疾走&温泉
〝人類最終試練〟の魔王アジーダカーハとの死闘から三か月。蒼奇とペストとネロは〝風浪の鉱山〟を観光していた。当然車椅子は悪環境でもスムーズに進めるように改造してある。
「本当に手を出さなかったのね・・・」
「今の僕に戦闘能力は大してない(嘘)って何度も言ってるでしょ。そんな僕が手を出しても邪魔なだけだよ(大嘘)」
事実、蒼奇は魔術だけでもそこそこ強い。それこそ全力のペスト相手に圧勝できる程度には。そんな蒼奇が参加しなかったのはもちろん正史に干渉してしまわないようにするためだった。
「嘘吐きマスター」
「貧乳」
「・・・バケモノ」
「ぺったんこ」
「・・・・・・死にぞこない」
「まな板」
「死ねこのクソマスター!!」
「はいはい。女の子が飛び蹴りなんてしたらだめですよ~。それに貧乳はステータスで希少価値だと誰かが言ってたよ」
ペストの蹴りを軽くいなしながら、車椅子で進んでいく。
「このッ!くッ!せいっ!・・・ああもう!一発くらい当たりなさいよ!!」
「いやだね。痛いし。それにさらに割れたらどうするのさ」
「そうなったら接着剤でくっつけてあげるから安心しなさい!!」
「安心できないよ!?これでも僕は一応生物なの!!」
そんなことをしながら騒がしく観光していく。
「はあっ!はあっ!・・・ふぅー!・・・それにしても、本当に他の人たちのゲームを観戦しに行かなくてよかったの?」
「一応一人ずつ送ってるから僕はリアルタイムで観戦できるよ。とはいっても結果は見えてるけどね~」
「・・・そう」
「そうだよ。だからのんびり余生を楽しむことにしたんだ!」
そうやってじっくり露店などを見て回っていたが、少し遠くの方から悲鳴が聞こえた。
「うわああああああああ暴れ牛だああああああッ!!!」
「「・・・」」
ペストはその叫びを聞いて周囲と同じように唖然として黙ってしまったが、蒼奇の胸中には様々な感情が渦巻いていた。現に今も額に血管が浮かび上がっていた。
「ペスト、乗れ。もしくは掴まれ」
「えっ?」
「さっさとしろ。さもないとおいてくぞ」
「わ、わかったわ」
蒼奇の声から彼が怒っていることを察したペストはおとなしく蒼奇の膝へと座った。
「よし。しっかり掴まってろよ。よし、全速前進DA☆」
「えっ、ちょっ―――!?」
ギュンッ!という音を出しながら猛スピードで鉱山を駆けていく。
そして再び悲鳴が上がる。
「うわああああああああ暴れ車椅子だああああああッ!!!」
「ちょっと待て!?誰だ今言ったやつ!?後でシバきに来るからそこでじっとして居やがれ!!」
蒼奇は視界に一人の人物を捉えた。そこからはその男めがけて爆走していく。
そして—――
「失礼ですがお名前は?それとも轢き逃げ犯とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「名前?―――ああ、そうか。人間に降天すると名前も「ここで会ったが百年目ぇ!!死にさらせくださいやがれこのクソヤンキー!!」ヘブァッ!?」
「「あっ」」
そのままの勢いで飛び上がり男の顔面をメキャッ!という音とともに轢く。
「て、てめ、なにを—――「オマケェ!!」オブァッ!?」
完全には使い切れなかった勢いを利用して一回転して顎を打ち上げる。いわゆるサマーソルトだ。それを喰らった男は後ろへと倒れていく。
「ふぅ、スッキリした」
「目、目が回るうぅぅ・・・」
「『スッキリした』、じゃねぇよ・・・!!いきなり何しやがる!?」
「轢き逃げとサマーソルト。あと暴力。反省はしていない。そして後悔もしていない!むしろ清々しいね!!」
「うるせぇ!!」
ワーワーギャーギャーと騒ぎ立てる男に対して耳を塞いで煩わしそうにする蒼奇。そんな光景を呆然としながら見つめるその他一同。
「ほら、僕にかまってないで自己紹介したら?僕自身今の君を何て呼べばいいか困ってるんだ。もちろんそのまんまはダメだ」
「・・・ちっ。あとで覚えてろよ・・・。それで、俺の名前だったな。あー、そうだな・・・決めた!俺の名前は御門―――そう、御門釈天だ!」
「―――な、」
蒼奇を除く全員が唖然とする。その様子を不機嫌そうに見つめる蒼奇。そしていまだに目を回しているペスト。
「所属コミュニティは上層を繋ぐ〝忉利天〟。この度は〝護法十二天〟の使者として、〝精霊列車〟の開発に協力しにきてやったぜ!」
「あっ。こいつはお前らが想像してる存在で間違いないから。それとこいつ態度なんて気にしないから普通に接していいよ。僕なんてかなり蔑ろにしてるし」
「テメェは死ね」
「心配しなくてももうすぐ死ぬよ」
「くそ、ああいえばこう言ってきやがって。相変わらずいけ好かねぇ奴だな」
「逆に言わせてもらうけど、君が行動していい結果になったものを数えた方が早いぐらい面倒くさいことしてるよね?僕は君のそういうところが苦手、いや嫌いだ」
そしてまた二人は言い争いを始める。
「おい、ネコミミ御チビ。蒼奇の言う通り、俺の想像通りならコイツはまさか・・・」
「・・・はい、間違いないっす」
三者三様の表情をする一同。だが、大半はいい顔をしていない。当然だろう。この人物、釈天の評判を聞けば誰だってそんな顔をしたくなるものだ。
鵬魔王曰く、〝動けばいらないことしかしない駄神〟。
蛟魔王曰く、〝天界のヤンキー兄ちゃん〟。
蒼奇曰く、〝無駄に力を伴ってる鬱陶しい奴〟。
武神衆・〝護法十二天〟の長にして箱庭の都市を統べる一人。
最強の軍神(笑)〝帝釈天〟その人である—――!!!
