「何処まで行くんだい?」
「あ、ロンドンまでです」
芸人一座の馬車に乗せて貰ってゆらゆらと揺られながらアレンは尋ねて来た芸人に答える。
「へぇ、働きに行くのかい?」
「いえ、黒の教団って所に」
行くんですという前に聞こえて来た叫び声によってアレンの表情が険しくなる。
「アクマだーッ!!」
「アクマ?」
「っておいちょっと!?」
馬車から飛び降りたアレンは聞こえて来たほうに走っていく。
だが次に聞こえて来た音はアクマの砲撃の音では無く、少年の悲鳴と大人達の怒鳴り声だった。
「またこのガキはっ。悪魔なんている訳ないだろうが!!」
「見たんだよっ、この男を殺してアクマが皮を被っていく所をっ!!」
「ジャンッ、いっつも言ってるがそんな事はありえねえだろっ」
また拳を振り下ろされて痛みに顔をしかめるジャンと呼ばれた少年が反発しようとするが、大人達に頭を押さえられてアクマだといっていた男に頭を下げさせられていた。
「すまねえな。こいつはいっつも悪魔はいるって騒いでるんだ。子供の遊びに巻き込んですまなかったな」
「イインダ、タノシカッタシナ・・・・・」
男がジャンを許したので大人達はぞろぞろと自分の仕事場に帰っていく。
「ちぇ・・・・。なんで誰も信じてっ・・・・?」
突然口をふさがれたジャンはその手を辿り、さっきの男の顔を見上げる。
「(アクマのペンタゴン・・・・・・)」
額に浮かんだそれにジャンは冷や汗を流す。
ニヤリと笑う男の体の方からガチャガチャと機械が起動を始めたような人間では絶対にしないような音がする。
「やば・・・・・・」
死を覚悟したジャンは目を瞑る。
しかし男は動かない。
いや、動く前に頭が吹き飛んでいた。
「僕の目と耳はごまかせませんよ。僕はしっかりと君をアクマだと認識していますから」
銀色の鋼のような質感の巨大な左腕を水平に持ちあげたまま言ったアレンはアクマが破壊されたのを確認するとイノセンスの発動を解除する。
少年にアレンは目を合わせ、優しい口調で諭そうとする。
「ジャンだっけ・・・?伯爵を追うのはもうやめるんだ・・・・・・?」
「すっげー、それって対アクマ武器?」
「そ、そうだけど・・・・・・」
「それでアクマ達を倒していくんだよな、さっきみたいにっ」
目を輝かせてアレンの赤黒く硬い左手を見ているジャンにアレンはかすれた笑い声しかだせなかった。
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ジャンはアレンを家に招くと自分の部屋をアレンに見せる。
「どうだ?俺がこの数年で集めた情報から只の人間でもアクマを壊せるようにいろんなものを開発してる研究所だ」
「ジャン。さっきも言ったように伯爵とアクマは一般人が手を出していいものじゃない。もう止めないと伯爵が君を殺しに来る」
アレンが説得しようとするが、ジャンは嫌だねと突っぱねる。
「坊ちゃん。レオ様が」
「レオがっ!?今行くっ!!」
アレンの説得から逃げるように降りていくジャンをアレンも慌てて追いかける。
「アレン。俺は一人じゃないんだ。レオって言う親友がいるんだからな。こいつといつかアクマを壊せる兵器を作り出すんだ」
そう言ってアレンにレオを紹介するジャンの話をアレンはちっとも聞いていなかった。
『助ケテ・・・・・』
女の人の魂がレオと呼ばれた男の子の後ろに見えたからだ。
「ジャン待てっ!!その子はアクマだ!!」
「はぁ?レオがアクマな訳が無いだろ?だってこいつは伯爵の事を知ってるんだからさ」
「ウン、ソウダ。ボクハアクマジャナイ。ソレヨリツイテキテホシイバショガアルンダ」
「いいぜ。アレンは待っといてくれよ。ちょっと行ってくる。アレンを逃げさないでおいてくれよ。今日はいろいろと聞きたいことがあるんだからさ」
そういってジャンはレオと共にドアを閉めて出かけてしまった。
「待ってジャン!!」
メイドの執拗な抑え込みから必死に抜け出すと走って遠ざかっていくレオについている魂を追いかけていった。
「嘘だろ・・・・・・。なあ嘘なんだろレオっ!!」
アレンが言った通りだったのか?と自問してももう遅い。
ジャンは墓場でレオとデップリと太った奇怪な紳士を見て顔を青くしていた。
「れ、レオッ・・・・・。何でだ、なんでだよっ・・・・。一緒に伯爵を倒すって約束してたじゃないか・・・・・・」
「レオ君はもう私の物デス。さあ、その生意気な子供を殺して仕舞いなサイ」
ジャンの友人の皮の中からアクマが飛び出し、その銃口をレオに向ける。
「あ、ああ、あ・・・・・・・」
絶望、恐怖、悲しみ、怒り、様々な感情が入り混じり、動けなくなったジャンに向けて砲撃が降り注ぐ。
だがその弾丸は標的がいきなり消えたことで地面に穴をあけるだけにとどまった。
「はぁ、どうしてこうなったんですか・・・・・・」
「あ、アレン・・・・・」
間一髪ジャンを片腕に抱えたアレンはため息をつきながら伯爵とアクマを見る。
「今晩は伯爵」
「あら?あなたとは面識がありましたっけ?」
「ええ、あなたは僕の父を目の前で殺した」
「・・・・・なるほど。あなたはマナ・ウォーカーが連れて歩いていた子供でしたか」
ちょっと残念と言いながら伯爵は片手を上げる。
「あいにく敵討ちはさせてあげまセン。アクマ達、行きナサイッ!!」
その声と同時に大量のアクマがいたるところから出現する。
「ジャンッ、墓地から出てっ。速くっ」
「分かったっ」
ジャンに飛んで行きそうな弾丸を撃ち落とし続けつつ自身に飛んでくる弾丸は全て自分の身のこなしで回避していた。
「ほぅ・・・・。その身のこなし、どこかで見た覚えがありマスね」
「大方、師匠がいっしょだったのかもしれませんね」
「師匠・・・・・・。ああ、クロスの弟子ですネ。道理で動きが十四番目に似ているハズデス」
「十四番目・・・・・・?」
「その事はイイでしょう。あなた自身もかなり強いですが、ある国にはこんな言葉がアリマス」
伯爵は口の端を耳の横まで釣り上げ笑う。
「多勢に無勢っテネ」
その瞬間、アクマ達が一斉に突撃してくる。
「アレンッ!!」
ジャンの悲鳴が後ろから聞こえる。
「大丈夫ですよ」
「ハイ?」
アレンの左腕が一気に出力を上げ光り輝く。
「はぁあああああああああああッ!!!」
『十字架の墓標
そしてアレンはそのまま全てのアクマを目で見えない速さで薙ぎ払った。
「舐めないでください。レベル1のアクマ位では僕に勝つどころか傷つけるのも難しいですよ?」
「イイでしょう・・・・・」
挑発的なアレンの言葉ににやりと伯爵が笑う。
「アクマは世界のいたるところで進化し続けていマス。この戦争に勝つのは私達ノアの一族デス♡」
そのまま空の彼方に飛んで行った伯爵にぼそっと呟く。
「この戦争に負けるのは僕達ノアの一族ですよ」
アレンは振り返りつつ十字を切る。
「哀れな魂よ、安らかに眠ってください」
アレンは消えて行った少年の魂が残した願い事をかなえる為にこちらを見ている少年に向かって歩いて行った。