―――〝アンダーウッド〟工業区画・第二製鉄場。
異変をいち早く察した碧生は焰たちの近くに転移する。
『どうするのかしら?』
「焰たちを囮に誘き出す。俺らの相手は星獣と正体が一緒だからか思考もまとめて存在ごとゲームに組み込まれてる。そのせいか、おかげと言えばいいのか、参加者の焰を狙うようにされてる」
『……彼はやっぱりマスターと
「そうだ。とはいえ、箱庭とは関係のない別物だがな」
今回焰たちを襲った怪牛のうち、一体は碧生が蒼奇だったころの召喚獣だ。なぜ契約が切れて理性を失っているのかは彼も把握できていない。
こんな風に身を潜めて話してる間にも住人たちはミノタウロスにバリスタを打ち込んでいく。このような非常事態にすぐに行動して実行できるのはさすがと言えるだろう。
「あークソ。こんなことになるんだったらアイツに契約書物を預けなきゃよかったか?もっと別の奴に頼みゃよかった」
『そんなこと言ってる場合?ほら来てるわよ』
ミノタウロスが攻撃されている間に蒼奇のミノタウロスが二本の斧槍で一部のバリスタに攻撃を仕掛けようとしていた。
それを確認した碧生はミノタウロスの正面に転移して、
「召喚、【
青鬼の腕を部分召喚する。すると何もないところから青い大きな腕が生えて怪牛を殴り飛ばした。そしてその場にいた一人に話しかける。
「おい、平気か?」
「あ、ああ!」
「ならさっき攻撃していたほうだけを警戒してろ。今の奴は俺が抑える」
返事も聞かずにすぐに飛んで行った方向へと転移する。
しかし、そこには姿は見えなかった。
「………チッ、逃げたか」
『そうみたいね。思ったより厄介ね。彼の〝霊体化〟は。敵わないと思ったらすぐに消えたようよ』
「それについては手がないわけじゃない。のんびりやろう。それよりもう一体が気になる。一応出ておいてくれ」
『………?姿を晒していいのかしら?』
「フード付きのコートがあるだろ。それ身に着けた状態で来い」
『わかったわ』
碧生はペストに出て来てもらう。そして顔が見えないことを確認すると魔術を重ね掛けして存在を隠蔽する。これで派手なことをしない限りは他者に認識されることはないだろう。
「行くぞ」
「ええ」
短いやり取りをしてもう一体のミノタウロスの方へと転移した。
「なッ!?どこから出てきたんですか!?」
「ん?……ああ、彩鳥か。………まあ、気にしなさんなって。今はあれだ」
そういって向かってくるミノタウロスを指さす。
「………後でしっかり説明してもらいますよ!」
「黙秘権を行使しまーす」
そうしてふざけている中、遥か上空で雷鳴を轟かせる雷雲が渦を巻き始め、大樹の枝葉が散るほどの雨風が吹き始めた。
「これは………いけない!ポロロ様、今すぐ水上都市に避難勧告を出してください!!」
「それならもう出してる!洪水が起こらないように防波堤の「そんなもん無駄だ。んな危険なことするよりも避難を優先させろ。さもなきゃ大勢が死ぬぞ」なに?」
「俺もできる限り対処はするが、しきれない可能性もある。わかったらさっさとするんだな」
碧生はそう伝えると雷雲を睨み付ける。ミノタウロスも同じように雷雲を睨み付けると郊外へと姿を消した。
「ペスト。頼む」
「わかったわ」
「えっ?ぺ、ペストさん?」
「最初の半分だけやれ。それ以降は住人の避難をやれ。いいな?」
「任されたわ」
端的にやり取りを終わらせた二人は二手に分かれてこれから起こることへの準備を始める。
「召喚、【青鬼の巨腕】」
青鬼の腕を二十対、計四十本を召喚して周辺に配置する。
それから目を閉じ、感覚を集中させて攻撃に備える。
その感覚は〝アンダーウッド〟全域を網羅していた。
研ぎ澄まされた感覚からは極僅かな必要のあるもの、そして圧倒的に大量の必要のない情報が流入してくる。
人々の焦り、混乱、恐怖。その逆の勇気、使命感、正義感。息遣いや動作。一人一人がどこへ向かっているか、歩幅、速度なども手に取るようにわかってしまう。
そこから必要な情報、怪牛による攻撃の情報だけを汲み取り、予測する。
