———大樹と大瀑布の水上都市〝アンダーウッド〟。
轟々と吹き荒ぶ風が、大樹の幹に打ち付けている。
水上都市の清流は大嵐によって濁流に変わり、街の居住区を飲み込み始めている。近隣に平野しかない土地であるこの大樹の街〝アンダーウッド〟では建築物の構造が台風の被害に耐えられるようにできていない。
もちろん増水対策の防波堤は設置されているが、防備らしいものはそれだけしかなく、建築物と言えば煉瓦造りの建物なのだ。
今この場所には、大嵐の根源―――〝天の牡牛〟が留まっている。この状況が続けば水上都市が更なる大打撃を受けるのは必然だろう。
そんな中、碧生は大樹の中腹に仮設された避難所にいた。
なぜそこにいるのかというと、
「飯が出来たぞ。持ってって配膳、配ってくれ。足りなければ追加で作るが、足りそうか?」
「………どうでしょう。とりあえず持って行って様子を見てみます」
「じゃあ、一応温めれば食べれそうなものを作っておく」
「わざわざありがとうございます」
「かまわない。こういう場合は助け合わないとな」
建前を伝えて避難者に料理を持って行かせる。そんな彼の本音としてはただの暇つぶしなのだが。
「………なんで私は料理をしているのかしら?」
「俺についてきた結果だろうが。文句言わずにきびきび働け」
そしてそれから少しして料理を作り終えた頃。
「おーい!碧生ー!」
碧生を呼ぶ焰の声が聞こえた。
碧生が声のした方向へと顔を向けると西郷焰、彩里鈴華、久藤彩鳥、ポロロ、シャロロの五人がこちらに向かってきているのが見える。
「準備はできたのか?」
「ああ。………まあ少しだけわからないところもあるが………」
そういって、不安そうな顔をする焰。
それを見た碧生は特に反応することもなく答える。
「それに関しては移動中に聞かせてくれ。力になれるかもしれないしな」
そして、地下工房にある精霊列車の車庫へと足を向ける。
その道中で碧生は焰から今回のゲームの解答を聞く。
ミノタウロスは天然痘の患者で迷宮に隔離され、後天的に怪物になったこと。それが今回の解答であると。
それと同時に彼が不可解な点も。
「一体目のミノタウロスの正体はこんなところだと思う。だけど、二体目についてがどう考えればいいのかわからない」
「………あー、そいつのことか。お前が分からなかったのは」
「わかるのか!?」
「そいつに関しては、あのアステリオスについては俺の不手際というか不始末というか………」
「………?あいつもアステリオス?どういうことだよ?」
碧生はバツが悪そうに頬をかきながら説明を始める。
「俺が魔術師だってのは話したよな?」
「………?………ああ。現代の魔術師の中でも最高峰レベルとかいうナルシストじみた話ならな」
「ナルシストではなく事実なんだが………。まあ、そこらへんは置いとこう。それでだな、俺は召喚魔術師だ。生物・無生物と契約して召喚獣として使役するものを得意としている。それで、二体目のミノタウロス、もといアステリオスは俺が召喚獣として使役していた奴が暴走しているうえにミノタウロスだからな。存在が同一とされてゲームに巻き込まれて理性を失わされて組み込まれたんだ」
「………って、お前のせいかよッ!?」
焰が胸ぐらを掴む勢いで碧生に詰め寄る。
「失敬な。俺は何もしてない。なぜかは知らないが契約が勝手に切れて解放されたんだ。俺のせいにするな」
「じゃあ、どうすんだよ!?あんな怪物、二体も相手取れねえよぞ!?」
「んなことさせねえよ。俺の方は俺がどうにかするから、自分の方に集中してくれればいい」
そして、その次に紡がれた言葉に誰もが自身の耳を疑った。
「誰も英雄テセウスさえもが
「「「「「!!?」」」」」
一番最初にその言葉を飲み込めたのは彩鳥だった。気が付けば、すぐに碧生に詰め寄っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!英雄テセウスが殺せなかったっていうのはどういうことですか!?本来なら怪物が強くなりすぎたのなら倒すべく英雄に恩恵が与えられるはずではッ!?」
