英雄記 世界を統一した王国英雄 リュカイ・サイディード 作:木酉原三歩
日が沈んでから時間が経ち、リュカイは食事をしていた。主食のパンをはじめ、野菜や肉等で調理された料理は彩り多く、スプーンで口に料理を運ぶリュカイは笑みを浮かべていた。
「今日も美味い。」
「ありがとうございます。今日は城下で新鮮な野菜が採れたらしく、こちらに沢山届いてました。お肉は少ないですけど、体には良いかと思います。」
その様子を嬉しそうに見つめ、椅子に座って向き合うのは使用人のマヤ。
使用人として働く彼女達はほぼ毎日主人の家に入り、主人の起床から就寝まで働く。使用人の休日はほとんど無く、その内は城下へと帰り、家族と数日過ごすだけ。
仕事の終わりは使用人の住居へと戻るが、そこでは寝起きと身だしなみを整えるだけであり、後はずっと主人の家に居る。主人が出かけている場合は代わりに家を守るため、家の中を掃除するなど仕事をする他、席を借りて休むこともある。
また主人の下にいない使用人は、宮殿での仕事が主となる。
国によって使用人の扱いは大きく異なるが、リュカイが属するこの国では、使用人に対しての扱いは親しみや配慮が深く、王族であっても下に住む民から結婚相手を決めることができる。
そしてまたリュカイも、マヤに対しては過酷な労働を課すことなく、朝は料理を作っていただくだけで、夜は料理を作り終えた後は自由にして良いと予め決めていた。
マヤはというと、使用人にしては珍しくやる気に満ち溢れており、周りの同じ使用人を持つ仲間たちから羨む声があるほどよく働く。2人は主人と使用人という立場であるが、それを感じさせない程仲が良い。
「お前のおかげか、最近は体の調子が良い。体力がつき、傷の治りも早い。よくやってくれている。」
「そ、そんなことなですよ!私には料理と服を作ることしかできませんので・・・。」
褒められたことに照れているのか、顔を赤らめ、右手で髪を触ったりしながらごにょごにょと答える。
「そういえば、最後に城下町へ帰ったのはいつだったか?」
「冬の時期でしたので、まだしばらく帰っておりません。」
「冬?随分も前じゃないか。他の使用人も戻れていないのか?」
リュカイはマヤの答えに驚いた。
使用人はほとんどの日を第1区画で過ごすが、この国で冬の時期というのは、4ヶ月以上も前という月日に相当する。ほぼ毎日ではあるが、季節の移り変わりの時期にさえ帰宅を許されない使用人はいない。
第3区画の城下まで行くとしても、空が夕焼けに変わる頃出て到着する時は、まだ日が沈み始めるほどの距離でしかない。
「いえ、皆はたまに帰っております。というより、結構どのご主人様からも帰宅をよく許されているらしく、聞いたお話では使用人の数も今後減っていくとも。」
「それなら、お前も遠慮することは無い。いつでも帰宅したいときは言ってくれ。」
「そ、そうですね…。確かに、随分経ちました。」
「俺は一応身の周りのことは1人でもできる。無理をせずに家族へ顔を見せに出かけても大丈夫だ。」
「だ、大丈夫です!両親にはたまに手紙を送ってますから、元気なのは伝わってます!多分!」
マヤは両手を振りながら、帰宅することを遠慮する。リュカイはその行動を不思議に思い、尋ねてみた。
「何か帰れない事情でもあるのか?」
「えっと、そういうことでもないのですが。」
「帰りたくない理由が?」
「そ、その…。」
質問を繰り返すごとに、マヤの声が小さくなり、何故か顔が赤くなっていく。
「…まさか、具合でも!?」
リュカイがその表情と声の変化を見て、席から立ち上がった。
「え!?」
「すぐに医者を呼んでくる。ここで待っていろ。」
「あ、あのリュカイ様!」
席から同じくマヤが立ち上がり、家を出ようと動き出したリュカイの服を必死に掴み、引き止めた。
「し…使用人のお仕事が楽しいからです!」
更に顔を赤らめながら、マヤが必死そうに答えた。リュカイは動きを止め、後ろから手を伸ばして自分を引き止めるマヤを見る。
「お、お洋服を作るのは好きです・・・。お料理もお掃除も、大好きです。
でも、城下にいるときはお店のお手伝いが忙しくて、あまり外に出られなくて。母と父、そしてまだ幼い弟としか会話をするばかりで、1日がとても長く感じ、明日を待つのはもっと長く感じてました。
洋服や料理も、家にいるときは親が作ってくれますので、城下にいるときはあまり楽しくありませんでした。」
マヤはリュカイの服から自分の手を解き、自分の胸の前で手を握る。右手を握り、左手で右手を覆うように握っていた。
「そんなとき、使用人の試験があるという話を耳にしました。使用人になれば家族ともすぐには会えなくなり、今以上に忙しいお仕事がたくさんあるけど、お金を沢山いただけて、そして自分が好きなことを誰かのためにできるって思ったら、受けに行こうと決意しました。
とても難しい試験だと聞いていましたが、なんとか頑張って合格することができました。」
両手を後ろに組み、マヤはリュカイを見上げた。その表情は先ほどの赤らめた表情とは違い、笑顔を浮かべていた。
「そのお陰で、リュカイ様とお会いすることができ、今は私も、自分がやりたかったことをやることができております。家には帰りたくないというわけではないですが、リュカイ様のお傍にいるだけでも、私は幸せです。
こうやってリュカイ様のためにお料理を作ったり、ほつれたお洋服を縫ったりすることが、今の私にとって一番嬉しいことなのです。」
そう言ったマヤの目から、涙が一筋こぼれた。
「あ・・・、申し訳ございません!嬉しくて、泣いてしまいました。」
両手で慌てて目をこすり、涙を拭くマヤ。すると、マヤは頭の上に何かの感触があることに気づく。手を止めてみると、リュカイが自分の頭に手を置いていた。
「すまない。余計なことを詮索してしまったようだ。」
「そ、そんなことありません!私こそ、何もお伝えしようとせず、申し訳ございませんでした。」
「そんなことはない。」
言い返してきたマヤに、更にリュカイは言い返した。
「今日まで、ご苦労だった。
また、明日からもよろしくな。」
リュカイは、マヤへと笑顔を見せた。
「・・・はい。はい!・・・う、っひく。」
マヤもまた笑顔を返すと、また泣き出した。