※Pixivとのマルチ投稿です。初回投稿日:2015/04/05
私たちは提督からの招集を受けて執務室に来ていた。これから次回の出撃について大切なお話があるみたい。
他に呼ばれているのは……秘書艦である長門さん、正規空母の赤城先輩、高速戦艦の金剛さん。そして、特型駆逐艦の吹雪ちゃんと、白露型の夕立ちゃん。同じ駆逐艦のコが一緒なのは、とても心強い。
ただ……あとは提督がお戻りになられるのを待つばかりって時に、物凄く不安を掻き立てられることがある。
「もぐもぐもぐ……っぽい☆」
「ゆ……夕立ちゃん……提督のお部屋でおやつ食べるのはやめようよ……」
緊張感ないなぁ……バナナなんて。しかも、皮をゴミ箱に投げ捨てようとしてハズしてるし。誰かが踏んだら危ないよ。
「睦月ちゃんも一本いるっぽい?」
「いらないよ!」
「Hey, それなら私が貰ってもいいデスカー?」
金剛さん! ……あああ……緊張感なさすぎだよ……。止めることもできずにおろおろするばかりの私の肩に、そっと手が添えられた。
「一緒に頑張ろうね、睦月ちゃん!」
吹雪ちゃんは着任してきて間もないからか、この雰囲気に染まってないみたい。
「うん! 頑張ろう、吹雪ちゃん!」
このコといると、私も気が引き締まってくる。まさに、この艦隊の良心だね。ここで、先輩である赤城さんにガツンと言ってもらえればこの雰囲気も――
「夕立さん、私も一本頂いていいかしら?」
先輩まで乗せられてどうするんです!
「あ、それなら私も!」
一瞬で堕ちちゃったよ艦隊の良心! こうなったら秘書艦自ら……って、物欲しそうにチラ見してるし! 教室の隅で会話に加わりたがってるコミュ症ですか!
こんなところ提督に見られたら怒られちゃうよ……って焦っていたけれど、ガチャリと扉が開かれる音と同時に部屋の空気は一変した。おやつに浮かれていた皆々もバナナを左手に持ち替えて、お着きになられた提督を敬礼でお迎えしている。てか、バナナ片手に敬礼って……許されるの、コレ? 提督は気になさってないみたいだけど。
机に向かってコツコツと規則正しく刻まれていた軽快な軍靴の音に――ゴッ! という鈍い音が割り込まれた!? 床から高々とバナナの皮が舞い上がり、提督の身体は面舵いっぱいにひっくり返って……え? どうしてこんなことに……?
硬い床をブチ破る勢いで後頭部を強打してしまった提督の両足がバタリと落ちる。すっかり白目を剥いていて、ピクリとも動く気配もない。
「提督……まさか……――」
死んだーーーーーーーー!?
動揺してざわめく室内に、秘書艦の凛とした一喝が響き渡る!
「狼狽えるなッ! 戦場では常に死と隣り合わせなのだぞ!」
狼狽えますって! ココ戦場じゃないですし、普通死ぬトコでもないですよ!
「やはり、運命には抗えないの……?」
赤城先輩、こんな死に方運命にしないで下さい! 提督、一体前世でナニやらかしたんですか!
「提督には……えーと……アレやらコレやら色々励まして頂いたのに!」
吹雪ちゃんもそんな取ってつけたような回想シーンをムリヤリ捩じ込もうと頑張らなくていいよ! そもそも、吹雪ちゃんココ来たばっかじゃん!
「うぅ……ぽいぃ~……もぐもぐ……ぽぃぃ……!」
夕立ちゃん、泣きながらもまだバナナ食べてるの!? しかもまたゴミ箱狙ってハズしてるし! ちょっとは学習しようよ! また死者が出るよ!?