「ああ、そうだ。普通はな。だが、与えられなかった。なぜなら俺の世界は狂っていたからだ。俺の世界の怪物ミノタウロスはその世界の、その時代の誰にも倒すことが不可能なまでの怪物へと昇り詰めてしまったんだよ。そんなのを倒すためにテセウスに強力な恩恵を与えたのならば、その後すべての歴史が影響が出始め、その時代が狂い始めると判断されて与えられなかったんだ」
「………そ、そんなことが、あり得るんですか………?」
彩鳥は震える声でさらに尋ねる。
「俺んとこの狂った世界では有り得た。だが、まだこの事象が〝
「………?なんでだ?」
そこでようやく焰も理解できたのか、質問する。
碧生は薄く笑いながら答えた。
「〝歴史の転換期〟だったならば、片方が強くなりすぎれば、もう片方に恩恵が与えられる。釣り合いを取るためにも時代を正しく修正しようとするためにもな。だが、その恩恵が強すぎて釣り合いが取れなければ、今度は相手側に恩恵が与えられる。だがこれがまた釣り合いが取れずに今度はもう一度はじめに恩恵を与えた奴に恩恵が与えられる。そしてまた釣り合いが取れずにもう一方に恩恵が与えられる。そんなことが続いて決戦の時までいたちごっこだ」
そういって、過去を思い返しているのか楽しそうな、されど哀しそうな表情を浮かべた後、ケラケラ笑いながらこう言った。
「さて、加減なく、際限なく、強くなりすぎた英雄ども。そのうえ戦闘中にも恩恵を与えられ続けてさらに化け物じみてく二人、またはその二つの勢力がぶつかり合ったら………果たして世界は、どうなっちまうんだろうな?」
それを聞いた五人はその光景を思い浮かべてしまったのか、一様に青い顔になった。
「まあ、結果だけ言うなら介入しなければ最低でも地球が壊れるレベルだった、とだけ。と、いうわけでそんな世界で抑止力兼修正力として生きていた俺にもう一体の方は任せろよ」
「「「「「………」」」」」
すごい勢いで首を縦に振る五人。その様子を見た碧生は満足そうに笑う。
そして、一行は足早に精霊列車へと向かうのだった。
そんな中、碧生は途中で少し立ち止まり、北の方を向く。
「………」
「おーい!碧生!早く来い!!」
「………悪いッ!今行くッ!」
しかし、すぐに焰に呼ばれて小走りで急ぐ碧生。
「(向こうの気配は保険も掛けてあるから問題はないだろう………)」
碧生は心の中で少し心配したが、すぐに大丈夫だと判断した。
―————七人が精霊列車の車庫へと向かった少し後、大樹より北の廃墟。
そこには、少年の姿へと変貌した怪牛と少年と少女。
そして、フード付きの黒い上着を羽織った長髪の青年がいた。
周りにもいくつか気配があるが、そのどれもが姿を現してはいなかった。
三人は青年と対峙し、警戒していた。
しかし青年はそんなことは気にもせず、三人に対して目を閉じて笑いかけていた。
少しの間、その空間は静寂に包まれたが、そんな空気を破ったのは青年だった。
彼は目を開いて、話しかける。
「アハハッ。元気そうで何よりだよ。ジン=ラッセル。ペスト」
「………………あなたも、元気そうですね。まさか生きていたとは思いもよりませんでしたよ。
そんな二人の前に現れた彼の目は、笑ってはおらず、冷たく突き刺すような視線が彼らに向けられていた。
・深水碧生
ちょっとした復興支援と説明会。特に何もしていない。
・ペスト
復興支援、もとい暇つぶしに付き合わされた。
・西郷焰
碧生の不始末の被害者その1
・彩里鈴華
被害者その2
・久藤彩鳥
被害者その3
・ポロロ
心の中では相変わらずだなと感じていた〝六本傷〟リーダー。
・シャロロ
生まれ変わっても変わらないと図らずも十六夜たちと同じ感想を抱いてしまった。
・館野蒼奇
言わずもがな碧生の前世。今回は正体がバレたくない、かつこれなら顔を知っているだろうからと〝擬態〟を用いて前世の姿に戻った碧生の別個体。
・ジン=ラッセル
元〝ノーネーム〟リーダー。しかし現在は脱退している。
・ペスト(ロリ)
碧生の下にいるペストとは別個体。ジン=ラッセルに隷属している。
次話も一週間後です!