モンスターイミテーション   作:花火師

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小さな手

「お嬢ちゃん。一人で酒場なんかにきちゃ危ないよぉ?おじさん達が安全なところまで案内してあげるぜ」

 

いやらしい表情を隠すことなく、そう声をかけてきた男達。

そんな妄言を発するリーダーらしき男は油の滴る汚ならしい額に虫のマークを印している。

 

魔導士ギルド。黒い鍬形(ブラックインセクト)

 

この町で情報を集めていて耳にタコができるほど聞いた名だ。ここ最近一般人を脅かしているギルドだ。この辺りをシマとして暴れまわっているんだとか。

ギリギリ正規のギルドということになっているが、こんなチンピラ紛いのことを繰り返している以上、評議院が動くのも時間の問題だろう。

 

男は私の肩に手を置こうと伸ばす。

その汚ならしい手をサッと避けてため息を溢す。。

情報収集のためにここへ来た。こういう輩に絡まれる前に聞くだけ聞いて消えようと考えていたが、どうやら引き際を先伸ばしにし過ぎたようだ。

この失敗は次に生かそう。

 

踵を返して出口へ向かう。

 

「そんな連れねー態度しなくてもいいじゃねえか。優しくしてやってんだからよ」

 

しつこく私に触れようと伸ばされた手をひらりと回避する。

 

「無視たぁいい度胸じゃねえかクソガキィ!」

 

ずいぶんと低い沸点だ。リーダーは拳を握り魔法を使う。

 

「『アイアンメイク・ブレード』」

 

男の手元に精製された醜い大太刀。

実力行使にでるというのなら私もそれ相応に力を行使しよう。もとより、ならず者にする手加減などありはしない。

金具で固定している背負った刀に手をそえる。

 

「ヒヒッ。お嬢ちゃん。謝るなら今だぜ。死にたくなきゃ今すぐ床に頭を擦り付けな」

 

「黙りなさい。外郎」

 

「それが遺言でいいんだなぁ!?」

 

男は醜い顔を更に醜く変えて人間の範疇を越えたような顔つきでその大太刀を振るった。

まるで遅いその太刀筋に呆れるも、意外なことに振り抜いた勢いのまま回転すると、男はその大太刀を私目掛けて投擲した。

動きは多少できるようだが、どうという程ではない。なんの苦もなくそれをひらりと避ける。

 

ふと、冷や汗が流れた。

まずい。忘れていた。私の後ろに人が……!

 

酒場という人の集まる場所で、その男の大太刀が投げられた。魔導士ならいざ知らず、一般人であれば死んでしまうだろう。

 

私の隣を通りすぎていった大太刀。当然間に合うわけもない。

 

視線のみでようやく追い付いたのは、その大太刀がローブを羽織った男の頭蓋へと襲いかかる数秒前だった。

食べている最中のステーキに夢中で、こちらの騒動にすら気がついていない。

 

間に合わない……!

 

「……え?」

 

しかし、突き刺さると思われた大太刀は男を仕留める前に、空中で真っ二つにへし折れ鉄屑へと変貌して転がった。

 

途端に静まる酒場。

驚愕したのは私だけではないだろう。唐突にあんな大太刀が砕けたのだから。

『砕けた』。それはつまり魔法の解除ではなく、物理的に砕かれたということ。

 

一体、誰がそんな真似を。

武の心得がないものなら、そんなことを思うかもしれない。だが、私にはその異常性がありありと伝わった。

当人であるその男が、砕いたのだ。文字通り目にも止まらない速さで腕を振るい砕いたのだ。

砕いたことは認識できた。だが殆んど勘に近いものがある。正確には見えた訳ではない。どのように壊したのかもわからない。

 

東の国。私の目指すところにあるその国で、達人の域にある剣士は、その剣を抜いたのかどうかすら捕えられない速度で抜刀する。曰く、音を越えるスピードの剣撃を繰り出すとか。

まさに、そんな逸話のような光景だった。

……いや、だがまだ魔法であるという可能性も捨てきれない。

 

 

「あのよぉ」

 

その本人。ローブの男が立ち上がった。

いつの間にか全て食されていたステーキの皿を退ける。そしてコップに並々に注がれたエールのようなものを一気に煽ると振り向いた。

 

ローブから出ている腕には包帯が大量に巻かれ、そのフードの中の顔ですら、右目と口周り意外は全て包帯で覆われていた。さながらミイラ男。

 

「俺の飯の時間を邪魔するな。それと、良い歳して子供に欲情してんじゃねえ。みっともない。yesロリータnoタッチ。オーケー?」

 

ロリータという言葉の意味はわからないが、なんとなく幼いと揶揄されているのは理解できた。

 

「あんだぁてめぇ。この最強の魔導士ギルド、ブラックインセクトに喧嘩売ろうってのか?あぁ?」

 

「……」

 

包帯男は机に金貨を置くと、私の横を通りブラックインセクトのメンバーたちの方へ向かう。

 

……戦闘が始まる!

