―――〝アンダーウッドの大瀑布〟。
貴賓室で目を覚ました焰は黒ウサギの案内によって様々な露店が開かれている市場で、彩鳥と鈴華の二人と合流した。
「お、焰だよ彩ちゃん!やっと来たみたいだぜ!」
「ええ。女性を二人も待たせるとは、仕方のない先輩です」
林檎飴を両手に持ってはしゃぐ鈴華と、イチゴのオムレットを手に持つ彩鳥。
一方の焰は目の前の光景に目を奪われたままだった。
「焰さん?どうしました?」
「あ、いや、どうしたもこうしたもないっていうか………世界規模でツッコミどころしかないっていうか、」
目の前の光景を形容しようがなく困惑したように言葉を吐く焰。
そんな焰に黒ウサギはウサ耳を揺らして笑いかけた。
「まあまあ。積もる話もありますし、まずはお昼にいたしませんか?」
「………そう、だな。いい店はあるか?それと、もう一人男がいたはずだけどそいつはどこにいる?」
「碧生さんですか?それならあちらに―――」
黒ウサギが指さしている方向には串焼きを販売している露店で何やら交渉している碧生の姿があった。
「なあ、もう少し安くなんないか?」
「おいおい兄ちゃん、こっちはこれが限界だぜ。勘弁してくれよ」
「頼むよ。うまかったら追加で買ってここの宣伝も「屋台荒らしはおやめくださいませ!!」あだッ!?」
スパァーン!と黒ウサギの
叩かれた彼は頭を押さえながら黒ウサギに文句を言いたそうな目で見た。
「何すんだよ、黒ウサギ」
「それはこちらのセリフです、このお馬鹿さま!お店の方を困らせないでください!!」
「はあ………少し商売人として指導してやってただけだろうに、まったく…」
「えっ?」
碧生の言葉に疑問の声を上げる黒ウサギ。
「おいおっさん。最低ラインはもう少し高くてもいい。客に買わせることと利益を両立させろ。利益が出なくてもいいなら構わんが。それと二本くれ。これ代金な」
「おう、ありがとよ。それにこっちも勉強になったさ。………って、これ金貨じゃねえか!?」
「とっとけよ。楽しませてもらった分と迷惑料だ。行くぞ、黒ウサギ。お前が来たってことは焰も来てんだろ?三人はどこだ?」
「え?あっ、こ、こちらです!」
そういって店の人がお釣りを渡す暇もなく足早に去って行ってしまった。
「………お優しいのですね」
「お前ほどお人好しじゃねえよ。ほら、受け取れ」
そういって買った二本のうち一つを黒ウサギに渡す。
「え?い、いいのでございますか?」
「そのつもりの二本だしな。おっ、あそこか」
碧生は焰たちを見つけるとそっちの方へと向かっていった。黒ウサギも遅れないようにとついていく。
そして、三人と合流した碧生たち。
「………何やってんだよ、お前」
「露店荒らしと屋台荒らし」
「馬鹿か!?」
「何を言う。店の人に必死に値切ってくる奴の対処法を指導してやったんだ。そのあとにちゃんと正規の価格で買った。そっちの二人が持ってるやつも俺の奢りなんだからな?」
「「うっ………」」
そういって、鈴華と彩鳥が持つものをそれぞれ指さす。
「そ、そうなのか?」
「ああ。そのうえ正規の価格の上に迷惑料とかも上乗せしてるからそこそこ払ってる」
「「「………」」」
三人がそんなのありえないといったような驚愕の表情を浮かべる。
「なんだその顔は?まあ、とりあえず昼にしたい。黒ウサギ、案内頼めるか?」
「YES!こちらですよ!」
黒ウサギが先導し、その後ろを碧生がついて歩いていく。
「………あいつ、マジでなんなんだ?」
「「さ、さあ?」」
「おーい!早く来ないと措いてっちまうぞー!」
その声で慌てて三人は先を行く二人を追いかけた。もちろん道中も四人は碧生に奢られてばかりいた。
―――〝アンダーウッド〟の水上都市。〝六本傷〟のガーデンレストラン。
西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、深水碧生の四人は黒ウサギの紹介で川沿いのレストランに招かれていた。焰の要望で〝精霊列車〟がよく見える場所を選んだようだ。テーブルには桜見鳥の姿焼き、ペリュドンのハムエッグ、巨大南瓜の冷製スープなど、見たことのない様々な料理が運ばれてきた。
なのだが、焰たち(碧生は除く)は料理などそっちのけで〝精霊列車〟の発車を食い入るように見つめていた。
「おお………!」
「………(もぐもぐ」
〝精霊列車〟が発車するたびに水飛沫を舞わせ、川沿いに大きな虹をかける。どこからともなく歓声が上がる中、碧生は黙々と運ばれてきた料理を食べていた。
「おお………!!!」
綺羅と輝く景観のあまり、テラスの柵から身を乗り出してまで眺める二人。そんな二人をよそに追加で料理を注文する碧生。そのまま運ばれてきた料理に夢中になり周りの会話が耳に入らなくなってしまう。
そして、