「ぽいぃ…………ぽい……?」
涙を流しながらバナナをモッチョモッチョ頬張っていた夕立ちゃんの
「む……これは改二の高みに達した輝き……。夕立、直ちに改造手術を受けるのだ!」
「ぽいー!」
えええええええ!? 提督倒してレベルアップしちゃったよ! 艦娘としてマズくない!?
改造と聞いて意気揚々と退室しようとする夕立ちゃんだけど……扉の前はトラップ地獄! 夕立ちゃん自身で巻いた種……じゃなくて皮だけど。
傍でハラハラしながら見守っていた吹雪ちゃんが……
「あっ、危ない夕立ちゃん!」
そう言って駆け寄ろうとする。でも、吹雪ちゃんの方が危ないよ!
「……ふぇっ!?」
案の定、ブニ、と右足で思いっきりバナナを踏んじゃった! さらに――
「えええええッ!?」
慌ててバランスを取ろうとするも、今度は左足もバナナの上に! 両脚をバナナに掬われた吹雪ちゃんはグリングリンと縦横無尽に錐揉みながら宙を舞い、頭から一直線に床板に向かって捻り込むように――
「
そこに、地表を滑るような軽やかさで金剛さんが割り込んできて……ズボボスンッ!! 間一髪のところで艦首の激突に華麗なるインターセプト!
「さすがは高速戦艦、素晴らしい救出劇でした!」
私も赤城先輩と同意見だけど……だったら提督も助けてあげて欲しかったよ! ここで吹雪ちゃんだけ助かっちゃったら、提督
似たような事故での死を目の当たりにしたばかりだからか、助かったと分かっても吹雪ちゃんの震えは収まらない。
「金剛さん……私……」
「
何が大丈夫なのかとあたりを見回してみると、もりもりバナ皮乱舞されていた室内がみるみる綺麗になっていってる。中腰に屈んだ長門秘書艦の働きによって。
「二度とこのような惨劇を繰り返させはしない……!」
その心意気には共感しますけど、こんな雑務を秘書艦自ら率先しないで下さい! もっと他にすることあるでしょ!?
……ということで、残りは私も手伝ってバナナの皮は全てゴミ箱に格納されました。残されたままの提督の亡骸(?)が……痛々しい……。
「とっ、とにかく今はこれからのことを――」
「待ちなさいっ!」
大切な話を切り出そうとしていたところに、ノックもなしに執務室に飛び込んできたのは……暁ちゃん!? どうして
プリプリと肩を怒らせながらズイっと入室してきた暁ちゃんは、ビシィっと天井寄りの壁を指差す。その先には……時計……? もうすぐ長針と短針が真上を向きそうだね。
「ハッ……しまった……!」
長門秘書艦が何かを思い出したように両目を見開いている。え……? もしかして……!?
「何か重要な任務を提督から……?」
「……うむ……」
その表情は暗く、余裕も感じられない。当然だよね、これから遂行しようとしているのは謂わば提督からの遺言のようなものなんだし。
「フフン……ついにこの時が来た、って事ね」
誰!? この場にないハズの声に驚いて、みんな一斉に振り向く。開かれた扉枠にもたれ掛かり、大胆不敵な笑みを浮かべているのは……足柄さん!
「役者は……揃ったようだな」
暁ちゃん、足柄さん……この
「これより、鎮守府カレー大会を開催する!!」
ええええええええええええええ!?
「まっ、待ってください! 提督が……ほらっ、提督が……っ!」
あそこで倒れてるんですよ!? そんなことしてる場合ですか!
「落ち着いて聞け、睦月」
長門秘書艦は、このイベントの重要性をとんとんと説明し始めた。
「この鎮守府では、年に一度カレー大会を開き、優勝者のレシピを翌年まで採用することになっている。審査時刻である正午までにカレーが揃わぬ場合――」
「一年間カレーを食べられない!?」
赤城先輩、ナニ『カレー断ったら
「そのとおりだ。残念だが今後一年、
なんでそんな融通利かないんですか、そのカレールール! もっと守るべきトコがあるでしょ!? 提督の身の安全とか!
