~鬼いちゃんと子鬼の小話~
「ねえねえ、覇鬼兄ちゃん!」
「ん?どうした優介?」
「地獄ってどんなところなの?」
「地獄?そりゃあまあ、いろんなすげえ奴がいる所だな。」
「凄い奴?」
「ああ。地獄は悪人を懲らしめる所だからな。どんな強い悪人だろうが問答無用で罰を与えなきゃいけないから、地獄にいる奴はどんな悪人にも負けない強い力が必要なんだ。」
「じゃあ、覇鬼兄ちゃんは地獄で一番強い鬼だったの!?」
「そうともさ!と、言いたいところだが、地獄じゃトップクラスの実力の俺でも、思わずビビっちまうような奴らがいたんだ。」
「ほんと!覇鬼兄ちゃんよりすごい奴なんて…ねえ、いったいどんな奴だったの?」
「そうだな…一言でいうなら、閻魔大王をしばきまくる鬼かな…」
「閻魔大王をしばきまくる!えっ!閻魔大王って地獄じゃ一番偉い人じゃないの!?」
「まあ、その鬼も閻魔大王の秘書みたいなもんで実質№2の存在なんだ。奴の吊り目に睨まれると、並大抵の鬼じゃ体が固まって動かなくなる。閻魔大王をしばくのは、日常だな。」
「そんな奴がいるんだ。やっぱり地獄ってすごいところだな…」
「あとはそうだな…ウサギがかなり強いな。」
「ウサギ!ウサギってあのウサギだよね!?地獄のウサギって鬼がビビるほど強いの!?」
「そのウサギは特殊でな。ほら、カチカチ山でタヌキを懲らしめたウサギだ。死んだ後、地獄でスカウトして雇ったらしい。何でも、象を倒してさっき言った閻魔大王をしばく鬼とも互角の勝負が出来るそうだ。」
「そうなんだ。地獄のウサギって強いんだなぁ…」
後日
「優介、母さんから聞いたぞ。最近朝早く学校に行ってウサギの世話を頑張ってるそうじゃないか。偉いぞ!」
「うん。地獄に行った時、ウサギにしばかれたくないからね。」
「は?地獄?」
そんな会話があった懐かしき日の記憶
俺が駒王学園に入学する前日、つまり昨日の事だが、俺は近くのスーパーに買い物に行った帰り道に通る墓地で、奇妙な亡霊と出会った。
その亡霊は薄汚れたYシャツとズボンを着た若い男性で、墓地の入り口に佇み駒王学園の方角を眺めながら何度も溜息をついていた。
気になって話しかけたところ、亡霊は話しかけられたことに大層驚いた様子だったが、久しぶりに生きた人間と話せるからか進んで黄昏ていた訳を話してくれた。
当初俺はこの亡霊に何か未練があると察し、その未練を断ち切り亡霊が安らかにあの世に行きたいと思うのならばそうしてやりたいと思っていた。強い未練や無念を抱き続けた亡霊は時として悪霊や妖怪に変異することもあるからだ。
だが、そのちょっとした親切心が図らずも駒王町の歴史を知るきっかけとなった。
そもそも何故この駒王の地に悪魔が根を下ろしているのか。
まず最初に留意しておかなければならないのが、駒王町は町の下に巨大な霊脈の通る、ある種のパワースポットであると言うことだ。
霊脈とは、妖怪をはじめとした此の世のモノ為らざる存在の力の源となる霊気の通り道であり、日本の地下にはこの霊脈が血管の様に張り巡っている。
そして、霊脈から溢れ出た霊気が漏れ出す場所を霊穴と呼び、駒王町の中心には此れがあった。
この霊気というのが厄介なのだ。霊脈から涌き出る霊気は、その地に住む生き物の生命活動を活発にし、豊かな実りをその地に与える。
その一方で、霊気は此の世のモノ為らざる存在を呼び寄せたり、霊気の吹き溜まりとなった場所では怪奇現象が頻発する事もある。所謂、穢れが産まれるのだ。
その為、日本では霊穴のある場所には殆どの場合寺社がある。
寺社には霊穴から溢れる霊気が吹き溜まらないように管理したり、その地で亡くなった者の魂を供養し、悪さをしようとする妖怪を祓って穢れを産まないようにする役割がある。
そして、駒王の地にもかつては神社が存在した。その名も駒追神社。漢字は違うが読みは駒王と同じである。というのも、もともと駒王町は駒追町と書いていたそうで、現在の字に変わったのは終戦後らしい。
