エレベーターのボックスを金具で固定して、木造の通路へと降り立つ。
その通路は見た目以上にしっかりと作られており、乗ってもびくともしない。そのうえ通路の両側には柵も設けており、落ちないように整備されている。
一同が通路を進んでいくと、収穫祭の主催者である〝龍角を持つ鷲獅子〟の旗印が見えた。
「旗が・・・七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」
「いや、六つじゃないかな?中心の大きな旗は連盟か同盟としての旗だと思うよ」
「蒼奇さんの言う通りですね。〝龍角を持つ鷲獅子〟は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでいます」
旗印は七枚あった。
〝一本角〟
〝二翼〟
〝三本の尾〟
〝四本足〟
〝五爪〟
〝六本傷〟
そして中心の〝龍角を持つ鷲獅子〟。
「これが連盟旗・・・でもなんで連盟を組むの?」
「はい。それはですね「やっぱり魔王の脅威が一番の理由じゃないかい?対抗する際には物量で押した方がいいときもあるし、連盟に加入してれば他の加入コミュニティが助けてくれるかもしれないから。でも、それも絶対というわけでもないから、商業面や役割分担とかの方が強い場合もあるかもしれないね」蒼奇さん、黒ウサギのセリフを取らないでください!!」
三人がそんなことを話しこんでいる間に他のメンバーは本陣入り口の両脇にある受付で入場届を出していた。
そして、受付の子が飛鳥を見ると確認するように話しかけた。
「もしや〝ノーネーム〟の久遠飛鳥様ですか?」
「ええ。そうだけど、貴女は?」
その子が言うには弟と一緒に火龍誕生祭に参加していたようで、魔王と戦った際に飛鳥が彼女の弟を助けていたようだ。
「そう、それは良かったわ。なら招待状をくれたのは貴女たちなのかしら?」
「はい。大精霊は眠っていますので、私たちが送らせていただきました。他にも〝一本角〟の新党首にして〝龍角を持つ鷲獅子〟の議長でもあるサラ=ドルトレイク様からの招待状と明記させていただいております」
「サラ・・・ドルトレイク?」
「ふーん?なるほどねー。〝サラマンドラ〟関係か。それでここに北側の技術が使われていたんだ」
「お、おそらくは。サラ様はサンドラの姉であり、ドルトレイクの長女です。・・・北側の技術の流出も―――――」
「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」
そこに突然聞き覚えのない女性の声が響く。それに全員が声の方へ振り返る。
途端、熱風が大樹の木々を揺らした。その発生源は空から現れた女性が放つ二枚の炎翼だった。
「サ、サラ様!」
「久しいなジン。会える日を―――――っ!?」
サラの声が突然止まる。
その理由は―――――
「これ以上・・・!女性はいらな―――――」
「やめなさい」
―――――玲那がナイフを喉元に突きつけたからだった。
しかし、すぐに飼い主である蒼奇の踵落としが炸裂して、ドゴンッ!!という音を出し気絶させられる。
「申し訳ありませんでしたー」
「あ、ああ・・・」
蒼奇はサラに謝り、玲那を引きずってみんなの下へ戻る。
「・・・一体、何だったんだ・・・?」
『『気にしないでください』』
その場に居た〝ノーネーム〟メンバーが声を揃えてサラに向かって言う。
「・・・そ、そうか、わかった。・・・と、とりあえずキリノ。受付ご苦労。中には私が居るからお前は遊んで来い」
「え?で、でもここを離れては」
「私が中にいると言っただろう?それに前夜祭から参加するコミュニティは大体出そろった。受付を空けても誰も責めんよ」
「そうそう。人の厚意くらい受け取って収穫祭を楽しんで来たら?」
「は、はい・・・!」
キリノは表情を明るくさせ、飛鳥たちに一礼して収穫祭へ向かった。
残ったサラは一同に目を向けると、口に僅かな笑みを浮かべ仰々しく頭を垂れる。
「ようこそ、〝ノーネーム〟と〝ウィル・オ・ウィスプ〟。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も喜ばしい」
「・・・噂?」
「ああ。だが立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つぐらいは淹れよう」
「あ、本当に?」
「あ、ちょっと!?待ちなさいよ!」
手招きしながら本陣の中へ消えるサラ。そしてそれに追随して消える蒼奇と玲那。そこからさらに二人を追随するペストとネロ。
両コミュニティのメンバーは顔を合わせるも先に行った蒼奇たちに着いていくように大樹の中へ入っていく。
〝アンダーウッド〟収穫祭本陣営。貴賓室。
蒼奇たちが招かれた貴賓室は大樹と大河の中心であった。そして窓からは地下都市が一望できた。
サラは席に座ると全員に座るように促す。
「では改めて自己紹介をさせてもらう。私は〝一本角〟の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。先ほどジンが言った通り元〝サラマンドラ〟の一員でもある。そして地下都市の水晶の通路も私が作った。しかし水晶や使われている技術は私が独自に生み出したものだ」
「あ、そうなんだ。独自の方法でやるなんてすごいね」
ジンはサラの話を聞いてほっと胸を撫で下ろしていた。
「それで、両コミュニティの代表者にも自己紹介をお願いしたいのだが・・・ジャック。彼女はまた来ていないのか?」