「これが……運命だというの……?」
何でも運命の所為にしないで下さい、先輩! どこまで運命に操られてるんですか! っつーか、提督がお事故りになられたときより落ち込んでません!?
赤城先輩はマジなホンキでガックリと膝を突いてしまった。なのにニューフェイスの
「心配しないで、赤城さん!」
「そんな運命、私たちが変えてみせる!」
いやいや、こんな数分じゃレトルトでも間に合わないよ! ……と思っていたのだけど、お
「カレーは既にッ!」
「できているッ!」
暁ちゃん・足柄さん両名が指を鳴らすと、響ちゃん・羽黒さんがカレーの入った寸胴を廊下からえっちらおっちら持ってきてくれた。
これには秘書艦も臨戦態勢。煮えたぎる二つの大釜を前に、必要以上に威圧されている。
「くっ……やはり戦いは避けられんか……。ならば来るがいい! 私の前にカレーを持てェ!」
えー……こんな状況でホントにやるんだ……カレー大会……。
暁ちゃんと足柄さんのカレーがそれぞれ長門秘書艦の待つ机の前に並べられた。ちなみにソコ、提督の執務机です。何かもう、鎮守府は秘書艦に乗っ取られちゃったみたいです。
みんなにも味見用の小皿が行き渡ったところで、長門秘書艦は足柄さんのカレーをスプーンに掬って口の中に含む。その次の瞬間……
「うっわ、カラっ! 無理! これは無理だわ!」
「そ……そんな馬鹿な……!?」
言うほど辛くないよね、コレ。そりゃ、足柄さんも驚愕するわ。
とはいえ、長門秘書艦も本気でヤバいらしく、真っ赤な顔して脂汗を流している。
「いや、ほら……私、カラいの苦手だし」
「だったら何で審査員やってるんですかーーーーー!?」
頭を抱えてつい本音を叫んでしまった私は、長門秘書官からギロリと睨まれてしまった。
「それが、秘書艦の務めだからだッ!」
「あああああ! もう! 何でこの
世の中適材適所ってモンがあるでしょ! 横でスプーンをハンドパワーしそうな勢いで鼻から蒸気噴いてる野獣……じゃなくて赤城先輩に代行してもらえばいいのに!
一口食べただけで、足柄さんのカレーは皿ごと赤城先輩行きとなり、続いて暁ちゃんの審査の番に。私の前にも小皿が回されてきたけど……スパイスの香りは全くしない。ただひたすら甘く、香ばしく……。嫌な予感を過ぎらせながら一口啜ってみると……
「これ、チョコレートフォンデュだよ!」
甘くて美味しいけど、御飯には絶対合わないよ! というか、御飯じゃないよ、おやつだよ!
メニューの誤りを指摘された暁ちゃんは、何故か私より薄い胸を張っている。
「チョコレートさえあれば、雪山で遭難してもヘッチャラなんだから!」
どこまで往く気よ駆逐艦!
こんなの白いご飯に掛けても……って長門秘書艦、バクバクいってるぅー!?
「うむ、うむ……今回の優勝作は、暁のチョコレートフォンデュ・カレーとする!」
カレーって付ければ何でも許されると思ってません!? こんな偏った舌で一年間のメニュー決めちゃっていいの!?
この大会によって、週に一度のカレー曜日はチョコレート曜日になってしまった。辛いものが苦手な甘党の長門秘書官は、これまで本当に苦労していたみたい。肩から荷を下ろしたような優しい眼差しで、寸胴鍋ごと担ぎ上げてゴキュッゴキュッと飲み干していく赤城先輩を見守っている。……部屋の隅でぶっ倒れている提督を放置したまま!
「長門秘書艦! 早く作戦会議を始めましょう!」
年間レシピも決まったのだし、これ以上遊んでる時間はないよ! 私たち、この先提督なしで頑張っていくしかないんだから!!
