英雄記 世界を統一した王国英雄 リュカイ・サイディード   作:木酉原三歩

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第3章 戦支度

 他国への侵攻を決める広場での集会を終えた日から、9日が経った。出国まであと1日。

 リュカイは朝日が昇る前に、目が覚めた。同時に、鼻をくすぐる良い香りがした。体をベッドから起こし、寝室から台所のある広間へと出た。

 

 

「おはようございます、リュカイ様。」

 

 

 台所で朝食の準備をしていたマヤが振り返り、リュカイへと挨拶をする。リュカイはいつもどおり「ああ。」の返事をすると、席に座る。

 

 

「明日には出発する。ここは長く空けるが、掃除などは簡単に済ませてくれて構わない。明日の朝から王宮殿で出立の儀式を含め、もう家には帰らない。夜の支度が終わったら、あとは自由にして良い。」

 

 

「いよいよですね、リュカイ様。そういえば、今朝は馬車がこちらへ来ると言ってましたね。お荷物など、何かご準備が必要でしたらお手伝いいたします。」

 

 

「そうだな。では、今からまた兵舎へと向かうから、その間に衣類と武具、そして甲冑・・・はさすがに無理か。いつもの支度で大丈夫だ。向こうの城を落とし居住を構えたら、そのときにまた現地で調達するようになっている。」

 

 

「いつもどおりですね。かしこまりました。」

 

 

 マヤは頷くと、再び朝食の支度に取り掛かった。

 

 

 太陽が昇り、城下町の通りは人ごみが増え始め、リュカイ達騎士団長は王宮殿へと向かった。出国にあたり、会議が行われることが行事となる。王であるシュタインも会議に参加をしており、リュカイの行軍についての最終確認をしていた。

 王座への階段へと続く通路の左右に騎士団長が列を作って挟み、王座に一番近い場所にリュカイが立っていた。そして、リュカイの正面に立つ騎士団長「ケネス」がリュカイとの会話をしている。

 

 

「リュカイ将軍。いよいよ明後日の出立だが、本当にそなたの部隊だけで大丈夫なのか?」

 

 

「はいケネス将軍。敵である各国は1つ1つの国で見れば我らが国土の半分にも満たない小さな国ばかりです。それらが一気に締結を行うとしても時が必要であり、その間での行軍であれば、少数のほうが動きやすく、また敵も油断をいたします。そこを突き、冬の時期が訪れるまでにある程度を制圧をしてみせましょう。」

 

 

「なるほど。確かに。」

 

 

「だがリュカイ将軍。」

 

 

「なにか、ネムント将軍。」

 

 

「これから夏、秋、冬と3季に渡り戦争が続くと思われるが、補給物資の行路はどのように確保する?」

 

 

「行路としては山野を通る。平地と比べると山間は敵国に近づくにつれ不利になるが、対して制圧をしていく毎に状況は一変します。なので迅速に、第一目標となる『マディダ国』を制圧してみせます。」

 

 

 騎士団長との会話を経て、作戦や行路、敵国の状況などを確認することで、失敗を未然に防ぐことができる。この国の強さの根源には、この結束力があるといっても過言ではない。

 

 

 

 

 日が昇ってから始まった会談は、日が空の真上に差し掛かる時に終わった。

 

 それからリュカイは陣営へと指令を伝達するために動き出す。

 

 

「日の出と共に出立する!武器と軍馬、鎧、昨日までに集まっているか!確認を怠るな!」

 

 

 陣営での兵士長達に声を掛けていきながら、部隊編成の確認を行っていた。

 城内の兵士は精鋭と呼ばれるほどに腕の立つ歴戦の兵ばかりだが、数は少ない。そこで、城外に多く点在する集落から民兵を募る。主にある一定年齢に達した男性が招集される。現在その兵達は城外にて簡易宿舎を立てており、城内から城外へ武器や食料、そして軍馬の運搬をしている。

 

 やがて日が沈み、いつもとは違い場外にも篝火が灯される。馬の引く荷車へ幕を張り、その中へ武器や食料を運搬する作業が夜間にも行われていた。そこへ、リュカイがやってきた。付き添いの兵士2人と共に馬に乗っており、向かってくる姿に気づいた民兵達は、作業を止めて頭を下げる。

