マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

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書いていたら、長くなりそうだったので中編で投下です。

中途半端ですみません。


雨とジャングルとイブン・中編

サキがなんだって?ラスルの言う言葉の意味がよくわからなかった。

 

「ランソンだ。指示を救助に変更する。救助対象はケルン、サキ、アブドの3名。」

 

イルミネータから指示が聞こえた。

 

瞬間に、クロエの用意していたジムニーに乗り込む。

 

そして理解する。ラスルから告げられたことが事実だと、そう理解する。

 

「クロエ出せ!」

 

「はい!」

 

以心伝心でジムニーを発進させてくれる。

 

「とりあえずの方向は当初のパトロール地域だ」

 

タイヤが音を上げて急発進する。

 

しかしすぐにそれが無謀だとわかる。

 

格納庫から出た瞬間、もう地面がぬかるんでいて、まともにスピードなど出せない。

 

「OMは発進中止。J1からJ10に再編成する、各車2名。操手は現場の判断を優先。」

 

冷静な声で、ランソンの指示が出る。

 

練習用に支給されているタブレットを確認すると自分達の車にJ1のナンバーが割り振られていた。

 

「ラスル出ます!」

 

少し遅れて格納庫からJ2のユニットがポップして動き始める。J2がラスルか。

 

その後、続々とJ3以降が発進してくる。

 

「クロエ、とりあえず北だ。そのままの進路でいい。少しスピードを落とそう、ぬかるみにハマる」

 

後続は左右に広がりながら、ついてくる。

 

雨はまだひどく降っていて、夜間装備など使いようが無い。

 

敵がいるかどうかもわからないけど、ライトをつけるしかなかった。

 

「残りのジムニーはバックアップに当てる、各車2名だ。オマル編成を頼む、揃ってから報告を」

 

「イエス・サー」

 

オマルはランソンに返事をするとき、いつも堅苦しい。

 

そして別回線で志願者を募ったのだろう、タブレットにどんどん兄弟達が参加してくる。

 

こちらはこちらで時速20kmも出せない状況がもどかしい、いけない、冷静にならないと。

 

と、イルミネータに進路修正の指示が出る。

 

これは・・・北西だって?そこはまだ手を出さない地域のはずだ。

 

よりにもよってそんな方向に行ったのか?

 

「ランソンだ。帰還した者達からの情報を精査すると、その方面しか考えられない」

 

なるほど、と思う。そしてこの短い時間でこの判断、さすがだと思う。

 

「報告!J8擱座しました!」

 

ぬかるみにハマったか。

 

「了解J8、車両はライトを点灯したまま放置し、徒歩での捜索に切り替えろ。エンジンは切ること。コードはS8に変更する」

 

タブレットにはJ8とS8がスタックしたマークが改めて表示された。

 

「了解。S8行動開始します」

 

この豪雨の中、車両を捨てて行動する兄弟は気の毒だが仕方ない。

 

「以降、擱座したチームは同じようにすること。なおJ各車の移動速度は上限20kmとする」

 

ランソンももどかしそうだ。早く進めたいが、そうするとぬかるみにハマるチームも増えるだろう。

 

ライトなんてつけても、まともに地面は見えない。クロエのかんに頼るしかない。

 

「オマルです。バックアップ18台揃いました」

 

格納庫のほぼ全部だな。調子の悪い2台は省いたか。

 

「宜しい。B1からB18とする、各車発進、スピード上限は15kmだ、足並みを揃えろ。Jに追つこうと思うな、堅実に行け」

 

「B1ラマノワです!了解しました、J1に追いつきます!」

 

・・・え?

 

「B2マブズナ!B1をサポートします!」

 

あぁこの感じ、ちょっと昔を思い出す。

 

指揮所ではランソンが遠い目をしているんだろうなぁと思う。

 

「ランソンだ・・・オマル、別の格納庫も起こしてくれ。バックアップのバックアップが必要になりそうだ」

 

B1とB2の指揮はあきらめたらしい。果断だ。

 

「イ、イエス・サー・・・」

 

オマルも忙しそうだ。

 

ともあれB3からB18は横一線とは行かないまでも横並びになってこちらに移動を開始してきていた。

 

こんな山奥ではガソリンも貴重品だが、出し惜しみしないランソンの心意気が嬉しい。

 

そうこうしてるうちに、すぐ斜め後ろを走っていた車両が大きく揺れて止まる。

 

タブレットを見ると、Jはもう半数以上が擱座していた。

 

かろうじてラスルのJ2はまだついて来ている。

 

まだアブドたちの情報は無い。本当にこちらであってるのだろうか。

 

少ない情報で決め付けすぎてはいないか?