大会用の二名には速やかに退室していただいたところで、改造を終えた夕立ちゃんも帰ってきた。それじゃ、今度こそ真面目に話し合いましょー!
赤城先輩も、口の周りをチョコレート色に染めながらも真剣な面持ちに戻ってくれている。食べるものを食べ終えたことで、ようやく落ち着いてくれたみたい。てか、カレーでもチョコでも何でもいいのね……。
「それでは、先ず私の随伴艦から決めたいと思うのだけど……」
えっ? そこから? そんなの改二になった夕立ちゃんに決まってるじゃない。主力空母を守る大切な役割なのだから。
疑いようもなく、そう考えていたのだけど……
「吹雪さんにお願いしたいと思います」
えええ!? 何で!? 改二の夕立ちゃんがいるのに、あえて
「わわわわっ……私じゃ無理ですよ!」
赤城先輩からの突然のムチャ振りに、吹雪ちゃんは慌てふためいている。そりゃそうよね。私だってビビるわ。
そんな彼女の肩を優しく抱きながら、赤城先輩は入ったばかりの後輩に激励を送っている。
「
そ……そっか。赤城先輩は吹雪ちゃんの何かを見出していたんだ。夕立ちゃんの改二にも匹敵する何かを……。
「……
いやいやいやいや! 頑張ってるって……そりゃ、吹雪ちゃんは頑張り屋さんだけど、それとこれとは違くない!? 演習じゃないんだよ!? 負けたら
「で……でも……私の所為で赤城先輩が
そ、そーだよね! 心配だよね! 実際……ほら、そこで戦死者(?)出たばかりだし!
くよくよと悩み続ける吹雪ちゃんを、何故か赤城先輩はしつこいくらいに勇気づけようとしている。
「大丈夫ですよ。この鎮守府で、戦闘中に
いやまあ、そうなんだけど……だからこそ提督の死が悼まれるよ! 戦闘中でも艦娘でもないけどさ。だからこそ、あんな死に方ってないでしょ!
「
ここでようやく長門秘書艦が止めに入ってくれた。
「実は……ここに提督が残してくれた作戦指示書がある」
何でそんな変なところで用意周到なの、うちの提督! 死と隣り合わせの職務ってゆってもさぁ、未然に防ぐ工夫もあるでしょ! 例えば、足下に気をつけるとか!
この残念な真実には私以外誰も気づいていないらしい。みんな、『そのノートがあれば何とかなりそう!』って目をキラキラさせている。
そんな眼差しを受けながら、長門秘書艦は一ページ目を捲り、提督の言葉を読み上げた。
「先ず……『吹雪を外してはならぬ』とのことだ」
「えぇっ!? 私!?」
吹雪ちゃんもビックリしてるけど、みんなもビックリだよ!
「どうして……どうして私なんです?」
この反応を見ると、どうやら吹雪ちゃん
「ふむふむ……『吹雪とチュッチュしてる夢を見たから』だそうだ」
「アホかーーーーー!?」
夢のお告げって! しかも戦闘関係ないし! そんなしょーもない理由で戦場に
こんなの誰も納得するはずが……って、何故か赤城先輩が誇らしげー!?
「ふふ……私の艦を見る目に間違いはありませんでしたね」
提督と女のコの趣味が一緒ってだけじゃん! そもそも目の付け所が間違ってますよ!
「いやんいやん、もー、提督ったら気が早いんだから♥♥♥」
吹雪ちゃん……その提督なんだけど、部屋の隅で死んでるから……。忘れてない? 大丈夫……?
