テメンニグル大理石通路。そこに、二つの人影があった。一つは仰向けに倒れている男アーカム。もう一つはそのアーカムの娘メアリだ。
メアリがその通路に足を踏み入れた時、既にアーカムは身じろぎもせず血まみれの姿で倒れていた。そのため、アーカムは通路に居た悪魔――ダンテ――によって殺されたものとメアリは考えた。ダンテの飄々とした態度からはそれが真実かどうかを読み切れなかったが、いずれにしてもメアリはこのテメンニグルへと乗り込んだ目的を果たせなくなったのだ。
失意のうちにダンテを通路から追いやり、メアリとアーカムだけが残る。しかしその静寂を、死んだと思っていたアーカムの呻き声が破った。だが、メアリは父の生存を喜ぶどころか、鋭い眼差しと共に銃口を向けている。無論、理由はある。
「メアリ、お前なのか? 何が起こった。母さんは無事なのか?」
「母さん? 自分で殺しておいて!」
そう、アーカムは自分の妻――メアリの母を殺している。悪魔になりたいという狂人の様な夢のために、自分の妻と、無関係な人間まで巻き込んだ惨劇を引き起こした。そんな父の凶行を断罪するため、メアリはテメンニグルに乗り込んだのだ。
アーカムが何のために悪魔になったのかを、メアリは知らない。
「ああ、そうだ――私は、何ということをしてしまったんだ……。私は弱すぎた。奴に抗うことができなかった」
「――操られてたって言うの?」
だからこそ、容易く揺らぐ。悪魔になっても変わらない家族という糸が、父の凶行は第三者による悪意のせいだという希望をメアリに抱かせた。アーカムが苦しむ素振りを見せれば、メアリは突き付けていた銃を下ろし駆け寄る。
だがそれも無理からぬこと。本来のメアリという少女は、母に似て優しく、素直な娘なのだから。
「そうだ……! 私は操られていた。あの悪魔……ハーゲルに!」
「ハーゲル……!?」
「そうだ、メアリ。ハーゲルだ……。奴はスパーダの封じた魔界を甦らそうとしている。奴を止めるのだ!」
「私が――」
メアリの目に涙が浮かぶが、父の残す言葉を、その重みを聞き逃すまいとその瞳はしっかりと父を見つめてみた。その涙を力ないアーカムの指が拭うと、そのまま手は天に伸ばされた。
「お前は優しい子だ。母さんによく似て――」
それ以上、アーカムの言葉は続かなかった。伸ばされた手が力なく崩れ落ちたのを見たレディの慟哭が響く。涙を零しながらアーカムの持ち物であった聖書を胸の上に置き、腕をその上で組ませると決意を込めて顔を上げる。
「――ハーゲル!」
強い意志を秘めた瞳は、未だ見ぬ敵へと向けられていた。
- I need more power! - I need more power! - I need more power! - I need more power! -
テメンニグルの中核ともいえる礼典室の中央で、バージルは今まさに魔界への扉を開こうとしていた。テメンニグルは人間界と魔界を繋ぐトンネルであるが、姿を晒しただけではまだその機能の封印までもが解放されたわけではない。
その封印を解くために必要なのが、ダンテとバージルが持っていた二つのアミュレット、そしてその体に流れるスパーダの血なのだ――と、バージルはそうアーカムに教えられている。
しかし、これは正確ではない。正しくはこれらに加え、穢れ無き巫女の血――メアリの血を必要とするのだが、アーカムはこれを意図的に隠していた。それはバージルもアーカムも、魔界への扉を開くというのは副次的な産物であり、真の目標はテメンニグルと共に封印された強大なスパーダの力を手に入れるためだからだ。
アーカムは封印を解くためにバージルの協力を必要としながらも、スパーダの力まで譲る気はなかった。そのために一部の情報をバージルを出し抜く材料として秘匿し、わざわざバージルに斬り捨てられるよう演技(復活アイテム使用済)までしてその監視下から外れたのだ。
そうしてまんまと騙されたバージルは揃っていない鍵で封印を解こうとした。当然、魔界への扉が開く道理はない――本来ならば。禿げあがるほどに鍛えられたバージルの魔力を孕んだ血が、不可能を可能にしたのだ。
