蒼奇は一先ず自分が最優先して終わらせるべき事柄をやり遂げて安心していた。
そのためのんびりと廃都へと向かいながら、気配の動きで戦況を確認していた。
「・・・みんな、頑張ってるねー。・・・・・・これなら正史のままなのかな?だったら少しぐらいサボっても―――」
そんなことを考えていると『世界』から思念が飛んできた。『三頭龍をちょっと痛めつけちゃってYO!』と、なんともふざけた感じで。
「・・・へーへー。やっぱりちょっと三頭龍さんの霊格が高いんですか、そうですか。そういうことならちゃんと『修正力』として働きますよぉー!つかもっとマシな言い方をできなかったんですかねー!?」
後半は
「つっても、正史を捻じ曲げないタイミングでの介入って・・・。まーためんどくさい要求をしてくれるもんだなぁ・・・くそ。まず正史を知らないんですけど・・・」
難しい要求を出してくる自身を生み出してくれた存在に文句を言う。
「はぁ・・・。とりあえず急ぐか。なぜか主催者たちは揃い踏みだしね」
そういうと、すぐに蒼奇の姿はその場から消え失せた。
蒼奇が尖塔群が倒れ廃都と化したロンドンに着き、裂傷を負った鵬魔王と苦い顔をした主催者たちを遠目から確認した。その中に血塗れの十六夜の姿も確認できた。そして彼らから少し離れたところに三頭龍の気配を察知した。
「・・・先手必勝、かな?」
しかし、蒼奇は立場上三頭龍を倒すことはできない。してはいけない。だからせいぜい時間稼ぎと相手の弱体化程度がちょうどいいと考え、主催者たちの横を通り過ぎて三頭龍に建物を壊しながら一直線に向かう。
「な、なんやッ!?」
「くっ!?」
通り過ぎた際に発生した暴風に驚く主催者たち。それでも蒼奇はそんなことはお構いなしに三頭龍へ突っ込んだ。
「ちょっと付き合ってよ、大魔王さん!」
『グゥッ!?』
蒼奇は三頭龍の真ん中の首を鷲掴み、建造物を破壊しながら五人から引き離す。
蒼奇が過ぎ去り、三頭龍を掴んで連れていく。そんな光景をまともに見ることもかなわず何が起こったか理解できていない四人。
「なんや、今のは・・・?」
「・・・わかりません。ですが、今の行動から敵ではないのは確かでしょう」
「そうだな。これはチャンスだ。一度態勢を整えるためにもここは退くぞ。それに鵬魔王殿の手当てもしなければならん」
「・・・ええ。そうですね。何者かはわかりませんが助かりましたね」
「ああ。クロア、聞こえるかッ!聞こえたら私たちを回収してくれッ!!」
そしてそこから空間を跳び、姿を消した。
「・・・うん。ここらへんかな。・・・じゃあ、少し、遊ぼうか。〝絶対悪〟」
『誰かと思えば、貴様か・・・〝絶望〟』
「そうだよ。久しぶり。寝起きにしては元気そうじゃないか」
『そういう貴様は、随分と矮小な存在になったものだな』
「それでも、君を相手に時間を稼ぐことはできる。そのうえ僕は君を倒すつもりはないし、逃げに徹しても構わないからね」
『・・・フン。〝最も恐れられた魔王〟と呼ばれた奴が甘くなったものだな』
「フフッ。そうかもね。・・・ま、とりあえず―――
蒼奇の姿が三頭龍の前から掻き消え、
―――片腕はもらったよ?」
気が付けば三頭龍の後ろにいて、その左手には白い四本指の左腕が握られていた。しかも丁寧に切り口は血が出ないように焼かれた状態で。
『・・・ッ!?貴様ッ!!』
「まだ遅いんだよね、これ。最盛期とは比べ物にならないな。・・・これで調整は成功したのかな、『世界』?」
そんなことを言いながら吹き出した血によって生まれてくる双頭龍をすぐに首を刎ね飛ばして始末していく。そしてすぐに切り取られた方の傷口も焼く。
「主催者たちも退避したみたいだし、これで僕はお暇させてもらうかな」
『・・・なぜ、こんなことができた?』
「そうだね。・・・修正力の力とでも言っておくよ」
それだけ言うと蒼奇は〝神出鬼没〟を使って吸血鬼の城へと転移した。
転移した先は大広間の入り口付近だった。大広間にいた人々はは突然現れた蒼奇に驚いて警戒するが、そんなことは気にすることなく平然と尋ねる。
「・・・指揮してる人物はだれ?」
