―――西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、深水碧生の四人が華乃国屋書店を回ってから軽く食事をし、最近リメイクが決まったという映画を見終わった頃。
天候は、既に荒れ始めていた。
日が暮れ、孤児院に帰るころには横薙ぎの雨風、隙間からの浸水、植木の枝葉がへし折れるなどの状況になっていた。
そのため年少組には窓が割れても飛び散らないように工夫するように伝え、西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥の三人はそれを手伝うために奔走した。そう、三人は。
四人目の深水碧生は夕食の準備をしながら片手間にやっていたため三人ほどは疲れてはいなかった。
「……とりあえず、お疲れさん」
「ほんと、散々なゴールデンウィーク初日だったな。近年稀にみる酷さだ」
「全くだよ!花壇も植木も滅茶苦茶で植え直し確定だし!非常食も全滅だ!」
「……。あのアロエは食用だったのですね、鈴華」
彩鳥は空になったティーカップを持って席を立つ。それと同時に碧生のポケットが震える。
「ん?……あ、悪い。席を外すぞ。会社から電話だ。長くなるかもしれないからあんま気にしないでくれ」
そういって碧生も席を立って二人から離れて電話に出る。
「……もしもし」
『ああ、俺だ』
「……詐欺師に知り合いはいないんだが?」
『ベタなこと言ってんじゃねえよ。こっちはスピーカーなんだよ。それより、いつもよりも忙しい食品部門と日用雑貨部門からの報告だ』
『…まず、私から』
そういって声を出したのは食品部門・部門長のアザトースことアザ。
………そう。こいつ
しかし、ものの見事強引なやり方でついてきた。
その方法は、ディープブルーコーポレーションの社屋を
余談だが食品部門で働いている社員は全員が
『…台風が通った場所の植物は全部感染…。…しばらくは支給という形で被災地域に与える予定…』
「ああ、それで構わない。元からこっちで作ってるから手間もほとんどかかってないし、利益は他部門でカバーできる範囲だ。そのままの方向で進めてくれ。で、恩を売れ」
『…わかった』
『では、次は私ですね』
次に日用雑貨部門・副部門長の月夜見が出る。そのことに碧生は疑問に思った。
「…?月夜見、天照はどうした?」
碧生は尋ねる。
なぜ、部門長の天照ではなく副部門長の月夜見が出るのか、と。
『いえ、以前から調査を頼まれていた件の報告もありますので』
「……わかった。先に部門の報告を」
『はい。報告ですが、やはり防災用品がここ一週間で台風対策のため売れてますね。しかし生産が追いつく程度ですから対して問題はありません。ですが、それも少ししたら落ち着くとは思います』
「ああ、それはさすがにわかるさ」
『はい。ですが、開発部門の方々がまたオーバーテクノ「すぐに回収して俺の世界で破棄しろ」もう実行しました』
「よろしい。それで、調査の方は?」
『…それが、うまく隠されているのか、なかなか尻尾を掴むことができませんでした。現地に赴ければ捕まえるどころか消すこともできましょうが、申し訳ありません』
「………お前らでも現地に行かなきゃ厳しいか。…わかった。そっちは今度釈天かプリトゥあたりに正体バラして依頼という形で同行してもらって俺が調査する。お前らは普段の業務に専念してもらって構わない」
『『はい』』
「それと佐藤、お前も少しは休めよ?というか休め。ゴールデンウィークぐらいはな。社長命令で休暇に処すー」
『……クビか?』
「待て。なぜそうなる?」
『今までまともに休みなんざくれなかったからな』
「お前はだいぶ成長してるからな。それに実家にもしばらく帰ってないんじゃないか?休みをくれてやるから家族に顔ぐらい見せて来い」
『………感謝します、社長』
「おう。感謝しろ。まあ、最後に他部門はどうだ?」
『特には。平常通りだ。開発部門以外はな』
「………少し、まともな奴以外開発禁止にしとけ。道具と材料も取り上げとけ。いいな?」
『それも、もうしてある』
「よろしい。じゃあ、お前らしっかり休めよ」
そして電話を切った。その次の瞬間、爆音が響いた。
そのあとすぐに玄関の方が騒がしくなった。
「くそ、何考えてるんだ彩鳥お嬢様はッ!?」
「おい、何があった!」
「鈴華が学校に行って彩鳥が様子を見に飛び出した!!」
「……ハァ。俺も行く」
そうして二人は彩鳥と鈴華のいる学校に向かった。
―――私立宝永大学附属学園正門前。
足が水に搦め捕られ遅い焰を肩に担ぎここまでやってきた。
「どっちだ?それとも飛び越えるか?」
「やめい!裏門から入る。案内するから下ろせ」
そういわれて碧生は焰を下ろす。
「こっちだ」
「おう」
先導する焰の後ろをついていく碧生。そうして校舎の横にあるはずの飼育小屋のそばまできた。が、そのとき、獣が獲物を貪り喰うような音が聞こえた。
その音を聞いた碧生は焰の肩を掴み、小声で話しかける。
(俺が先に行く。決して離れるな)
(………わかった。気をつけろよ)
今度は碧生が前、焰が後ろという先ほどとは逆の位置関係になり、校舎を壁伝いに進み端まで来ると陰からその先を覗く。
(………焰。ここじゃあんな生物を育ててたのか?)
