蒼奇は少しして後悔から立ち直って玲那の下へ向かう。
「それじゃあ、行こうか」
「はい!」
そうして二人はその世界から姿を消した。
箱庭の七桁の外門にある〝ノーネーム〟の本拠に帰ってきた蒼奇。
「ただいまー」
「あ、蒼奇さん!?早速ですが助けてくださ、ひぃ!!?」
黒ウサギが悲鳴を上げる。
当然だ。今、黒ウサギは玲那によってナイフを喉元へと突きつけられていた。そんなことをされたら誰でも悲鳴を上げて固まるだろう。
「こいつが・・・私の蒼奇を・・・!」
「やめなさい」
ドゴンッ!!と蒼奇に拳骨をされて、人体から出てはいけない音を出しながら地面に突き刺さって気絶する玲那。
「それで?どうかしたの?」
「え?え、えっと里桜さんと皆さんが戦おうと・・・」
「・・・やらせてもいいかとは思ってたけど、勝手にやっちゃったか・・・。此処じゃ被害が大きいね。わかった。すぐに止めるよ。場所は?」
「は、はい!こちらです!」
蒼奇は黒ウサギの案内に従って玲那を左手で引きずりながら向かう。
案内されたそこではすでに戦闘が行われており、里桜は加減をしているのだろうがそれでも十六夜や耀、飛鳥、ヴェーザー、そしてペストの攻撃は難なく防がれており完全に遊ばれていた。
「あれ、ラッテンは参加しなかったんだ?」
「・・・マスターと彼女の戦闘行為を見てやる気にはなれなかったわ・・・それより早く止めたら?」
「そうだね」
蒼奇は一瞬で里桜の背後に回り、そして―――
「も~!もっと私を楽しませ「このドアホ」グペッ!!」
―――里桜を殴って地面に叩き付ける。ごんっ!と玲那よりは軽い音が響いた。
「師匠!!なにするんっ、です、か・・・?あ、あああの左手に持っておられる方はもしかして・・・」
里桜の語尾が段々弱くなり、震える手で蒼奇の左手の玲那を指でさす。
「・・・知っての通り、御明玲那だ」
「なんで師匠の右腕と名高いその人がいるんですか!?」
「こいつの力が必要と思ったからだ。これからはずっと俺の傍に置くつもりだ」
「いやいやいやなんで!?いやそれよりも私はその人とは関わり合いたくないのでしばらく腕輪になります!それではっ!」
里桜は口早に言ってその場で腕輪になり地面に転がる。
蒼奇は腕輪になった里桜を拾い上げて、駆け寄ってきたジンに渡す。
「はい、ジン君。これ、しばらくは大人しいと思うから、持ってて」
「ありがとうございます」
「うん。身に着けておいてね?・・・さて五人とも、里桜と戦ってみた感想は?」
蒼奇の目の前で疲弊して手や膝をついている五人に問いかける。
「・・・正直ここまで手が出ないとは思わなかったぜ」
「・・・うん。あり得ない強さ」
「・・・そうね。あれで弱い部類だとは思えないわ」
「・・・神格使っても勝てねぇってどういうことだよ」
「・・・私の死の風も効かなかったわ・・・」
「僕の教え子はそういう元が規格外な子たちの集まりだよ。ああいう子たちに力の正しい使い方とか鍛え方を教えるのが僕の方針だよ。まあ、今回のことはみんなにもいい経験になったと信じる、よ?どうしたのみんな?」
「「「「「・・・」」」」」
蒼奇のその言葉をしっかり聞くために蒼奇の方を向くが、やはり左手に視線が集まってしまっている。
「ああ、この子のこと?改めて話すから談話室にでも集まってよ」
場所を談話室に移し、黒ウサギやジン、レティシアとラッテンも集まっていた。すでに玲那はソファに寝かしてある。
「じゃあ改めてだね。この子、御明玲那のことについて話すけど、何から聞きたい?」
「・・・どういう関係かしら?」
「僕の、右腕かな?それに付け加えるなら、この子は一応教え子の上位五名の一人だよ。そのうえ未だに彼女自身が力を完全に制御できるのは一割までなのに上級に属してるんだ。だから、玲那にはそれなりに期待してる」
「・・・里桜よりも上なのか?」
「里桜の狼狽えっぷりは見ただろう?つまり、そういうことだよ」
「・・・そんなに怖い奴なのか?」
十六夜がそんなことを聞く。
「・・・彼女は僕のことが好きでね。よくついて歩いてきたよ」
「・・・惚気か?」
「いや、そういうつもりじゃないよ。ただどこで歪んだか知らないけど・・・ヤンデレに変貌してね。しかも周りの女性を排除するタイプの。ただ里桜はそれの被害者ってだけだよ・・・」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
その話を聞いた女性陣には顔色を青に染めるものや冷や汗を流すものがいた。
「心配しなくても一応契約で縛ってはいるよ」
「「「「「「・・・(ほっ)」」」」」」
「でも彼女の力って、それすらものともしない可能性があるんだけどね・・・」
「「「「「「・・・!?」」」」」」
「まあ、その時は僕が止めるから」
「「「「「「・・・(ほっ)」」」」」」
