hunter×hunter~クラピカの大冒険~ 作:しんていしめー
とある空き地。中央に鎮座されてある土管に一人の少年が座禅を組んでいた。
目を閉じ精神を集中させ、常人には見えぬオーラを膜のように体に纏っていた。何かの修行中らしい。
何者かの存在を感じ、己の精神が揺らぐ。
「俺様の修行を邪魔するやつは何処のどいつだっ!」
纏っていたオーラは消え、酒焼けしたようなダミ声が響いた。
「うわぁぁ!」
情けない声をあげたのは、数々の冒険を共に潜り抜けてきた親友、いや戦友であった。
「何だのび太か。俺様が念の修行をしている時には邪魔をするなって言ったはずだよなぁ…!」
「ごめんジャイアン…。修行中とかよくわからないよ」
のび太。貧相な体に眼鏡をかけた、いかにも弱々しそうな少年。それに対して脅しをかけているのは、良い体格をしたいかにも強そうな少年、通称ジャイアンであった。
のび太は困っていた。最近、「俺様は強くなって幻影旅団に入りたいんだ!」と訳のわからぬことを抜かし謎の修行を開始したジャイアン。その修行は授業中(そして先生に説教をを受け廊下に立たされている時も)、野球中、遊びの最中にも唐突に始まり、範囲五メートルにいる周囲の人間をのべつまくなしに拳で強制的に排除した。本人いわく、俺様の修行の邪魔になるから失せろっ!、らしい。理不尽だ。
たださえガキ大将であるジャイアンに敵は無しというのに、これ以上強くなってどうするんだ。と、のび太は嘆く。
「纏だよっ纏!纏やってる時に近づかなけりゃいいんだよっ!」
「何言ってるかわかんないよジャイアン…」
修行中とはどういう時なのか訪ねても、念だの纏だの円だのと一向に要領をえない回答ばかりが返って来て埒があかない。目を閉じ微動だにしない体勢になれば修行の開始だとも思ったが、「円の時は入って来い。精度を確かめる」とかほざきもう何がなんだかわらないのび太だった。
「よし。いい所に来たなぁのび太ぁ。纏は飽きたから次は円をやるぞ」
「また始まったよぉ…」
のび太はこれから始まる修行に憂鬱を感じた。修行とは名ばかりの一方的な暴力が始まるからである。
円の修行。それすなわちのジャイアンが指定した領域までのび太が足を踏み入れ、踏み入れた刹那、どういう原理かわからないがのび太の身体が後方に吹き飛ぶ、の過程をジャイアンが満足するまで繰り返す修行なのだ。
よくよくのび太の身体を見回すと、かすり傷や青あざが目についた。これも円の修行(と、それ以外の暴力)によってできた傷なのだ。お陰様で?少し強くなったかもとのび太は思う。
「やめようよジャイアン…。また変な噂が広まっちゃうよ」
「うるせー!ん?待てよ何だその噂ってのわ」
「そうだ!それを忠告しにジャイアンに近づいたんだよ」
「なにぃ?」
のび太は本来の目的を思い出した。この親友に悪評なる噂が近所に蔓延っているのを目にし、恐怖を我慢し伝えに来たのだ。
「最近、ジャイアンいたる所で修行してるだろ?」
「おぅ!強くなりてーからなぁ」
「その修行姿をみた人達が、ジャイアンはカルトな宗教でも始めてアブナイ奴だと噂してるんだ!」
「なにぃ!?ふざけやがってぇ…!」
鬼のような憤怒の表情になるジャイアン。ひっ、と恐れおののくのび太。
「でたらめいいやがって!何処のどいつだっ、ぶちのめしてやる‼」
「落ち着いてジャイアン!」
腕を振り上げるジャイアンを宥めるのび太だったが、噂する人達の気持ちがわからないでもないのび太だった。