衝撃的な一発目を除けば、そこから先はとても常識的な内容だった。ただ、これまでと少し事情が異なるのは……かつてない規模の一大決戦、ってこと。ここに呼ばれた艦どころか、この鎮守府だけでも二〇隻、他の鎮守府とも連携するからその倍にもなりそう。
「――以上だ。何か懸念のある者はいるか?」
私たちに異存はない。あとはこの作戦をみんなに通達するだけだ。
参画者を集めるために、長門秘書艦が場内放送のための音響に電源を入れる。そこに――
「お待ちください!」
まるで部屋の外に張り付いて私たちの話に聞き耳を立てていたかのようなタイミングで入ってきたのは……
「Oh! 霧島ー! どうしたのデース?」
金剛さんの妹さんだ。艦隊の頭脳と呼ばれたがっている彼女としては、今回の作戦に一言あるみたい。
開かれた扉の前でキリリと立ちポーズをキメていた霧島さんはスッ……と耳元に手を当てる。そして、ふわりと髪をなびかせながら――
「あ……あの霧島が……」
「眼鏡を外した……!?」
私も裸眼の霧島さんを見るのは初めてかも。だけど、周りの驚愕っぷりが半端じゃない。もしかして、あの眼鏡には重大な秘密が……?
「霧島さんが眼鏡を外すと……どうなるんです?」
緊迫した雰囲気の中、私はこっそりお姉さんに尋ねてみた。
「霧島が眼鏡を外すと……戦えなくなりマース!」
「ダメじゃないですか!!」
いや、ココで戦う必要はないんだけどさ。戦うどころか、二足歩行すら危うくなってるよ、艦隊の頭脳!
「ご心配なさらず! 例え視界はぼやけても、私の計算に狂いはありません!」
耳は良いようで、こちらに向けて健気にガッツポーズを見せてくれる。でも、目を3の字にして言われても……うぅ……一気に頼りなくなっちゃったなぁ……。
気丈な足つきで執務机に近づいていくけれど……計算を誤ったのか、ゴスンと前のめりに突っ込んでしまった。
「
馬鹿は
その目的もわからないまま、彼女はデスクを伝ってそのまま裏側へ。どうやら、壁際に設置されている音響機材の方に用があるみたい。目は見えてないはずなのに、迷いのない手つきでスライドレバーをスーっと上げた。そして……
「マイク、音量大丈夫ー? チェック! ……ワン、ツー……良し!」
満面のドヤ顔でグッと親指を立てる。
「何しに来たのーーーーー!?」
もしかして、マイクチェックしたかっただけ!?
『……しに来たのー……』
ちょっ……私の叫びも拾っちゃってるじゃん! わざわざ話の流れをぶった切った上に、明らかに音量ミスってない!? ちゃんと眼鏡掛けて確認しようよ!
「うむ……助かる」
『うむ……助かる』
ほらー! 絶対音量おかしいよ! 隣の霧島さんに言ったお礼も流れちゃってるじゃん! 全然良しじゃないよ! あーもう! 何かグダグダ! これから超重要な召集があるのにー!
それでも、長門秘書艦は意に介することなく本題に入ろうとしている。声は大きければ大きいほどいいと思ってそうだよ、この
『秘書艦の長門だ。これより、明日実施される重大作戦の
えっ!? ちょっと待って。艦娘をここに集めて伝えるんじゃなくて、全体放送で編成そのものを流しちゃうの?
長門秘書艦は主力となる第一艦隊からその護衛隊まで、懇切丁寧に鎮守府の外まで響き渡る大音量で編成を公表していく。どこで誰が聞いているか分かったもんじゃない、と思うと私は内心ビクビクだ。
その後も、作戦内容は詳細まで公にされてゆき、そして――
『なお、攻撃目標を敵に悟られぬよう、本隊以外は陽動部隊として別途方面へ『ええええええ!? ソレ、ココで言っちゃダメですよ!!』』
私のツッコミまで含めてガッツリ流れちゃった!
『睦月、私語は慎め。オンエア中だぞ』
『だって、さっき主力艦隊発表してるじゃないですか! それ以外は陽動だって敵にバレちゃいますよ!?』
敵に悟られちゃダメなことを大声で叫んでどーするんです!
