人外召喚士が異世界から来るそうですよ?   作:猫屋敷の召使い

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再臨のアヴァターラ
復興&支援


 いま、碧生は雲一つない快晴の空を見上げていた。

 十六夜たちと共に行動していた彼は現在、高速フェリーに乗りながら海の上を移動している真っ最中だったのだ。

 勿論ただ十六夜たちについてきたわけではなく、超大型台風〝天の牡牛〟による被害を再確認するためでもあった。やはり傷跡は大きく、しばらくは〝ディープブルーコーポレーション〟の支援なしでは厳しい生活を送ることになっていただろう。

 現在もディープブルー社の社員と現地住民による復興作業が続いていた。ギフトによる作業ができればもっと手早く済ませられるのだろうが、一般人の手前そんなことができるわけもなく。手作業や重機による復興支援に徹していた。

 本来ならゴールデンウィーク中は休みであった社員達には申し訳ないが、混乱を収束し事態を収めるために頑張ってもらうことにした。無論、復興が完了すれば休暇を与えるつもりだと碧生は言っていたが。

 一先ず一行はドン=ブルーノから聞いた貸船業を営んでいる友人を訪ねて、クレタ島へ向かう足を手に入れていた。

 碧生の会社から貸し出してもよかったが、復興に使うことや地元で通貨を循環させたいということもあり、現地調達にしてもらったのだ。話し合いで碧生の転移で送ってもらうという案も出たが、不法入国やら人目の関係上普通に行くことにしてもらった。

 そして、現在。十六夜が外界から訪れた経緯を改めて聞いていたプリトゥと碧生は彼の話を聞いて、一人は瞳を大きく瞬かせて驚き、もう一人はめんどくさそうに空を見上げていた。

 

「じゃあ、何か?お前がミノタウロスのゲームに参加していたら、突然ゲームを中断させられたと?」

「そういうこと。元々、太陽の主権戦争を有利に進める為に主権を集めていたんだけどな。どうやらゲームの主催者側とどっかの馬鹿から横槍を入れられたらしい」

「ちょっと待て。確かにもう一体のミノタウロスは俺の召喚獣だが、ほぼ暴走状態で同一存在だからって理由だけでゲームに組み込まれただけだ。俺は一切手を出してないからな?」

 

 そうかよ、と不機嫌そうに腕を組む十六夜。

 太陽の主権戦争。二十四の太陽主権を奪い合う箱庭世界のギフトゲーム。

 以前、館野蒼奇が魔王として遊んでいたときにも行われた。

 だが、蒼奇はそのゲームには参戦しなかった。理由としては、主権なんて持ったら動きづらくなる。この一点だろう。それだけの理由で面白そうなゲームを流したのだ。

 しかし、今回はいやでも巻き込まれることになることを薄々感づいている碧生だった。

 

「激しくなってるのはやっぱり白夜叉が主権の半分以上を手放したからか?」

「ん?そうなのか?」

「ああ。白夜叉がルール制作の主導権を握るためにな。聞いてないか?」

「いや、初耳だ。………しかし、そうか。前回の優勝者である白夜叉が主権を手放したのならかなりの数が在野に下ったことになるな」

「そりゃ激化もするよなー………………………………………はぁ、しっちゃかめっちゃかに引っ掻き回しに行けばよかったかな」

「「おいやめろ」」

 

 ボソッと呟いた不穏なセリフを二人は聞き逃さずに止めるように伝える。

 冗談だ冗談、と真顔で止めに来る二人を見ながら、くつくつと笑いながら言う。

 それを聞いた二人はどこか安心したような顔を浮かべて話を元に戻す。

 

