では本編をどうぞ。
MOSの訓練生に対する訓練は順調に進んでいる。
腹筋や背筋等の基礎体力強化用の訓練は彼女らの構造上厳しいので、10kmのランニングを代替策とし、その手の教官としてコボルト族のポルトを呼んで訓練させている。
陸上を走れないムリヤには10kmの遠泳を課しており、彼女はそつなくこなしている。
格闘戦の訓練は人間の基礎的な格闘技をもとに、それぞれの体躯を生かした物を百舌鳥自ら考案し、メニューを組んでいる。
射撃訓練はM.O.Sで運用される麻酔弾用ライフルに近い5.56mmのG36Kを撃たせているが、ムリヤにはライフル弾の反動が強すぎるためMP5を撃たせた。
体の構造上銃が撃てないジェルフォー以外は皆筋はあると思う。
また、基礎訓練と併用して訓練兵にそれぞれ特別訓練を教えている。
ヴァイパーにはコンバット・メディックとしての医療訓練を、ジェルフォーには偵察兵兼狙撃兵としてレーザー誘導装置のGTLDやLLDRの操作方法を教えようとしたが、ハーピー族の体の構造上無理だと分かった。
足で操作できる麻酔狙撃銃を宮原に開発して貰ったからいいものの、あれが無かったらどうなっていたことやら。
マスタングには重火器の扱い方を学ばせた。
マスタングは意外と重い物も運用できるので、M60機関銃や対戦車ミサイルや迫撃砲などの後方支援用の装備がいいのかもしれない。
ムリヤは荒っぽいことはできない(というか雰囲気的にさせられない)ので、軍用イルカの様に人命救助の方法とかを教えることにした。
スプーキーには工兵としての爆薬の扱い方やブービー・トラップなどの罠などの敷設方法を教えた。ただし、アラクネ族であるスプーキーは自前の糸を使用したトラップや捕縛の方が得意な様だ。
非殺傷での犯人捕獲を目的としたM.O.Nでは、こちらの方が重要かもしれない。
「あ、そういえば…」
お隣さん(つか近所に)最近会ってないな。
ご近所付き合いも兼ねて、この際挨拶に行くか…。
「よし、訓練中止。お隣さんへご挨拶に行くぞ!」
「はい!」
「了解…」
「了解した」
「はい、わかりました!」
「解っt…いえ、わたしは遠慮させてもらうわ。そんな趣味無いもの」
訓練生たちが従う中、スプーキーは手をひらひら振って断った。
「解った。じゃあお前はお留守番な」
「はいはい」
百舌鳥と訓練生達はスプーキーを残し、自宅を後にした。
数分後。
「来留巣主さん…くん、久しぶりだな」
「本当にお久しぶりですね、百舌鳥さん」
百舌鳥は来留主公人と握手を交わした。
“一番近い近所の人”の筈だが、ここ2か月会っていない。
別に百舌鳥の近所付き合いが悪いとか、来留主と仲が悪いという訳ではなく、百舌鳥の家が1km先の山の上にあって中々連絡が取りづらいのと、百舌鳥の仕事が多忙であったために近所の行事に参加できないという問題があった結果である。
「今回は何の用ですか?」
「ああ、新しく訓練生として他種族を迎え入れたのでな、その紹介をと思って。一人いないけど」
「あ、そうなんですか。うちも他種族の子をホームステイさせてまして」
来留主の家から他種族の少女たちが出て来る。
ラミア、ハーピー、ケンタウロス、人魚と構成は大体うちと似ていた。
「あら、ムリヤ」
「あ、メロウヌお姉様!」
「「!?」」
百舌鳥と来留主は驚愕した。
「い…今、俺の耳がおかしくなってなきゃお姉様と言ったような気がするんだが…?」
「いや、僕の耳にもちゃんと聞こえました」
戸惑う二人をよそに、姉妹二人は楽しそうに会話をしていた。
「あ、ムリヤのステイ先の方ですか。私、メロウヌ・ローレライと申します。わたくしの事はメロとお呼びください。不束な妹ですが、どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
メロがこちらを向き、丁寧に挨拶をしてくれた。
ムリヤといい、メロといいお嬢様というか王女様のような雰囲気がするのは気のせいなのだろうか?