そう感じてリーダーが魔法の準備をするも、彼らは包帯男の視界に入っていないようで見事なまでに隣を通ってスルーされた。

そのまま、何の気なしに出口へ歩く。

 

「待ちな!」

 

下っ端のような女が怒鳴り声と共に殴りかかった。が、それはこちらをチラリとも見もせず意図も簡単に後ろ手で受け止められる。

 

「はっ、離せ!」

 

包帯男はあからさまなため息を吐き出し、受け止めた手を離して渋々振り向く。

包帯である上にフードまで被っているため表情は伺えないが、面倒臭そうな雰囲気を全身から醸し出している。

 

「この俺様たちに逆らうってんなら、死んでもらおうか!『アイアンメイク・ランス』」

 

リーダーの男が立ち止まった包帯男へ魔法を放った。

槍のように鋭いそれを、男はひょいと詰まらなそうに回避すると小さく何かを呟く。

聞き取れなかったが詠唱だろうか。

 

「『……ランゴスタ』」

 

包帯男は、しゃがんだ。

いや、違う。体を丸めた兎のように飛び上がったのだ。しかし“跳ぶ”というよりはステップに近いだろう。

 

トン。トン。

そんな軽快な着地する音が二度鳴る。

 

次の瞬間。ギルドメンバー全員が白目を剥いて痙攣し、泡を吹いてその場で倒れた。

まるで麻痺毒を盛られたような症状だ。

二度目の着地の音と共に、気がつけばリーダーの目と鼻の先に汚れた包帯の顔を近付かせていた。

 

途端にリーダーから目に見えて怯えの色が滲み出る。

包帯男は、その速さとは裏腹にゆっくりと、強調するように口を開く。

 

「人様に迷惑かけんな。鬱陶しい」

 

包帯に巻かれたひと差し指を額に当てた。

途端、他のメンバー同様にリーダーも白目で痙攣しながら崩れ落ちてしまった。

 

包帯の男は倒れ伏したならず者たちを見て二度目のため息をつくと、酒場の扉を開けて出ていってしまった。

静寂に包まれる酒場。ここのお得意様であり、この町で幅を効かせていたブラックインセクトが意図も容易く、圧倒的な力量差で無力化されたのだ。仕方ない。

 

ハッと気を持ち直した私は酒場から飛び出すと、先程の男の背中を遠くに見つけて走り出す。

 

 

運命的な何かを感じた。

私は、あの人についていけば強くなれるかもしれない。

 

もう、何も、誰からも奪われないように。強くなれるかもしれない。

奪われないように。

守られるのではなく、守れるように。私は強くなりたい。だから

 

 

私は!!

 

 

全力で走って追い付き、息をきらしながらも叫ぶ。

 

心底思う。

 

「私を、弟子にしてください!!」

 

 

強くなりたい、と。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

あー。頭いてえ。

 

 

「仲間が世話になったなぁ。俺達に手を上げたんだ。生きて帰れると思うなよ!」

 

 

なにこいつら。

 

町を出ようとしていた俺。そんな俺になぜかずっと付いてくる少女。ちょこちょこと付いてきては何かを俺に語りかけてくる。まぁ上の空の俺は殆ど聞いてなかったけど。

まだ……それだけならよかった。ちょっと可愛いストーカーで済んだ。しかし、付いてきたのは少女だけではなかったようで、現在むさ苦しい男達に行く手を阻まれている。

 

「師匠。私が片付けます。見ていてください」

 

そんな男達にかっこよくそう決めると、少女は俺の前へ出る。仁王立ちで彼らに相対する。

え? なに? 師匠?そんなの聞いた覚えないんだけど……。初耳過ぎてびっくり。

 

首を傾げる俺に、少女は背負った長い太刀に手をかけた。男達はそれぞれが魔法を放つ構えをとる。

ピリピリした空気の中、にらみ合いが続く。

 