駒追神社は室町時代に建立され、この地における祭事の一切を担っていた歴史ある神社だったそうだ。
だったというのは、お察しの通り今はもう存在しないからである。だがそれは、悪魔の仕業によるものではない。
第二次世界大戦
日本の歴史に暗い影を落とす此の戦争は、駒追の地にも歴史的転換点をもたらした。
戦争末期、日本の各都市がそうであったように駒追にもB-29による焼夷弾の雨が降り、駒追神社は焼失してしまう。
それどころか、土地の管理者であった神主一家も空襲の犠牲となり、駒追神社は完全に管理機能を失ってしまった。
不幸中の幸いは神事の修行中に徴兵され、大陸に渡っていた長男、圭一郎が生きていた事だろう。
だが、命からがら戦地より帰還した彼が見たものは、焼け落ちた実家と死霊で溢れた故郷であった。
神社で御神体と共に奉ってあった神の姿も、お隠れになってしまっていた。
町の各所で穢れが生まれ、溢れ出した霊気を求め妖怪が跋扈し、空襲で亡くなったまま弔われぬ魂が悪霊となるさまは、さながら地獄のようであったという。
事実、この頃の駒追では怪奇事件が多発し、神隠しや刃傷沙汰が毎夜のように起きていたそうだ。
圭一郎は何とかしなければならないと思った。
子々孫々に受け継いだ駒追の地を妖怪や悪霊の手から取り戻し、人々が安心して暮らせる土地にしようと。
だが修行半ばで戦争に駆り出された圭一郎には一人で霊穴を管理し、妖怪や悪霊を祓う力も技量もない。
神社を再建する資金もない。
ほかの寺社を頼ろうにも戦後の混乱期では日本各地、どの寺社も似たような状況にあり、とても一地方都市の寺社に貸すような手はなかった。
親族は自分を残し死に絶えた。
もはや普通の手段では現状を改善する術は無しと悟った圭一郎は最後の手段を選択する。それは、悪魔と契約するというものだった。
彼は悪魔を呼び出すと、自分が神主として十分な力を得るまでの間駒追の地の実質的な管理を任せる代わりに、その間の駒追での悪魔としての活動を認める契約を交わした。
神道に仕えるものが不浄の存在、それも異国の力を借りなければいけないのは非常に心苦しいことであっただろう。
だがそれも全ては一日でも早く駒追神社再興のため、人々が安心して暮らせる町を取り戻すためだと思えば小さきことであった。幸いにして契約を交わした悪魔は比較的良心的であり、土地の管理もよくやってくれた。
圭一郎は土地の管理を悪魔に任せると、自身はやりかけだった修行を再開するとともに、寝る間も惜しんで働き神社の再建費を稼ぎ始めた。
しかしその翌年、無理が祟ったのか圭一郎は病に倒れる。
病名は結核。現代であれば十分な栄養と医療機器具の完備された施設であれば回復可能な病であるが、そのいずれもが敗戦直後の日本では簡単には得られない。運命はあまりにも彼に残酷であった。
日に日に病に蝕まれ、体が痩せ細ってくる中で圭一郎も自身の死期を悟り、契約した悪魔を枕元に呼んだ。
『どうか私の死んだ後も、此の地を管理してほしい。そのために必要なものを全て君に挙げよう。』
圭一郎はそう告げると、一筋の涙を流し息を引き取った。享年22歳。彼の亡骸は神社のあった場所から程近い空き地に作られた仮墓所に埋められた。
だが、室町から続いてきた神社を自分の代で廃さなければいけなかったことは非常に無念であり、今でも神社の跡地に立てられた駒王学園を眺め溜息をついてしまうのだという。
そう、俺が話しかけた亡霊こそ駒追の管理者の末裔である駒野圭一郎さんだったのだ。
圭一郎から土地の管理を引き継いだ悪魔だったが、彼も冥界に自分の土地をもち、いつまでも地上に留まり続けることはできない。
かといって一度交わした契約を破棄するのは悪魔としての矜持にもかかわるし、個人的にも代々引き継いだ血筋を、戦争が原因で自分の代で絶やすことになった契約者の無念はよくわかる。できれば何とかしてやりたい。そう思わずにはいられなかった
その時、悪魔が思いついたのは、駒追の地を若手悪魔の修行の場とし、交代で若手悪魔に土地を管理させるというものだった。
