第三話 黒騎士
黒騎士が私を両断する前に横合いから、旅人さんのヤクザキックが黒騎士に炸裂し、彼の身体を弾き飛ばしました。
相当な重量があると見て取れるのですが、それを軽々と蹴り飛ばした彼は何者なのでしょうか? 命を助けられたにも関わらず、一研究者としての好奇心がふつふつと沸き立つのが押さえられません。
私のその視線を知ってか知らずか、旅人さんは一瞥した後に何処からともなく剣を取り出して黒騎士に斬りかかりました。
…………剣?
「ちょっ、それ絶対普通の剣ですよね!? 質量兵器ですよね!? 使っちゃダメですって!!」
「喧しい!! バレなきゃ良いんだよバレなきゃ!!」
「私管理局員ですから!! 思っ切りバレてますから!!」
私のツッコミに彼は何のリアクションも返さずに黒騎士に向かって踏み込む、またぞんざいな反応を返されたと嘆く私は次の瞬間そんな気も失せた。
振り下ろされる巨大な剣、鉄の塊と呼んで差し支えない物ですが、旅人さんはソレを軽く左手で払い、心臓目掛けて手にした剣を突き立てる。
彼の持っている武器は曲剣だ、本来なら斬る専門の武器にも関わらず鎧の隙間に滑り込ませる様に肉体を刺し貫いている。
目の前で起きた殺人、いくら相手が通り魔だったとしても知人が殺人を犯す姿は衝撃的でした。
しかし、よく見ると黒騎士の身体からは血が出ておらず、そればかりか心臓を破壊されたのに平然と動き回っている、その瞬間研究者としての自分に意識が切り替わり、黒騎士の事に思考が向けられて行く。
何故血が出ないのか? 何故死なないのか? 心臓では無く首を切り落としても動くのか? 四肢を切断しても行動出来るのか? そんな危ない思考に至り始めた時、私の目の前に切断された黒騎士の右腕が飛んで来た。
剣を持ったままの黒騎士の腕が凄い音を立てていた為、びっくりしてしまったけど、貴重なサンプルを調べる事が出来る、旅人さん万々歳だ。
早速右腕を拾ってみる、切断面を見てみるが中には肉や骨は無く、灰が詰まっている。
となるとこの事件を起こしているのは伝承の通りの黒騎士という訳になる、大王グウィンを探し各地に散った彼らだが、今ある世の中は不死の英雄によって世界の歪みを修正されたいわば別世界、彼らが存在するはずは無く、よしんば装備が残っていたとしても中身は人間で無くてはならない。
中の灰を後で調べる為に取り出そうとしたのだけど、さらさらと白い粒子となって消えて行く、その現象に関して周辺の魔力に揺らぎは見られない、言ってしまえば過去に存在していたソウルのそれと良く似た現象だ。
「––––」
現代においてソウルの業は失われている、魔術書、奇跡書、呪術書も無く、時折朽ち果てた触媒や判読不能な状態の書物が採掘されるだけであり、存在していた事はわかるけど、どの様に使用していたのかは完全に失伝してしまった。
「–––––おい」
ソウルの業、それは一体どの様な物だったのだろう? 嘗てロードランでは自身の強化は勿論、武器防具の強化、修理、挙げ句の果てに買い物すらソウルで賄われていたと言うのだから驚きだ、通貨は無かったのだろうか? またどの様にしてソウルの授受を行っていたのだろう? そもそもソウルとは一体––––。
そんな風に考え事に没頭していた時だった、頭に強烈な衝撃が走った。
「〜〜〜〜ッ!!」
「人の話聞けよへっぽこ」
どうやら私の頭に拳骨を落としたのは目の前の旅人さんでした、見れば黒騎士は既に倒されており、鎧と武器を残すのみとなって居ました。
頭を摩りながらも妙に手慣れた手つきで黒騎士を撃破した旅人さんを睨みつける、別に犯人っぽいとか黒幕的なポジションっぽいからと言う理由では無く拳骨を落とされた事に対する睨み付けだ。
「んな顔するんじゃねぇよ、連中が生き返った原因も見つけてやったってのによ」
「へっ? 原因分かったんですか!?」
「手、出してみ」
言われるがままに手を差し出すと、彼は手に握っていた物を私の手の上に落としました。
それは真っ二つにされた眼球らしき物、少しくすんだ色をした物ですが見ているだけで不吉な気持ちにされる物でした。
「悲鳴あげるかとおもったんだがなぁ、中々図太い神経してんなお前」
「いや、だってコレぐらいで驚いてたら研究者になれませんよ、そもそもコレ何です? 不気味で悪趣味なアクセサリーにしか見えませんけど」
「其奴は黒騎士の腹ん中から出て来たもんだ、それが何なのかはテメェで調べろよ」
「まぁそうします、取り敢えず今日はこのまま帰って報告書書かなきゃいけませんしね」
そう別れを告げた私は踵を返し、クールに去ろうとしたのですが、直ぐに黒くて大きくて冷たい壁にぶつかりました。
「いたた、んもう!! 誰ですかこんな場所に黒騎士を置いたのは!! 危ない、じゃあ、ない、ですか?」
「お前なぁ、被害者の位置をよく調べたのかよ、距離的に黒騎士は一体じゃねぇんだぞ?」
「お、お助けー!!」
思わず全力で走り、旅人さんの背中に隠れてしまいましたが、クールに分かれようとしてた矢先にコレである、何ともしまらない。
「うぅ……、折角クールビューティな女を演出しようと思ったのに……、失敗です」
「オメェには百年たっても無理だよへっぽこ」
「い、言い返せない……、ところで一つ良いですか?」
「切り替えはえぇな」
「それだけが取り柄ですからね、そんな事よりなんでそんな浮かない顔してるんですか?」
先ほどの眼球を手渡した時、明らかに旅人さんの表情が曇って居ました。
「…………俺達の不始末だからだよ」
「???、何の話です?」
「……何でもねぇよ」