女性陣は蒼奇の弟子である玲那に目をつけられて何かされないかを心配して蒼奇の言葉一つ一つに過敏に反応する。
しかし蒼奇の話はまだ続いていた。
「それと、」
「「「「「「・・・?」」」」」」
「女性の皆さん・・・面白い反応をありがとう!」
「「「「「「死ねっ!!」」」」」」
女性陣が蒼奇に襲い掛かるが、その動きが突然止まる。いや、女性達だけではない。蒼奇以外の全員が動けなくなっている。
『・・・!?』
蒼奇以外のその場の全員が驚く。・・・いや、もう一人だけ驚いていない人物がいた。
「・・・私の蒼奇はヤらせな、い」
「・・・起きたんだね、玲那。それと殺るのニュアンスが少し違うと思うよ?」
「うう、ん。・・・これであって、る。・・・それより、も殺していい、の?」
『・・・!!』
「・・・だめだよ。君の敵でも、僕の敵でもないんだから。それにこれからは味方になる人たちだよ」
「・・・・・・そう。わかっ、た」
「そう、いい子だ」
「~~~♪」
玲那は六人の拘束を解くと蒼奇に駆け寄る。そして蒼奇は駆け寄ってきた玲那の頭を撫でて、機嫌をとる。
「・・・今のがそいつのギフトなのか?」
「正確にはその一部だよ、十六夜。玲那の力はほぼ万能と言ってもいいギフトだからね。でも、これ以上は秘密だよ♪」
「・・・そうかよ。それで?連れてきた理由は?」
「・・・元の世界で教え子が行方不明ってのは里桜から聞いたよね?それが鏡夜を操っていた奴の仕業だと僕は考えているんだ。それで教え子を手駒にして仕掛けてくる可能性を考慮して、玲那の力が必要だと感じた。教え子たちを無傷で確保するためにも」
玲那の力は本当に万能と変わりないほどの代物だ。蒼奇が今言った通り敵を無傷で捕まえることも。逆に敵を一人残らず殲滅することも可能だ。
だが、それでさえ
それだけのことが出来るのに未だ一割しか使えないのはその強力性にある。強力すぎて少しでも自分の制御可能な力以上のことをしようとすると暴走してしまう。
それでも蒼奇はその強力すぎる力を十全に使いこなすことが出来る。
だからこそ知っている。その危険性も万能性も。
「・・・今回の件は十二分に準備をしておきたいんだ。僕が標的なのに教え子が巻き込まれてしまっているから、なおさらね」
「そんなに危険な相手なのかしら?」
ペストが聞いてくる。
「一応だよ。でも鏡夜を僕にバレずに洗脳するような相手だから、決して油断はできない。ペスト、もしかすると君にも手伝ってもらうことになるかもしれないから、その時はよろしく」
「・・・ええ、分かったわ」
ペストはそう言って引き下がる。
「それで他に聞きたいことは?」
「・・・その人、本当に大丈夫?」
「・・・一応、契約で縛ってはあるよ。君らに危害を加えないようにね。むしろ僕に関する契約内容がないのが心配なくらいだよ」
「・・・?」
「玲那に何度となく夜這いされてるからね」
「・・・次、こそは、成功してみせ、る」
「うん?いつも通りヤらせないからね?」
「・・・無理、やりに、でも」
「・・・いや、毎回無理やりだよね?」
蒼奇と玲那がそういうことを話していると他のみんなは蒼奇に憐みの視線を向ける。
そこで蒼奇が思い出したように声を上げる。
「あ、そうだ」
『・・・?』
「玲那と戦ってみる?」
『無理』
「・・・だよね。僕もできれば玲那とは戦いたくないし」
全員が声を揃えて断るを飛んで不可能と答えた。
玲那は教え子の実質的なNo.1だ。
可能性、力の強力さ、汎用性、そのうえ彼女は機転も効いて対応力もある。
おそらく彼女が力の二割ないし三割を完璧に扱えるようになれば今のNo.1、師匠級の田中✟
・・・ただその間に彼はより高みに行くだろう。
なぜなら彼のすごさはその成長速度だからだ。誰がどう頑張っても誰も追いつけはしないだろう。
たとえ玲那が三割、いや四割制御可能になっても彼はさらに高みに行き、それすらものともしないだろう。
彼の目の前にはただ一人、自身の師匠である蒼奇しかいないのだから。
「じゃあ、これでお開きにしようか。里桜との戦いでみんな疲れてるだろうしゆっくり休んでね。行くよ、玲那」
そういって蒼奇は玲那を連れて出ていった。
「・・・蒼奇はあの御明って奴にも勝てるのか?」
十六夜が誰に言うでもなく呟いた。だがその呟きに答える者が一人だけいた。
『・・・はい。師匠は教え子全員を相手にしても勝てます』
腕輪となっている里桜の声だった。
「・・・そうなのか?」
『はい。以前暇つぶしで師匠対教え子全員という企画がありました』
「・・・結果はどうだったのかしら?」
『師匠の圧勝です。しかもそれですらまだ本気じゃなかったと思う』
「・・・やっぱ、あいつが最強か」
『『『・・・うん』』』
そんな会話が蒼奇と玲那が消えた談話室で話されていた。
これで閑話は終わりで次から三巻の内容に入ります!
次は土日のどちらかに投稿予定です!