あと章付けしました。
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改稿作業完了。
黒ウサギの説明も終わり彼女の案内に従い天幕に向けて、上機嫌な彼女を先頭にして移動していく五人。
しかし、蒼奇はそわそわして落ち着かない様子だった。
その理由は遠くの方に彼好みの変わり者の気配がするからだろう。
さて、どうするべきか。黒ウサギに迷惑かけるのもいけないだろうし、だからと言ってこの機会を逃すのも嫌だ。
などと彼が考えていると不意に十六夜から声をかけられる。
「おい館野」
「ん?どうかしたのかい?十六夜。それと蒼奇でいいよ。僕も十六夜って呼ぶし」
「じゃあ蒼奇。世界の果てまで行ってみねぇか?」
ご都合主義と言わんばかりのタイミング。だが、ちょうどいいのもまた事実であった。
まあ、一人いなくなるのも、二人いなくなるのも変わらないよね。とズレたことを考えながら返答する。
「いいよ、行こうか。でもなんで僕なんだい?」
「湖に落ちて陸地に上がったあと少しの間お前の影が不自然に動いてたからな。それに興味があるだけだ」
「………え?マジで?結構早めに直したし、できるかぎり隠したんだけど………」
「安心しろよ。多分俺しか気づいてねぇよ」
「そ、そう………まぁ向かいながら話そうか………と思ったけど、寄り道するところがあるから先に行っててほしいかな。あとで合流するから」
「………ちっ、わかったよ。じゃあ後でな」
そう返事をすると十六夜は世界の果てに向けてすごい勢いで向かい始めた。
彼が向かうのを見送ると蒼奇は黒ウサギを除く二人、春日部耀と久遠飛鳥に話しかける。
「耀さん、飛鳥さん」
「「なに?/なにかしら?」」
「僕と十六夜は世界の果てに行ってくるから。黒ウサギには言わないでね?それと止められても行くから。それじゃあ、あとはよろしく」
それだけ矢継ぎ早に告げると彼女たちの返事も聞かずにその場から転移して消えた。
蒼奇が転移した後、その場に残された耀と飛鳥は蒼奇が一瞬で消えたことに驚いた。
「「………」」
「………どうしよう?」
「………どうしようかしら?」
「「………」」
「「………そっとしておこう/そっとしておきましょう」」
二人は蒼奇の言ったことを図らずも守って?黒ウサギには言わずにそのままついていった。
それから少しして天幕が近くなると黒ウサギが声をだす。
「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れて来ましたよー!」
黒ウサギが声をかけた先にはダボダボのローブに髪の毛が跳ねているジンと呼ばれた少年が天幕の入り口にいた。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」
「はいな、こちらの四名様が――――――」
黒ウサギはクルリ、と振り返り四人のほうへ向くが、そこにいたのは耀と飛鳥の二人だけだった。
そのことを認識し少しの間固まるが、すぐに二人問いかける。
「あ、あの?もう二人いませんでしたっけ?〝俺問題児!〟って感じの方と〝僕変人!〟って感じの方が」
「ああ、それなら蒼奇君が『僕と十六夜は世界の果てに行ってくるから。黒ウサギには言わないでね?それと止められても行くから。それじゃあ、あとはよろしく』って言っていたわ。口止めされていたのだから仕方のないことだったのよ」
「うん。仕方なかった」
「ほんとは面倒くさかっただけでしょうお二人さん!?」
「「そうともいう/そうともいうわね」」
「このお馬鹿様方!」
スパパンッとどこからか取り出したハリセンで二人をたたく黒ウサギ。
「た、大変です! 〝世界の果て〟にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいて、人間では太刀打ち出来ません!」
「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンは慌てて事の重大さを伝えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。
黒ウサギは呆れつつも立ち上がりジンに話しかける。
「………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいですか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児達を捕まえに参ります。事のついでに〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
