そのころ、地下にある砂が積もった大広場で老人と少女は息をひそめながら休んでいた。
「グゾル、なんであんなことを言ったの?」
「ララ・・・・・・。私はララが壊されるのを黙って見てられなかったんだ・・・・・・」
「グゾル・・・・・・」
ずっとアクマやエクソシストに狙われていたためにグゾルは疲労でぐったりしていた。
それを見て少女が思いついたと手を叩いて笑った。
「そうだ。グゾルのために歌を歌ってあげる」
ララは目を閉じて心に響くような歌声で歌い始める。
彼女こそがイノセンスを動力源とした人形。
彼女と小さな時ここに捨てられた時からずっと一緒に居たグゾルは嘘をついてまで彼女を生かしたかったのだ。
「あなたが・・・・・・」
「っ!?」
歌を中断して振り向くと、そこに聞こえてきた少年の声に振り向くとそこにはさっき会った神田とトマ、それに黒いコートを着た少年までいた。
「ちっ・・・・・・。さっさと終わらせるぞ。あのアクマの能力は厄介だからないつどこで襲ってくるかわからんぞ」
「待ってっ。もうグゾルはもう長くない、だからグゾルが眠るまで私に歌わせて!!」
「待ってられないな。こうしているうちにアクマの大軍が押し寄せてくるかもしれないんだ」
「わかりました」
「な・・・・・・・」
神田の答えを否定するようにアレンが笑うと少女に背を向けて神田と対峙する。
「グゾルさんが永い眠りに就くまであなたは歌ってあげてください。その間・・・・・・」
アレンは自分たちがいる大広間に降り積もっている砂のある一部を睨み付ける。
「たとえアクマが何百と来ても僕があなた達を守ります」
その瞬間、アレンの左腕が一気に伸びて砂を吹き飛ばす。
「ナッ!?」
「たとえ、どんなにすごい変装だろうが、どんなにすごい擬態だろうが、どんなに人に紛れ込もうが僕はあなた達を見つけ出せる目を持ってる」
「クッソォオオオオオオオ!!」
アクマは変装がばれてしまったのに慌てて飛び出してイノセンスを狙う。
伸びていく腕をアレンは左腕を振るって中ほどで叩き切るとそのままアクマに腕を振り下ろす。
「哀れなアクマに魂の救済を」
絶対的な実力差を埋める要因である砂と同化していた肉体も、性能を引き出されたイノセンスの影響には逆らえずそのまま抉られ半分になってしまう。
そして地面に転がったアクマを踏みつけてほかの人には見えないようにしてアレンは笑う。
「伯爵に伝えてください。あなたが思っている程、人間は弱くない。戦争に勝つのは人間だ。と」
「クソ、エクソシスト・・・・が・・・・」
恨みがましく眼球をぐるりと回しアレンを睨み付けるが、ついにダメージが限界を超え、アクマの体が四散する。
『ありがとう・・・・・』
「どういたしまして」
アクマの魂が解放され、光に消えていく様を見ながらアレンが微笑んだ。
「ちぇ・・・・・。玩具も無くなっちゃったし帰ろっと」
遠くからそれを眺めていた聖痕を額に持つ少女はつまらなそうに言うとどこからともなく扉を出現させて援軍として連れてきたレベル1のアクマ達と一緒に扉の向こうに消えていく。
この時、マテールからすべてのアクマの姿が消えたのだった。
アクマを撃破してから三日、神田は近くの黒の教団傘下の病院で手当てを受けながらララが止まるのを待っていた。
ある事情によりほぼ治っている体でベットに横たわっているのも暇なので医者たちが慌てて止めようとするのを振り切って、気晴らしに散歩していると階段に腰かけて風に乗って聞こえてくるララの歌を気持ちよさそうに耳を傾けている白髪頭の少年がいた。
「おい」
神田の声に反応して階段上を少年が驚いたように見上げる。
「あ、神田。もういいんですか?」
「ああ。もう治っちまった」
「そうですか・・・・・・」
アレンは少しだけ悲しそうな顔をして顔を歌のする方に戻す。
それから神田も階段に腰かけて耳を傾けていると歌が突然ぴたりと止まった。
二人はゆっくりと立ち上がりララのいる場所に向かった。
アレンたちが到着すると永遠の眠りに就いたグゾルを膝枕しているララが差し込む光を見上げながら力なく座っていた。
「ララ・・・・」
「グゾルはもう寝ちゃったわ・・・・・・」
少女にも見える動き続ける人形は目を閉じているグゾルを優しい手つきで撫でながら動き続ける目的を失ったことに悲しげな声を漏らす。
「ありがとう。グゾルの最後を見、守れ、た・・・・・・」
ガシャンと音を立てて糸が切られた操り人形のように地面に転がったララにアレンは顔を伏せながら十字を切る。
「お休みララ。願わくばあなた達が天の国に導かれますように」
動かなくなったララの胸部からイノセンスを回収しアレンは二人を一緒に並べて地面に埋葬する。
荷物を持ってマテール最寄りの駅でアレンは汽車に乗り込む。
「神田はどうするんです?」
「俺はそのまま任務に行く」
「では気を付けて」
そのまま背を向けて行ってしまった神田にアレンは苦笑しながら走り出した汽車の一室でララのイノセンスを眺める。
光り輝くそれを左手でギュッと握り呟いた。
「絶対に人間が勝ちます。何があっても・・・・・」
アレンはそう言ってゆっくりと終点ロンドンを目指す汽車の中で目を閉じた。