※オチはないです
夏の暑さも既に和らぎ、冬の寒さの片鱗が見えだした秋の下旬。大本営主導による中規模作戦が終わり、艦隊の士気が落ち着いてきた頃のこと。
秋月型防空駆逐艦の四番艦である僕──初月は、中規模作戦で負った傷を入渠を終えて自分の部屋へと戻っていた。
「白月、ご飯だ」
「みゃーん」
捨てられていた白月を拾ってから約一年の月日が経ち、彼女は大人の猫へと育った。拾った頃とは違って抱える時に使う筋力も増えたが、僕にはそれが彼女が日々成長しているのだと認識出来て嬉しかった。
「お、今日も元気だね、白月」
「照月姉さん」
白月の目の前にご飯の入った皿を置くと、後ろから照月姉さんが背中を押してきた。
「白月も来てから一年だね」
「そうだな」
「そろそろ鶴の恩返しみたいに、人になったりして!」
「それは……ないだろ」
「もう、夢がないなぁ」
そんな他愛もない会話をしつつ、白月の様子を眺める。彼女は僕の視線に気付いて、首を起こしてひとつ鳴いた。首を起こす時に、首輪に付けられた鈴がチリンと響く。
鳴いた白月が再び皿に意識を向けると、突如として部屋のスピーカーから音が流れた。
『業務連絡、業務連絡。名前を呼ばれた者は至急執務室に来るように。赤城、加賀、ビスマルク、プリンツ、初月、海風。繰り返す──』
「……呼ばれちゃったね」
「そうだな」
それは、何らかの理由で僕を呼び出す放送だった。
「私が見てるから、行ってきていいよ?」
「照月姉さん、ありがとう」
「いいっていいって」
照月姉さんが見ていてくれるというので、僕は白月の事を任せてから部屋を出た。
「……いひひ」
◇◆◇◆◇◆◇
「──報告は以上だ。お前達には暫く休息期間を与える。各自身体を休めてくれ」
『了解!』
僕が執務室に呼ばれたのは、先日の中規模作戦で特に活躍した者に褒美を与えるというものだった。
赤城さんと加賀さんは航空戦で相手の艦載機を次々と墜したから。
ビスマルクさんは第二艦隊の旗艦として僕達の士気を高めていたから。
プリンツさんは着任したばかりだが、提督の無茶振りにも関わらず第一艦隊の旗艦を務めきったから。
海風は第一海域において、療養中の五十鈴さんに代わり、敵潜水艦の殲滅に大きく貢献したから。
僕は、敵艦載機の撃墜数が全艦娘の中で最も多かったから。
「じゃあ、解散」
提督の言葉と共に、集まったメンツは執務室を後にし、それぞれ散らばっていった。僕もその流れに乗って部屋への道を辿った。
「……これでいいか、秋月?」
「はい、ありがとうございます!」
「しかしまあ、お前らも酷い事考えるなぁ」
「初月が普段から白月にベタベタしてるので、仕返しです」
「ハイハイ……ほどほどにな?」
「分かってます」
◇◆◇◆◇◆◇
「照月姉さん、白月、今戻った……んん?」
部屋に着いた僕は、その部屋の異変に気が付いた。先程部屋を出るまではいたはずの白月と照月姉さんがいなくなっていたのだ。
照月姉さんがどこかへ連れて行ってしまったのだろうか。
それならそのうち戻ってくるだろうと信じて、ブーツを脱ごうと座り込んだ時だった。
──不意に部屋の扉が開いた。
僕はその扉を開いた人物に驚き、ブーツを脱ごうとしていた手が止まってしまった。
「……お初さん?」
「……え、あ……あ?」
その人物は、白い全身タイツと秋月型の制服を見に纏い、肩にグレーのコート。銀にも近い白髪を肩まで伸ばし、ハチマキに付いた金具を使って短めのワンサイドアップにしている。
その人物のイメージカラーを訪ねたならば、堂々と『白』と帰ってくるだろう。
「すずつ────」
「私は『白月』。お初さんに拾って頂いた恩を返したく、この姿で参りました」
「…………えっ?」
──今、何を言った?
理解の追いつかない僕をよそに、彼女は右手首を見せてきた。
「お初さんに頂いたこの首輪、大事に着けさせて頂いてます」
「そ、そうか。気に入ってくれて良かった」
彼女の右手首にあるのは、紛れもなく白月の付けている首輪。つまりは、彼女は紛れもなく白月ということになる。
『そろそろ鶴の恩返しみたいに、人になったりして!』
──まさか、照月姉さんは全て知っていたのか!?
白月が、人の姿になれることを。
「ところでお初さん」
「なんだ?」
「後ろを見ていただきたいのですが……」
「……後ろ?」
僕は彼女に言われた通り、後ろへと振り向く。
──そこには、『ドッキリ大成功』の看板を持った照月姉さんと、首輪の無い白月が存在していた。
◇◆◇◆◇◆◇
「涼月姉さん」
「ごめんなさい、つい出来心で……」
「照月姉さん」
「にゃーん?」
「照月姉さん?」
「ごめんごめん、初月ばかり白月に懐かれてて悔しくて……」
「はぁ……」
「……お初さん?」
「……まあ、その、なんだ」
──おかえり、涼月姉さん。
投稿前の仮タイトルは『白月(猫)が涼月にすり変わっていて驚く初月』でした