中枢にアミュレットと血を捧げると、空間がきしんだような違和感が礼典室を包み、硬質な何かに亀裂が走るような音が続いた後、甲高い悲鳴のような異音と共にガラスが砕け散るような快音が鳴り響いた。スパーダがテメンニグルに施した封印がバージルの血に強引に破られたのだ。
もっとも、当のバージルは封印が解けるのが当然と考えているためなんの疑いもなくご満悦な表情をしているが。
礼典室の中心にあるバージルが血を垂らした窪みが、円筒状となって静かにせりあがる。腰当たりの高さで止まると、続いてテメンニグル全体が揺れ始めた。そしてその窪みを中心とした円状の足場が、ゆっくりと天を目指し伸び始めた。間もなく魔界への扉は開かれるだろう。
「機嫌がよさそうだな」
礼典室の扉から現れたダンテが、軽口をたたきながら跳躍してバージルと同じ足場に立つ。
「よっ、と。まさか母さんのアミュレットが封印の鍵とはね。――悪趣味な親父だ」
「正確に言えば、もともと鍵だったものを人間に預けたのだ」
「どっちだって良いさ、そんなことは。大事なのは俺がここまで来たってことだ」
二人が話している間にも、足場は徐々に持ち上がっていく。だが、ダンテもバージルもそれを意に介した様子はない。
ダンテはリベリオンの切っ先をバージルに向ける
「さあ、もう1ゲームと行こうか」
「今更お前の相手をする理由もないが――いいだろう。たまにはお前の遊びに付き合ってやる」
バージルは新たに手にした魔具ベオウルフ――光の力を宿した籠手と具足を身に着け構える。装備から溢れる光が、その頭頂部をまぶしく照らした。
- I need more power! - I need more power! - I need more power! - I need more power! -
せりあがり続ける足場の上で熾烈な演武を続ける二人。どちらも常人とはかけ離れた身体能力と技術を持つ超級の戦士であるが、それでも二人の差は歴然であった。終始余裕のある態度を崩さないバージルに対して、ダンテはもちうる力を出し尽くしてようやく食らいつくといったところだ。
テメンニグルの頂上で敗れてからの短期間の間にも精練された力に加えて魔人化まで駆使しているというのに、さらりと涼しげな顔でいなされたときはさしものダンテも引き攣った笑みさえ浮かべることができなかった。
しかし、だからこそダンテには理解できないことがある。
「――そんなに親父の力は特別なもんか?」
「――何? どういう意味だ」
戦闘の最中にぽつりとこぼしたダンテの言葉に、バージルも動きを止める。しかしその質問の意図は掴めず、聞き返す形となった。
ダンテはリベリオンを片手に持ちぶらぶらと揺らしている。
「あんたが言ってた髪が抜け落ちるほどの鍛錬ってのはたいしたもんだ。正直、今のあんたの力が親父以上だって言われても俺は信じるね」
「……」
「だからこそ不思議だ。それだけの力を持ってて、こんなことをしでかしてまで……欲しいもんかね? 親父の、スパーダの力ってやつは」
「……当然だ。俺の魂が言っている。もっと力を、と」
眼前でこぶしを握り締めながら語るバージルだが、それを見たダンテは眉間にしわを寄せどこか納得いっていないような表情だ。
「難しいことはよくわからねえけど、力だけを手に入れても親父みたいにはなれない気がする。もっと大切なのは――」
「――貴様は黙っていろ!」
バージルが怒号と共にダンテに閻魔刀で斬りかかった。辛うじてリベリオンで受けることができたダンテだが、その衝撃はすさまじくダンテの体を吹き飛ばしてテメンニグルの壁へと叩きつけた。
バージルは先ほどまでの余裕な態度が消え失せ、疲労とは無関係の荒い息をついている。あれ以上ダンテの言葉を聞いていると、己の根幹が揺るがされ、いずれ崩れるような気がした。その動揺を隠すためと防衛本能のようなものの働きかけでダンテの口を無理やり閉ざさせたのだ。
壁に叩きつけられたダンテは意識を失ったのか、重力に抗うことなく地下の闇へと落ちていった。
これで邪魔するものは消えた。スパーダの力が間もなく手に入る。
だというのに、バージルの視線は魔界への扉となる天ではなく、ダンテの落ちていった闇へと向けられていた。
DMC新作の情報を聞いてテンションが上がり書き始めたけど、それがパチンコだかパチスロだかと知ってテンションがただ下がりになって書き終えたお話でした。