誕生日パーティー
ニ〇八五年五月二十四日。この日は木曜日だった。その一ヶ月前。実はその日こそが貴将と達也の誕生日だったのだが、貴将の希望があり、パーティーは七草家で行われる事となった。その為、次期当主候補筆頭の誕生日パーティーに、最も重要な人物達が七草家に訪れる。四葉真夜、司波深夜、深雪、達也である。
「さーて、達也、今日は貴将くんの誕生日あると同時に、貴方の誕生日でもあるのよ。目一杯楽しみなさい」
「はい、お母さま」
黒塗りのリムジンの中で深夜に話しかけられ、達也が事務的に答える。
「みゆきもいっしょにたのしみます!」
そんな達也に続く様に深雪がいう。その光景は微笑ましく、それを見ていた深夜はにっこりと笑っていた。しかし真夜の表情は冴えない。
「…きーくん…きーくん…きーくん…」
というか貴将の名前をずっと呟いている。
「…ねえ、真夜。深雪が怖がっているんだけど…貴将さんなら大丈夫よ。真由美さんもいるのだし、それに直ぐ会えるでしょう?」
「そうだけど…貴将くんが心配なんだから仕方がないじゃない」
双子の姉に諌められ、拗ねた様子で答える。ちょうどその時、タイミング良く車が止まる。そのリムジンに走り寄る影があった。
「お母さま!おばさま!達也、深雪!お待ちしてました!」
貴将だった。彼は顔を輝かせながら車のドアを開けて、皆が降りるを待って、ドアを閉める。
「弘一さまと真由美ちゃんが待っています!」
「あらぁ、きーくんは真由美さんと随分と仲がいいのね」
貴将の手を引きながら真夜がいう。その後を達也と深雪の手を引きながら深夜がついていく。
夕方、日が暮れる少し前。黄昏時に、貴将と達也の誕生日パーティーは開会した。参加した人数は少ない。が、その参加者の有名度はそこらのパーティーの比ではない。世界最強の一族の当主、四葉真夜。前当主、旧姓四葉、司波深夜。次期当主候補筆頭、四葉貴将。次期当主候補、司波深雪。その存在を秘匿されて来た達也。十師族七草家の当主、七草弘一。そして真由美達の母親。次期当主、七草智一。次男、七草孝次郎。四葉貴将の婚約者である、長女七草真由美。そして次女の双子、七草香澄に泉美。これだけの人数で国を一個落とせる程の力を持っている者達である。
「ねえねえ、きしょうさんはおねえちゃんとけっこんするの?」
「きしょうさんはおねえちゃんのことすきなの?」
同時に問われて、貴将が戸惑う。パーティー会場とはいえ、参加者が少ないため、広さはない。そんな中で戸惑っている貴将を、大人達は微笑みながら見いていた。が、女の子とは、好きな人、もしくは自分の中で一番優先される人が他人と話していると、嫉妬するものである。
「もう、貴将くんはなんで私に話しかけてくれないの?」
「きしょうお兄さま、あちらでたつやお兄さまといっしょにごはんを頂きましょう」
香澄達に話しかけられていたら、急に両はしから腕を掴まれた貴将。右腕には真由美が、左腕には深雪が抱きついていた。
「え、えぇと…真由美ちゃん、いっしょにあっちでごはん食べる?」
「わかったわ」
先に真由美を誘い、深雪を引っ張っていく貴将。真由美は貴将に誘われてとても幸せそうな表情をし、嫉妬などは既に消し飛んでいってしまったようだった。しかし深雪は話しかけてもらえなくて拗ねかけていた。
「なんできしょうお兄さまはまゆみさんをゆせんしたのですか…?」
上目遣いの潤んだ瞳で言われ、貴将は、仕方がないなあ、といった感じの表情を浮かべ、
「家に帰ったら誰よりも深雪をゆうせんするよ。だからきげんをなおして。ね?」
頭をゆっくり撫でながら貴将が深雪にいう。効果は抜群だった様だ。
それから一時間程経った、午後7時。誕生日プレゼントの時間になった。貴将が貰ったのは、CADや本などで、おもちゃの類はない。また、達也の方も同じだが、数が少なかった。当たり前である。存在を秘匿されていて、七草側からは、弘一からしかプレゼントを貰えていないのだから。
「わぁ、キレイ…。これ、僕に似合うかなあ…」
貴将が言っているのは、真由美から貰ったブレスレットだった。因みに、貴将はどう思っているか知らないが、それは似合っていた。
「うん。貴将くんにとても似合ってるわよ」
べた褒めする真由美。そして真由美がいう。
「あ、そういえば今日は晴れていたし、星が見えるかも知れないわね。見に行きましょうか」
かなり緊張しながら、真由美がいう。しかし貴将は気付いていない。
「うん。僕星は、お母さまの魔法でしか見た事ないの。だから見えたらうれしいなぁ」
そのまま従順についていく貴将の後ろ姿を見ながら、大人達はなぜか緊張しながらも微笑みながら見いていた。
庭に出ると、ほんのりと月明かりに照らされ、うっすらと影が出来る。少し肌寒い空気の中、真由美が立ち止まり、貴将に話しかける。その距離はかなり近い。
「ねえ、貴将くん。貴将くんの誕生日って先月だったのよね」
少し強張った声で真由美がいう。それを感じてか、貴将の言葉は改まったものになる。
「ええ。先月でしたね。それがどうかーー」
言葉は、続かない。言葉を紡いでいた唇は塞がれていた。
真由美の唇によって。
すぐ、真由美の唇が離れ、貴将が面白い様に動揺する。
「ねえ貴将くん。今のが私のファーストキスよ。それが、私からの誕生日プレゼント。どうだった?」
なんとか動揺を抑え込み、貴将が返事をする。
「………つ、月が、キレイですね、真由美さん…///」
頰を真っ赤に染めながらいうその言葉は、今時の大人でも知らない人がいる様なもの。しかし上流階級の人間なら確実に知っているものだった。
キョトン、とした顔で首を傾けた真由美は、一秒程間を開けて、顔を貴将とお揃いの真っ赤に染める。
「そ、そうね///。月がキレイだわ、貴将くん///」
そう言った真由美と貴将の影が重なる。赤くなった頰に、少し肌寒い空気が心地よかった夜だった。
手を繋ぎながら帰って来た瞬間、二人は拍手に包まれた。びっくりしながらも手を離さない貴将と真由美に、弘一と真夜が歩み寄る。
「貴将くん。今日から真由美が君の婚約者だ。泣かせないでくれよ」
「真由美さん。今日からきーくんが貴女の婚約者よ。見限らないであげてね」
それぞれの言葉に二人が元気良く返す。
「「はいっ!」」
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因みに。深雪は真由美が貴将の婚約者に成った事に嫉妬していた。頰をぷくーっと膨らませ、二人が手を繋ぎながらやってくるのを睨んでいた。しかし真由美が深雪に声をかけようとする前に、達也が深雪に声をかける。
「深雪。今のうちに慣れておけ。俺もいつかお前が絶対的な一番ではなくなるのだから」
爆弾投下である。今の状態の深雪に言ってはならない事だった。もちろん、深雪の顔が蒼白になり、涙が瞳を潤ませる。
「だが、俺の妹はお前だけだ。そういう意味では、俺が愛してるのはお前だけだよ」
そんな深雪を抱きしめる達也。これから数多の女の子を墜としてゆく究極の技、落として上げるの最初の被害者は深雪が最初だった。