コイツもてさせるとヤバい、どうしよう。
もうすぐ日本に旅立つという今日も、狙撃の練習は欠かさない。
長く使っている狙撃用の愛銃、レミントンM24。
初めて父から与えられたものをずっと使っている。特別だ。
今日は5発くらにしておこうと思い、係り員に弾を頼む。
用意してくれてる間に、申請書にサインする。
面倒だけど、必要な手続きだ。
射撃が伴う訓練の時は、全て確実に打ち切ったのを確認して、総員でボディチェックをする。
どこかの国の組織では訓練後に空薬莢を数えるという、病的な管理をしていると聞いたことがある。
ウチではそこまでやっていない、限度ってものがあると思う。
パトロールや警戒待機などの実戦扱いの任務では、射撃機会がなかった場合、支給全弾を耳を揃えて返却という形になっている。
以前、まだ管理があいまいだった時に喧嘩で死人が出たからだ。
ランソンやオマルが揃って落ち込みまくった。
フォローする父のほうが大変に見えたくらいだった。
弾を受け取って射撃訓練場に歩き出す。今日は風も少なくて静かだ、散歩がわりにちょうどいい。
歩いてると木陰でメーリムが昼寝をしていた。部下の女子兵二人が面倒をみているようだ、まったく。
ふと、カンナとオスロの顔が浮かぶ。
まぁこんなふうに時間の空いた時に「ちょっと訓練するから弾くれよ」って言えるのは、確かに特権のある立場なのかもしれない。
決闘騒ぎの後からこっち、あまり関係の改善はみられなかった。僕にも責任があることだけど。
カンナなんて、こちらは色々教えてるつもりでいても、険しい目つきで睨んで来る。
やれやれだ。
そんなことを考えながら、しばらく歩くと射撃訓練場に着いた。
休憩用に組まれた無骨なベンチと頑丈な屋根のある場所に行き、置いてあるインカムを取って着ける。
「お疲れ様、的手は誰かいるかい?」
まぁ誰かはいる事になってるので、台詞の前後が微妙になるのはいつもの事。
しかし、静かだな。僕一人か。周囲の人の気配もかなり薄い。
とりあえず銃の準備を始める。
「はぁい、兄さん。本日の的手は私一人です」
ラマノワだった。なんだろう嫌な予感がした。
「・・・他にも仕事があるだろうに」
「仕事に貴賎はありません」
インカムのむこうのラマノワが何故か笑顔の気がする。
「そうだけどね。まぁいい。とりあえず移動する丸的を3つ、距離500mで順番に出してくれ」
「了解!」
ラマノワの声はインカム越しによく通る。オペレータ向きだなといつも思う。
伏せ撃ち姿勢になって弾を込める。
「準備OK、タイミングはそちらに任せる」
「りょうかーい!」
と言ったラマノワの「い」のタイミングで1つ目がもう出た、ちょ、はやっ!
人が走ってるくらいのスピード、とにかく照準して撃つ。
任せた以上文句は言えない。
撃った瞬間に、次の弾を装弾し始める。
連続射撃には向かないのはわかってるんだけど。
弾を込め終わった瞬間に次が出る。
だからはやいって!ラマノワめ。
この分だと次もはやいと予測して、撃つタイミングをひと呼吸遅らせる。
その分の余裕を照準と次の弾込めにあてる。
狙って、撃って即弾込め。よし間に合ったはずだ、来い。
次の的が出る。民間人のマンターゲットだった。
一瞬撃ちそうなって、かろうじて踏みとどまり、その後に出た丸的を撃つ。
「ふー」
ため息が出た。ラマノワのやつ遊びやがって。
「さすがですね、お兄様。全部当たっていますわよ」
その呼び方はやめろ。色々と冗談が過ぎないか? 何をかんがえてるんだろう。
「言ってくれる。当たっただけだ、中心は外れてる」
そう、3つ全て当たってはいたが真ん中にいったものは一つも無かった。
「いえ、見事な腕前だと思います」
いきなり横から声をかけられた。あわてて飛び起きてそちらを見る。
小柄な女の子。
茶髪のショートボブ、カンナが立っていた。
さすがに集中して射撃していると、周囲への感覚は薄れる。
え? なんだ?
