hunter×hunter~クラピカの大冒険~ 作:しんていしめー
空高く突き上げるビルに挟まれた大通りには、雷雨が吹きすさぶり正午だというのに人の気配が感じられなかった。
大通りの車道の脇に停車していた、中年のタクシーの運転手は窓ガラスを叩く雨音に耳を澄ませ深いため息をはく。
こんな天気のせいか客は一人もいなかった。
こんな天気で客がいるわけないんだよなぁ。他の同業者も軒並み休みだしねぇ。
今日は仕事にならない。だが中年には自宅に帰れぬ理由があった。嫁がああでこうで……そうなのだ。更年期の嫁を持つ中年タクシー運転手は色々と大変なのだ。察して下さい状態なのだ。
仕事にならないしかといっても自宅に帰れない。財布を覗いたが缶コーヒー一本ぶんの余裕しか小遣いはなく遊びにも行けない。もう寝て時間を潰すしかない。
ーーーと、シートの背もたれを深く倒した瞬間である。
雨風の音に混じり、コッコッと硬い音が車内に響いた。
仕事中よく耳にする客が拳で窓ガラスを叩く音だ。
えっ、客か!?
驚き窓ガラスに顔を向けると、雨でぼやけてはっきりはしないが若そうな男性がそこにはいた。
急いでガラスだけをボタンで開く。
「お客さんかい?」
瞬時に侵入してきた雨水が車内の至るところを濡らした。
「ああ。空港までお願いしたい」
大きく力強い目に少し覆う長めの金髪は風で踊り狂い、そこから覗かせる顔は確実に若さが感じとられた。
服装は背広姿でネクタイも黒。葬式の帰りかなんかなのだろうか。
「まぁ早く乗りな」
レインコートも着ずにびしょ濡れの客を乗せるのは不愉快であったが、仕事だと心で割りきる。
客が後部座席に乗り込みドアを閉めた。
「空港に行くんだよな」
「宜しく頼む」
車が走り出した。
フロントミラーにうつる客の顔は、改めて見ると中性的で端正な顔立ちをしていた。男である運転手も少し見とれた程で、いわばイケメンと言うやつだった。
「男前だなぁ、お客さん。そーいやこんな天気で飛行機は飛んでないはずじゃ?どーしてまた空港に?」
「フライトが可能になるまで空港で待とうと思っている」
凛としていてるが、少し冷たさが帯びる声だった。
わざわざこんな天気に…フライト情報を携帯で調べ晴れからいきゃいいのに。と、運転手は思わんでもなかったが、何か事情でもあるのだろう。
「へぇ、何処に行くんです?」
「日本、という所まで」
日本。極東にある島国であった。独自の文化を築いており忍と名乗る謎の多い戦闘集団が存在している。国としての情報が少ないため、どんな場所かは運転手にはわからなかった。国名だけ何処でだか聞いたくらいだ。
「…日本…かぁ。観光地なのかい?」
「いや、私にもわからない」
「って事は、観光目的ではないって事だ。何しにあんな辺鄙な所に?」
「それを答える義務はない」
凍えるような声が車内に響いた。
「すまない。失礼し…」
運転手がフロントミラーに視線を向け、その異様さに謝罪の言葉が途切れた。
「黙って運転しろ。余計な詮索をするな。私は気がたっているんだ」
瞳は血のように真っ赤に染まり、憎悪でもって爛々と輝いていた。
ピンと張り巡らした威圧感が車内にはただより、運転手は震えを抑えられない手でハンドルを操作する。
それから二人は無言で空港まで車を走らせた。