堕天使や教会との戦いで多くの同胞を失った悪魔陣営にとって、次世代の育成と種族数の確保は重要課題である。
そこで駒追を地上での活動拠点とするとともに、土地の管理を通し領主としての経験を積ませ、悪魔としてのスキルアップを図る場にしようとした。
彼の悪魔は圭一郎より引き継いだ土地の管理者としての立場を利用し神社の跡地に学校を建設。駒王女子学園として現体制を構築し、そこに有力若手悪魔を学生の立場で入学させる案を冥界の悪魔たちに持ちかけた。土地の管理と悪魔社会の問題を同時に解決しようとしたのだ。
それに一部の有力貴族が賛同し、現代まで続く駒王学園の悪魔による支配体制ができたのだという。
以上が俺が昨日自縛霊として留まり続ける圭一郎さんから聞いた話である。
圭一郎さんが言うには、正直悪魔に支配され続けている現状は先祖に申し訳なく思うが、約束を守り、駒王と名を変えた故郷を守り続けてくれる悪魔には感謝しているとのことだ。
おれ自身も、人と人外たちが共存しつつも安定している駒王町を見るに、悪魔たちはよく此の地を管理していると思う。
そして現在、俺は旧校舎の一室で駒王町の現管理者に対し、風応丸共々頭を下げていた。
「本当にすいませんでした!」
「つまりあなたたちは、此の町の管理者に会いたかったけど相手が誰だか知らなかったから、態と魔力を纏って私たちから接触するように仕向けたって訳ね?」
「はい、そのとおりです。あと、魔力じゃなくて妖気です。」
肯定しつつも管理者の先輩の言葉を訂正すると、先輩は頭の痛みを抑えるように眉間を押さえた。
「あのね、あなた達自分がやったことがどういうことかわかってるの?下手すれば挑発行為と見られてもおかしくない事をあなた達はやったのよ。」
「えーと、こうするのが一番手っ取り早いと思ってやっちゃいました。今は反省してます。」
「反省って・・・はぁ、もういいわ。」
そう言って先輩が髪をかき揚げると整った顔が現れる。控えめに言っても美人としか言いようが無い。
彼女の後ろに立つ黒髪の女子生徒も、美しい容姿と豊満なバストをお持ちだ。
部屋には他に金髪の男子生徒、そして本日クラスメイトとなった塔城さんがいた。
全員揃いも揃って美形で見た目は人間と変わらない。悪魔のイメージはベベルブブさんが基本だったせいで此れには少し驚いた。
「それじゃ、聞きたいことは沢山あるけど、とりあえずは貴方達の名前を教えてもらってもいいかしら?」
「はい。まず俺が鵺野優介。こっちが山瀬風応丸ですが。」
「山瀬です。どうぞよろしくお願いします。」
俺たちが名乗ると、お茶の用意をしていた黒髪の女性の手が一瞬止まった。だがそれ以上の反応は示さなかった。
「優介に風応丸ね。私は駒王町の管理者でオカルト研究部の部長のリアス・グレモリーよ。学年は3年ね。今お茶を用意しているのが副部長で同じく3年生の姫島朱乃。金髪の彼が2年生の木場祐斗でその隣にいるのが塔城小猫よ。彼女とはクラスメイトだったわよね?」
「ええ、そうです。塔城さん、さっきぶり。」
塔城さんに向かって手を振ってみるが無視された。警戒されるのは仕方ないとは思うけど、流石にこの対応は少しショックだ。
それが顔に出たのかリアス先輩は苦笑を浮かべる。
「ごめんなさいね。あの子も悪気がある訳じゃないの。」
「ああいえ、俺たちの行動を考えたらしょうがないですから。どうぞお気になさらず。」
「そういう訳じゃないんだけどね…まあいいわ。ところで、あなた達は妖怪…でいいのかしら?」
「えーと、山瀬は一応妖怪ですけど、俺は妖怪と人間のハーフです。」
俺の言葉を受けリアス先輩は驚いた様子を見せる。そして一瞬だけちらりと姫島先輩の方に目線を向けた。
「…人間と妖怪のハーフ…かなり珍しいんじゃないかしら?」
「まあ、あまり一般的ではないと思いますけど、まったくいないという訳じゃないですよ。親父の知り合いにも人と人外の夫婦は結構いますし、その間に出来た子供にもあった事がありますよ。」