 

自分でも情報を洗いなおそうとしてみる。

 

帰ってきた隊員の顔を思い浮かべる。

 

D1とD2の隊員たちから帰ってきていたように思う。アブド中心の指揮小隊の伝令2名も帰ってきていた。アンナとモーリス。

 

通常、D1とD2は指揮小隊の左右に配置され、数字が大きくなるにつれて外側に配置されるものだ。

 

そして戦火を交えていない場合の撤収命令の基本は、伝令隊員が待機命令を伝えながら両端の小隊まで行き、そこから戻りながら改めて撤収の命令を伝える。

 

伝令が指揮小隊に戻って、部隊に欠員がいないことと撤収命令が行き渡ったことを確認してから、D1、D2と共に撤収を開始する。

 

つまりあれだ、、、アブドのやつ手抜きしたな。

 

通常の手順を踏んだなら、帰ってくる順序はD9とD10からのはずだ。

 

ランソンは即座にそれを見抜いたのか。

 

やはりさすがだ。

 

そう思った瞬間に前方で何かが光った。

 

「J1イブン!前方で何か光りました!」

 

そう言いながらイルミネータに入力する。

 

「クロエ、あっちだ。」

 

「了解!」

 

と答えた直後、車が大きく前のめりになって止まった。

 

大きな水溜りにハマったようだ。

 

「すみません、イブン」

 

タブレットを見ると、Jで稼動しているものは既に無く、みんな徒歩となっていた。

 

ラスルのJ2が頼りだったが、横を見ると同じように擱座していた。

 

いいから行くぞ、と言って即座に外に出る。雨天及び夜間装備はバッチリだ。

 

情報は欲しいけど、さすがにタブレットは置いてくる。

 

外に出る。わかっていたけどとんでもない豪雨だった。

 

とにかく全前進を始める。

 

木々が風を防いでくれてる分マシなのだろうか?

 

呼吸さえも微妙に苦しい気がする雨だった。

 

地面もひどいもんだ、段差は滝のようで、深い水溜りがあちこちにあり、足場を確保するのにも苦労する。

 

なかなか目標に対してまっすぐ向かえない。

 

でもしばらく歩いてようやく自信が持てた。白いポンチョが一人、LEDライトを振っていた。

 

「S1イブン、1名確認」

 

静かに報告して、ナイフだけ用意する。

 

「ランソンだ。敵性対象では無いと判断、接触を許可する。S2はバックアップに入れ」

 

「S2ラスル、了解」

 

白いポンチョは正規装備には無い。基本は緑だ。

 

油断は出来ない・・・がLEDライトってことはうちの部隊だろう。

 

うん、あれはケルンだ。

 

「ケルン大丈夫かー!?」

 

脅かさないように、遠めから大声で呼びかける。

 

「ここだー、俺は大丈夫だ!でも早く来てくれ!」

 

返事を聞いてクロエと目をあわす、最速で向かうことにする。

 

バックアップもある、ラスルなら安心だ。

 

木にもたれかかっているケルンに近づく。

 

「ケルン大丈夫か?」

 

だいぶ憔悴しているようだった。表情も暗い。

 

「イブンさんっ!?」

 

僕の顔を見て驚いた声を出す。泣きそうな表情だ。

 

でもそれに耐えてケルンは状況報告を始める。

 

「この先に川があります、アブド隊長が川に落ちそうになったところをサキが止めようとしたんですが・・・・足場が悪く、もろとも流されました」

 

報告は想像以上にシビアなものだった。

 

しかしバカな・・・どう地図を見たってこんな所に川なんかあるもんか。

 

とにかくケルンの情報が欲しい。

 

「ケルンは俺に任せろ」

 

いつの間にかラスルが追いついてきていた。

 

「S2ラスルです、ケルンを確保しました、バックアップを回してください」

 

「B6が一番近いな、S2と合流しろ。B5とB7はB6に随伴だ。B5,6,7はこれ以降、擱座は認められない、制限時速10kmとする」

 

状況が進んだせいかランソンの指示が細かくなってくる。

 

ケルンをラスルに任せて、クロエと二人また歩き出す。

 

川だって?この雨の中、川に流されたら、、、。

 

絶望的になってくる。足が速くなる。

 

いやそもそも川なんて無いだろう。

 

歩く、歩く、歩く。

 

果たして、川は、あった。

 

「S1イブンです・・・川に出ました。川幅は2メートルもありません」

 

ランソンが「ふーっ」とため息をついた。

 

「ではそれは川ではない・・・塹壕だ」

 

この雨で塹壕が川になったのか。

 

なるほど、アブドは中国軍の掘った塹壕にやられたわけだ。

 

だけどわからない。

 

「ランソン、塹壕というのは防衛陣地のはずでしょう?攻め側の中国軍がなぜっ!」

 

「今それは重要な話ではないが・・・まぁあの戦いの後、追撃が無いなんて思わなかったのだろう、中国軍としては」

 

思い出した。

 

あの戦いの終わりに、僕がグウェンに言ったんだ。

 

そんなに戦争がしたいのかと。

 

そして逃げる軍隊が自分達の塹壕を埋めていく、なんてことあるわけがなかったんだ。

 




言い訳祭り。

荒天でイリジウム携帯に支障が出るかは検証していません。

雨で暗視装備が機能するかどうかは検証していません。

自動車が泥にハマることを「擱座」と表現するのが正しいかは確認していません。

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