マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

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少し進めたいと思います。

何をって?そりゃ・・・


淡いオレンジジュース

イスラムの兄弟の食堂はちょっとした試験場にもなっている。

 

父が調達してきた食材をここで調理してもらって、みんなに提供するんだ。

 

評判が良ければ大食堂でも出す。全部がそうじゃないけど、ここもテストに使われていた。

 

そして今回の食後に出た試験品はまた変わった品だった。

 

三角形のパックに入った、オレンジジュース?ストローが付いてる。

 

100%て書いてある。何が100%なんだろう。

 

みんなどうしていいかわからなくて、くるくるひっくりかえしている。

 

予想通りというか、みんなの期待を背負ってジニがストローをさしにかかる。

 

短いストローを伸ばして長くして、プチっと成型。これだけでおぉーと歓声があがる。

 

初めて見てよくわかるなこんなの。

 

視線を集めながらのジニ。

 

さす、すう、味わって、、のむ。

 

「オイシーィ!」

 

ウィンクして笑顔を作り、親指を立てている。そして何故か日本語。

 

みんな見よう見まねで始める。うんまぁいつも通りだ。

 

ジニがイヌワシ提供の新製品を宣伝しないわけが無いんだった。

 

そんななか手を付けない二人がいる。いや僕を含めると三人か。

 

ジブリール。パックを見つめて考え込んでいる。

 

多分このオレンジジュースをイヌワシと共有したいとかなんとか考えてるのだろう。

 

目つきが怪しくなっている。間違っても目を合わしたり、近付いてはいけない。

 

もうひとりはアブド。あれはあれか、交換目的。せわしなく周囲をうかがっている。

 

みんなの手元にバナナが残っていないか探っているんだろう。

 

今日の食事にはバナナが付いていた。僕はバナナを残しておいてある。

 

なんとなくわかったので、アブドに交換を持ちかける。

 

満面の笑みを浮かべて即答だった。安売りしすぎたかもしれない。まぁいい。

 

僕はふたつの三角形を手に入れた。

 

みんな食べ物には好みがあり、それがわかってるから何かの時のために隠し持っている。

 

僕は自分から頼むことはほとんど無いけど、交換を頼まれたらチョコバーを要求していた。

 

野外でのカロリー供給としての人気商品だ。

 

日持ちがして、栄養価が高く、そこそこおいしい。

 

特に欲しいものが無いから、頼まれたら断らない代わりに、それを要求していた。

 

そして何かの訓練の時に、密林の奥でそのとき配属された兄弟に配っていた。

 

条件はその場で食べること。どうせ一人では食べきれないし。

 

 

今日はこの三角形のオレンジジュースで名案を思いついた。

 

今度の日本語の勉強の後に、サキを誘って一緒に飲もうと。

 

 

語学の授業は数多くある。イヌワシが進めてる勉学の大きな一角だ。

 

英語、北京語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、ポルトガル語、そして日本語。

 

イヌワシは日本語は要らないと言って教師を招かなかったが、ホリーさんが説得して始めた。

 

まぁ英語が話せない人はまず英語からとなる。

 

そんな状況で、週2回日本語の授業があるので、希望者は事前に申請して参加となる。

 

実際は、申請した人意外も来てしまっていてごったがえすんだけど。

 

また訓練やパトロール、作戦などが重なった場合はアウト。任務が優先だ。

 

僕の場合、語学の授業は真剣に受けている。実用性が高いからだ。

 

でも社会情勢、歴史、化学は必要性が全然わからない。地理と物理はまぁわかるかなって感じ。

 

そして日本語の授業。

 

ホリーさんの教え方は上手くて人気が高い。

 

参加者は圧倒的に男が多いから、人気が高いのは別の理由からかもしれない。

 

ホリーさんは、授業の終わりが近くなると日本語のスラングや流行とかを少し教えてくれる。

 

先週教えて貰ったのは「轟沈」。

 

今日教えて貰ったのは、

 

「カワイイ」「パネーッス」

 