気のせいだといいg…
「おお、久しいなガントレット!」
「久しぶりだなセントレア!」
深く考えようとした百舌鳥の気分を大音響の歓声が打ち消した。
大音響の主はケンタウロスのお二人。
「主殿、我が親友のセントレアだ」
「貴方がガントレットの主か。セントレア・シアヌスだ、よろしく頼む」
「……よろしく」
何と言うか、類は友を呼ぶという奴だろうか。
セントレアの威勢のよさに思わず失笑しかける百舌鳥であった。
他の奴らもそれぞれ来留主宅のステイ先の子と仲良くなったようだった。
「仲良くなってよかったですね」
「ああ、そうだな」
仲良くする少女たちを見てほほ笑む二人の顔は、保護者の顔になっていた。
2日後、大雨明けの日。
百舌鳥は保安局へ赴き、報告書を書いていた。
教官の仕事として週一で報告書を提出しなければならないのだ。
書類を提出した後、百舌鳥は書類仕事に追われるあのMONの隊員たちと遭遇した。
彼女らの話によると、墨須が仕事を押し付けて逃げたらしい。
「はぁ…」
百舌鳥はため息を付きつつ、その仕事を20分ほどで完遂した。
「百舌鳥さんはお仕事がお早いんですね」
仕事を終えて伸びをする百舌鳥にマナコが話しかけてきた。
「ま、管理職を10年もやってるとなぁ…」
日本平和維持軍の場合、燃料と弾薬補給や整備記録や依頼の処理等、陸戦隊隊長としての書類仕事はまさに殺人的な量なのである。
それに比べてしまえばこんなレベルの書類仕事なぞどうとでもないのだった。
「あいつは安月給安月給って嘆いているけど、資金は適切だと思うぜ」
「あなたはこっちに出向して給料は下がったのではないのですか?」
「え?俺は陸戦隊隊長としての仕事もしているから給料はむしろ上がったぞ」
百舌鳥は訓練生の教官として働く傍ら、陸戦隊隊長としての仕事もこなしている。
ちなみに保安局の教官の仕事は月17万、日本平和維持軍の給料が月25万である。
確かコーディネイターの仕事が月15万の筈だ。
上司の話によると、勤務態度等の問題で墨須はいくらか引かれているとのことだ。
まぁ自業自得だろう。
平和維持軍の場合、通常の給料以外にも任務成功費でプラスαが付くので、繁忙期が終わると通帳の額が凄いことになっている。
「さてと、家へ帰りますかね」
「お疲れ様でした」
「お疲れさん。ご褒美に3日の有給申請を出しておいた。四人で休暇を楽しめ」
「はい、ありがとうございます!」
一応百舌鳥はあの4人の上司に当たるので、このようなことも可能である。
ぺこりと頭を下げるマナコを後に、保安局を出て愛車に乗り込む百舌鳥であった。
その日の夜。
帰り際に来留主の家に寄ると。当の本人は風邪をひいて寝込んでいた。
パンデミックの危険があるために彼女たちは近づけないと言われたらしい。
そしてそれを言った張本人で、看病という名目でサボっていた墨須は眠っていた。
「我が家秘伝の玉子酒だ、こいつは風邪にようく聞く」
「あ、ありがとうございます…」
百舌鳥が玉子酒が入ったマグカップを差し出し、来留主はそれを受け取った。
どうやらだいぶ回復していたらしい。
「すいません、迷惑かけてしまって」
「何、困ったときはお互い様だ。あ、そうだ。うちの電話番号と俺の携帯の番号を教えるから困った時はいつでも電話してくれ」
「あ、はい。ありがとうございます!」
百舌鳥は来留主にメモをサッと渡すと、さっさと家を出て行く。
こうして百舌鳥と来留主家の本格的な交流が始まるのであった。
そして翌朝。
百舌鳥は机に座って新聞を広げ、珈琲を飲んでいた。
まだ訓練生は目覚めておらず、小鳥の声しか聞こえない。
携帯が軽快なメロディを奏でる。墨須からの電話だ。
「あ?墨須か、何の用だ?」
『ゲホッ…、〇×△…』
「は?聞こえねぇぜ?うにゃうにゃだけじゃぁなぁ」
『ゲホッ…、風邪引いちゃったみたいで…。玉子酒を頂けると…ありがたいかなーなんて』
「ハッ、知るかよ。風邪程度自分で何とかしろ。ま、昨日のサボりの罰ってこった」
百舌鳥はピッと電話を切り、また新聞を読み始めた。
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