いたる所で瞑想のような行いをしていれば、誰でも怪しむ。坊さんが瞑想をしていれば怪しまないが、それが坊とはかけ離れたわんぱく坊主小学生が瞑想を行っていれば怪しさしか出て来ないだろう。
「僕はジャイアンの味方だから!ジャイアンはただ強くなりたいだけって僕は知っているから!」
嘘である。
「おぅ、心の友よ。わかってくれるか。ちょっとは落ち着いたぜ」
嘘で落ち着きを取り戻した親友を尻目に忠告を再び開始するのび太。また暴れさせたいのかのび太よ。
「それに円の修行も良くないよ!この最だから言うけど、吹き飛ぶ僕の姿を見てジャイアンは奇術師だとかプ〇ンセス破天荒だって言われているんだよっ!?」
「プ〇ンセス破天荒だとぉ……オレはプリンスだっ‼‼」
再び怒るジャイアン。怒るところはそこではないだろうよ、ジャイアン。
「落ち着いて!ジャイアンはまだいいよ……。僕なんか飛ばされ屋とかフライングヒューマノイドとか、不名誉なあだ名がつけられているんだよっ!」
宥めるつもりが、つい不満を漏らすのび太。本人は知らぬだろうが奇術師の助手役、破天荒のしもべとも近所からは噂になっている。
「なにぃのび太のくせに文句を言うなんて生意気だぞ!」
「ひぃぃっ!」
もはや場は収集がつかなくなり混乱と成りかけていた。なんとか忠告を聞いて貰わなければならないのだが。
「この野郎!」
「うわぁ殴らないで!」
拳を振り上げたジャイアン。顔を隠すようにすくむのび太。オチはお決まりのパターンだった。
ーーーが、
「……あれ?……殴られない」
指の隙間をあけ視界を開き、恐る恐るジャイアンを覗きこむ。
「うぐぅぅ。な、なんだよコレっ」
振り上げた腕が静止、いや、何らかの力で抑えこめられているように小さな震えをもって腕が止まっている。動きたくても動けない。そんな感じだ。
「その歳で念能力者……。いや、珍しくもないか。それにまだそれ程の手練れでもないようだ」
凛とした声がのび太の耳に届いた。空き地の入り口。のび太が振り向く。
ーーー束縛する中指の鎖【チェーンジェイル】
「ではないが、貴様を縛るには私の念で鎖を少し強化すればなんら問題のないことだ。念能力者として貴様はあまりにも未熟。念の精度が違う。そもそも念の戦闘の本質が根本的に理解していない。そもそも隠も使わずにブツブツ……」
何かやたらと饒舌ですねクラピカさん……じゃなくて、突然のブツブツ闖入者に唖然とするのび太。そして、喚くジャイアン。
「誰だテメェ!何しやがった!」
ふんばっても動かない腕、身体。何かに縛らている感覚がジャイアンにはあった。
「何しやがった……。失笑だな。念能力でのバトルで凝を使ってブツブツ…」
「わぁ、なんかイケメンな外国人だなぁ」
ブツブツの人と化した金髪の背広姿の青年を見てのび太が場違いな言葉を思わずこぼす。それもそうだった。その青年は目鼻立ちのはっきりした中性的な顔立ちで、手足の長い身体が纏う背広姿は、紳士服〇木のカタログモデルのようであった。
「どこの外人さんかな?旅行できたのかな?でも何もないよなぁここ。不思議だなぁ」
「私は物見遊山で旅行に来たわけではない。ある物を探しにここに来た」
「ある物って、なぁに?」
「ーーー緋の目」
「ヒノメ?」
「わからないならそれでいい。私には首を突っ込まないことだ」
「そうはいかないよぅ!ジャイアンがあんなことになってるんだから!」
まだ見えない力にじたばたもがいているジャイアンにのび太が指をさす。
「ジャイアン。その少年の名か。そいつには探し者で用がある。用が済むまではこの鎖を解くことは出来ない」
「くさり?」