「・・・サ、サラ様、だと、思います・・・」
「そっか。ありがとう」
近くにいた人に今回の中心人物を聞くとすぐに気配を探り当てて、そこに向かう。
「ここ、だね。失礼するよー」
「・・・貴様は、誰だ・・・?」
「んー?・・・〝青き魔王〟、〝恐怖〟、〝絶望〟。有名どころはこんなもん?追加で館野蒼奇かな」
「・・・っ!貴方がそうだったのか・・・。それで、何の用だろうか?」
「これ、そっちで処分しといて」
三頭龍の腕を投げ渡す。
「なッ!?こ、これは・・・!?」
「今の僕じゃ片腕をもぎ取るのが限界だったよ。それにこの状態も長く続かないし、解けたらたぶんもう戦えない。だから、少しでも希望を見せたかった」
「・・・そうか」
「ってなことを言ってみる」
「はっ・・・?」
「まあ、それはあげるからどうにかしてよ。僕はもう限界だ」
「・・・感謝する」
「いいよ別に。じゃあ失礼するよ」
次はレティシアとかジャックあたりにでも会いに行くかと考えながら、気配を頼りにふらふらと城の中を歩き回る。そうして再び大広間に辿り着きレティシアやジャックの姿を見つけると駆け寄る。
「やあ。大丈夫そうだね」
「「「・・・ッ!?」」」
「そんな警戒しないでよ。姿も気配もだいぶ違うけど、一応蒼奇さんだから」
「・・・主殿?その姿は・・・?」
「僕の昔の魔王としての姿、かな?まあそんなことはどうでもいいよ。僕の時間稼ぎはうまくいったんだね」
「・・・?ああ!あんとき通り過ぎたんは君やったんか!」
「そっ。それで十六夜や鵬魔王は?」
「とりあえずどちらも無事だ。主殿に関しては生きているのが奇跡なぐらいだが」
「そっか。・・・ところで車椅子とかってある?」
「・・・?なぜですか?」
「・・・うん。それはね~・・・いや、見せた方が早いかね」
そういって蒼奇は体内の青鬼を減らしていき、元の姿へと戻していく。
そして、
パキンッ!
という軽い音が二つ響き、その直後に蒼奇が前方に倒れる。
「ッ!?主殿!?」
「いや、平気平気。とはいえ足以外はだけどね」
「足?・・・ッ!?」
蒼奇の足を確認した三人は目を見開いた。なぜなら、蒼奇の足は二本とも膝上あたりまで陶器のように砕け、粉々になっていたのだから。
「それで車椅子はあるかな?」
「す、すぐにお持ちしますヨッ!!」
ジャックが迅速に行動して車椅子を取りに行く。
「これは一体・・・?」
「もうすでに僕はたとえさっきの姿でも戦える状態じゃなかったんだ。体が限界だからね。それでも無理して戦おうとすると完全に体が砕けてしまうんだ。僕はもう戦力としては数えることはしないでほしいかな」
「そう、か。主殿なら戦力として申し分なかったのだがな・・・」
「仕方ないよ。造られた不完全な命で一万年ぐらい生きられたのなら十分だよ。だからこそ、今回のゲームはみんなでぜひとも勝ってほしい」
「ああ。僕らに任せとき」
「うむ。主殿は十分やるべきことをした。ゆっくり休んでくれ」
「うん。そうさせてもらうよ」
「お待たせしましたよ!」
そこへジャックが車椅子を持ってきた。
「ありがとう」
「乗せましょうか?」
「いや。そこらへんは魔術で何とかできるから」
そういって自身の体を浮かせて車椅子へ座る。
「さて、これからどうするんだい?」
「まだ飛鳥や黒ウサギが「それなら平気。教え子たちに行かせてるから」・・・そうか。ならば問題ないだろう」
「うん。もし会議をするようならぜひとも呼んでほしいな。こんなんでも少しぐらい役に立ちたいんでね」
「ああ。わかった」
「ありがとう。じゃあ僕は魔術で重傷者を治療して回るからよろしく」
蒼奇はその場を離れて、まずは火龍のいる中庭へと向かっていく。
「・・・一体、彼は何者なんや?」
「さてな。主殿は謎の多い人だ。何かを話すときも嘘を入り混ぜて決して真実を言おうとはしない。ただ、」
「・・・ただ、なんや」
「・・・いや、何でもない。気にするな」
「・・・気になるやないか。さっさと言いや」
「何でもないと言っている。さあ、主殿についてはこれで終わりだ」
そう区切って足早にその場を去っていくレティシア。それを訳も分からず見つめる蛟劉とジャックがそこにはいた。
