西郷焰と深水碧生は群体精霊の一匹、地精のメルルに連れられて貴賓室の前まで来た。
手の平サイズしかないこの小さな精霊を頭に乗せながら魔力を与えている様子を横目で見つめる焰。
メルルの様子は非常にうれしそうに笑っており、碧生はその様子を見て微笑んでいる。
「ここ!女王の部屋、ここ!」
「ありがとな。案内はここまででいいから、お前は機関室に帰っていいぞ」
「わかったー!あすかの家族によろしくー!」
「おう。メルルも仕事頑張れよー」
「うんー!」
ぴょん!と碧生の頭から飛び降りたメルルはトッタカトッタカと可愛らしい足音を立てて去っていく。焰は「あすか」という名前に疑問符を浮かべていたが、碧生は気にした様子もなく扉を見つめていた。
そしていざノックをしようと碧生が右手を上げた時、隣の車両から彩鳥が走ってこちらに向かってきた。
「………先輩と碧生?また女王に呼び出されたのですか?」
「用事があるのは焰だけだ。俺はただの付き添い。そっちも女王に用事か」
「ええ。そんな感じです」
彩鳥は極めて自然な仕草でそれを口にする。焰ももう感づいているのか驚くことはなかった。碧生に関しては言うまでもないだろう。
「そうか。並の相手じゃないってことは知ってるんだよな?」
「ええ。それはもう先輩以上に」
「マジかよ」
「談笑の途中だが、そろそろいいか?」
碧生が右手を上げた状態で二人に尋ねる。それに対して二人は頷くことで返答する。
それを見た碧生はコンコンコンと三回ノックする。
それを見た焰がノックの回数に気づいた。もし自分がやっていたら回数を間違えていたかもしれない、と。
ノックから少しして中から声がした。
「どうぞ。入室を許可します」
女王の声が響く。
それを聞いた碧生は徐に
それに気づいた二人が何をするのかと理解できなかった。そしてこれからやろうとしていることに、はっと気づき止めようとしたときには、すでに遅かった。
バンッ!という強烈な破裂音を響かせてドアが
原因は言うまでもなく碧生だ。彼は上げた右足でドアを蹴り破ったのだ。
そして、蹴り飛ばされたドアの一部があろうことか女王と使用人の女性の顔面に直撃している。
それを認識した焰と彩鳥は顔色が青を通り越して土気色になっていた。原因の碧生はうまく当てられたことを喜んでいた。
「てなわけで俺はこれから出かけるからゆっくり話せよ」
「「待てい!!/待ちなさい!!」」
惨状をそのままにして立ち去ろうとする碧生を二人は必死に止める。こんなことを仕出かしておいてやった張本人が消えるのか、と。
「いやいやいやッ!何してんのお前ッ!?ドアを蹴り破った挙句なに命中させてんのッ!?馬鹿なのかッ!?」
「親父がドアは蹴り破るもんだと言っていた。だから俺は悪くない」
「いーや悪いね!!今回に関しては十中十お前が悪いね!!!!」
「そうですッ!!女王にあんなことしてただで済むと思ってるんですかッ!!?」
「YES!」
「「もう黙ってろ!!」」
二人が詰め寄っても碧生は動じた様子も悪いと思っている様子もなく答えた。
そんな風に三人が言い争っていると部屋の中から声をかけられる。
「三人とも、入りなさい」
「「はいッ!?」」
「………うーす」
焰と彩鳥は声をかけられたことで背筋を伸ばし恐る恐る部屋へと入っていく。碧生は渋々といった様子で部屋へと入る。
部屋の中には顔を赤くし、血が垂れているのか鼻をハンカチで抑えている女王と同じように顔を赤くし鼻をハンカチで抑えている使用人の女性、スカハサ。
「貴方は相変わらずですね、蒼奇さん」
「………さて、これでドアを蹴破られたのは何度目だったかしら?」
「さあ?五二回、いや三か?」
「五五回目よ」
「おっ、ゾロ目だ。ラッキー」
「マジで何やってんのお前ッ!?」
予想以上の回数を行っていたことに焰は驚く。彩鳥も絶句している。
「いいんだよ。ちゃんと後日謝罪もしてるし対価も払ってる」
「………じゃあ、なんでやってるんだ?」
「「遊び」」
碧生と共に女王が答える。
「俺はドアを蹴破る。そのたびに女王に俺への命令権が与えられる」
「基本的にはそういうゲームを恒久的に行っているだけと考えてもらって構わないわ」
「………なんでやってるんだ?」
もう一度同じ質問を繰り返す焰。
「俺は女王から与えられる命令に面白いものが多いから」
「私は碧生に命令できるから」
「「WIN-WINだろ?/でしょう?」」
「いや、女王がドアの分だけ損してるんじゃ………」
「「細かいことは気にするな/気にしない」」
二人は笑いながら言う。ただし女王は鼻血が出ているせいで締まらないが………。
「それに命令って言っても簡単なものが大半だ。お菓子を作ったりお茶の相手をしたり。あとはデートってのも数回あったか?」
「そうね。そんなのもあったわね」
「………いまだに蒼奇さんが作るお菓子の味を超えることができないのは悔しいですが………」
「あはは。まだ頑張ってるんだ?」
「ええ。それはもう。今も超えようと必死ですよ」
女王と碧生は二人でクスクスと笑っている。対してスカハサは少し落ち込んだような表情を見せる。そんな三人の様子をビクビクと怯えながら眺める焰と彩鳥。
「とはいえ、命令は後日にしてくれ。俺はこれから出かけるからな」
「あら、そうなの?」
「ああ。じゃあ、二人を頼んだ」
「ええ。行ってらっしゃい」
「ドアはいつも通り直しておいたぞ」
そうして直したドアから部屋を出ていく碧生。その場に残された二人はどうすればいいのかわからず立ち尽くしていた。
「さて。二人は何の用かしら?」
ようやく鼻血が止まったが、いまだに少し鼻が赤い女王にそう話しかけられてさらに固まってしまう二人がそこにはいた。
碧生はスーツから動きやすい服へと着替え、フード付きの黒い上着を羽織る。彼の一張羅で戦闘服だ。
「さて、ペスト」
「なにかしら?」
碧生はペストを呼び出して命令する。
「ここは任せた。でも手は貸し過ぎずほどほど、もし誰かが死にそうだったなら頑張ってくれ」
「わかったわ。でも、そんな心配は必要ないと思うけれどね。それにマスターはどこに行くのかしら?」
「もちろん、アステリオスとの決着をつけに行くんだよ」
そういって、姿を消す碧生。
そして、そのすぐ後に前世の特訓を含め、何度目かの怪物と人外の二体による衝突が幕を開けた。
・深水碧生
ドアを蹴破るゲーム。対価として命令権一回を女王へ与える。それだけのゲーム。
・西郷焰
彩鳥と二人貴賓室に残されたが、その後何事もなく話が済んで安堵している。今回の碧生の被害者その一。
・メルル
碧生と焰を貴賓室に案内してくれた地精。
・久藤彩鳥
女王相手にさすがに何か仕出かすことはないだろうと油断していた。今回の碧生の被害者その二。
・クイーン・ハロウィン
不運にも碧生によって粉砕されたドアの破片が顔面に直撃した。
・スカハサ
不運にも(ry
碧生が作るお菓子の味に嫉妬している。
・ペスト
出る予定はなかった。
次話も一週間後の予定!