そもそも、この国では神や妖怪に嫁いだ人間の昔話なんて山ほどある。それ即ち、この国では人とそうでないものが身近であったという事でもある。
それを簡単に説明してみるとリアス先輩は興味深そうに頷いた。
「なるほどね。普通人間は異質な存在を忌避するものだけど、この国では異質を受け入れる土壌もあるわけね。でも、障害が全くないという訳でもないんでしょう?」
「ええ、そりゃあまあ。」
父さんと母さんが付き合いだす際も一悶着あったという話だ。父さんたちは詳しく教えてくれないが、大切な人が犠牲になったおかげで二人は共に暮らせるようになったらしい。
「話が脱線しちゃったわね。じゃあ、あなた達二人がわざわざ私に会いに来てくれたわけを教えてもらってもいいかしら?」
「はい。俺たちは悪魔を理解し、悪魔社会と人間社会がどのような関係を築いているのかを知りたくて駒王学園に来たんです。」
そこから俺は今の妖怪社会を取り巻く環境について話しつつ、悪魔の人間に対するアプローチについて学びたい旨を説明した。
変な誤魔化し方をしてもしょうがないと思い、自分の考えを正直に必死になって吐き出す。ここで失敗したら九州から出てきた意味がなくなってしまう。
幸いにもリアス先輩は真剣な面持ちで話を聞いてくれ、俺が話を終えると感心したように笑みを浮かべる。
「妖怪と人間がともに暮らせる社会をね…とてもいい考えだと思うわ。」
「ほんとですか!」
「ええ。あなたが人間と妖怪の間を取り持ち、お互いにとっていい関係を築きたいという気持ちは伝わってきたし、私たち悪魔を理解したいと思ってくれたことは嬉しく思うわ。そこで提案なんだけど…」
リアス先輩は笑みを浮かべながら人差し指をピンと立てて言った。
「優介、あなた悪魔にならない?」
「……はい?」
ええと、この人いまなんて言った?悪魔にならないかって言ったか?それって種族的なものでか。それとも概念的な意味での悪魔か?
俺が混乱していると、見かねた様子で姫島先輩がリアス先輩に声をかけた。
「部長、説明もなしにそんなことを言われても相手を戸惑わせるだけです。せめて悪魔になる方法について位話しておくべきです。」
「あ、そうだったわね。じゃあ先ずは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)から説明するわね。」
そこから俺は現代の悪魔を語るうえで欠かせない物、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)についての解説を受けた。
解説を受けたうえで俺の率直な感想だが、有益だが使用上注意が必要であり、用途によっては人間にとっても悪魔にとっても脅威となりえるというものだ。
まあ、今日受けたのは簡単な説明だけだったので日を改めてさらに詳しく話を聞く必要があるだろう。
と云ったところで話を終えたリアス先輩は俺に話を向ける。
「とりあえずはこういった感じなのだけど、悪魔になってみる気はある?」
「ごめんなさい。それは出来ません。」
下手に悩む素振りは見せずきっぱりと断った。その際、頭を下げて最低限の誠意を見せる。
俺としては出来る限り相手に気を使って対応したのだが、リアス先輩は露骨にショックを受けた表情を見せる。
最初は威厳と包容力を兼ね揃えた頼れる先輩風を保っていたが、だんだんとメッキが剥がれて来たなこの人は…
「り、理由を聞いてもいいかしら?」
「あ、その、完全に身内の話になるんですけど、俺の家は母親の方が妖怪なんです。父親の方は霊力が強い人間です。俺たち家族は俺が小学生のころまでは一緒に暮らせてました。だけど、父の強い霊力が影響して母が病にかかってしまったんです。それから父は母を守るために家族の元を離れて単身赴任をしているんです。」
霊力病。強い霊力を持つ人間の傍で長く霊力を浴び続けた為に掛かる不治の病である。あのまま父さんが母さんの傍を離れなければ母さんの体の組織は破壊され、死は免れなかっただろう。でも…