(・・・ただ、とてつもなく恐ろしい人物だ。だが、同時に身内には心底優しい人物ということも分かっている。だからといって、こんなことはほとんどの者には言うまでもない事実だからな・・・)
その後も先ほどの言葉の続きを話そうとはしなかった。結局彼女が言おうとしていたことは本人が心のうちに留めたままになった。
そして、数時間後。
蒼奇は舞台会場といった方が正しいような会議室へと呼ばれていた。
「何でここなんだい?」
「わからない。だがここで間違いないはずだ」
「そっか。それならいいけど」
レティシアと白雪姫とともに入り口付近に陣取り話していた。
「あっ。飛鳥だ」
蒼奇は飛鳥を見つけるとひらひらと手を振って彼女に自分たちの存在を知らせる。
「レティシア!蒼奇君!あなたたちも来ていたの!?でも、車椅子・・・?」
「もちろん。ここに〝ノーネーム〟の子供たちも避難してるみたいだからね」
「ああ。リリたちと私で負傷者の介抱をしていたのだ。我らの中で前線で戦える者はレティシア殿と蒼奇殿だけだったからな」
「・・・戦ったの?〝煌焰の都〟を襲った魔王と」
「もちろん私だけではないがな。途中からは主殿に助けられたが」
「その結果がこの車椅子なんだけどね」
蒼奇は自身の両足を指さす。その足は外からは見えないようにブランケットが掛けられていたが、近くで見ればその両足がないことは一目瞭然だった。
「その足・・・!?」
「うん。少し無理したら割れちゃってね。そのうえ今じゃまともに力を使うこともできないから今までみたいな戦闘は期待しないでほしいかな」
「大丈夫なの?」
「フフッ。痛みがあるわけじゃないし、動くのが少し面倒なだけだよ。それにこんなんでもまだ戦えるよ。もう君らには勝てないかもしれないけどね」
「そう・・・」
(それに僕にはもう正史通りかどうかもわからない・・・。でも、『世界』から思念がないって事はちゃんと修正できたってことだね)
飛鳥はそれを聞くと暗い表情をしたが、すぐに切り替え元の表情に戻った。
「ジャックは少し休んでいる。蛟劉殿と鵬魔王・・・迦陵殿は、クロアに集められている」
「ゲッ!?あの変態ロリコン似非紳士が来てんのかよ」
「・・・ああ、そうだ。だが奴は頼りになる」
「いや、それでもさぁ・・・」
「ああ・・・」
「「変態なんだ(よねぇ)・・・」」
蒼奇とレティシアの思いが一つになった瞬間だった。
「だから二人は気を付けてくれ」
「うん。ストライクゾーンを外れているとはいえ狙われないという保証は一切ないから」
「は?」
「え?」
二人から一緒に忠告を受けて面食らう二人。この二人がそれほどまでに言わせる人物がいるということにも踊りを感じていた。
「しかし舞台会場で会議とはな。一体誰の提案だ」
「さあ?でも、会議が始まればわかることだと思うよ」
ここには亜龍や鬼種、幻獣や獣人たちが多く集まっていた。しかし、蒼奇の目から見てもほとんどが実力が足りてないように思えた。せいぜいシンならば多少なりとも渡り合えるだろうかと考えていると、小さな悪魔が横切っていく。
「ラプ子・・・!」
(・・・ラプラスの小悪魔?活動可能だったんだ)
ラプラスの小悪魔を見て最初に思ったことはそれだった。
休眠中の〝階層支配者〟の登場で会議室がざわめき立つ。そんな中、背丈ほどのマイクを取り出したラプ子はマイクチェックを行った。
「テス・・・テス・・・はい。皆様、ごきげんよう。長らく不在だった〝ラプラスの悪魔〟の—――」
ラプ子の話を聞きながらも彼女の登場を疑問に思い考え込む。
(ラプ子、アジ=ダカーハ、サポート・・・前の二百年前もそうだったっけ。という事は今回も同じ方法を・・・?)
隣で話を聞いているレティシアの顔色を窺うと彼女もその答えに行き着いたようで顔色が変わっていた。
(・・・ああ。これは当たりだね。また多くの犠牲を出すか・・・。僕にはもう力がない。他の人を助けることすら難しいだろうなぁ・・・。まっ、これが正史通りなら文句も何もないけど)
そして蒼奇は結論を出して華麗にラプ子の話を右から左へと聞き流した。
次は明日です。