 

 

「皆ご苦労。そのまま作業を続けてくれ。ところで、ヴァクス隊長はどこに?」

 

 

「へい。確か食料の運搬を確認に、向こうのほうにいってますよ。」

 

 

 リュカイの問いに、1人の民兵が答え、食料を馬車へ運搬している部隊の方向へ指を向けた。そこへ行くと、馬に跨った男がいた。

 白い髭と額から後ろ髪まで巻いた黒いターバン(布を頭に巻き、後頭部で結ぶ。布の大きさで形が異なる)、目つきは鋭く、一見すれば悪人と言われてもおかしくない風体。

 

 

「やあ、ヴァクス隊長。」

 

 

 リュカイが気さくに声を掛けた。ヴァクスは横目でリュカイを見た。その目つきを見た付き人の2人は、思わず腰の剣に手を掛けてしまいそうになったが、なんとかとめることができた。

 

 

「リュカイ・・・、お前が大将というのは本当みたいだな。」

 

 

 リュカイへと返事をする声は低く、話し方も他の兵士とはまるで違う。ヴァクスは民兵を束ねる総隊長を任されてはいるが、城内での兵士が位としては上であり、下手をすれば罪を問われる可能性もある。

 恐ろしい程の嫌悪感とは違うが、どことなく親しみのある雰囲気があった。

 

 

「そっちも、いつの間にか隊長になってるじゃないか。」

 

 

「誰も好きでしているわけではない。お前のとこにいるやかましい騎士団総大将様が決めたんだろうが。」

 

 

「ルイス将軍か。それはヴァクス隊長の功績があるからだよ。俺も相応しいと思う。今はよくやってくれている。」

 

 

「申しておくがリュカイ。貴様にも、ルイスにも礼なんぞ言う義理は無い。こうしているのは、あくまで俺の部下達の世話をしているからだ。つまらぬ指揮には従わぬぞ。」

 

 

「わかった、気をつけるとしよう。では、引き続き頼んだ。」

 

 

 リュカイの一言に対し、ヴァクスは背を向けるだけで一言も返事をしなかった。

 

 

「・・・リュカイ将軍。本当に奴を野放しにしていてよいのですか?」

 

 

 付き添いの一人が、リュカイに恐る恐る尋ねた。

 

 

「言いたいことはわかっている。だが、あの時に起きた食い違いは晴れたんだ。少しずつでも、ああやって打ち解けてくれているだけこっちも助かっている。だから、お前達もそこまで警戒することは無い。」

 

 

 

 リュカイはそう部下を説得した後、城内へと戻っていった。このとき空の景色は、星が姿を現し、太陽は山の後ろへと隠れ、少しばかり暁の景色を残すばかり。

 

 

 第一区画へと入り、家の前で玄関を開こうとしたリュカイに、

 

 

「リュカイ将軍。」

 

 

 声を掛けてきた人物がいた。リュカイが振り返ると、そこには女性がいた。見た目は初老だが、背筋は伸び、対面するその姿勢からは気品と風格があった。その彼女は、この第一区画にいる使用人の教えを行う教育者。いわば使用人の最高位。ゆっくり腰を曲げて頭を下げ、そこから再び頭を上げるまでの乱れの無い動きは、老練さを感じさせる。

 

 

「メリサ。こんな夜にどうした。」

 

 

「申し訳ございません。この折にしかお話できないことがございまして。」

 

 

 メリサは再び頭を下げる。普段であれば区画内の騎士団と会話をすることがほとんどなく、公の場で使用人を代表し姿を見せるだけであり、リュカイがメリサと会話をするのも随分久しいことであった。

 

 

「少しばかり、お時間をいただけないかと。」

 

 

「俺は大丈夫だ。中へ入ってくれ。」

 

 

 リュカイが扉へ手を掛けようとしたとき、

 

 

「お待ちくださいませ、リュカイ様。」

 

 

 それを呼び止めるメリサ。

 