「あのー。話し合えばわかると思うんですよ、僕」

 

聞こえてなかったらしい。

先に飛び出たのは少女からだった。刀を背負うための金具を外す。

背負っていた身の丈程の太刀を解放すると同時に駆け出し、先頭にいた男の顎を柄で強打した。一撃で昏倒。

それをようやく理解したのか、遅れて襲いかかってきた男達。彼らの足を払い体勢を崩したところへ、鞘に納まったままの太刀を叩き込んだ。

 

頭へズゴン、鳩尾へぶすっ、金的へチーン。

うわー、えぐー。

的確な攻撃に怯んだ男達は距離をとると、それぞれが魔法を放つ。

 

子供、というよりは猫に近いかもしれない。すばしっこく動き周り、魔法を縫うように避けて一人づつ確実に仕留めていく。

 

おおう。女の子なのにやるな。

けどまぁ、端からみたら完全に事案だがな。男が集団で必死の形相で襲いかかる。通報ものだよ。

 

あっという間……とまでは行かなかったが、子供としては別格の早さで彼らの殆どをノしてしまった。

……子供としては別格、とか言ってるけど、普通子供が大人をノせる訳がない。なんだろう、ジェラールといいこの子といい、この世界の子供は皆こうなのだろうか。

子供は風の子ならぬ、火の粉なんだろうか。

 

「ぬふふ、俺のギルドをよくもやってくれたなぁ」

 

最後に残っていた残党。

いや、残党とは言わないのかもしれない。台詞からして、ブラックなんたらのギルドマスターだろうか。

妙に甲高い声が脳へ刺さるようで不愉快だ。あんまり騒ぐようなら俺が沈めよう。うん。

 

後ろで腕を組みながらこちらを見学していた男が手をかざした。すると、地面から多量の岩が浮き上がり浮かすと、それをこちらへと飛ばしてきた。

 

少女は避けられないと感じたようだ。刀を盾にやり過ごそうと身を竦めた。

流石にこれだけの量を飛ばされたら避けきれないか。どこぞの饅頭頭じゃあるまいし。

弾幕ゲーはマゾゲーだ、これ俺の考えね。

 

「『MODE:ダイミョウザザミ』」

 

肉質を鉄壁の甲殻類へと変質させ、少女を庇うように前へ飛び出た。流石に女の子が岩で潰されるのを看過できるような俺じゃない。

 

…………あれ?

というかそもそも、この状況を見学してたって時点で今の俺はどうかしてる。少女なんて真っ先に守るべき対象じゃないか。イカレちまったか?

 

うーむ。まだあの竜との激闘が尾を引いてるのかなぁ。未だにボケッとしてることが多くて困る。思考がまとまらない。

 

さて、視点を一旦戻そう。

岩は当然、ダイミョウザザミの鉄壁に通用するわけもなく、俺にぶつかったものはその場でことごとく砕ける。

 

「ぬぅ!ガキを庇うか!なら貴様もここで死ねぇェッ!」

 

声を裏返して奇声を上げる男。

頭に響くからやめて欲しいんだけど。

魔法を使い、さっきより多くの岩を浮かせたところで男が再度、口を開こうとしたその瞬間。流石にピキッと不機嫌の沸点が一定を越えた。

迅竜を模倣し疾走すると、出来るだけ手加減して殴り飛ばしす。

町の看板を突き破って吹き飛んでいった男に、俺は疲れきった声をつい漏らした。

 

「頭に響くから不愉快な声を出すなっつってんの。変態ロリコン集団が」

 

身を固くしていた少女は、いつの間にか男を殴り飛ばしていたことに対してか、驚いたような顔をしていた。

 

「すみません師匠。遅れをとりました」

 

「……俺、師匠になるなんて認めた覚えはないんだけど?」

 

未だに少しキンキンとあの男の声が響いてる気がする。頭も、靄がかかったようでスッキリしないし。

ここまで体調に異常をきたしたのは初めてだ。

……まさかここまで後遺症が酷いなんてな。

 

「なんと言われようと付いていきます」

 

む。意外と(かたく)なだな。

 

「そもそもお前、親はどうした?」

 

「両親は……もう居ません。今は兄を探して旅をしています。きっと、どこかで生きていると信じてる。だから……」

 

……想像してたより重かった。

 

「もう、泣きながらさ迷うのは嫌なんです。これ以上奪われないように私は力が欲しい。兄を、大切な人を奪われないように」

 

話を聞いてみれば、少女カグラちゃんは兄を誘拐されたらしいのだ。

そしてこれからどこかギルドに所属し、己を鍛え上げつつ兄を探すための情報収集をしようとしていたらしい。だが、そこに現れた俺に師事を仰ぎ、旅を共にしながら情報を集めたい、と。そう言うことらしい。

 

「うん。断る」

 

「何故ですか!?」

 

何故ですか、って。

だってそりゃあねえ?