(は?)
碧生からそう問われて焰も校舎の陰から覗くが、すぐに身を隠した。
(そんなわけねえだろ!?)
(だよな。つかお前、小声で叫ぶとか器用だな)
(いまはどうでもいいだろ、それ!)
二人が見たのは巨大な人影で、
『Gya………Gya………!!!』
家畜を貪り喰う怪物だった。
その姿は人間の三倍を超える頭身があり、強靭な上半身を最新の下半身が支えているような姿。
それが
(…二体か。どうするかな)
碧生が声に出さずに悩んでいると小屋の向こうから足音が聞こえた。
(…この音はっ………仕方ない、無理やり合わせるか)
そう決めてセリカからもらったギフトの一つ〝恩恵貸借〟で日本神話の鍛冶の神・
このギフト、〝恩恵貸借〟は契約している者に対してギフトを貸したり借りたりすることができるものでそれにより
剣が現れたのを確認すると校舎の陰から飛び出す。
碧生は近い方を走ってきた人物、彩鳥も自身に近い方の怪物に斬りかかった。
彼女は特に驚いた様子もなく冷静に碧生のことを確認したようだった。
それぞれが打ち合い、機動力を奪うために足を斬る。
しかし、彩鳥の方は十合もしないうちに吹き飛ばされた。
「ッ!?クソッ!!」
吹き飛ばされるのを見た碧生は剣を消して、すぐに彼女を回収して焰のもとに飛び退く。
「焰ッ!校舎に入りたい!入り口はどこだ!?」
「こ、こっちだ!!」
「走れ!すぐ追って来るぞ!!?」
碧生は彩鳥を横抱きにして焰についていく。
「な、なんで……二人が………!!!」
「傷が酷くなるから黙ってろ!!…いや、やっぱ黙んな!!?意識を保ってろ!焰ッ!この馬鹿を治療できそうな場所はあるか!?」
「研究室なら応急処置ができる!」
「じゃあそこに向かってくれ!こいつさっき注意したのに意識を飛ばした!!…ってマズイ!?持つの替われ!!」
「って、おい!?」
何かを感じ取った碧生は焰の背中に彩鳥を預ける。そしてすぐに後ろを向き、
『『「GEEEYAAAAaaaa―――――!!!」』』
―――二体と一人の怪物が吠えた。碧生はその咆哮と少しの間拮抗したがすぐに押し返されて三人を衝撃が襲った。
それにより校舎に亀裂が入り、窓ガラスが飛び散る。
碧生はその衝撃によって吹き飛ばされた焰と彩鳥を空中で受け止めた。
「クソッ、無理だったか!でも少しは和らげられたはず!おい、走れるよな!?」
「あ、ああ!」
「とりあえず先行しろ!軽く露払いしながら追いかける!!」
「…ッ!…気をつけろよ!」
「俺より自分と彩鳥のことを心配しろ!」
碧生は怪物の方を見ながら、声をかける。
そして三人は近くの昇降口に駆け寄り、ガラスを割って鍵を開ける。
校舎の中ほどまで進むと焰が立ち止まった。
「あっ!馬鹿、止まんな!!」
「えっ?」
焦った碧生が焰と彩鳥を抱えて走り出す。
次の瞬間、地震でも起こったような地響きが三人を襲った。
『GEEEYAAAAaaaa―――――!!!』
「ほら見たことか!アイツに常識なんてねえんだよ!!わかったら道案内するか自分で走れ!!」
「わ、悪い!?」
咆哮を上げながら昇降口に突っ込んできた。その勢いで備品が砕けて飛び散る。
怪物はこっちを確認すると校舎を削りながら向かってくる。
「なんか手はないか!?足止めできそうなもんは!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!今考え、あそこの緊急装置に!!」
「了解!もう少し我慢しろよ、彩鳥!」
一跳びで災害用の緊急装置の前に着く三人。
すると焰が装置を覆う防護カバーを外し、セキュリティコードを打ち込み、稼働用のレバーに手をかけた。
「頼む、動けッ………!!!」
そういってレバーを下げる。
「安心しろ!無理でも全員死ぬだけだ!」
「縁起でもねえことを言うなよ!?」
碧生は彩鳥を抱えながら言った。
その後すぐにミノタウロスに背を向けて走り出した。
足の怪我のせいで腕で這っていたミノタウロスだが、一直線の長い廊下に出た途端、首の付け根に巨大な鉄板が叩き込まれた。
『GYaッ!!?』
突然の出来事に呻き声を上げるミノタウロス。教室に腕を突き刺せば、そこにも遮断壁が降りて食い込む。
「完璧に入った………!どうだ牛畜生!厚さ500mmの特殊遮断壁が首元に刺さったんだ、簡単には抜け出せないだろッ!」
「俺はこの学校の設備が怖いがなッ!?なにあれッ!?」