 

「よろしければ、屋敷にてお話をさせてくださいませ。」

 

 

 メリサは、使用人の屋敷での話を持ち出した。そして、何かに気づいたように自分の家を見た。

 

 

「マヤのことか?」

 

 

 そのリュカイの問いに、メリは頷く。

 

 

「少しばかりマヤには待っていただきましょう。彼女も成長しております。主人をお待ちする際の術を私は教えておりますので、ご心配なさらず。」

 

 

 

 

 そして、リュカイは使用人が住む屋敷へと入る。宮殿内での使用人は人数が多く、屋敷もまた人の数に合わせて大きい。内装はメリサが工夫との相談にも携わったことから、使用人が生活と教育を施すための設備が多く整えられていた。中に入ると、そこには使用人の女性がロビーに数人立っており、2人の姿を見つけた者から、

 

 

「おかえりなさいませ、メリサ様。」

 

 

 メリサへと頭を下げる。姿勢を見ればメリサ程の者はいないが、それでもここへ入れる使用人は優秀な人材ばかり。

 

 

「皆さん、リュカイ様は本日お客様として参られました。少しばかり2人でお話をしますので、部屋へは暫し御用を控えていただくようお願いいたします。」

 

 

「かしこまりました。

 ようこそ、リュカイ様。」

 

 

 メリサへの返事の後、リュカイへと挨拶をする使用人達。リュカイは頷くように頭を下げた後、メリサへと案内された。

 

 

「ここは使用人への教育を施す部屋でございます。どうぞ、こちらの席へ。」

 

 

 リュカイがメリサから案内されたのは、長テーブルに椅子が対照に同じ数並び、リュカイはその1つに座る。そしてメリサは正面の椅子に座り、互いに対峙する。

 

 

「リュカイ様もお察しでしょうが、マヤのことについてお話をさせていただきたくお越しいただきました。ご多忙な中であると存じますが、どうかお許しを。」

 

 

 

「いや、猶予があって足を運んだたけのことだ。頭を下げないでくれ。マヤへの感謝は勿論だが、これまでにマヤが俺の元に来てくれるまでを、あなたが教育してくれたのだ。そのおかげで、俺は戦に、そして宮殿へといけるのだ。」

 

 

 メリサはその言葉にも、再び頭を下げた。そしてゆっくりと顔を上げ、リュカイに向き直る。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

「それで、マヤの話とは一体。」

 

 

「はい。此度の遠征では、遠く敵地へと行かれると伺っております。また、向こうの土地を拠点とし、そこにて春を待たれると。」

 

 

「ああ。詳しくは伝えられないが、こちらには当分帰らない。マヤのことについては今までの使用人どおり、宮殿での仕事についてもらってほしい。主がいない屋敷で、積もるばかりの埃を叩かせるのは心苦しいからな。」

 

 

「確かに、あの子は使用人にしては珍しく働き者でございます。」

 

 

 マヤの懸命な姿を知っているため、2人は埃を叩くマヤを想像して笑みを浮かべあった。

 

 

「その、マヤの今後についてでございます。」

 

 

 改まった言葉から、2人は再び向き直した。

 

 

「よろしければ、マヤも一緒に同行させてはいただけないでしょうか。」

 

 

「マヤを?」

 

 

 突然の申し出に、リュカイは驚く。メリサはその驚いた顔を見るが、続けて話をする。

 

 

「はい。遠征の際は親族を連れて行かれる軍兵がおります。よろしければ、マヤもどうか、ご一緒にお連れいただけないでしょうか。」

 

 

「しかし、使用人として連れて行くには、戦場は危険だ。万一にも命を守れる保証は無い。それに、マヤには家族がいる。マヤ自身でさえも、家族を置いてなど。」

 

 

「確かに、そうでございます。ですが、それは本当に居るべき場所がある時のお話でございます。」

 

 

「・・・、どういうことだ?居るべき場所とは。」

 

 

 リュカイが尋ねた質問に、メリサは答えた。そして、その話を聞いて帰宅するまでに、リュカイはイリサと使用人達の挨拶に無言のままだった。

 

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