黒ウサギはそう言うと黒い髪を緋色に染めていく。そして跳び上がると外門の柱に張り付く。
「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」
言い終わると全力で跳躍した黒ウサギあっという間に見えなくなった。
「………箱庭のウサギは随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属で、様々なギフトや特殊な権限を持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の事がない限り大丈夫だと思うのですが………」
「そう、なら黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀」
ジンが自己紹介をすると、二人もそれに倣って一礼した。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。
蒼奇が召喚獣の【しまさん】に気配を頼りに転移してもらった場所は森の中だった。
「………っと!到着っ!さ~てと気配の主は~っと………この先の開けた場所か………」
何がいるのかな?彼が
そう思い先にいる生物を驚かせないように静かに、けれど素早く近づいていく蒼奇。
「さ~て、何かな~っと………おっ?」
「………」
「………」
「………(ぷるぷる)」
「………スライムかな?」
気配の主はスライムだった。見た目は紫色で大福やまんじゅうのような形で両手で抱きかかえられるサイズだ。グレープ味のグミをそのまま大きくしたらこんな感じになるだろう。
そのまま一人と一匹によるにらみ合いをしていると、スライムが突然飛びついてくる。
「………ッ!!(ガバッ)」
「おおうっ!?」
「急に襲ったりしてなんだい?なにがしたいんだい?」
「………」
「………動かなくなった?なんで?」
「………」
「………お腹が空いてるなんていうベタな理由だったりしないよね?」
「………ッ!?(ブルブル)」
蒼奇の質問に体を大きく震わせて応答するスライム。その反応に多少の呆れを含んだ息を吐きながらも影の中に食べ物がないかを確認し始める。そうすると蒼奇本人が入れた覚えのないもの、主に食べ物が入っていることに気づく。それも誤って入れてしまったという量ではない。千人が一年は飢えを凌げるのではないかというほど大量に入っていたのだ。影の中では外の世界よりも時間がゆっくりと進むように設定している場所や完全に時が止まっている場所も存在させている。そこに大量の食料品が置かれていたのだ。
心の中でこれらの食料を入れたと思われる召喚獣たちに怒りを覚えればいいのか感謝の念を送ればいいのか困りながらも影からチョコレートを取り出しスライムに差し出す。
「これ食えるか?」
「………(プルプル)」
蒼奇がチョコレートを差し出すとスライムは体から触手を伸ばして彼の手からチョコレートを受け取り、体に取り込む。すると瞬く間にチョコが小さくなっていき最後には完全に消えた。
そのことを確認した蒼奇はスライムに話しかける。
「満足かい?」
「………(プルプル)」
尋ねられたスライムは満足そうに体を震わせていた。それを見た蒼奇も満足そうに笑みを浮かべる。
「そう、それは良かった。………それで僕が君に会いに来た本題なんだけどさ」
「………?」
「僕と一緒に来る気はない?」
「………」
「………今なら食事と屋根のある寝床付きだよ」
「………ッ!」
蒼奇の言葉を聞いたスライムは勢いよく蒼奇に飛び込む。思いのほか欲望に忠実なスライムなようだ。
スライムの反応に再び満足した蒼奇はスライムを抱きかかえたまま立ち上がり、その場を後にしようとする。
「さてと、十六夜と合流するかな」
蒼奇は十六夜の気配を探りはじめ、すぐに見つけることに成功したが、もの凄い速度で移動中のため合流するのが憚られる。
そこで後回しにしていたことを先にしてしまおうと思い、スライムに話しかける。
「そういえば君、名前あるの?」
「………?」
蒼奇の質問に身じろぎするスライム。
「その反応はなさそうだね。………じゃあ僕が決めるよ。そうだね、君の名前は~、ネロ。ネロでいいかな?」
「………ッ!(プル)」
「………それって、気に入ったっていう反応でいいのかな?」
「………♪(プル)」
「あはは、そうみたいだね。じゃあ改めて、僕は蒼奇だよ。よろしく、ネロ」