いくら説明されても使い方がよくわからなかった。

 

 

授業が終わり、サキに声をかける。

 

サキの席の周りには二人ほど友達がいて雑談をしていたが、近づくと僕にお辞儀して、じゃあねとサキに言って、急ぎ足に去っていった。部屋を出たあとで楽しそうな笑い声が聞こえた。

 

お邪魔しちゃったかなと言うと、そんなことないですよと言いサキは帰り支度を始める。

 

そのあと、どう声をかけていいか迷って、

 

「サキは勉強熱心だね」

 

結局こんなだった。

 

「イブンさんも日本語の授業だけは熱心です」

 

にこやかにそんな返事が帰ってくる。とてもかわいい。ぱねーっす。なるほど、こうかな。

 

そして悩む。ほんとに誘っていいものだろうか。

 

サキは帰り支度を終えて、席を立った。こちらを見て微笑んでいる。

 

意を決して言う。

 

「オレンジジュースが手に入ったんだけど、一緒に飲まないか?」

 

「はい」

 

ちょっと顔を赤らめながらこっちを見て、即答だった。

 

嬉しそうに微笑んでる。

 

僕は轟沈した。

 

 

その後どうやって今の場所に移動して二人で座っているかわからない。

 

なんか色々自分でも意味不明な事を言いつつだったかんじ。

 

困った顔のサキと歩いたことは覚えてる。

 

この時間はイスラムの食堂には誰もいないので、そこに案内した。

 

 

誰もいなかったので、適当な席に座る。

 

「ここに来るのは初めてです。少し緊張します」

 

「そうか。最近はグウェンとかイスラムじゃないヤツも来ているけどなぁ」

 

あまり気にせず返す。サキは困った顔でここは特別なんですよとか言っていた。

 

忘れていた、オレンジジュースを出す。

 

見ただけでサキの目が丸くなる。

 

「三角形ですね・・・」

 

「うん」

 

タイに行ったときコンビニ袋に飲料を入れてストローで吸うのにも驚いたけど、これも逆方向にすごいと思う。

 

「戦闘用糧食の試食のようなものでしょうか?」

 

さらに顔が難しくなってる。

 

「えっとね、日本で提供されているキューショクなんだって。今回は生産過剰分を提供して貰ったらしい。」

 

「キューショク?ってなんですか?」

 

「一部の学校で昼飯として提供される食べ物・・・だったかな」

 

「何故ここまで完全なパックにする必要があるんでしょう?」

 

「僕もそう思う。まぁとりあえず飲んでみようよ」

 

そういってジニ直伝の技でストローを整形し、さす、吸う、飲む。

 

「うん、おいしい」

 

自然に笑顔がもれるおいしさだ。

 

日本はすごい。

 

サキも同じようにして、飲み始めた。

 

「おいしいです」

 

サキの笑顔はいつ見ても嬉しい。

 

それからはいろいろなことを話す。

 

部隊のこと、訓練のこと、作戦のこと、友人のこと、勉強のこと、父のこと、、、これからのこと。

 

僕はサキと色々な話をするだけで楽しかった。

 

だけど何故かサキの表情が暗くなってくる。

 

「わたし、絵の学校に行きたいんです。トリさんもいいよって言ってくれてます」

 

以前からそういっていたと思う。

 

「うん、サキは絵が上手だ。それはいい考えだと思う」

 

同意する。

 

「やっぱりイブンさんは強いですね」

 

そうかな。どういう意味だろう。いやそんなことを考えてる場合じゃない。

 

そろそろ自由時間が終わる。言いたいことが言えてない。チラッと時計を見る、あと数分だ。

 

サキに求婚しないと。

 

まだ財産が無いけどどうしたらいいんだろう。いや言い訳か?