そして、
「―――――ッ!!」
降り注ぐ落雷に対して、腕を即座に転移させて水上都市に落ちないように遮る。一つで防ぎきれない場合はさらに一つ二つと腕を追加する。
その結果、初めの二十四の落雷の内、十四の落雷を三十数本の腕で防ぎ切る。
残った腕は住人を助けるために駆け巡らせる。
足りなければさらに呼び出して助けるために忙しなく動かした。
大河に吞まれれば掬い上げ、稲妻に狙われれば腕が身を挺して庇い、倒壊した家屋に押し潰されようとしているならばその者の盾となった。
自身の脳の処理能力を超えようとも腕を増やし続け、操作した。
「………さすがにずっとは厳しいな。避難が完了したら気を見計らって下がらないとな」
『マスター』
ぼんやりとそんなことを考えているとペストから念話が来た。
「どうした?弱音か?」
『違うわよ!住人の避難がまだまだかかりそうってことを言いたいのよ』
「………はぁ。了解。何とか持ちこたえてみせようか。そっちは全然平気か?」
『ええ。問題ないわ。なさ過ぎて避難誘導を手伝っているくらいよ』
「わかった。腕の数を何とか増やしてみよう。だからそっちは片手間で落雷の対処を。住人の避難と救助を優先してくれ」
『わかったわ』
碧生は念話が切れると軽く伸びをしてから腕をさらに追加で二十対呼び出す。
「さあて、正念場だ。男の意地を見せてやろうじゃねえか!」
そう意気込んだ。
そのあとすぐにその決意が挫けるとは知らずに。
「え、ちょ、多過ぎ。無理無理無理無理ッ!」
「嘘ッだろ!?変則的すぎるだろ!?腕を躱してんじゃねえよ!!落雷ならまっすぐ落ちろよ!!?」
「一時間以上経ってるけど避難まだァ!?」
『あと二、三時間ってところかしら?』
「長すぎィ!!」
「何も考えられねえよぉ!!」
「まだぁ!?」
『それ五分前も言ってたわよ?』
「長いよぉ!!」
「ちょっ!?今頭の中でなんかがブチッって、ブチッて言ったんだが!?」
『大丈夫よ。マスターは死なないから』
「いやそれでも目や鼻や耳から血が止まんねえよ!!?」
『あら?弱音かしら?』
「……………………………………………(ブチッ)上等だテメェ!!そこまで言うならやってやろうじゃねえかァッ!!?」
そうして、碧生が奮闘すること三時間。
『マスター。もういいわよ』
「……………………………………………」
『へんじがない。ただのしかばねのようだ』
「生き、てる………。頭がショートしそうだけどな………。いや、多分ところどころショートしてる………現在鋭意修復中………。安全地帯までの回収を求む……………」
避難が完了したとペストから念話が届くころには地面と仲良くしていた。
だが、その顔は微かにだったが、確かに笑みが浮かんでいるように見えた。
・深水碧生
魔術師(召喚魔術師)。青鬼(マッチョ)の腕を召喚して落雷をすべて受け止め切った。代償としては脳が焼き切れただけで済んだ。………死なないよ?
・ペスト
召喚獣。住人の避難誘導を行いつつ救助もしていた。ぐう有能。
・久藤彩鳥
特に出番がなかった。うん、なかった。今回の主な登場人物は上記二人だね。
・黒ウサギ
今回出番がほとんどなかったみんなのストッパー、黒ウサギ。セリフも少なかった。
・ポロロ
黒ウサギよりもさらにセリフの少なかったポロロ君。ごめんね、出しづらいんだ、ホント。
・アステリオス
ミノタウロス。元ネタもしくはモデルはFateのアステリオス。二本の斧槍を武器として所持。なお、英霊ではなく生きてます。………生身で生きてます。その説明はいずれ本編で。
えー、次話は一週間前後を予定してます。
あと、ラストエンブリオ二巻まで投稿した時点で原作最新刊が出ていなかった場合、一旦本編の更新を停止します。単純に原作不足です。ごめんなさい。
その代わりとは言って何ですが、番外編を投稿しようかと。
まあ、内容についてはいくつかあるんですが詳細は活動報告の方にアンケートを作っておきますので、良ければご意見ください。
追い付く前に原作が出てたら没か同時投稿ですね………。