インカムからラマノワの声が聞こえる。
「そこから半径200mは無人にしておきました。検討を祈ります、兄さん」
少しカチンとくる。
「おいラマノワ、悪ふざけもいい加減にしてくれよ?」
「おふざけではありません。日本に行く前にやって頂く事はまだ残っています」
無茶というか理不尽なことを言う。
この数ヶ月、引継ぎのためにどれだけの仕事をしたか。
「これは姫様や総領のご意思でもあります」
ジブリールとジニもかんでる話か・・・そりゃダメだ回避出来ない。
ならば良し!何かわからないけど、腹をくくるか。
「ラマノワ、この会話を聞いているのはお前ひとりなんだな?」
「はい」
静かな返事が来る。
「私はこれ以降、口を出しません」
要するにカンナと話せというわけだ。
見ると、カンナは同じようにインカムを装着していた。
「で、なんだってんだ?カンナ」
開口一番。
「長兄、私と勝負して下さい」
倒れそうになった、またこれか。
(正直勘弁して欲しい)
そう思った。
そう感じて避けてきたことがたくさんあった。
でもなんかそれを思い出した瞬間に、今までのいろいろな事がさらに思い出された。
避けてきたことのツケかもしれない。
「わかった、そっちも銃を用意してるって事は射撃で勝負だな?」
口から出た言葉はそんなだった。
色々と考えて揉め事を回避してきた日々を思う。
今日は、そんなこんながめんどくさくなったんだ。
あまり考えずに受けて立ちたくなった、子供の考え方だとわかってるけど。
カンナは僕が素直に受けたことに、ちょっと驚いた表情。
こちらはこちらで、カンナの持ってる銃が気になった。
「あまり見ない銃を持ってるね、それは『フルート』だな」
正式名称はなんだっけな? ニキシンショージョ?
「わかるんですか?」
カンナの驚きの表情がもっと大きくなる。
「わかるさ、僕も狙撃手だ。でもそんな銃がウチにあったのか」
でもなんだろう、その銃は良く手入れされているものの、ひどくバランスを崩してるように見えた。
「倉庫の片隅に転がっていたんです」
あぁ斉藤さんが忘れてったヤツか・・・。
今は日本でも僕のと同じ銃を狙撃用に使ってるはずなんだけど、なんでこんなのを。
「まるで自分みたいだと思って、所有を申請しました」
「気に入ってるんだね」
僕と同じだ。
「いいえ全く」
また倒れそうになった。
「ひどく扱いづらい銃です。本当に自分みたいです。どれだけ整備して元に戻しても照準が定まらないことがあります」
彼女は自分の事が嫌いなのかな。
カンナが、すっと冷たい視線を送ってくる。
あなたとは違います・・・と、その視線が言っていた。
「長兄の銃は特別だと聞いています」
まぁ個人的にはそうだ。
「厳父に買い与えられた超高価なレミントンのOOTT。大量生産の中に生まれる奇跡の逸銃」
おいおいおいおい!まてまてまてまて!
普通のですってばよ!砂漠の中のバザールで売られていた纏め買いのやつだ!
