外の嵐は静まる気配がなく、いまだに轟々と風が吹きすさんでいた。こんな中でも怪牛が仕掛けてこないのはこの大樹を守る絶対的な実力者が存在しているからだ。
水上都市の地下水脈にある隠し通路を焰と碧生は歩く。
「なあ、こっちで合ってるんだよな?」
「ああ。間違ってない。まあ、まだ少し歩くが」
この洞穴をまっすぐ進めば、断崖絶壁に流れる大瀑布の裏側に到達するという。その脇にある扉を開けば、其処が謁見の間という話だ。
だがそれでもこれほど長々と続く道を歩き続けていると、本当にこの道で合っているのか不安になってきた焰は隣にいる碧生に合っているのかを尋ねていた。
二人はそれから一〇分ほど歩いてようやく辿り着いた。
「………」
「………三分オーバー、か。もう夕日は赤くなり始めてるな」
苦言を口にしながら扉に手をかける。ポロロや碧生たちが時間のない中で急いで準備をしたが、女王との待ち合わせの時間には間に合わなかった。
「生きて帰りたかったら逆らうな」と言っていたが、元の世界に戻れないならここまで来た意味がない。とはいえそれと一緒に「まあ深水碧生がいれば大丈夫だろう」とも言われたが、焰にはその言葉の真意はわからなかった。
焰は豪奢な扉に手をかける。薄暗い中で際立って光るその扉を開いた途端、二人の視界は太陽の光に包まれた。
「………は、」
焰は眩しい光を浴びて目を疑う。その理由は洞穴の扉は〝アンダーウッド〟とは全く違う場所に繫がっていたからだ。一方の碧生はというと、その変化に戸惑うこともなく扉を潜り抜け中へと進んでいく。
焰も彼に続いて中へと進む。
燦々とした太陽。その光を当てられ、焰は天を見上げる。
その場所は白亜の城の中庭。
四方には春夏秋冬の花々が綺麗に分け隔てられた花壇。中央に繋がる大理石の石畳は踏み荒らすのが勿体無いと思うほど美しく磨き上げられていた。
しかし、碧生はまるで気にした様子もなくその綺麗な石畳をずかずかと踏みつけて中央へと向かって進んでいく。
逆に焰はこの光景に警戒心を顕にしてなかなか進めずにいた。そんな彼を見かねたのか、碧生は足を止めて首だけ振り向かせて声をかける。
「おい、さっさと来い。別に取って食われるわけでもねえんだし、安心して入って来いよ」
「あ、ああ………」
そのように言われ、恐怖に駆られながらも慎重に一歩、大理石の石畳に足を踏み入れる。すると碧生が歩いた時には何の変化もなかった花壇の花弁の色が一変した。
碧生は焰が部屋に足を踏み入れたのを確認すると中庭の中心。ヴェールに包まれた場所の手前まで進んでいき、立ち止まる。そして花弁の色の変化に驚き足を止めてしまっていた焰も少し遅れてヴェールの手前まで辿り着く。
焰は碧生の顔を窺うように見つめるが、彼の目は早くしろと急かすような目で焰のことを見ていた。彼は心底、焰の手伝いをする気がない様子だった。
それを悟った焰は意を決してヴェールを勢いよく捲りあげた。
すると扉が開いた。
木彫りの扉の先には暖かな暖炉と寝室用のベッド。そして客人を招く為のティーセットを用意した円形のテーブル。
焰は驚き後ろを振り向いて今しがた入ってきたドアを確認しているが、碧生は気にせずベッドへと腰かける。その二つの目はまっすぐ焰を見つめていた。
さあ次はどうする、と。
碧生は内心この状況を楽しんでいた。焰が無事に女王と謁見できるのか、自分ではどうにもならないと判断し頼ってくるのか、それとも失敗して彷徨い続けるか、女王が飽きるまでやらされるのか、など。
彼は表にこそ出さないが、焰の行動を見て、楽しんでいる。
そうやって観察している間にも焰は思考を張り巡らせている。最初のころは碧生に頼ろうかとも考えたが、彼の様子を見て手を貸してくれそうもなかったので、早々にその考えは頭の中から排除された。
彼は少しの間、目の前にある二つの扉を睨み付けるように見ていたが、突然部屋を見まわし始めた。そして近くにあった古時計に視線を移す。しばらくその時計を観察してたが、何かに気づき時計に近づいていった。
焰のそんな様子を少し感嘆しながら見ていた碧生。ここの仕掛けに気づけるかどうかが気がかりだったが、ここまでくればどうにかなりそうだと。
そんな碧生の内心を読み取ったかのように古時計の長針を一分、また一分と戻していき、計三分を戻し十二時の位置に合わせる。
そして、
「———いらっしゃい、西郷焰、深水碧生」
声が響いた。その声が聞こえたのは、焰も予想していなかった―――
「ええいッ!毎度毎度俺の背後に現れて抱き着くんじゃないッ!」