そうやって、スライムのネロと戯れている間に十六夜も目的地である世界の果てに着いたようで気配は動いてはいなかった。
「じゃあネロ、移動するよ」
「………(プル)」
ネロを上着のフードの中に入れて立ち上がる蒼奇。
そして、影の中にいる召喚獣【しまさん】に転移を頼む。が、
「………………しまさん?」
『……………』
「……………忘れていたわけじゃないよ。ただ、空気だっただけで―――」
『……………ッ』
「ちょッ!?さらにいじけないでッ!!僕が悪かったから!!」
蒼奇は必死に謝り、何とか機嫌を直した【しまさん】が転移してくれるのに少し時間がかかった。
機嫌を直した【しまさん】によって寸分のズレもなく十六夜のすぐ横に転移した蒼奇。
いきなり現れた蒼奇に一瞬驚きはしたもののすぐに表情を戻す十六夜。
「やぁ、十六夜。少し遅れちゃったかな?」
「いや、ちょうどいいぐらいだぜ?………んで、フードのそれはなんだ?」
「そうかい?ならいいけど。それとこの子は僕の寄り道の結果………かな?………逆に聞くけど
「あん?」
『………ほう。貴様らのような人間が来るのはいつ振りか。ここに来たということは試練を受けにきたのだろう?さぁ、試練を選べ』
蒼奇が指をさしながら十六夜に何かを尋ねる。その方向には白い大蛇がいた。蒼奇は気配を感じ取るとすぐに神格持ちだと気づくが、それと同時に興味もなくした。
それは何故か?そんなものは単純だ。相手しても楽しめそうにも興奮できそうにもなく、つまらなさそうだったからだ。一言でいえばあの蛇が弱かったから。
だから、
「十六夜」
「なんだよ?」
「あれの相手は譲るよ。いや、むしろやってくださいお願いします」
「あん?ビビったのかよ」
「うん」
「………お前、意外と小心者だよな」
「僕は生まれた時からそうだよ」
「………ハァ」
十六夜は失望したのか溜息を吐く。それを横目に蛇を見据える蒼奇。
『なにをしゃべっている?早く試練を選ばぬか!』
「ハッ!先にお前が俺を試すのに相応しいか試してやるよ!」
大蛇がそう叫ぶと十六夜がその言葉を一蹴すると同時に殴りかかる。
ああ、神格持ちなら蛇と人間程度の差じゃ普通のパンチは効かないのに………。などと思っていたが、蒼奇のその予想に反し、効かないどころか一発で倒してしまった十六夜。
そのことに目を見開いて驚く蒼奇。だが、それを十六夜に見られないようにすぐに表情を取り繕う。
そして、元の世界では定番であった
「やったか!?」
「おいこらやめろ」
蒼奇はこのネタが通じるのかと内心戦慄していた。もしかしたら十六夜の世界も似たような代物があるのだろうか、と。
「いや、定番かなって」
「いや、まぁ、そうだけどよ」
「ああ、それと黒ウサギが近づいてきてるよ」
「あ?マジかよ」
「うん。たぶんそろs「この辺りのはず………」………ほらね」
「ヤハハ、正確だな。って、黒ウサギ。どうしたんだその髪の色?」
多少、黒ウサギに言葉を遮られたのを心の中で気にしながらも、大蛇の気配がまだ動いていることに気づき影の中に召喚獣【アース】を召喚する。
召喚された【アース】は影の中から蒼奇へと話しかける。
『………久シイナ』
(うん久しぶり。今回は〝身体能力〟と〝対神格〟を【同化】するよ?アースさん)
『アア………マカセろ』
(うん、今回も頼りにしてるよ)
頭の中に響く低く深い声に返答しながら着々と戦闘準備を始める蒼奇。
「もう、一体何処まで来ているんです!?」
「〝世界の果て〟まで来ているんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ」
「そうだよ。僕らは湧き上がる好奇心を抑えることができなかったんだから、大目にみてよ」
「「ねぇ?/なぁ?」」
「このお馬鹿様方!!」
十六夜と蒼奇は声をそろえて頷く。そのことに黒ウサギが激昂し、声を荒げる。
「ま、まぁ、それはともかく!十六夜さん達が無事で良かったデス。ここに来る途中、水神の眷属のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」
「水神?―――ああ、アレのことか?」
「だろうね。神格も持っていたし」
二人のその言葉を聞いた黒ウサギは「え?」と声をこぼす。彼らが指示した方向には十六夜に殴り飛ばされて水面に浮かんでいる大蛇の水神の姿があった。
すると水神は水飛沫をあげながら勢いよく起き上がり、叫ぶ
『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』