 

気ばかりあせる。心臓の音がやけにうるさい。

 

無理だった。

 

タイムオーバー。

 

敗戦指揮官の気分だった。

 

 

「そろそろ帰る時間だろう、送るよ」

 

ちょっと悲しそうな、ほっとしたようなサキの顔を見る。

 

「明日はパトロールなんです」

 

唐突に言う。

 

「出る前に、またちょっとだけ会いに行ってもいいですか?」

 

なんだろう嬉しい。

 

「もちろんさ」

 

この前みたいに、グウェンが一緒なのは遠慮したいけど。

 

次の日に何かあるっていうのは、活力のもとだ。そう思う。

 

 

そしてしばらく歩いて思う。もっと話したいことがあったはずなのに。

 

「イブンさん、聞いてもいいですか」

 

直後に聞かれる。

 

「うん。なに?」

 

サキはうつむきながら話している。

 

「何度かこうやってお話に誘って貰って、」

 

しまったやはり求婚が遅かったか。

 

「帰ろうというと、門限がジャストなのが凄いなって思って」

 

話が突拍子もないところに行って、一瞬思考が止まる。

 

「あぁうん時計があるから。

 

反射的に言ってしまった。

 

「イブンさん時計を持ってるんですね。」

 

「うん懐中時計。実戦はイルミネータがあるから持って行かない。というか持ってるのは秘密なんだ」

 

そういうとサキは笑った。

 

「はい、わかりました。誰にも言いません。タオル事件もありましたしね。」

 

「タオル事件て、キャンプで頭にタオルを巻くのが流行ったときのこと?」

 

そういや僕もまいたな。本当はターバンを巻きたかったけど無かったんだ。

 

「そうです。」

 

そうだった。あのときは帽子やタオルとかファッションとか私物はどこまでオッケーなんだろうって議論になったんだ。

 

「うん、そうだねサキ。兵士として私物が多いのは良くない。僕はこれだけにしている。」

 

嘘は良くないな。他のも話しておこう。

 

「あとは多少のチョコバー」

 

あさって方向を向いて白状する。サキの笑い声が聞こえる。

 

「タオルの時はラスルにだいぶ説教をされた。」

 

「でもそれはラスルさんががイブンさんを慕ってるからだと思いますよ」

 

そう笑顔で言われると何も言い返せない。

 

しばらく歩いて女子寮の門に近づく。

 

すみません、イブンさんここでとサキが言う。ちょっと残念。

 

あまり近くまで送ると色々面倒なのだそうな。

 

ちょっと困った笑顔でこちらを見ている。

 

「オレンジジュースおいしかったです。ありがとうございました」

 

引き止める間もなく、走っていってしまった。

 

まぁいいか、明日もまた会える。

 

 

【タオル事件・サキの想い】

 

今日、イブンさんに三角形のオレンジジュースをごちそうしてもらいました。

 

色々話をしました。とても楽しい時間でした。

 

そして。

 

イブンさんが心配になりました。

 

タオルが流行った理由をまったくわかっていないようでした。

 

 

それが流行る前。

 

イブンさんとアブドさんがタオルを持って何か話していました。

 

イブンさんが頭に巻いて、アブドさんが指差して笑っていました。

 

とても楽しそうでした。

 

私がとおりかかって、お似合いですねとかかっこいいですねとかの言葉を言って早々に立ち去っ

た事を覚えています。

 

その日からイブンさんがタオルを巻きはじめ、その後一瞬にしてキャンプにタオルが流行りました。

 

出張から帰ってきたトリさんが「・・・え?」ていう状態だったらしいです。

 

 

あの人は自分の影響力をどう考えてるんだろうと思ってしまいます。

 

部隊で一番の狙撃の腕を持ち、戦闘中に発揮するリーダーシップは兄弟たちの士気の基盤です。

 

作戦中にトリさんの指示に対して助言してたこともありました。

 

『厳父を護る若きイヌワシ。みんなの憧れ、長兄イブン』

 

私たちのそんな想いに、いつか気付いてくれるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テトラパックは過去、実際に給食に使われていました。現在は不明。

以下設定。

・アラタたちはどこかには出資者がいる。
・新規事業開拓中。暗中模索。五里夢中。


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