焰は小さく拳を作って勝利宣言をする。それに対して学校にしては厳重すぎる設備に戦慄する。
その後、防犯シャッターの隣にある、内側からしか開かない非常用出口を使って外に出る。その非常口も間もなく遮断壁によって閉ざされる。
「えぇー…?」
「………驚き、ました。我が校に、こんな機能があったなんて………」
「だろうな。宝永大の研究所じゃナノマシンと並行して特殊な微生物を研究してるんだけど、中には天然痘のような絶滅したはずのウイルスを極秘裏に持ち込んだりすることもあるらしい」
「バイオハザード対策かよ……。俺初めて学校が怖いと思ったわ。いやマジで。何で人災にさえも対応してんだよ…」
完全に鉄の棺となった校舎を見て呆けた声を出す碧生。そして彩鳥を焰に受け渡す。
「…あー、まあこの際有効活用できたしいいとしよう。それで、どこに行くんだ?」
「第三学研だ。そこまで行けば応急処置ができる。そこから救急車を呼んで、話はそれから聞く。いいn「伏せろッ!!」…は?」
「クソッ!?姿が見えねえと思ったら待ち伏せとは、存外頭の回る野郎だ!!」
そのとき空から二mを越す一つの影が三人を目掛けて降ってきた。その影は二本の斧槍を上段に構えたまま飛び込んできた。
碧生は再び剣を二本取り寄せて頭上で交差させて攻撃に備えた。
しかし、四つの刃が交錯する直前。
大地が激しく揺れた。
雷雲で、天空が呻りを上げた。
西郷焰は視界を眩く満たす光に瞳をやられた。
その光は天より零れ落ちて、厚さ500mmにも及ぶ特殊複合装甲で覆われた鉄の棺を、綿でも破るようにたやすく切り裂いて大地に突き刺さった。
そして、校舎の方へと向けていた眼を不意に碧生の方へと向ける。
そこには、
「グッ…」
「なっ!?お、おい!?」
肩から胸にかけて斧槍が食い込んでいる碧生の姿があった。
「問題、ないッ…校舎の奴から目ェ離す、なッ!」
そういって自身から斧槍を引き抜く碧生。当然のように、傷口からは夥しい量の血が噴き出す。しかし彼はそんなことは気にしないかのように抜いた人の身には余る斧槍を構える。
「俺はコッチを抑えるので精一杯だ!お前はそっちの奴が襲ってこないように祈ってろ!!」
そういって、襲ってくる巨体の相手をする。できる限り焰と彩鳥から離れないように立ち回って。
受けては弾き飛ばし、受けては押し飛ばす。そんなことを繰り返す。
背後から大きな気配が迫っているのを感じながらもそっちまで相手するのはきびしい状況だった。
その気配が焰たちに戦斧を振り上げて弾丸のような速度で走り出し、二人に振り下ろされようとした、次の瞬間。
そして、その気配は一陣の風と共に現れた。
(………ハッ!遅ぇんだよ、この規格外が…!)
碧生はその人物の登場により動きを止めた巨体の人物を睨みながら、心の中で罵倒しつつも、静かに感謝した。
その人物は気配だけでも憤怒を携えているのが分かるほどで、言い放った。
「………テメェ。人の弟に何しやがる」
登場人物
・深水碧生
主人公。今回は手加減。一般人の域を出ないような手加減。だってまだバレたくないもん。今回一番走った人。だが、最後にバッサリやられた。この日は根暗のせいで雨で濡れて前髪で張り付き視界が悪かった。←今回の敗因(嘘)。
・ペスト
喋ってないだけでずっと碧生の指に嵌っている。今回一番楽をしている。
・西郷焰
原作主人公。今回たくさん走って機転を利かせた。
・彩里鈴華
最初以降出番がなかった女の子。次回は出番あるから勘弁してください。
・久藤彩鳥
今回斬られた人。一番痛い思いをしている人物。生きているのが不思議。
・アザ(アザトース)
クトゥルフ神話の神。外なる神。ロリ。幼女と言ったらすこし不機嫌になる。ただしロリはいいらしい。理由は語感だとか。
現在はディープブルーで食品部門の部門長をしている。普通に優秀な子。
・月夜見(月夜見尊)
日本神話の月の神。天照大神の弟。イケメン。性悪。
現在はディープブルーで日用雑貨部門の副部門長をしている。他にも碧生に頼まれて奇怪な現象の調査を部下を使って情報収集したりもしている。
・佐藤亮
ディープブルーの次期社長。現在は碧生の秘書。野心がない。それゆえに抜擢されて今のポジションに至る。
・ミノタウロス
原作ミノタウロスさん。今回大暴れ。
・ミノタウロス(二体目)
オリジナルミノタウロスさん。今回待ち伏せしてた賢い奴。他作品からの引用。わかる人にはわかる。
こんなところ?
次も一週間以内に上げる予定!