まるで鎖とやらでジャイアンを縛っているような言い方であった。のび太は空き地を見渡すが、鎖などは何処にも見当たらない。
「隠で隠して…いやなんでもない。君にはわからぬ事だしわからなくて良い事だ」
この青年もジャイアンと同じような謎の単語で喋っている。なんだか自分には理解出来ない世界が確かに存在し、その世界に自分も足を踏み入れようとしている。そんな恐怖がのび太を襲った。だが、青狸。ある親友と数々の未知の世界を冒険し、修羅場を潜り抜けできたのび太だ。そこら小学生とは訳が違う。恐怖をはねのけ、映画番到来!と言わんばかりの勇気を振り絞り、青年に一つの提案をした。
「大丈夫、ジャイアンを離してあげて!探し物なら僕が見つけてあげるよ!いや、正確には僕じゃないけど……。絶対見つけられる凄い友達がいるんだっ!」
(友達?探知能力を持った友人でもいるのだろうか……しかし、信用出来ない。鎖を解いた瞬間に…という事もある。私は私しか信じないっ)
「悪いが初対面の君を……ーーー!?」
「ーーー僕に任せてよ!」
(こっ、これはっ)
のび太の曇りのない澄んだ瞳。それでいて安心と力強さの矛盾をうまく混ぜこんだ不思議な瞳。
青年の数少ない友。ゴン=フリークスを思い出す。不思議な魅力と常人を逸した奇抜な発想で周囲を変え逆境を乗り越えたあのゴン=フリークス。青年はのび太の瞳にゴン=フリークスを見たのであった。
(私は、いい友人を持った……)
「私の名はクラピカ。君の提案に乗らせて貰おうと思う。よろしく頼む」
「うんっ‼こちらこそ宜しく。僕はのび太。野比のび太。って、うわぁ!」
何故か日本には生息するはずのないような巨大熊が、空き地にいつの間にか侵入しのび太の顔をベロベロなめていた。
そもそも熊なのか?何か熊っぽい何かだゾ。そもそもそんなのが何で人里にいるんだよ…。ってか気づけよ皆。
そんな光景を見て、クラピカが微笑む。
「君は、いいハンターになる。動物に好かれるのがその証拠だ。そして、君はどことなく私の友に似ている…」
「うわっー!、訳のわからないこといってないで助けてよクラピカさん!」
「フフっ。私の事はクラピカでいい。私も君をのび太と呼ぼう」
「いいから早くタスケテっ!」
「アハハハハっ」
和やかな空気が空き地に流れだす。
果たしてクラピカとのび太はどうなるのか。緋の目は見つかる事ができるのか。熊?はなんなのか。
二話ここにて終了。「なわけあるかーーっ!!!」叫ぶジャイアン。
そうだ、こやつはまだうごうごともがき続けていたのであった。
「な~に良い雰囲気になってやがんだよぉぅ!俺様を置いて話を進めやがって!」
「あ、ジャイアン」のび太完全に忘れていた。
「ジャイの坊。もはや貴様に用はない」
「行こうクラピカ」
「ああ」
「コラ待てっーー!待ちやがれっ‼」
喚くジャイアンを背後に空き地から離れていく二人。
「せめて動けるようにして出て行けよっー泣」
もう二人の背中はジャイアンからは見えない。
「っていうか俺様は緋の目の在処を知る物語のキーパーソンなんだよだから戻らないと不味いのよぉーー泣」
その後、破天荒の奇跡!空き地に湖を作った!?の噂が近所には広まったとさ。ちゃんちゃん。
「まだ俺様は終わらねぇ-!必ずあのクラピカという奴に復讐してやるかんなっーーーー‼‼」
ーーーとある場所
「へぇ、あの鎖野郎が日本にねぇ」
「鎖野郎ってあのクルタ族の?」
「面白くなってきたぜ!」
「面白いわけがあるか。とるに足らん些末事だ」
「まぁまぁ。ーーーしかし、我々が動く時ではあるな」
一同「「御意」」
二話終了。