 

「君、今いくつ?」

 

「九です」

 

お、おう。完全なロリっ子じゃねえか。

この世界の子供ってたくましいイメージしかなかったから、てっきり見た目に反してもっと年取ってるのかと……。

それにあんな身動き、九歳の子供ができるもんじゃないだろ。

 

「俺に付いてきたところで学ぶことなんて何もないぞ。教えることもないし、教えるつもりもない」

 

俺は技術なんてないしな。行き当たりばったり。能力と反射神経と、あのクソ竜のお陰で鍛えられた身体能力で応対することしかできない。

いつかジェラールにも言ったが、俺は誰かにものを教えるような器じゃない。

断るつもりで背を向けた俺は、舗装されていない畦道を歩き出す。

 

「見て学べということですね。精一杯励ませて頂きます」

 

……おい。了承してないぞ俺は。どんだけポジティブなのチミ。

そもそも、あの竜との遭遇率が高い俺の側にいるのは危険がある。

 

……あれ?……そういえば、あの竜と最後にやりあってからどれくらい経ったんだっけ。

どの辺からかよくわからないがあの竜と戦ってからというものの、記憶が混濁している。戦っていたのは覚えてるが、最後の方は記憶があやふやだ。

 

恐らく大体の予想はできる。模倣を無理矢理融合させたんだろう。融合技がハイリターンであることは精霊界で経験済みだ。

それでも尚、無理をして意識と記憶が飛んだものと思われる。今も後遺症として頭に靄がかかっていて体調は最悪。

戦ってた時の俺はきっと、よっぽどハイになってたんだろうな。わかっててやるなんて。アホめ。あの時の俺のアホめ。

 

そのせいか、時間の感覚まであやふやだ。どれくらい寝ていて、目が覚めてどれくらい経ったのかすらわからない。一週間か、一ヶ月か、半年か、一年か。

唯一、誰かに助けてもらったのは覚えている。うっすらとだが。

 

あぁ、体がダルい。

 

「よろしくお願いします!」

 

「認めてねえって」

 

「認められるように頑張ります」

 

面倒臭い。

……まぁ子供とはいえ女の子に付いてこられて嬉しいよ?普通だったら狂喜の舞を躍り狂ってるよ?狂喜乱舞だよ?

けど、あいにく体調不良が過ぎてそんな気分になれない。インフルエンザの最中に性欲がわかないあれと一緒。

 

……いや、こんな子供に性欲わいたらまずい。通報される。メイビスちゃんにハァハァしてた俺が言うのも今更な気がするけど。

……そもそもあれも冗談だからね?

 

「はぁ」

 

この子、どうしよう。またフェアリーテイルにでも預けに行くか?あのギルドはジェラールもいるし、他にも年の近い子供もいるし、マスターもいい人そうだったし。それにマグノリアだ。情報収集をするにしても悪くない環境だと思う。

 

「カグラちゃん」

 

「カグラとお呼びください。師匠」

 

「師匠じゃねえ」

 

「……なるほど。まだ弟子にすら及ばない段階ということですね。では、小間使いで構いません。弟子と認めてもらえるよう精進します」

 

伝わってねえ……。

 

「魔導士ギルドを紹介する。そこに所属するといい。良いやつらが多いし規模も中々だ。情報収集にももってこいだろう」

 

「師匠も所属しているのですか?」

 

「いいや。俺は魔導士じゃないからな」

 

「なら私はそのギルドには入りません」

 

なんでこう頑ななのかな。この子。

 

「理由を聞いておこう」

 

「私は師匠の元で学びたいからです。出会った瞬間に確信しました、あなたに付いていけば強くなれると」

 

「はぁ……」

 

何度目のため息だろう。

この子、凄い聞き分けが悪い子だ。ジェラールがどれだけ物分かりのいい子だったのか思い知らされる。

 

「それにしても驚きました。魔法をなしに魔導士ギルドを潰してしまうだなんて、流石です」

 

