ゲームをクリアして元の世界のクレタ島に飛ばされたアステリオスを新しく加えた焰たち一行。
「やっと帰ってこれた………」
焰が声に疲労を含ませながら言う。
それを聞いた碧生が彼の肩に手をのせて笑いながら声をかけた。
「お疲れさん。初ゲームにしてはかなり良かったんじゃねえの?」
「そりゃどうも………。つか、お前は終わるまでどこで何をしてたんだよ………」
「色々だ、色々。それとお前らは俺の会社じゃどうにも出来ねえから、〝エブリシングカンパニー〟の方を頼ってくれ」
「そりゃまたなんでだよ?」
「………一応お前が契約してるのは彩鳥だぜ?それなのに他所の、それもライバル会社が対応したら外聞悪いにもほどがある。だがまあ、ライバルに恩を売ってもいいとは思ってるが、それはそれでつまらないからな。でもまあ、迎えが来るまでにソイツを休ませるところが必要だろう」
そこで碧生は懐から携帯電話を取り出して連絡を取る。
二、三言葉を交わし電話を切ると、再び焰たちに向き直る。
「今、ここに来てる社員に連絡してここに来てもらうように言った。あとはそいつの案内に従ってついていけば休める場所に連れてってもらえるだろう。というわけで彩鳥。あとは頼んだぞ」
「え?は、はい………。その、碧生はどうするつもりですか?」
「どうするって、普通に帰るぜ?そんじゃな」
そういってその場から姿を消す。
「………そうでした。あの人は転移が使えるんでしたっけ………」
「………………そういやアイツって結局何者なんだ?箱庭にも随分と詳しいし、女王とも仲良さげだったけど」
焰が彩鳥に尋ねる。
彼女は答えてもいいかどうかを考えるが、どうせあの人のことだから話してしまっても何も言ってこないだろうと考え、口を開いた。
「………あの人は、前世は箱庭の最古の魔王の一体でした。呼称としては〝恐怖〟、〝絶望〟、〝青き魔王〟、最後に〝願いを叶える魔王〟。箱庭で最も恐れられた魔王でありながら、最も被害の少なく、平和的な魔王、と聞いています。ですが、後半の二つは魔王という呼称ができてからのものですね」
「………前半三つは魔王として相応しいと思うけど、最後のは一体どうしてそう呼ばれたんだ?」
「………実際に見たわけではないので何とも言えませんが、彼のゲームはまず初めに挑戦者からその者が望む願いを聞き、それに見合った試練を提示する。挑戦者はそこで一度その試練を受けるか受けないかを問われ、拒否権が与えられたそうです。そして、受けなかった者は何もなく無傷で帰される。反対に受けた者はその試練に挑んだとされています。そして見事その試練をクリアした者は初めに言った願いを叶えてくれたといわれているんです」
「………マジかよ」
「それって本当に叶えてくれたの?」
「そう聞いています。多くはいなかったようですが、幾人かの証言が記録として残されていると聞いています」
「………碧生って神か何かなの?」
「……………………………ど、どうでしょうか?」
そこで三人の頭に金盥が降ってきてガンッ!という音を立てて直撃する。
不意に頭に衝撃と激痛が走り頭を押さえて蹲る。
そこへ一枚の紙がひらひらと三人の目の前に降ってきた。
それにはこう書かれていた。
『神なわけがあるか。あんな変態だらけの連中に含むな、アホ』
………明らかに先ほどの会話を聞いていたとしか思えない内容だった。
それを見た焰たちはさらに疲労感が増した。
その後、碧生が呼んだ人物が来て彼らはその人物に案内され、休憩しながら〝エヴリシングカンパニー〟へと連絡を取り、迎えを待った。
同じく飛ばされた逆廻十六夜は、怒りで全身を戦慄かせながら小さく叫ぶ。
「なんで………精霊列車は箱庭に帰ったのに………俺だけ外界に飛ばされてんだよッ!!!おかしいだろド腐れ女王ッ!!!何の嫌がらせだこれはッ!!!そしてお前もだ蒼奇ッ!!!」
「俺のは八つ当たりに近い何かだ。意味はない。しいて言えば俺の憂さ晴らし」
「ふざっけんなッ!!!」
………と、辺り構わず吼える十六夜。彼も自棄になっているのだろう。
そこで、グリーの治療を行っていた女性が声を上げる。