その叫びと呼応して水面からいくつも水柱が生える。
水神の叫びに驚きながら黒ウサギが反応する。
「蛇神・・・!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか!?」
黒ウサギが喚きながら二人に詰め寄る。
当の二人は飄々として態度で返事をする。
「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか言ってくれたからよ。俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。結果はまぁ、残念な奴だったが。あとそこにいるバカに押し付けられた」
「ちゃっかり僕に責任を押し付けようとしてない?十六夜。それにしても丈夫だねぇ、あの蛇」
「お前が生存フラグなんか言うからだろ」
「え、マジで?じゃあ、僕が相手した方がいいのかい?」
「おう」
「はぁ、じゃあこの子持ってて」
『貴様ら………付け上がるな人間共!我がこの程度の事で倒れるか!!』
蒼奇がネロを十六夜に預けてしかたなく水神の方へと向かっていく。
召喚獣である【アース】と〝同化〟し、〝身体能力〟と〝対神格〟を使用する。
「お二人とも、下がって!」
黒ウサギがそういって蒼奇の前に出ようとするが、十六夜と蒼奇の二人がそれを制す。
「あの蛇はもうアイツの獲物だ。邪魔はすんなよ?」
「悪いけど、もう僕の獲物だ。邪魔をするなら黒ウサギでも容赦はしないよ?」
二人が同時に言う。その言葉を聞いた水神がフッと鼻を鳴らす。
『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様らの勝利を認めてやる』
「ごめんね?僕は喧嘩を売りに来た相手は倒さなきゃ、気がすまないんだ」
『フン―――――その戯言が貴様らの最期だ!』
その言葉を聞くと同時にさっき〝同化〟させておいた〝身体能力〟と〝対神格〟。ダメ押しでアースの
『なんだと!?』
「なんで蒼奇さんに神格が!?」
蛇神が驚愕した隙に頭上へと跳ぶ蒼奇。
そして、蛇神の頭を――――――
「往生際が悪いんだよ、お前。敗者は敗者らしく潔く負けを認めていろクソ蛇」
――――――蹴り落とした。
「やっぱ、神格持ちでも弱いほうだね」
そう言って地面へと着地する。
やはりつまらなかったな、と予想通り過ぎてなおさら落胆する蒼奇。
(アースさんありがとう。助かったよ)
『アア・・・まタ呼ベ』
(うん。必要ならそうするよ)
蒼奇は【アース】にお礼を言いながら、〝同化〟を解いて送還する。
そして、うまく地面に着地したのだが、残念なことに水神を水面に叩きつけた際に生じた水柱を盛大に頭から被ってしまう。
蒼奇は溜息を吐き水を滴らせながら十六夜からネロを受け取ろうとする。が、ネロは腕をするりと抜けて地面へと着地する。どうやら濡れた状態で触られたくないようだ。
そのことを理解すると大人しくネロを捕まえようとはせずに、服を乾かすことに専念する蒼奇。
そして十六夜が蒼奇に話しかける。
「やっぱり強かったんだな、お前」
「誰も弱いなんて言ってませーん。ただ戦うのが面倒だっただけだよ。それにあんなに弱いのを相手にしてもつまらないし。というか、そういうことなら十六夜だって出鱈目だよ。普通、ではないというのはわかってたけれど、神格を持たない人間が神格持ちを殴り飛ばすなんて普通は無理だよ」
「ヤハハハハ!お互い様ってことかよ!」
「そうそう。お互い様。でも、君の喧嘩を横取り?しちゃってよかったのかい?」
「ハッ!譲ってやったの間違いだぜ?」
「……………僕の力が見たかっただけだろうに」
「ヤハハハハハハ!!」
二人がたわいない会話をしている横で、黒ウサギは見事に固まっている。
(蒼奇さんが………神格持ち!?ですが神格を感じたのはあの一瞬だけ………それに話を聞いている限りでは十六夜さんは………人間でありながら………神格を殴り飛ばす………?そんなことが本当に………?)
「さてと、黒ウサギ。僕は蛇神にゲームの報酬の要求と治療をしてくるよ」
「……………………」
「黒ウサギ?」
「え?………あ、は、はい!」
「じゃあ十六夜。黒ウサギの尋問、よろしく。君に丸投げするから」
「おう。任せろ」
「………え?」
それだけ十六夜に伝えると蒼奇は蛇神に駆け寄っていく。
「さてと、黒ウサギ――――――
――――――オマエ、何か決定的な事をずっと隠しているよな?」
そんな言葉を小さく耳にしながら………。
次話は明日か明後日中には投稿予定。