だが、
こっちを睨んでくるカンナを見て、返す言葉に困った。
少し冷静になった。
「これはイヌワシに初めて買ってもらった、僕にとっての特別な銃だ。でも高価なものではない」
部隊にどれだけこのように変な話が広まっているんだろう。
言ってもカンナの目つきは変わらない。
説得は諦めた。
「で、どうする?」
もう勝負を進めることにした。
「不動標的1 、伏せ射撃2発、距離1000mで」
もとから反論は無い。弾さえ足りていれば他はどんな条件でも同じだ。
ただ問題がある。
「銃の狙撃性能はこちらのほうが上なんだけど、いいのか?」
「問題ありません」
そうか。
「観測手はどうする?」
その距離だと自分での弾着観測はあいまいになる。
「お互いでやりましょう。装備は持ってきています」
大胆なレギュレーションだと感じた。対戦相手の弾着をお互いが確認するのか。
どちらが・・・といいかけた瞬間、
「私が先手です、観測をお願いします」
観測用装備を投げてよこす。
やれやれ、まるっきり言いなりだ。
「私が勝ったら、日本に行くのは中止です。キャンプハキムに残ってもらいます」
「おいおいおいおい!まてまてまてまて!」
さすがに今度は口に出た。
「そこはその、話の流れ的に、『そのレミントンを貰います』とかじゃないのっ!?」
その言葉は不用意だった。なぜなら、レートが上がっただけだから。
「じゃぁそれも」
しれっと言われた。
なんだっていうんだ、どうしてこうなった。
「銃の性能が違うので、そのくらいのリターンはあって当たり前かと」
・・・なるほどね、甘かった。
僕が勝ったら?なんていう余地は元々無かったんだ。
最初から僕を引き止めるのが目的だったのか。
そうこうしているうちに、的が出る。
ラマノワも何を考えてるのやら。
「撃ちます」
カンナもう問答無用で射撃を始めるらしい。
こちらも職業病的に観測を始めてしまう。
タンっ タンっ
やはりカンナは見事な腕前だった。
この距離にして中央の周りに2発とも着弾していた。
こりゃ参った。どうしよう、謝っちゃおうかな、とか思う。
カンナは別の双眼鏡を出して、確認している。
確認が終わると結果に満足したのか、笑みを浮かべて誇らしげに言う。
「長兄の番です」
こちらを見てくる顔は、もう勝ったかかのように、少し嬉しげだ。
あーもう、こんな状況でまともな狙撃なんて出来るんだろうか?
いや、どんな状況だって命令があれば冷静にやる。
狙撃手には常にそれが求められているはずだ。
今は命令じゃないけど。
とにかく伏せ撃ち体制に入った。的が出る。
スコープを覗くと、いつもより的が大きくハッキリ見える気がする。
はて、なんだこれ?
あぁあれか、たまーにあるあれ。
風や湿度などの外的要因や自分のコンディションなど関係なく「当たる」ってわかる『感覚』。
ここでかぁ。とりあえずこういう時はあまり考えずに行動する。すなわち即、撃つ。
タンっ
手応えがあった。多分ど真ん中に当たっているだろう。
スコープを覗いたまま、弾を込め直す。この状態を維持したい。
的を見直すとやはり中心部に当たっていた。アドバンテージはとったな。
・・・が、あの「当たる」感覚は遠のいていた。
欲が出たからだろうか。これだからこの『感覚』てのは始末が悪い。
一度スコープから目を離し、裸眼で的を見てから、スコープを覗きなおす。
苦し紛れの行動も、まったく意味が無かった。
うん、やっぱりまともに当たる気がしない。
これをはずしたら、日本に行けなくなるんだろうか?
サキになんて言われるだろう。
『イブンの嘘つき』
すねた顔でそう言うだろうな。
『どれだけ待ったと思ってるんですか?』
サキが僕のことを「さん」抜きで呼ぶようになったのはいつからだっただろう?
どうでもいいような事ばかりが頭をよぎる。
『でも仕方ないです。たまには遊びに来てくださいね。きっとですよ?』
なんとなく、そう言って笑って許してくれそうだ。
クスッ。
なんかおかしくなって笑ってしまった。
こんな状況で撃ったらどうなるんだろう?なんて考えたら、つい撃ってしまった。
タンっ
弾がどうなったかまったくわからない、初めての感覚だった。
訓練で良かった。実戦でこんなことになったら大変だ。この状況はしっかり覚えておく。
スコープから目を離し、立ち上がって脇のカンナを見る。まだ双眼鏡を覗いていた。
僕も予備の双眼鏡で的を見る・・・初弾の的中の穴しかあいていなかった。
やっぱね、はずれたか。潔く言う。
「はずれちゃったか、勝負はそっちの勝ちだな」
カンナもこちらを見てくる。というかにらんでくる。
「長兄・・・勝負はあなたの勝ちです」
「なんだ譲ってくれるのか?」
泣きそうな顔になっている、様子がおかしかった。
「どうしてあなたはそうなんですか!?」
何を言い出したのかわからない。
「なんでここを出て行くなんて言うんですか!?あなたがいれば厳父の部隊は最強です!」
そりゃみんなが巣立っていくのが父の願いだから。
今は僕も行きたいとこがあるからってのもあるけど。
ハサンが出て行くって聞いたときの僕もこんなだったんだろうか。
下を向いたままカンナが言う。
「以前からたまに食料調達の任務に出ています」
唐突に話題が飛ぶ。
うん、やってるな。
農業的な職業訓練の一環でもある。
これで、向き不向きもわかる。
「近くの村に行って、同僚と一緒に朝から晩まで泥だらけになって芋とか掘って、」
うん、そうだな。きつい仕事かも。でもまぁ対価として野菜とかくれるし、周辺の村への受けも良い。
「夕食とかは村の人々が振舞ってくれて、部隊のみんなで笑いながら食べて・・・ここはもう楽園も同然なのに!」
え?そっち?