その後は釈天が黒ウサギの代わりに審判を買って出たが、そのまま立たせるとまずいので緩衝材にリリを挟んでゲームが進行し、無事に終了した。
蒼奇がじっとしていろと言った通行人は当然のように消えていたが。
そして今は、
「よーしよしよしよしよし、頑張ったな!見かけより飲めるじゃねえか、ギリシャの若人!ほれ、仲居の娘たちも拍手拍手!」
「キャーすごーい♪」
「ギリシャの若人様すごーい♪」
「ギリシャの・・・ええと、名前はなんでしたっけ?」
「馬鹿ね。〝ペルセウス〟の若頭でルジーイ様よ」
「・・・うぇっぷ」
「ハァ・・・コイツといるとこうなるから嫌いなんだよ・・・」
〝サウザンドアイズ〟の旅館銘湯〝少彦名の湯〟で温泉、酒、女のいる場所で接待していた。
「十六夜。突っ立ってないでこっちに来てくれ。さすがにこいつの相手はつかれる」
「ん?おお、来たか十六夜。さっさと来い。お前も飲むだろう?」
「お前らも楽しんでるか?」
「僕は見ての通り疲れてるよ。グリーは普通に酒を楽しんでるけど・・・」
「うむ。この御神酒という酒は悪くないぞ」
「だそうで・・・」
十六夜は御門釈天に気づかれないようにグリーの隣に腰を下ろす。一言二言交わすと彼は盃を手にしてグリーによって注がれた酒を呷った。
「それで?随分と盛り上がっているみたいだけど、何のゲームをしていたんだ?」
「ああ。一升瓶一本を空けたら武勇伝一つ、っていう感じだよ」
「うむ。ルイオス殿は三本目で倒れたな」
「ちなみに太陽神との決闘と阿修羅族との戦争がすんだところだね」
「今は〝七大妖王〟の征伐についてだったな」
そこで盃を傾けていた十六夜は苦い顔をした。
「・・・それはまた荒れそうな話題だな。蛟劉や迦陵ちゃんには聞かせられねえぞ。つかアイツらは御門釈天が誰なのか知ってんのかね」
「知っているはず「知っているだろうね。それどころかもう会ってきた後だと思うよ」なんだと?」
「ああ。そこの蟒蛇の言うとおりだ」
そこで二人は視線を前に移した。するとそこには御門釈天が楽しそうに仁王立ちしていた。
こんな中十六夜は警戒を解いていなかった。が、
「十六夜。警戒する必要はないよ。今のこいつは人間でお前でもどうにかできるレベルだ」
「ずいぶんひでえ評価だな、青鬼」
「うっせ。事実だろ。もう一回迦陵のところに行って殺されかけてみるか?それともお前の嫁にあることないことやまだバレてないことを吹き込んでやろうか?僕のおすすめは嫁にチクる方なんだけど」
「ごめんなさい許してくださいそれだけはマジでシャレにならないんで」
『嫁』という言葉を引き合いに出された瞬間、御門釈天の態度が一変して弱気なものへとなった。
「わかればいいんだよ、わかれば」
「ちっ、覚えてろよ・・・(ボソッ」
「悪い、十六夜。ちょっと舎脂ちゃん呼んでくるから引き止めといて。縛ってでもいいから」
「まあ待て落ち着け早まるんじゃない俺が悪かったからやめてくださいマジでお願いします」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいい。話が進まないから僕に突っかかるなよ」
それを見ていた十六夜は御門釈天こと帝釈天の格付けをかなり下げたのだった
次も明日です。