「だがそうなると、益々以てお前には早く箱庭に帰ってもらわないと困るな」

「ごもっとも。太陽の主権なんざこっちで使われたりでもしたら堪ったもんじゃねえ」

「ああ。それに派遣先には言い訳してあるものの、これ以上の有給は御免だ」

「………有給扱いだったのか」

「有給?頼れる社長はどうした?」

「今、プリトゥは〝エヴリシングカンパニー〟の雇われだ。申請はそっちの方だろうよ」

「そうだ。ご令嬢の付き人兼ボディーガードだからな。ちなみに、彩鳥お嬢様はゴールデンウィークの間、私と共に碧生のところへ遊びに来ていることになっている。………ああ、そういえば社長が碧生君によろしくと言っていたぞ」

「………全然よろしくされてねえんだけど。むしろ迷惑気味だ。つか普通に有給が羨ましい。俺にもくれ。たまった仕事はきちんとやるから有給寄こせ」

「仮にも社長がそんなこと言うものではないと思うぞ?」

 

 プリトゥの話を聞いて一人愚痴る碧生。彼もたまには一人に戻って仕事を忘れてのんびり休みたいようだ。

 十六夜は彼女の話を聞いて尋ねる。

 

「〝エヴリシングカンパニー〟にそこまでの伝手があるなら、船もそっちの経路で借りればよかったのに」

「その際に彩鳥が行方知れずだと知れたらめんどくさい。基本プリトゥの責任問題になるだろうが、俺のところに遊びに来ていると知られているならこっちにも飛び火して〝エヴリシングカンパニー〟と〝ディープブルー社〟の関係が悪くなりかねん。だから、そっちの伝手は諦めてもらった。とはいえ、プリトゥも似たような考えだったが」

「そういうことだ。ここは大人しくドン=ブルーノの人脈にすがろうじゃないか」

 

 碧生が諦めたような表情と声で説明すると、プリトゥも大人びた笑みを浮かべてそれに同意する。

 

「ま、いいけど。何はともあれ持つべきものは異郷の友ってことか。駄目元でドンの人脈に頼ってみたが、今回は大当たりだった。おかげでクレタ島まで泳がずに済む」

「同感だよ。波に揺れる程度なら好ましいが、基本的に海は苦手だ」

「へえ?これは意外な弱点だな。じゃあ船が見つからなければ、地天様はどうやって海を渡るつもりだったんだ?」

 

 軽薄な笑みを浮かべて意地悪そうに聞く十六夜。

 碧生はそれを見て、十六夜の悪い癖が出たな、と溜め息交じりで息を吐く。

 対して、問われたプリトゥは困ることもなく告げた。

 

「どうやってと言われても………そんなの、海を埋め立てて渡ればいいじゃないか」

「………。ほう?」

 

 十六夜が感心したような声を吐き出す。その様子を見た碧生は溜息を吐く。

 

「感心してんじゃねえよ、そこの問題児。プリトゥ。お前も丁度良さげなもんを吟味し始めるな。しかもお前が指さしてんの聖地指定のアトス山だ。もし実行するようなら全力で止めにかかるぞ。そん時は殺されても文句言うなよ」

「碧生の言うとおりだ、野蛮人ども。何でもかんでも箱庭基準で考えるんじゃねえ。外界で正教会を敵に回してもいいことはねえぞ」

 

 碧生に同調するように呆れながら言い捨てた釈天。そんな彼の手には国際経済新聞と携帯電話があり、被害状況を交互に見ていた。

 紙面にはまだ伏せられているが、病原菌の影響が表立ってきている。麦や玉蜀黍に感染することはごく一部にしか知られてはいないが、人の口に戸は立てられない。すでにヨーロッパでは小麦粉の高騰の兆しを見せ始めている。釈天が渋い顔で紙面を睨んでいるのを見た碧生も内容を察したのか眉をひそめた。十六夜も気になったのか彼の後ろから紙面を読んで顔を顰めた。

 十六夜は一面のトップ記事を指でなぞる。

 