カンナはもう本当に泣き出していた。
「私の村では『食料調達』って言ったら人を殺して食料を奪うことです!」
この子、どこの国の出身だったかな・・・。
「なんで?どうして?私もここを出て行かなきゃならないんですか?私はここに居たいのに!」
泣きながらこちらを見てくる。
僕は何度、自分のいたらなさを痛感するんだろうか。
でもそれなら・・・さ。
「ここはいつか去る子供達の国だ」
そう言ってカンナの頭に手を置いてなでる。
「でも残る者も必ずいると僕は思う」
「えっ?」
ちょっと前から思っていた事が、口から出る。
驚いた泣き顔でこちらを見る。
「カンナも好きなように選択していいんだってこと。好きならずっとここにいてもいいんだ」
笑顔を返す。うまく伝わるだろうか。
「僕もずっとここにいてイヌワシを補佐したい・・・そういう気持ちも実際はある」
いつの間にかカンナは僕の胸に抱きつき、シャツで涙を拭いていた。
「じゃあ、なんで出て行くんですか!?」
そうだったな。
「約束を守るため。そして新しい地で学んだことを、更なるイヌワシのまもりにするため」
僕の声は届いているだろうか。頭はなでてあげる。
「長兄は・・・何故こんなに優しいんですか?」
僕はこれが普通なんだけど。
カンナとこんなにも隔たりがあったかと痛感する。
何を言ってあげたらいいかわからない。
そして思い出す。守れなかった妹のこと。
「妹がいたんだ、生きていればカンナと同じくらいだった」
ラマノワがこちらに歩いてくるのが見える。
カンナと話す時間はあとわずかのようだ。
「妹も弟も亡くした。もうそうならないよう皆に訓練で厳しくしすぎたかもしれない、すまない」
もっともっと、訓練なんかより、仕事の指導なんかより、みんなと話をするべきだったのかも。
もう近くにラマノワが来ていた。
「兄さん、女の子を泣かすと呪われますよ」
上から目線の笑顔でにらまれる。
しかけておいてこれだ。
「メーリムが昼寝してたぞ、半径200mとか言ってたが確認が甘いんじゃないか?」
カンナの頭を撫でながら言う。
「もう一人、入り込んでるぞ」
えっ?と言ってラマノワの笑顔が引きつる。
「カンナ、僕の銃をあげるよ。そっちの銃と交換だ」
えっでも、とか言ってるカンナを無視してフルートを拾う。
「これからは僕の銃を使え。これからはお前が最高の狙撃手になるんだ。気合を入れろよ」
もう一度頭をなでる。
「はい、頑張ります」
意外と嫌がってない様子だ。
「私、頑張りますから、長兄・・・また会えますか?」
泣きながらそう言う。
「もちろんだ。それまでイヌワシを頼むよ」
そう言ってカンナをラマノワに任せる。
それにしてもこの銃、見たときに思ったけど、手に持つとハッキリと感じる。
中国との戦闘の時に斉藤さんが乱暴に扱ったのだろうか。
銃身がゆがんでないかこれ?
いくら整備してもこれはダメだ、まだ使うなら徹底的にレストアする必要がある。
だが今は別の事が優先だ。
特に敵対的な雰囲気も感じないが、もう一人入り込んだヤツが気になる。
今回もアレでアレです。
突っ込みの多そうなトコだけ下記に解説しときますー。
フルート:某ラノベのネタです。多分「二式小銃」
あまり狙撃向きではないと思われ。
OOTT:某漫画のネタです。「One of the Thousand」
家電とかPCでも、当たり外れはありますしね。
逸銃:造語
その他の言い訳は、活動報告で。