「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので」
「そうか。北側の下層で最強と言われる参加者を、ぜひとも招いてみたかったのだが」
「・・・北側、最強?」
耀と飛鳥が疑問の声を上げる。その声に隣に座っていたアーシャが自慢そうに話す。
「私たち〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダーの事さ」
「そう。〝蒼炎の悪魔〟こと、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉できる大悪魔だ」
話によるとジャックの製作者のウィラは北側最強とまで言われる人物の様だ。しかしその反面に実態はあまり知られていない。三年前に突如として頭角を現したそうだ。それに噂だと〝マクスウェルの魔王〟とやらを封印したという話まであり話だけでもそのすごさが窺える。
「噂が事実ならば六桁はおろか五桁最上位と言っても間違っていない」
「へえー。ウィラってそんなにすごかったんだ」
「ヤホホ・・・。ですが、五桁は個人よりも組織を重視いたしますので、強力な同士が一人いたとしても長くは持ちません。それにミカさんや蒼奇さんに比べれば全然ですよ」
「なに・・・?」
「謙遜しなくてもいいよ。素直に褒めてるんだからさ」
サラはジャックと蒼奇の会話に驚く。
そして蒼奇のことについて聞こうと口を開く、が。
「お前は―――――」
「その話はあとでね。今は世間話を一通り終わらせようよ。それに聞きたいことはまだあるんでしょ?」
「・・・それもそうだな。どうせ話の途中で聞くことになるだろうしな」
当の本人である蒼奇によって止められる。
「では、話を戻そう。まあジャックの言う通り、その強力な一個人を打ち破られれば容易く瓦解してしまうからだ。・・・その例が〝ペルセウス〟だ。そうだろう、ジン?」
「え?」
どうやらサラの話はジンの〝ノーネーム〟の功績についてのようだ。
〝ペルセウス〟を打ち破った話。
北側を襲った〝黒死斑の魔王〟を打ち破った話。
そして、〝サラマンドラ〟を守ってくれたことに対する感謝。
「故郷を離れた身だが、〝サラマンドラ〟を助けてくれてありがとう」
「い、いえ・・・」
赤髪を垂れさせて一礼するサラ。それから顔を上げると屈託のない笑みで収穫祭の感想を問う。
「収穫祭の方は見て回っただろうか?楽しんでもらえてるといいのだが」
「はい。まだ着いたばかりですが、前夜祭にもかかわらず賑わいがあっていいかと」
「そうだねー。これで前夜祭なら本格的に始まった時が楽しみだよ」
「そうか。それなら良かった。ギフトゲームは三日目以降だが、それまでにバザーや市場も開かれる。そっちの方も楽しんでくれたらうれしい」
「そのつもりよ」
飛鳥がサラの言葉に笑顔で答える。
すると飛鳥の隣に座る耀は、目を輝かせながらサラの頭上にある龍角を見ていた。
「・・・私の角が気になるのか?」
「うん。立派な角。サンドラみたいな付け角じゃないんだね」
「ああ。これは自前のものだ」
「だけど〝一本角〟のコミュニティだけど、二本あるのにいいの?」
サラは耀の質問に苦笑交じりで答えてくれた。
〝龍角を持つ鷲獅子〟の一員は身体的特徴でコミュニティを作っているが数字についての規制は特にないらしい。それ以外にも役割に応じて分けられているようだ。
〝一本角〟と〝五爪〟は戦闘。
〝二翼〟〝四本足〟〝三本の尾〟は運搬。
〝六本傷〟は農業や商業。
という風に分けられていてこれらをまとめて〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟と呼ぶそうだ。
「そうなんだ」
耀は簡潔に返事をすると、連盟旗を見上げて描かれている鷲獅子の姿を確認する。
そしてある疑問を抱き、首を傾げた。
「・・・〝六本傷〟は何を指してるの?」
「ああ、それはな―――」
サラは〝龍角を持つ鷲獅子〟のモチーフである鷲獅子が負っていたとされる傷を指しているらしいと言った。組み分けとしては商業や農業に役立つ知識や才があれば良いので全種を受け入れている、かもしれないそうだ。
「まあ、この収穫祭でも〝六本傷〟の旗を多く見かけるだろう。今回は南側特有の動植物の販売をしているらしい」
「・・・もしかしてラビットイーターとかはいる?」
「蒼奇さん!?いくら使い道が多いからと言ってそんなもの在り」
「在るぞ」
「在るんですか!?」
「マジで!?どこで売ってるのか分かる!?・・・あっ!もしかして変異種のブラックラビットイーターも!?」
「さすがにそこまで揃えてはいないと思いますよ!?」
「在るぞ」
「在るんですか!??」
「よっしゃ!これは即買いだね!!場所は!?」
「これが発注書で、場所はたしか最下層の展示会場に―――」
黒ウサギはそれを聞くとサラから発注書を奪い取って、蒼奇とその一味以外の〝ノーネーム〟メンバーの首を鷲掴んで去っていく。
「あっ!?先を越された!?マズイ、急がないと焼かれちゃう!?ごめん!!これで失礼させてもらうよ!!」
蒼奇は影を操って玲那とペストにネロを回収して、「僕の万能素材ー!」と叫びながら去っていった。
「何なんだ?あいつら」
「・・・結局、あいつについては何も聞けなかったか」
「ヤホホ、すこしぐらいなら私から話しましょうか?とはいえ私も詳しく知っているわけではありませんが・・・」
残された三人は茫然としてそんな声を漏らしていた。
次も一週間以内に投稿予定!