「これは一体どういうことだ!?」
マンドラの恫喝にも似た声が宮殿内に響いた。
魔王連盟が消えた後、〝ノーネーム〟のメンバー及び蒼奇には間諜の疑いをかけられていた。サンドラを連れだした容疑でジンと里桜は投獄され、召集会に参加させるかの審議にかけられていた。ただし、ジンと共にいたペストは蒼奇の交渉により投獄を免れ、現在ネロとともに蒼奇の膝の上にいた。
そして、〝ノーネーム〟の三人はマンドラの問いに対して声を合わせて。
「黙秘権発動」
「拒否権行使」
「以下、同文」
「右に同じで」
「こんな時ぐらい真面目に答えられんのか貴様らあああああッ!!!」
「「「「無理」」」」
マンドラは執務机をちゃぶだいよろしくといったようにひっくり返す。
問題児三人+人外は事情聴取の場にあっても泰然と構え、むしろマンドラを責めるように睨み付ける。
「逆に君らの方はどうなのさ。別に怪しさではそっちも負けてないと思うけど?」
「ああ。ジンとペストに里桜を連れだしたのはサンドラって話じゃねえか」
「それに一緒にいた魔王連盟の子供。前々から宮殿に出入りしていたそうじゃない?」
「・・・蒼奇の言う通り、怪しいのは〝サラマンドラ〟の方」
正論を返されたマンドラは押し黙ってしまう。
怒りは溜まりに溜まったまま吐き出すことも出来ずに終わったが、少しは落ち着いたようで椅子に腰かけ、痛む頭を抱えるように溜息を吐いた。
「それについては、我々にも咎がある。実は、」
「〝ハーメルンの笛吹き〟の魔導書。アイツらから買い取ったんだろ?」
「うわっ、そうなんだ。羨ましいなぁ・・・。そんなことならもう少し早く箱庭に戻ってればよかったよ」
「「「「・・・・・・」」」」
「・・・あ、あはは・・・や、やだなぁ~。冗談だよ、冗談。だからそんな冷めた目で見ないでくれる?」
蒼奇の発言を聞いた四人は冷たい視線を浴びせる。そんな蒼奇をおいて三人はマンドラに問いかける。いつの間にかマンドラからの事情聴取ではなくマンドラへの事情聴取に変わっていたが、そのまま話が進んでいく。
マンドラはあの二人の子供以外にも三人。初老の従者とローブ姿の女性、金髪のメイドがいたことを話しそいつらが白夜叉を巻き込むことを吹き込まれたらしい。
「・・・面倒な相手だねぇ。ていうか仮にもコミュニティの上の立場がうまい具合に踊らされてんじゃないよ」
「しかし・・・」
「しかしじゃなくてね。おいしい話には必ず裏があるんだよ?それぐらいは理解してるんじゃないかい?まぁ、過ぎた話だからもう何も言わないけど」
「すまない・・・」
「いいよ別に。それにしてもあの旗印、気に食わないねぇ」
蒼奇はペストの頭に顎を載せて不機嫌そうな声でつぶやく。
「旗・・・〝尾を喰らう三頭の龍〟か」
「そう。〝ウロボロス〟だね。ものによっては一頭だったり二頭だったりするけど、尾を食べてる姿で思いつくのはそれぐらいだしね。・・・あれってどういう意味だっけ?」
「『死と再生』とか『循環と回帰』とか、何かしらの不死性の象徴として扱われるのがポピュラーだったはずだ」
「ああ、そうだった。それ以外にも『始原性』や『完全性』とかもあったっけか」
蒼奇と十六夜の会話にその場にいた人たちはついていけなかった。
「まぁ、そこらへんも後で話し合おうか」
「ああ、そうだな。お前の話も含めて、な」
「ありゃ、残念。忘れてくれてればよかったのに。・・・でも、そろそろ敵も動き始めたんだから頑張ってねぇ」
蒼奇のその言葉に強く頷き意気込む三人。
「まぁ、その前に問題が一つあるけどね・・・」
「「「・・・?」」」
「蒼奇君。その問題っていうのは何かしら?」
「ああ、それは―――「ヤ、ヤホホヒョヒョヒョ!!?〝ノーネーム〟の皆さん、大変でございますよ!!?」―――見に行けばわかるよ」
ジャックが扉を開けて飛び込んできた。そして蒼奇はやや疲れたような表情で三人に促す。二人の言葉を聞いた三人は一先ず話を聞こうとジャックに声をかけた。
「どうした、ジャック」
「何かあったの?」
「おなか減った?」
「それは貴女ですよ春日部嬢!」
「うん」
「足りないだろうけどサンドイッチあげるから我慢して。一応緊急事態らしいからさ」
ぐぅー。とおなかを鳴らしながら蒼奇からサンドイッチを受け取り食べ始める、いや食べ終わった耀。
しかしジャックはそんな耀に気にせずに廊下を指さし、
「黒ウサギ殿が・・・く、黒ウサギ殿が、大変なことに・・・!!?」
あーやっぱりか。と蒼奇は心の中でつぶやいた。
「三人とも、先に行っててよ。僕はマンドラにご飯とジン君の釈放を要求してから行くから」
「頼んだ!」
「任せたわ!」
「ご飯はたくさん!」
「そ、そんなことを言ってる場合じゃないですヨ!」