———碧生の後ろからだった。
「えー。減るもんじゃないしいいじゃない」
「そんなんだからお前の相手は面倒なんだッ!!」
碧生の背後に突如として現れる人の気配。
焰はそちらの方に勢いよく振り返る。おそらくあの女性が女王でいいのだろうと本能的に理解させられた。
しかし、その行動はとても女王と呼ばれるには似つかわしくない行動だった。
だが、そのような姿を見ても焰は硬直したまま動けずにいた。
そんな彼の様子に気が付いた女王と騒いでいた碧生は溜息をつきながらも声をかける。
「
「いやそのセリフは大丈夫じゃないやつだからッ!?………って、あれ?」
焰は碧生のセリフに対してツッコミを入れるが、入れてから自身の身体が硬直から脱し、鼓動もだんだんと治まりを見せて始めていたことに気が付いた。
何が起きたのか理解が追い付いていない焰に対して碧生が説明する。
「ちょっと魔術で精神を弄くった。それで女王とも普通に話せるだろうよ」
「あ、ああ………悪い」
「別にいい。つかクイーン。さっさと離れて席に座ってくれ」
「……………………………………………………………………………………まあいいわ」
「今の間はなんだ。今の間は」
碧生と女王の軽口をたたいている光景を信じられないといった様子で眺める焰。
碧生の文句を聞き流して悠々とテーブルの席に着く女王。それとほぼ同時に碧生の顔面めがけてグレープ色の何かが高速で飛来した。
「ヘブッ!?」
「ちょッ!?碧生!?」
その物体は勢いのまま碧生の顔面に直撃した。碧生はその勢いに負けて背中からベッドに倒れこむ。
碧生はもがきながらも顔面に張り付いた紫色の物体を引きはがしつつ体を起こして膝の上にその物体を置くと落ち着いた優しい声色で話しかけ始める。
「おー!久しぶりだな、ネロ!」
「………ッ!!」
ピョンピョンと膝の上で嬉しそうに跳ねるスライムのネロ。そんな様子を見て頬を緩める碧生。そして再び理解が追い付かない焰。
「もしかして、クイーンが見つけて保護していてくれたのか?」
「いえ。その子は影の世界でこれと一緒に彷徨っていたところをスカハサが保護したのよ。だからお礼は彼女に言いなさい」
「あー、影の中にぶち込んだままだったからな。………で『これ』って?」
「この本よ」
そういって女王はテーブルの上に一冊の古びた本を置く。それを見た碧生は目を見開く。
「………〝契約書本〟もか?それは………ありがとうと言うべきなんだろうが………」
「………?何かあったかしら?」
「いや、まあ………」
それが回収されていることが原因で今回のゲームをややこしくなっているんだが、とはとても言えずに碧生は言葉を濁しつつも女王から本を受け取る。そして、すぐにネロを膝に乗せたまま本を開きパラパラとページを捲り始める。
そして、本の中身に没頭し始める………前に焰が呆然と突っ立っているのに気が付き声をかける。
「あっ、焰も突っ立ってないで早く座ったらどうだ?」
「そうね。同席を許可するから座ったらどう?」
「え?あ、ああ」
そう二人に促されてようやく席に座る焰。
「しばらくは二人で話しててくれ。俺は至急確認しないといけないことができた」
そう伝えると契約書本の中身を確認し始めた。召喚獣としての契約を結んでいたはずのミノタウロスことアステリオスが契約の切れた状態で、しかも魔獣としての本能を剝き出しにして現れているのだ。他の召喚獣も契約が切れてどこかに行ってしまっているのではないかと考えたのだ。
焰と女王が談笑している間にそれらを確認してしまおうと思い立ち、それらを確認するためにページの欠損や白紙となっている部分を探し始める。
・深水碧生
前世では女王を揶揄う側だったが、今世では揶揄われることも増えている。手元に召喚魔術を簡略化した〝契約書本〟が戻ってきてようやく召喚士(仮)から召喚士に戻った。前世じゃ〝盟友召喚〟があったために出番がなかった。
・西郷焰
おっかなびっくり進んでいく。警戒しているのは主に女王の悪評とポロロの脅しのせいだと私は思う。
・クイーン・ハロウィン
女王。彩鳥の前世、フェイスレスのときの主。箱庭三大問題児の一角。蒼奇(碧生)と仲がいい。前世でも今世でも一緒にお茶をする程度には交流がある。
次も一週間以内か後に投稿予定!
テストとレポートに忙しい日々の中頑張ります!
それと次で原作一巻は終了です!
ついでに活動報告でアンケート実施中です!
今のところ返信も来てないので二巻までが終了してプロットが出来上がるまでは改稿作業にでも専念しようかとも考えてます。