「母さんは言うんです。たとえ死んでも構わないから父さんと一緒にいたいって。だからずっと母さんは人間になるための方法を探しているんです。人間になって父さんと同じ時間を過ごすために。なのに息子の俺が勝手に人間から離れた存在になるのはちょっと…」
すでに半分は人間じゃない俺が言っても今更かもしれないし、母さんならなんだかんだ言って最後は許してくれるかもしれない。
でもやっぱり、完全に人外になるってのだけは出来ないと思う。どうしても脳裏に『人間になりたい』と言った母さんの姿が浮かんでしまう。
俺が話を終えると、部室に神妙な空気が流れる。
「その…ごめんなさい。あなたの事情も考えずに軽率に聞いてしまったわ。」
「ああ、いえ。俺が勝手に話しただけです。先輩が気にすることじゃありません。ただやっぱり、悪魔になるってのは…」
「そうね…少し残念だけど家庭の事情なら仕方ないわね。だったら、オカルト研究部に入部するってのはどうかしら?」
「オカルト研究部にですか?」
「ええ。そうすれば悪魔としての活動を間近で見ることが出来るし、他の生徒からの目も多少は誤魔化せると思うの。自分で言うのは何だけど、私達って学園じゃ結構目立つ存在なのよ。そこにいきなり新入生が関わるようになったらどうしても注目を集めるわ。だから、新入部員ってことにしとけば周りから怪しまれることはないと思うのだけど、どうかしら?」
なるほど。確かにこれほど容姿端麗な人たちが集まった部活動となれば、少なからず生徒の話題に上がるだろうな。そこに部員でもない新入生が絡むようだと、どうして目立つだろうな。俺としても、部員になる分には不足はない。
「わかりました。悪魔についてはまだ殆ど知らない素人ですけど、どうぞよろしくお願いします。山瀬はどうする?」
「私もご一緒させていただきます。」
山瀬がそう言うと、リアス先輩は嬉しそうに頷いた。
「うん!二人とも歓迎するわ。優介、風応丸、ようこそオカルト研究部へ!
こうして俺と風応丸は駒王学園オカルト研究部に入部することになった。そしてこれが、俺たちが悪魔社会に関わってくる第一歩となっていく。
「随分と鵺野くんを気に入ったようですね、部長。」
京介と風応丸の二人を返した後、朱乃がお茶を運んできて私に話しかけてきた。私はカップを取って一口飲む。
「そうね。すごく真面目で素直な良い子だと思うわ。自分たちの誠意を伝えるために嘘や誤魔化しを極力控えているのも好印象ね。」
じゃなきゃ身内の問題を初対面の相手に言おうとは思わない。悪魔は嘘や隠し事に敏感だが、あの子たちの言葉にはそう言った類の物は匂わなかった。
それはつまり、自分たちを信用してもらおうと先ずは自分たちの本心を明らかにしようとしたのだろう。相手を知りたければ、先に自分たちの事を知ってもらう。
馬鹿正直で悪魔を相手にするには些かお人よし過ぎる方法かもしれないが、私は身内思いの正直者は嫌いじゃない。本当に眷属に出来ないのが残念ね。
「そういえば、優介が名乗った時何か気づいたようだったけど、彼について知っていたの朱乃?」
私が話を振ると、朱乃は少し考える素振りを見せる。その顔は少しだけ暗い。
「彼の事については知りません。でも、鵺野という人物については幼い頃耳にしたことがあります。珍しい苗字ですから恐らく親族、少なくとも知り合いだろうと思います。」
朱乃の言う幼い頃と言えば私と出会う前、まだ彼女の母親が存命中であった頃の事だろう。
「その鵺野という人は、己の身に地獄の鬼の力を宿らせ、数多くの妖怪を屠ってきた霊能力者だと聞いています。人にとっては正義の使者。妖怪にとっては地獄への使者。そう呼ばれていたそうです。」
「人にとっては正義の使者。妖怪にとっては地獄への使者ね…」
だとしたらあの子は、悪魔にとってどういった存在になるのかしら…
大変長らくお待たせしました。活動報告にも載せていますが、地震の影響で最近まで執筆を中断してました。
震災から3週間が経ち、ようやく職場も落ち着いてきたので投稿を再開していきたいと思います。