時間は少し戻ってアレンが迷子になっていた頃、隠れていた神田をファインダーのトマが見つけ、隠れていた崩れかけの建物に入っていった。
「神田殿」
「どうだった?」
「ええ、ウォーカー殿が押されておりましたが一気に逆転し、レベル2のアクマは十体程のレベル1のアクマを犠牲にして街の反対まで逃げて行きました。しばらくは戻ってこないでしょう」
「そうか・・・・・。奴の能力はどうだ?」
「それが・・・・・・。奴は能力を一切使いませんでした。やはりレベルアップしたてのアクマだったからでしょうか?」
「なるほど、なら隠れながら外を見張っていろ。アイツがこっちに向かっているかもしれないからな」
神田は頷き指示を出すと、少女と老人の方まで歩いて行く。
「さっきの化け物は?」
老人に抱き着いた少女が怯えたように神田にそう問いかけた。
「もう一人が殲滅しているらしい。だがほかのアクマ達がまた来るとも限らない。だから早めにイノセンスを渡してもらいたい」
「そうか・・・・・・・」
神田の要求にただ老人は低くしわがれた声でそう答えた。
時折漏れる咳を我慢してモゾモゾと体を動かして老人は神田の方を見る。
その意図に気が付いた少女が止めようとするが、老人は少女にニコリと笑ってその頭を撫でる。
「グゾルッ!?」
「ララ、いいんだ。エクソシスト・・・・・、と言ったな?」
「ああ。あの異形の化け物たちにイノセンスを渡すわけにはいかないからな、はやくこっちは人形の心臓となっているイノセンスを貰いたい」
「いいだろう。私がその何百年と動き続ける人形・・・・・・」
「マテールの亡霊だ」
老人は静かにそう宣言した。
「・・・・・そうか」
神田はそう呟くと彼のイノセンスである六幻を抜刀する。
それをそのまま老人の胸に突き立てるべく切っ先を向けるが、その間に割り込んできた少女に顔をしかめながらゆっくりと下した。
「待って!!」
「待ってられるか。もしここにアクマが来たらどうする?言っておくが俺はお前らを守ろうとなんか少しも思わないからな」
「それでも・・・・。それでも私はグゾルと一緒に居たいのっ!!私には解る。もうすぐグゾルは止まってしまう。だからっ」
「二度は言わん。どけ、じゃなきゃお前ごと叩っ斬る」
神田が六幻を再度構え、少女の横を避けるように歩み寄っていく。
「か、神田殿っ!!」
「どうしたトマッ!?」
そこに突然焦ったように神田を呼ぶトマに神田が不機嫌そうに振り返り、トマの指差す方向を見るとひとりの白い服を着た人間が建物の陰に隠れつつ周りを慎重に伺いながら進み寄ってくる。
「なんだと・・・・・?」
神田はその姿に唖然とした。
なぜなら彼の横にいるトマとそっくり、いやまるで鏡でも見ているかのような気分になるほど一緒だった。
頭が混乱しそうになった神田は抜刀しつつ表に出てその男に警戒しながら近寄っていく。
神田の顔を見たその人間は一瞬ほっとしたような顔をして近寄ってこようとした。
「おい、止まれ」
「か、神田殿・・・・?」
しかしいきなり突きつけられた六幻に意味が分からないと言った顔をした人間は手を上げながらその場に立ちすくんだ。
人間を神田はまじまじと観察し、一瞬驚いた様な顔をして納得したように首を軽く縦に振る。
「なるほどな。新しいアクマの能力はコピーといったところか」
そう呟いた神田は六幻を振りかぶりイノセンスの力を引き出す。
その瞬間六幻から莫大なエネルギーが放出されそれが刀身に集まっていく。
「厄災招来 界蟲『一幻』!!」
神田が六幻を振るうとその軌道に沿ってエネルギーが集まって奇怪な蟲が現れ男に向かっていく。
男は避けることもできずに蟲に貫かれ死ぬ、その直前に伸びてきた銀色の左腕によって防がれた。
「なっ・・・・・」
神田が唖然としているとその腕が伸びてきた路地の方から銀髪の少年が現れた。
「テメェ、なんでアクマを庇いやがった!!」
「僕の目は小さい時からアクマの魂を見ることができます。そしてこっちのトマはアクマじゃない」
そういってアレンが神田の後ろにいるトマを見ると、その背中に悪霊のように取りついているあの崩れてきている魂が見えた。
変装していたアクマはばれたと思いきや一瞬でトマをコピーした皮を脱ぎ去り神田に腕を振るう。
「そっちがアクマです神田っ!!」
「ちぃっ!?」
横なぎにふるわれた腕を神田が六幻を横にして受け止めるが、アクマの怪力によってそのまま神田は壁を突き破り、廃墟の中に転がり込んだ。
そのまま体勢を立て直す前に伸びてきた銀色の腕が神田を叩き付けるように壁に押さえつける。
神田は地面に転がっている六幻を見て舌を鳴らすと自らを押さえている硬質の腕を得意げに使っているアクマに蹴りでも叩き込もうと体を動かすがその腕の怪力はがっちりと抑え込み神田は身動き一つ動けなかった。
「ちぃ・・・・・・その腕は・・・・・」
「ケケケケケケッ。俺はあらゆるものをコピーすることが出来るのサ。さっきあいつにボコられた時の武器を頂いたンダヨ!!」
神田を壁に押さえつけながら空いている片腕を振るい神田を痛めつけようとしたが銀色の一閃がアクマを弾き飛ばした。
「神田から離れろっ!!」
アレンが神田を殴り続けているアクマを左腕で薙ぎ払って遠くまで吹き飛ばすと、神田に近寄る。
「よかった。怪我をしてるけど、命には係わりそうにない・・・・・。トマッ!!」
「はい」
「今すぐ離脱して神田を病院に連れて行ってくれ」
「やめろ・・・・・・・」
掠れた声で神田がそう呟いてアレンを止める。
「俺は死んじゃいねぇ・・・・・・。まだ戦える・・・・」
「ですけど・・・・・・」
神田はちらりとグゾルとララのいたはずの場所を見ると二人の姿は消えていた。
「・・・・・行くぞ。イノセンスをアクマより早く回収するんだ・・・・」
フラフラしながらも立ち上がって歩き始めた神田にアレンは目を見開いて驚く。
先ほどは叩き付けられた時に服の上からでも何か所も骨折していて普通の人間ではすぐには動けないほどの怪我だった。
「(こんな短時間であの怪我が治るなんて・・・・・・。もしかして神田はノア・・・・?)」
そう考えたが頭を軽く振ってそれを打ち消す。
「いや、絶対に違う・・・・。神田はノアなんかじゃない・・・・」
アレンは小さく自分を納得させるように呟くと神田の後を追いかけた。