「フランスで小麦粉急騰、三五%増………?うわ、酷いなコレ。大丈夫なのか?フランス人ってパンを食べてないと死んじまうイメージなんだが」

「偏見もいいとこだな………。だが、間違ってない。フランスは農業大国で食料自給率も一二〇%を超え、『ヨーロッパのパン籠』とまで言われるほどだからな。まあ、今は俺の会社が高騰対策として感染しないように特殊加工した小麦を市場に流してその程度で済んでんだ。それがなければもっと高騰してただろう。こっちはまだまだ備蓄があるから一週間もすれば十%増程度まで落ち込むさ。とはいえ焰にはさっさと帰ってきてもらってどうにかしてもらいたいが………」

 

 淡々と自身の会社が行っている対策について語る深水碧生。

 台風〝天の牡牛〟は実に世界の半分を通過して東京に現れた。その傷痕は目に見えるもの以上の弊害を残している。保存している穀物の何割が蝕まれているかは把握されていない。農耕地帯に病原菌が残留するという事実を把握している農家は少数だろう。今はまだ裏から〝ディープブルーコーポレーション〟と国際連合食糧農業機関が連携して市場操作で安定しているが、それもいつまで持つかは〝ディープブルーコーポレーション〟の備蓄次第と()()()()()()()。しかし、当の社長である碧生は全く心配した様子もなく平然としていた。その理由はちょっとしたからくりが存在し、備蓄、食料が尽きることはないと断言できるからであろう。

 

「よくそんなに貯めこんでたな。そんなことしてれば隠してても気づかれそうなもんだが」

「そこはまあ、あれだ。企業秘密ってことで」

「おいおい、少しくらい教えてくれてもいいんじゃねえか?」

「そうだな。是非とも教えてもらいたいものだな」

 

 三人にそう迫られてめんどくさそうな顔をしながら、話しても真似できねえしいいか、と渋々当たり障りのないとこだけ話す。

 

「俺が所持して管理を任されている別世界で作って、別世界で加工して、別世界で備蓄してる。ちなみに七つの世界のうち四つがそんな感じだ」

「「「………は?」」」

「どうだ、さすがに誰にも真似できない画期的な方法だろう?」

「「「……………………」」」

 

 さすがの三人も碧生の言葉に訳が分からないといった様子で開いた口が塞がらなかった。その表情に満足したように笑って、船の中へ向かおうとする。

 

「じゃ、目的地も近くなってきたから俺は船酔いでダウンしてる天衣の様子を見てくる」

 

 唖然としたままの三人をおいてさっさと船の中へと消えていく碧生。

 

「………転生しても何も変わらねえな、アイツ」

「ああ。変わったのは精々名前と口調ぐらいだな。たまに以前の口調に戻るときもあるが」

「そうだな。誰にも考え付かず、できないことを突拍子もなくやる。一切変わってないな」

 

 残された三人がそんなことを言っていたのは碧生の耳には届かなかった。

 

 

 その後、降りる際に碧生を焰たちの勝敗についての賭けに誘った三人だったが、彼が向こうには俺もいるんだがと言うと十六夜が大いに焦り始めたのを物珍しそうに眺める釈天と碧生がいた。

 余談だが、碧生はそのうえで自分が手を貸さなかったとしても焰たちが勝つと断言し、百ドル札を十枚を手に参戦してきたため、十六夜がさらに焦りを見せ始めるのだった。

 




・深水碧生
 被害状況と復興の視察。一応社長だからね。なんでも行う。それが〝ディープブルーコーポレーション〟です。

・逆廻十六夜
 賭けで焦り始める。プリトゥが千ドル、碧生が千ドル、釈天も千ドル(おそらく)。負けた時の額がすごいよね、これ。倍率知らんけど。あのプリトゥの押しがあるし1.1倍くらいなのかな………?

・プリトゥヴィ=マータ
 焰を持ち上げる女神様。財布から千ドルが出てくることから相当稼いでる。

・御門釈天
 総取りかと思ったらそうではなかった借金神。個人的に借金のトータルを知りたい。

・三神天衣
 船酔いでダウンして出番がなかった。ごめんね。


 次話も一週間後を目途に投稿します。
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