひょっこりはん!」と飛び出していた(言ってはない)黒髪。
壁から覗くように構えた黒髪が次々と氷の雨を降らせる。しかし、ものの見事にそれらは全てブレインに払い落とされていくだけの徒労に終わった。
こんなんでもうちのリーダーなんでね!と、そんな俺はブレインの後ろで腕を組み、鼻を膨らませてデカイ顔をしているだけだった。
「常闇奇想曲」
本格的に戦闘が始まった。
とは言うものの……。
ビームびゅーん、壁ばーん、男たちうわー。
現状を表現するのにこれ以上的確な描写もあるまい。ブレインとゼロにまるで敵わない男たち。最初の勢いはどこへやら、あれよあれよと追い詰められていく。
「てめえが親玉か!!」
上半身裸の黒髪が氷の槌を両手で振りかぶり、ゼロのディフェンスをすり抜けて俺のもとへ突進してきた。
前に出ようとするブレインを手で制し、黒髪氷小僧の槌を右から左へ。左から右へ。ムーディー勝山ムーヴでいなしていく。
「残念ながら親玉はあっち。悲しいかな俺はしがないバイトだ」
「てめえみたいなバイトがいてたまるか!どっちが化け物かくらいー目見りゃわかんだよ!」
そうは言われてもなぁ。事実月雇いだし。
頭上から振り下ろされた氷の槌を受け止め、指をめり込ませて握ってやれば呆気なく砕けた。
「脆い。遅い。打点の正確性が粗い!そんなんじゃブレインには勝てないぞ!」
「てめえに勝とうとしてんだよ!」
「甘ったれるな!リーダーを獲ってこその男でしょうが!」
「だから俺の狙いはてめえだって言ってんだよ!!」
「えっ……?……そう言えば上半身裸だし、それってつまり…………うわ」
「ちげえよ!!変な勘違いをすんな!!」
これだけ
それじゃ気分が削がれる前にとっとと済ませてしまおう。
「グっぁ」
氷小僧目掛けて放った拳は、
氷小僧の胃の中には何もないのだろう、胃液と僅かな血のみを吐いて床に倒れ込んだ。
「ハゲが壁を造った時点でお前たちは地面だけを凍らせるなりしながら逃げるべきだった。挑んでこなければ長生き出来たろうに。ま、追いつけるけど」
「そうかよ……ぺっ」
氷小僧は血の混じった唾を俺へ吐いた。
まぁ当たってあげないんだけどね!!
「……引けねえから、挑んでんだよ」
なるほど、至極真っ当だ。
さて、痛みにもがき苦しませるのも可哀想だから今すぐ終わらせてやるとしよう。殺すのはいいが拷問は趣味じゃない。
MODE:ヴォルガノス。
黒々しい溶岩の籠手を右手に。
熱を集め、周囲の空気を焼くほどに赤熱した右手を氷小僧の顔の前でパーに開いた。
「ばいばい」
流石にこれで顔面を掴まれれば氷使いといえど骨もろとも溶けて死ぬだろう。いや、高熱によるショック死が先かな?
どちらにせよ生きてはいられない。
「ッ、くそッ!」
若き命に、さようなら。
「──火竜の鉄拳ッ!!!」
あれ…………?
ちょっと痛い。
「俺の、仲間に……」
気がつけば、両足で地面を削るように氷ハンサム君の前から押し退けられていた。
どうやらすっかり周囲への意識が疎かになっていたらしい。俺を殴った少年は口から糸のように吐いた息に火を灯し、竜のような形相で怒髪天をつき、俺を射殺さんばかりに睨み付けていた。
「何してやがんだてめえッ!!!」
鋭い目付きに燃えるような怒気。桜火竜を彷彿とさせる鮮やかな髪と網目の粗い白マフラー。
少年の纏う黒く白い空気は、どこからどう見ても狂撃化の証だ。
……狂竜化を克服したらしい。
「ナツ……!」
「グレイ、下がってろ」
それと、頬に鱗……?
色素自体は肌色のままだが、目の下に竜の鱗のような質感が窺える。
竜の片鱗を見せながらも人としての色を強く残している。
「こいつは俺がぶっ飛ばす!」
一見、竜に成ろうとしている人間のようにも見えた。
「へぇ……」
その姿に興味が湧いた。
あのクソトカゲ以外で、竜に関連したものを見るのは初めてだった。
国境にとらわれず世界をほっつき歩く俺が、何年かけても見ることのなかったものが、ぽっと目の前に転げてきた。
……加えて、どこか俺と似た匂いをしてる。
同族。という言葉が浮かんだ。
もしかすると俺の中にあるであろう古竜の因子が、この桜火竜の少年は仲間だと騒いでいるのかもしれない。
確かに、俺も模倣する際に手足や顔に似たように鱗を発現させている。
こいつの力には、俺に
自然と口角が曲線を描く。
なんだか、新たな