「治療は終わりました。ただ少しの間は動かしづらいかもしれませんが………」
『いや、治してもらえただけでも十分だ。感謝する』
「いえいえ。それでは社長。私はこれで」
「ああ。特別手当を出しておく。それともう暫くしたら撤収するかもしれない。その旨を他の奴らにも伝えておいてくれ」
「わかりました。帰ったらみんなに何か奢ってくださいね?」
「………………………………………………………金を下ろしておくよ。店を見繕っておいてくれ」
「ホントですかッ!?こうしちゃいられませんね!早く皆に伝えなきゃッ!!」
目にも止まらぬ速さでその場から走り去っていく女性。
それを呆れたような目で見つめる碧生。女性の姿が見えなくなると今後のことを話し合っている十六夜たちに向き直って話す。
「というわけで、俺はもう帰らないといけない。後のことはお前らでどうにかしてくれ」
「ああ。わかった」
「それと十六夜。賭けは俺たちの勝ちだ。ちゃんと金を用意しとけよ」
「はっ………?」
「じゃあな」
それだけ言うと、碧生は空気に溶けるようにその姿を消した。転移したわけではない。この個体はもう必要ないと自分で判断し、存在を消したのだ。これでもう残る個体は社長室に残っている本体を含めた二人と焰たちと行動を共にしていた個体のみとなった。
焰たちと別れた碧生は途中で天衣を回収して〝ディープブルーコーポレーション〟へと帰ってきた。
「天衣、悪いな。せっかく来てもらったのにほとんど出番無くて」
「い、いえ、なんだかんだ皆さんに付き合うのが楽しかったので大丈夫です………」
「そうか?なんなら今度何か埋め合わせするが………」
「なら今度買い物に付き合ってください!」
『埋め合わせ』という単語を聞いた途端にすごい勢いと剣幕で碧生に詰め寄る天衣。
それを見た周りの社員は「あっ、社長やらかしたな」と内心考え、二人の方を見ない方にしている。
詰め寄られている碧生本人も「あっマズイやつだ、これ」と冷や汗をかいている。
「………お手柔らかにお願いします………」
「はい!無理はさせません!!」
本当かよ?
周りにいた全員の心が一致した瞬間だった。
その後、天衣と別れた碧生は月夜見に呼ばれたため、彼の下に向かっていた。
「月夜見、来たぞ」
「社長。奴らを見つけました」
それを聞いた碧生の眉間に少ししわができる。
そして、若干の怒りを隠すことなく尋ねた。
「………場所は?」
「ロシアです。詳しい場所はこちらの資料を」
「………わかった。俺一人で行ってくる。もし何かあれば社長室の個体が分かるはずだ」
「了解しました。お気をつけて」
そして姿を消す碧生。
その後、ロシアに存在したとある施設とそこにいた研究者十数名の命がこの世から消え失せた。
だが、その代わりに、そこに収容されていた被検体の少年少女ら五名の命がある一人の人外の手によって救い上げられ、保護することに成功した。
・深水碧生(館野蒼奇)
転移で帰る。これは常識。
・西郷焰
(碧生による)疲労感しかない。一たらい。
・彩里鈴華
(碧生への)疑問しかない。二たらい。
・久藤彩鳥
(碧生の存在に)不安しかない。三たらい。
・逆廻十六夜
理不尽に対してキレる。それと賭けの賞金を要求される。
・グリー
傷は翠のおかげで完治。
・御門釈天(帝釈天)
問題児と幻獣を雇う穀潰し社長。
・プリトゥ(プリトゥヴィ=マータ)
一応その場にいた。
・桐生翠
社長に飯(奢り)を強請る。おそらく居酒屋か焼肉をチョイスするだろう。
・三神天衣
女性の買い物は長い。だが、この子はその数十倍長い。ゆえに碧生に合掌。南無。
・月夜見
日本神話の月の神。碧生の部下。雑貨部門の副部門長のほかに諜報活動もしている。
・ディープブルー社の社員一同
社長に合掌。南無。
・とある施設の研究者たち
外道。もうこの世にはいない。
・五名の少年少女
被検体。これからディープブルー社でカウンセリングとリハビリを受ける。
これで二巻終了です。
とりあえずアンケートの方に要望もないので、改稿作業に入ります。
それとアンケートにつきましても常時受け付け中です。