「ま、少しズルはしたけどな」

 

「師匠の動きを目で追えるようになるところから始めようと思っています。どうぞ私は居ないものと思ってください」

 

……なんかもう完全に弟子になったみたいなこと言ってるけど……。

 

いっそここに置いて俺一人で走り去るか?まだ町からそこまで離れた訳じゃないし、それも手段としては可能だ。

うーん。けどあんな町にこんな女の子を置き去りっていうのも良心の呵責が……。あの魔導士たちが回復したらこの子が危ないし。

 

あー、もう。仕方ない。

 

「じゃあこうしよう。あと一ヶ月間だけ師匠とやらの真似事はしてあげる。そして一ヶ月経ったら試験をしてやろう。俺を満足させられなければ破門だ。良いところは教えてやるから魔導士ギルドに行け」

 

「それはつまり、師匠を満足させることができれば正式に弟子として認めるということですか!」

 

「あぁ」

 

まぁ一ヶ月で何が出来るんだって話だけどね。

そもそも、満足させるっていう曖昧な基準なら俺の匙加減で落とすことができる。

俺も悪よのぉ、うえへへへへ。

 

……それに。その目は、九歳の子供がしていい目じゃない。

 

何がなんでも力を求めるような目だ。こう言う奴等は見たことがある。

依然、たまたま出くわしたトレジャーハンター。彼らは強大な力を求めて儀式を行い、霊脈の源を盗もうとしていた。

奴等の目と同じだ。

力を手にいれるためならなんでもする。他を犠牲にしても構わない。求めるものの為に何でもする。

力の為に迷う。人道にすら迷い、平気で踏み外す。

それは強さだと思う。否定はしない。

けど、こんな子供がしていい目じゃない。

子供ならもっと鼻水垂らしてヘラヘラしてりゃいい。馬鹿みたいに笑ってりゃいい。俺も多分そうだったろうし。

 

……いや、今もわりとそんな感じだな。俺。

 

それを思うと俺なんかに引っ付いてるより、フェアリーテイルみたいな明るいギルドにいた方が何万倍もいい。

俺といても楽しいことなんてないだろうし、それに一人旅だ。体力的にもキツいだろうしそもそも体の出来ていない子供には向かん環境だろう。

 

何がなんでも、俺はこの子を弟子にするつもりはない。

 

 

 

 

 

大木を刀のひと振りでへし折った少女を、俺はなんともいえない目で見ている。

 

……九歳の子供の所業じゃねえ。

しかもこれ、飯の確保とか言ってるんたぜ?

木の腐った部分にいる昆虫を掻き出して、それを焼いて食べるらしい。

女の子だよね?

 

……たくましい。たくまし過ぎる。

 

 

「どうぞ師匠」

 

「……」

 

調理が終わり、差し出された昆虫の串焼きに、俺は嫌な汗を感じながら受けとる。

 

えぇ……。

なんかカグラは普通に串焼き食べてるけど。

えぇ……。

 

いや、正直食べたくない。抵抗がある。けど……。

はよ食えや、という子供の無垢な視線で貫かれる俺は渋々にそして恐る恐るに串焼きを口に運んだ。

 

「どうですか?」

 

「……うまい」

 

肉だ……。いや、肉というより魚か?マグロを焼いたような食感だ。味付けは塩だけの筈だが……。なぜこんなに美味いんだ。

 

「ご存知かと思いますが、昆虫でもしっかりと調理すればそれなりに美味しくなります。私は兄が連れ去られ一人きりになったとき、動物を仕留めることができなかったのでどれだけ虫を美味しく食べれるか奮闘したので、少し自信があります」

 

やめて……。

可哀想過ぎて俺が泣きそう。

ちくしょう、子供の癖にたくましくなりやがって。こんな子供をそんな状況下に置いたやつマジで許せん。

 

ちくしょう。うまい。

この料理にはこの子のこれまでの努力が込められている。

苦悩も。苦痛も。恥辱も。

 

本来なら親に甘やかされながら生きていた筈だ。九歳。そんな子供が人を斬る感触を覚え、殺伐とした空気を吸い、刀を握って大人と争う。

兄を探してこの残酷な世界を一人旅する。

土の味を嫌い虫を食べるようになった。

虫の味が嫌いで美味しく食べれるようにした。

……いったいどれだけ苦汁を舐めてきたことか。

その小さな手を必死に伸ばして生きてきたんだろう。

 

