———白亜の迷宮。
そこでは激しい衝突が起きていた。
その衝突は二体によって起こされていた。
一方は理性なき怪物。
もう一方は常識なき人外。
怪物は人外を屠るために全力で。
人外は戦闘を楽しむために加減して。
二体は対等の力でぶつかり合っていた。
しかし、それでも人外が押されている。
その微かな差は各々の技量とリーチの差だろう。
理性がないとは思えないほどの綺麗な斧槍捌き。
三メートル近い巨体ゆえの腕とその手に持つ二本の斧槍自体の長さを利用した攻撃。
そのせいで人外は近づけずにいた。いや、近づけはする。
ただ、その度にあの巨体から生み出される強烈な蹴りを喰らうことになるだけだ。
勿論恩恵を使えば一発で解決することだが、彼にその気はなかった。
なぜなら、それではとんだ興醒めだからだ。
力を拮抗させ、自身よりも大きく力強い物の相手をする。
それは彼にとってはこれ以上ない喜びだろう。
この戦闘は少しの間なら誰にも邪魔されることはない。少なくとも十数分ぐらいは大丈夫だろう。
………………そう、思っていた。
怪物と人外が距離を取り、今一度衝突しようと駆け出し、二体がぶつかる寸前。
怪物の背中に
それらの直撃を受けた怪物は駆けていた勢いをなくし失速、前のめりになる。
あまりの出来事で人外の方も止まることができず、勢いのままに突っ込んでいってしまった。
その意図せずしてできた隙へ人外の強烈な一撃が与えられる。
思いもよらなかった。人外も、怪物も。
人外の一撃を喰らった怪物はそのまま意識をなくして、倒れる寸前でその姿を消した。
人外は、理解した。怪物は打倒されたと判断され、自身の契約書本に戻ったのだと。
その瞬間、人外は昂っていた興奮が急速に冷めていくのが自身でもわかった。
代わりに別の感情、怒りが沸々と湧いてくる。
ただ一つ、『邪魔をされた』。これだけの理由で人外は怒り狂った。
すぐに邪魔をした者たちの下へと向かう。
人外として。
暴力として。
理不尽として。
―—————絶望を見せるために――――――
迷宮のゴール地点。そこは今、静寂に包まれていた。少し前までは戦闘音や落雷が鳴り響いていたはずなのに。まあその理由は果てしなく単純だ。
自分たちよりも強大な存在が目の前に現れたのなら一時中断せざるを得ない。ただそれだけだろう。
それゆえに十六夜と釈天と〝アヴァターラ〟の面々は困惑していた。
目の前に突然現れた黒い靄のようなナニカ。
困惑していた者たちのなかでこの正体を知っているものはさらに困惑していた。
こいつはこんなつまらない場で全力を、それに怒りを撒き散らすようなことをするような奴ではないと
だが、現に今ここで誰もが身を竦ませるほどに怒りを、恐怖を、絶望を振りまいていた。
それは、ここに居るべきではない、逃げ出さなければいけないと、その場にいるものに思わせるには十分すぎる代物だった。
その存在が何をしにここに来たのかが、誰にも分らなかった。
いや、考える余裕すらも彼らにはなかっただろう。
そして、静寂を破ったのはこの状況を生み出した張本人だった。
『まずは、棍棒………』
「なッ………!?」
目にも止まらぬ速さで牛魔王の下へ移動すると、彼が反応できないほどの速度で彼の頭を掴み、
『………』
「ガッッッ!!!?」
地面へと叩き付ける。
全力で行われたそれは牛魔王の頭が半分ほど埋まり、地面が割れるほどのものだった。
しかし、黒い靄はそこへさらに追い打ちをかける。
「ッッッ!!!?」
牛魔王は悲鳴や呻き声すらも上げられなかった。
今、彼の頭には彼自身の棍棒が叩き付けられたのだ。
それによりさらに彼の頭は埋まり、迷宮の地面がさらにひび割れる。
『………次は、稲妻の矢………』
「ッ!」
アルジュナの方を向いてそう呟く黒い靄。
アルジュナはその言葉が聞こえたのか弓を構え矢を射るが、そんなものはあの存在の前では無駄で無意味な行為だった。
『………』
「グッ………!!!?」
気づいた時には黒い靄によって首を掴まれ、持ち上げられていた。
どうにかその腕から逃れようともがいているが、ビクともしない。
「…………ッ!!!!?!?」
そして、また気づいた時には、背中に衝撃が走り、呼吸が一瞬止まっていた。
彼は首を掴まれたまま背中から叩き付けられたのだ。
その力で彼の体はバウンドすることなくすべての力を彼の体が受け止めていた。
その衝撃は内部にも伝わり、しばらくの間は激痛により体を動かすことは出来そうになかった。
『………最後は、落雷………』
「………来るなら来いよ。俺じゃお前に何も出来ねえからな………」
釈天は潔くその理不尽な暴力を受けることにしたようだった。
その言葉を聞いた黒い靄は彼の腹部を全力で殴りつけた。
当然のごとく、勢いを逃がすために後方に飛ぶなどの行動を行う暇などなく、その衝撃をすべてその身に受ける。
痛みに悶えながらも片膝をつく程度で収まったことに不思議に思う釈天。
もしかしたら加減をしてくれたのかもしれない。安堵の息を吐く。
だが、甘かった。
『………』
「ゴッ!!?!?」
二度目の衝撃。今度は顎だった。蹴り上げられた。
脳が揺さぶられて、意識が混濁する。
しかし、それ以上に激痛が意識を手放すのを許してはくれなかった。
そして釈天は自然に落ちた。
追い打ちはそれで終わりだったようだ。
そして、唯一立っている十六夜の下へ歩み寄る。
それに警戒し、身構える十六夜。
『できる限り痛くはしない。あと、すまない』
「……………………………は?」
黒い靄は徐に十六夜の腕を掴む。そして、その腕を振りかぶる。
『行ってこい』
「テ、テメッ!?このクソ野郎がああああああッッッ!!!!!??」
全力で投げた。着地は知らん。彼なら自分どうにかするだろう。
そして、今度こそ黒い靄はその場から存在を消した。
あとに残されたのは瀕死の三人のみであった。
そこへ釈天の救援に来た黒ウサギが見たのは何とか立ち上がってはいるが、膝が生まれたての小鹿のようにがくがくと震わせながら釈天とアルジュナの二人が対峙している姿であった。
牛魔王の姿は既にそこにはなく、あるのは血痕と割れた地面のみであった。
残る問題は焰たちが相手している怪牛だけであった。
・深水碧生(館野蒼奇)
ただの八つ当たり。ついやってしまった。以上。
・アステリオス
不運にも背中に実力者三名の攻撃(うち一つは棍棒)が当たってしまい、結果的には敗れた。
・逆廻十六夜
唯一の生き残り。だが投げられる。
戦闘に割り込まれたタイミングは牛魔王に投げられる直前。
よって結果も原作も、ほぼ変わらない。
・御門釈天
釈天は二度やられる。
・牛魔王(平天大聖)
自身の武器によって殴られ敗北。
・アルジュナ
背中から着地。……………骨は砕けてないよ?
・クールマ(世界王)
理不尽野郎が来る前に消えた(逃亡)。
・黒ウサギ
生まれたての小鹿のごとく膝を笑わせていた主神と敵対者を発見、その後にフリーズ。
そして特に何もなくアルジュナは帰っていくのを目撃。
次話は明日!