そして四人はあわただしく部屋から出ていく。
「・・・行かなくていいのかしら?」
「読めてたことだし、命にかかわることじゃない。僕がどうにかしようにもやった場合、僕自身がどうなるかはわからないからね」
今まで黙っていたペストが話しかけた。蒼奇は冷静に答えた。まるでこのシナリオこそが正しいと言ってるかのように。だが、黒ウサギの状態を元に戻す場合は最悪死ぬ可能性があるのもまた事実だった。
「さて、マンドラ」
「・・・なんだ」
「次からはこのようなへまはしないようにね。誰のせいとか決まったわけじゃないけど、経験的にはサンドラよりは君のほうがまだ上だ。シンにはそういった才能がないからね。・・・任せたよ?」
「ああ。わかっている」
「ならよし。ご飯はよろしくね。それとジン君も。それじゃあ僕も黒う—――」
蒼奇の言葉はそこで途切れた。なぜなら、
「来い!」
「来なさい!」
「来て!」
問題児三人に首根っこを引っ掴まれてすごいスピードで攫われていったからだ。
「「「・・・」」」
その場に残された二人と一匹はただ呆然とするしかなかった。
そしてペストが一番早く回復して声をかける。
「・・・私も黒ウサギのところへ行くわ。それじゃ、また」
「あ、ああ」
「ちょッ!?首っ!首締まってるから!!」
蒼奇は首や襟首を引っ張られたまま黒ウサギのいる部屋へと連れていかれた。
「オラァッ!!」
「ちょっ!?投げんな!!?」
部屋の前まで来たと思ったら十六夜は蒼奇をドアへとむけて全力で投げた。そのまま蒼奇は勢いのままにドアを破壊し、無理やり勢いを殺して壁にあたって止まる。
「痛い・・・。急になんなんだい?」
「「「あれをどうにかしろ」」」
「すみません蒼奇さん・・・。どうにか、できませんか?」
「無理。最悪僕が死ぬから」
四人が言っていることは黒ウサギの頭、ウサ耳のことだろう。〝月の兎〟の象徴である耳がない。原因ははっきりしている。
「必勝の槍と黄金の鎧を併用するからペナルティを受けたんだよ。前なら〝月の兎〟の神格を与えれば解決したけど、今の僕じゃギフトを与えることは僕の命を削ることになる。〝月の兎〟の神格とペナルティの帳消しなんて死んでやっとのことはしたくないね。それぐらいは自分でわかってるんでしょ、黒ウサギ」
「うっ・・・はい・・・」
「・・・ペナルティ?」
そこで、耀が疑問の声をあげる。
「そう、ペナルティ。黒ウサギが使ったギフトは英雄カルナの槍と鎧だ。でも、カルナはそれは一度も同時に使ったことがない。使えなかったんだ。黒ウサギはその伝承を破って併用したんだ。だからそれ相応、という割にはだいぶ軽いペナルティで済んでるけどね」
「これで軽いのかしら?」
「軽いね。最悪消滅や死ぬことさえもあり得たから。神格だけで済んでよかったといえなくもない。まあ僕のやらなきゃいけないことが済んだら神格を与えてあげるから待っててよ」
「・・・はい、わかりました・・・って、それじゃあ蒼奇さんはっ!?」
「えっ?死ぬけど?」
「だ、ダメでございますよ!黒ウサギの責任で神格がなくなったのに、蒼奇さんが命をかけてするほどでは!」
「いや、どうせ老い先短いからね~。それならいっそ誰かの役に立って散りたいよね~」
「・・・はっ?」
「僕はもって一年ぐらいかな?もしかしたらもっと短いかもね。力も衰えて、全盛期の三割も出せないし」
「ど、どういう、ことでございますか?」
「もう僕もお爺ちゃんで寿命がきたってことってこと。わかりづらかったかい?」
「蒼奇さんは、死なないのでは・・・?」
「生物的にはね。でも僕は物質的に死ぬんだよ。物の寿命ってやつさ。体が粉々になって塵のように消えていく。それが僕の死だよ。だから最後くらいはさ、僕の好きなように命を使わせてよ」
『・・・』
蒼奇の話を聞いた人たちは全員押し黙ってしまう。
「・・・今更でございますが、蒼奇さんって何者なんでございますか?」
「昔、魔王をやってただけでーす!」
「・・・はい?」
『あぁ・・・』
「結構面白かったんだけど、挑戦しに来る人がいなくなったからやめたんだよね~」
黒ウサギは固まるが、それ以外は納得したような声をあげる。
「話が聞きたいなら、僕以外から聞いてよ。正直、僕は自分の評判なんて気にしたことないから箱庭の古参にでも聞いてよ。〝青き魔王〟とか〝恐怖の魔王〟とかっていえば伝わると思うから。じゃ、僕は逃げます!それでは皆さん、またお会いしましょう!良き休息を!」
「えっ!?蒼奇さん!?」
黒ウサギが声をあげるが、もうすでに蒼奇の姿はなかった。
「・・・えっと、一体誰に聞けばいいんでしょうか・・・?」
『さぁ?』
その場に残された黒ウサギはほかの人に尋ねるがたった一言で捨てられてしまった。
次も一週間以内に投稿します。