「……」

 

「師匠?お気に召しませんでしたか?」

 

はぁ。ほんと。気分わりぃ。

 

「いいや。美味い」

 

 

よかった。と、その時は年相応の無邪気な笑顔で微笑んだ。

 

あぁ、ダメだ。ほんとに俺は情に流されやすい。

 

……情に流されると俺がこの子の面倒を見たくなる。

けど、そうなるといつこの子をあの竜との闘争に巻き込むかわかったもんじゃない。

さっさとフェアリーテイルに連れてって、幸せに暮らしてもらおう。

 

 

 

「今日はもう寝るか」

 

徐々にうつらうつらと舟を漕ぎ始めたカグラを見て、俺はそう告げる。

まぁひとつのギルドと戦ったわけだしな。主にこの子が。そりゃ眠くもなるだろう。

 

当然寝袋なんてあるわけもなく、適当に草を集める。だがなぜかそんな俺をカグラは止めた。

すると呆ける俺を他所に、カグラも作業に入る。手慣れているようで、苦もなくテキパキと寝床を作る。

 

「どうぞ、師匠」

 

どうやら俺に作ってくれていたらしい。その場を退くと、作った寝床を俺へ差し出した。

 

「喧しい。お子様は先に寝ろ。俺は少しやることをやってから寝る」

 

子供に作ってもらった寝床を俺が堂々と使えるわけないだろ。

 

「修業ですか?」

 

急に眠気をすっ飛ばしたように食いついてくる。

 

「違う。今後の方針を決めるだけだ。これに関しちゃ俺一人で決めさせてもらう。先に寝てろ」

 

諭してやると、ようやく引き下がったカグラは、もうひとつ寝床を作ろうと草を集め始める。

 

「あぁ待て。俺は寝床はいらん」

 

「そうですか」

 

寝床を作るのをやめると、カグラはその場で姿勢正しく正座をした。

……何してんのこの子。早く寝なさい。子供が起きていていい時間じゃありません。

 

「師匠が土の上で寝るというなら私も土の上で寝ます。師匠が寝ないというのなら私も寝ません」

 

……面倒くせぇ。

変な方向に真面目だな。律儀っつーかなんつーか。

頑固なんだな。

 

そこまでして求めるのか。

そこまでするほど辛かったのか。

 

「『MODE:ヒプノック』」

 

体質を眠鳥へと変える。

 

「師匠?」

 

訝しむカグラだったが、俺は警戒させないようにゆったりと歩み寄る。

そして頭に手をのせて撫でる。さらさらとした髪だ。女の子として見ても十分に可愛いし、将来はかなりの美人さんになるだろう。なら夜更かしは美容の大敵だ。……なんつってな。

 

「おやすみ」

 

ヒプノックの毒性にやられ、カグラは目を細めてふらつく。睡魔に逆らおうとしているのか、目を開こうと耐えている。

だが当然勝てるわけもなく、上半身を俺の方へと倒して眠ってしまった。

 

「『MODE:ガウシカ』」

 

ローブを柔らかな毛皮に変質させる。

身につけた物の変質は基本、低ランクのモンスターのものしか出来ないが、これのお陰で野宿が楽になっているので非常にありがたい。

 

ガウシカの毛皮でカグラを包み、彼女の作ってくれた寝床に寝かせる。

 

せめて寝ている時くらいは、辛い思いなんてせずに。楽になれるように。いい夢を見れるように。ゆっくり眠れ。

その寝顔を眺めながら、柄にもなく俺は穏やかな気持ちになっていた。

まだ子供なんだ。腹一杯飯食ってる夢でも見て、面白い寝言でもたくさん垂らせ。

 

「はぁ。ほんと、柄じゃねえよな」

 

木に寄りかかり、俺も楽な態勢になる。

残念ながらローブを変質させている今、俺自身が模倣することはできない。

掛け合わせ程ではないし、それほど難しいものでもないが、今の俺が同時発動をしようものならまたぶっ倒れかねない。

 

気持ち良さそうに眠るカグラを眺めつつ、たまにはいいかと俺も重たい体を休めるために、睡魔に身を任せた。

 

 

身体中が重い。苦しい。痛い。

 

それを我慢する必要もなく、休むことを必要としているのか、意識はすぐに沈んでいった。

 




体調不良のトージくんは元気がないようです。
若干重たい話になってしまったかな。

能力を移せることについてはあとでまた改めて
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