「ふ………ふざけるなッ!!!」
「うるさい」
ガンッ!という音を立てて碧生の拳骨が大声を上げた焰の脳天に突き刺さった。
「ガッ!?」
「少しは落ち着け」
「だけどッ!!」
「落ち着けっていってんだよ。そんなに慌ててもここにいる限りどうしようもねえだろうがよ。それに何も心配する必要はない。孤児院の近くにゃ俺の会社もある。いざとなれば俺んとこの社員がどうにかする」
「それでも七年だぞ!?」
「………この程度のゲームに七年もかけるつもりか?そんなに孤児院が心配ならば、さっさとクリアして元の世界に帰ればいいだけだろうに」
「………はっ?」
焰は素っ頓狂な声を上げる。それを見た碧生は不思議そうな表情を浮かべる。
「ん?………ああ、まだ理解しきれてないか。悪い。今のは忘れてくれ」
「いや、忘れろって言われても………ってか、このゲームをクリアしろと!?」
「そこら辺のことも含めて、そこのウサギに説明してもらえ。その間、俺は腹ごなしに少し散策してくる」
「って、おい!?」
そういって碧生はいくらかの金を置き、席を立つ。
「え、あの碧生さん!?………行っちゃい、ましたね」
四人が碧生が去っていくのをただ呆然と見つめしばらく黙っていると、黒ウサギが声を出した。
「………あ、あの、みなさんに一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「「「…?」」」
「碧生さんは箱庭に来たことがあるのでしょうか?」
「いや、そういう話は聞いてないし、あいつのことだからまず話そうとすらしないと思うが………何でだ?」
「彼が箱庭に来てから使っている、この金貨。これは〝サウザンドアイズ〟発行の金貨なんです。このようなものを持ち合わせているのは箱庭出身者、もしくは来たことがある人物としか黒ウサギは思えないのですヨ。それに先ほどの焰さんとの会話でも妙に箱庭のことを知っているような言い回しでしたので…」
そのようなことを言われた三人は疑問符を頭に浮かべるだけでその質問に答えることができなかった。
結局そのあとは結論が出るわけもなく、現在の焰の問題を解決するための話に戻った。
焰たちが今の状況をどうにかするために話している頃、碧生は店を出てその周辺を見て回っていた。
(完全に復興が完了している感じか…早いな)
『まあ、さすがに十七年も経てばそうでしょうね』
(箱庭じゃ、たった三年しか経過してないぞ、ペスト)
『………そういえばそうだったわね。あの世界で長く暮らすとどれがどの時間かわからなくなるわね…』
そんなことを話しながら碧生はペストを召喚する。その行動に目を丸くして碧生を見るペスト。
「あら、いいのかしら?」
「別に構わない。お前のことは魔術で隠蔽してるから住民も特になにも思わないだろう。せいぜい可愛い娘がいる程度の認識で、誰もお前を元魔王とは認識できねえよ。顔見知りならば危ないが、そういう奴らもここの重役とさっきのレストラン付近にいる奴らだけだしな」
「………それじゃあ、お言葉に甘えてとことん付き合ってもらうわよ?」
「………財布と相談しながらでいいか?」
「むぅ………男ならそこはドーンと払うくらいの気概を見せなさいよ!」
「………へーへー。わかりましたよ。そんじゃま、最初にどっから行くんだ?」
「そうね…あっちよ!」とペストが碧生の手を握って走り出す。されるがままに手を引かれていくが、少し困り顔の碧生。
そんな光景を周りの人は温かい視線(大人の方々のもの)と、時折混じる嫉妬と憎悪の入り乱れた視線(モテない男たちのもの)があった。
そして、散々振り回され一応満喫した後、四人と合流するとなぜか明日、白雪姫とゲームするという既視感のあることになっていて、今度は碧生が理解できなかった。
その後、三人は碧生に怪物にやられた傷はどうしたとかあの半魚人のような姿はなんだったかとかいろいろ問い質され、一通り説明をした。
・深水碧生
主人公。露店と屋台の店主と店員をいじめていた(指導)。今回の代金は全部彼持ち。ペストに相当奢らされて財布が寂しい。一番損をしている。現在は会社に二人、箱庭に一人、十六夜たちのところに一人。ちなみに本体は会社にいる片割れ。
・西郷焰
原作主人公。碧生に対する不信感が積もっていくだけだったが今回である程度解消された。それでもかなり残っているが。
・彩里鈴華
林檎飴を持っていた少女。もちろん前述の通り碧生の奢り。多少なりとも罪悪感を感じている。
・久藤彩鳥
イチゴのオムレットを持っていた少女。こちらも奢り。借りを作ったことを後悔している。
・黒ウサギ
貴重なツッコミ要員兼弄られ要員。武器はハリセン。つおい。
・ペスト
今回一番得をしている人。特になし。もう少ししたら出番来るから待って。
えー、次も一週間以内に投稿予定です。