『……ふぅ』
マイクを通じて全軍に向けて溜息を零した後、長門秘書艦は回線を切った。
「……睦月、これは敵を欺くための偽情報だ」
え? ニセモノ……?
「あ、そうだったんですか! 私ったら恥ずかしい……」
変なノリが続いてたから、つい本気だと思っちゃったよ。長門秘書艦がそんなアホなことするハズないもんね。別動部隊は陽動だって敵にも伝えたから、きっと相手は見せかけの本隊に集中して編成してくるハズ。その裏を掻いてこちらは陽動部隊に高火力艦を盛り込めば、本隊が敵を引きつけてる間にターゲットを撃破できますね!
「陽動作戦というのはフェイクでな。実際は敵本拠地に向けて全軍突入させることになるだろう」
「それニセ情報の意味ないですよ!?」
結局のところ本隊同士で大激突させてるだけじゃないですか! 作戦とゆーよりただのチカラ技スペシャルですよ、それ!
「さすが長門秘書艦っぽい! あとは、敵にこの情報をお持ち帰りいただくのを待つばかりっぽい……!」
持ち帰ってもらっても私たち全然有利にならないっぽいよ!? 改二様がワクワクしないで、悲しくなるから!
……アレ? 私は何か重大なことを見落としている気がする。この場内放送を敵に聞かれてる、ってことは、その範囲まで敵が来てるってことで……。
ドカンドカン、ボブンボブン、と外から物騒な物音が聞こえてくる。色んなモノが爆発したり崩れたりする……そんな感じの。まさかねー……と現実逃避していたのも束の間、ついに私たちの目にもはっきりと見えてしまった。窓の外に建っていた倉庫が崩れて、その向こう側が焼け野原になっているのが……!
「くっ……主力艦を執務室に集めている隙に……ッ!」
えええええええ!? ってもう何回ツッコんだか分かんないけどえええええええ!?
外にも艦娘いっぱいいたよね!? 見張りだって立ててたはずじゃないの? それを丸々オープンガードでダイレクト本土アタックもろ喰らいとか! 無防備宣言もいいところだよ、基地なのに!
「どうやっても運命には――」
「それはもういいですって!」
どんだけメンタル弱いんですか! 主力空母がそんなことでどうするんです! その上、提督は死んじゃうし秘書艦はヘッポコだし……! おしまいだ! この鎮守府はもうおしまいだよ!!
「お……落ち着いて! 睦月ちゃん!」
あまりのダメっぷりに取り乱してしまった私を、吹雪ちゃんが力いっぱい抱きしめる。
「痛いよ……吹雪ちゃん……」
吹雪ちゃんも切羽詰まってるのか、腕がやたらとフルパワー。ギリギリミシミシとサバ折られそうな勢いだ。
「痛い……っつーてんでしょーがあああああ!!」
私は逆に掴み返して吹雪ちゃんを脇の下から引っ張り上げると、そのまま
「Wow! Beautiful な Front Suplex デース! No count で Finish ネー!」
軍艦に肉弾戦なんてやらせないでよね! 相撲取ってる場合じゃないっての!
迫り来る鎮守府の危機を前にして、みんなの視線が一斉に長門秘書艦に集まる。
「くっ……こうなれば……」
ここは一発汚名返上をお願いしますよ、長門秘書艦……!
「明石を呼べェ! アイテム屋で資材を補充するのだ! そして、
「課金頼みーーーーー!?」
変なところで何でもアリだよ、この鎮守府! っつーか提督死んでんのに誰がポイント入金すんのよ! もーヤだ! こんな艦隊やってらんないよ! 移籍させて! どこでもいーからまともなトコに移らせてェェェェェ!!
「睦月! 敵前逃亡は士道不覚悟で切腹だぞ!」
いやぁ……そりゃあさ、先にボケたのはこっちだけど……このツッコミはちょいと厳しすぎやしませんかね!? あぁ、もう! こんなお笑い鎮守府はコリゴリだよーーー!!