書き殴り短編倉庫   作:餓龍

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あけましておめでとうございます。
本年度もまた、よろしくお願いいたします。


7 牢

  k月 @日 曇り時々雨

 

 衛兵詰め所の牢屋ナウ。

 

 とまぁ、やりすぎて厳重注意されますた。

 クリスにも怒られたし、エリス様はこのようなことは求めておられないと説教もされてしまった。

 次からは拘束するだけで、後は衛兵と法に任せようと思う。

 

 それにしても、取り調べに使われた嘘発見の魔導具はすごいね。

 質問には全て正直に答えてたんだけど、自分でも意識しないうちに嘘になってしまっていた答えにも反応するんだね。

 おかげで自分の本当の気持ちにも気づけたし、精神状態も把握できた。

 これで衝動的に何かをやらかす可能性もだいぶ下がったと思う。

 またエリス様のお役に立つためには、ご迷惑をかけないようにするにはまだまだ精進が足りない。

 頑張っていこうと思う。

 

 

  k月 ;日 晴れ時々曇り

 

 げせぬ。

 

 なんとアクセルの街の街壁付近に自分の家を建てる土地をいただいたのはいいのだが、ギルド周辺および中央市街への接近禁止令である。

 なんでも最近外から来るアクシズ教徒の数が増えているらしく、挙げ句の果てには邪神アクアを名乗る輩まで現れたそうな。

 今回の失敗を鑑みて、それらと自分の遭遇確率を下げて騒動を未然に防ぐ目的があるらしい。

 自分でも絶対に騒動を起こさないという自信はないのでべつにかまわないのだが、クリスに申し訳なさそうにされるととんでもない罪悪感ががが。

 人でなしどもが畜生にも劣る分際で人であれと祝福を受けた俺を殺す絶対にころしてやる許すまじ。

 

 おちついた。

 

 この程度で我を忘れかけるとはやはりまだまだ精進が足りないようだ。

 明日は今日手に入れた資材でとりあえず豆腐な自宅を建てて、地下に資材倉庫を造って、街壁内側に資材運搬用の『トロッコ』を走らせる計画を立てねば。

 大親方にもどやされてしまったし、何人か作業員もつけてもらえるらしい。

 やらかしたのに重要な仕事を任せてもらえるとは思わなかった。

 こんなにも期待されているのだ、全力で答えなければね。

 

 

 

 

 

「どうでしたか? 彼の様子は」

「だいぶ落ち着いたみたい。 でも、また何かのきっかけで平静を失ってしまったら今度はどうなっちゃうのか……」

 

 

 冒険者ギルドの建物内の一室。

 その場に集う彼等は最悪の光景を思い描き、憂鬱なため息をついた。

 

 

「……とりあえず、警邏隊は王都の本部へ彼のような前例がなかったか問い合わせいたします。

 勇者候補と呼ばれる彼等が過ぎた力を与えられた一般人であるのなら、何らかの問題を起こしている可能性は高い。

 女神アクアを名乗る悪魔の所行、という可能性もあります。

 少なくともアクシズ教に強い恨みを持つ者である可能性は高い。 アクシズ教がかかわる事件となると膨大な量になるでしょうが」

「ギルドとしても、冒険者の中に該当する者がどれだけいるか調査いたします。

 精神の成熟度に不釣り合いな成果をだしている冒険者というのは割と聞く話でしたが、このような事情がある可能性があったとは。

 クリスさん、彼について引き続きお願いできますか?」

「うん。 それについてはかまわないというか、こっちからお願いしたいことだったけど。

 でも、流石に付きっきりってわけにもいかないし、そのときは申し訳ないんだけど……」

「おうおう、奴も一端の大人の男だ。 そう心配することもあるめぇよ。

 どっちにしろ奴の腕には期待してんだ、うちのにも気をかけるようにいっといてやらぁ」

「大親方さんよろしくお願いしますね。 それでは早速ですが明日から彼に依頼する街壁の拡張工事について何ですが……」

 

 

 他の者達が彼に依頼する工事について打ち合わせを始める中、クリスはテーブルの上に置かれていた彼の調書を拾い上げて流し読み。 小さく息を吐いた。

 

 

「(転生者についてここまで詳細に開示されるのは流石にやばいよねぇ。

  でもこれまでの転生者達は無意味に世界を騒がせるだけで、魔王討伐までにはいかなかったし、うまくいけば世界もいい方向に向かうかもしれない。

  なん、だけ、ど、ねぇ……)」

 

 

 そこに書かれているのは、転生者についてとそれをこの世界に送り込んでいる女神アクアについて。

 そして彼の壊れた狂気、その片鱗だった。

 

 

 

 

 

 Q もう一度先ほどのを、纏めてお願いします。

 

 A はい。 私はこの世界で女神アクアと呼称される邪神によりこの世界にてもう一度生を与えられた、別世界の死者です。

   戦いを知らず。 平和に暮らしていた子供の死者へ、別世界での今一度の生と強力な力を与えてこの世界へと送り込んでいると自称していました。

   私は予定外の存在であり、よい贄だったのでしょう。 アレは私に死ねず、なにもできず、モンスターを引き寄せる力を与えた上でモンスターの蔓延る森へと落としました。

   私はモンスターの集団に数え切れぬほど殺され、喰われ続けた。

   女神エリスに救われなければ、私は今でも殺され続けていたでしょう。

   私は女神エリスに『人であれ』と祝福を受け、人になることを許されました。

   故にアレに人ではなくされた私は、人になろうと努力し続けています。

   それこそが唯一、女神エリスに救われた私にできることですから。

   (嘘ではない)

 

 Q 女神アクアにもう一度出会えたらどうしますか?

 

 A 殺します。 人でなしにはなれませんし、なりたくありませんから。

   (嘘ではない)

 

 Q 人でなし、ですか?

 

 A はい。 人の生を嘲笑し、意志を愚弄し、破滅させ、絶望を冷笑する顔の無い邪神を肯定するのは人間の所行ではありませんから。

   殺します。 なにがあろうとも。 なにを引き替えにしても。 それが人の営みをアレから守る唯一の方法ですから。

   殺します。 絶対に。 絶対に。

   (嘘ではない)


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