暗殺教室verβ   作:サクソウ

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801の時間

検体番号801番。

俺は物心ついた時にはそう呼ばれていた。

 

確かに俺はずっと実験体として薬の投与や、精密検査などを受けていたが、研究所の人らは優しかったし、何より…俺には義兄弟がいた。

 

「おう!検査はどうだったよ?」

 

「特に問題ないって、安心して。」

 

「そうか!そりゃ良かった!」

 

この人が俺の同期実験体であり、同僚であり、俺の兄さんだ。

検体番号774番。

 

「兄さんはどうだった?」

 

「俺もいつもと変わりなし、ちょっとデータ取られて終わったよ。

まぁ、健康第一!だな。」

 

「そうだね、別に俺らに投与されてる薬が悪いものだとは思わないけどね。」

 

「なんだかんだ言って、あの人らには結構良くしてもらっているしな。」

 

実験や、検査の時以外はずっと兄さんと一緒にいた。

兄さんは俺を疎んだりしなかったし、何より年齢の近い人と一緒にいると心が落ち着いた。

 

***

 

「なぁ…。お前ってさ、検体番号801番…だったよな?」

 

「そうみたいだね。それが?」

 

「いや、名前…というかあだ名…のようなもの…欲しくないか?」

 

「801番?」

 

「そうじゃねーよ!いやさ、ずっとお前って呼んでるのも、なんか変な感じだしなぁ。」

 

「俺は別になんでもいいけど…。」

 

「いや!名前は必要だ、ニックネームってやつだな!

そうだな…。801番だろ…?

はち、はち…や、と…?

や、まる…いち…。

やまい!」

 

「やまい?」

 

「あぁそうだ!

漢字はどうするか…まぁこれは当て字で、『夜舞』だ。

夜を舞う…なんかいい感じだな。」

 

そう言って兄さんは手元にあった紙に『夜舞』と書き込んだ。

 

「夜舞…うん、いいね。じゃあ兄さんは?」

 

「そうだな…。俺の方が簡単かもな。

774番だから、ななしか。」

 

「名前なのに名前が無いの?」

 

「あはは、そうだな!

じゃあ漢字を少し変えよう!『七詩』!

七つの詩…意味はよく分からんが、そんなもんか。」

 

「それじゃあ俺はどう呼べばいいの?」

 

「お前はいつも通りでいいよ。俺は自分の名前が出来ただけで満足だ!」

 

名前…兄さんがくれた名前…俺はこれから…夜舞。

 

***

 

俺らはまだ幼かったが、幼いなりに研究所にあった本をよく読んでいた。

そのためか、知識はそれなりにあったと思う。

 

「本を読むことはいいことだ。たくさん読んでおきなさい。」

 

研究所の人は叱ろうとはせず、寧ろ褒めてくれた。

 

「君は将来何になりたい?」

 

「将来…?」

 

「そうだよ!やってみたいことはないかい?」

 

やりたいこと…?

そんなの分かんない。そもそも俺は外を見たことがないのだから。

 

「外が見てみたい…。」

 

「…そうか、立派に生きるんだぞ。」

 

一瞬、研究員の顔に影が差したことに、俺は全く気付かなかった。

気付けなかった、俺は、まだ子供で人の闇なんて知る由もなかったのだから。

 

***

 

「夜舞…逃げよう…。」

 

珍しく検査が長引いた兄さんが言った。

 

「え?どうしたの?何言ってんの?」

 

「逃げるんだよ!この地獄から!」

 

「いや…逃げるって…なんで…?」

 

「あいつらは悪魔だ…。なぁ夜舞。

俺は検体番号774番、お前は検体番号801番だよな?」

 

「そ、そうだけど…?」

 

「それならさ、俺とお前の番号の間の26人ってどこに行った?

なんで不自然に数字が離れた俺らが一緒の部屋にいる?

そもそも俺らが800人を超えているはずの他の検体者に会わないのはなぜだ…?」

 

「え、どういうこと…何…分かんないよ…?」

 

「俺…見たんだよ…まだ生まれたばっかの赤ん坊に…何か打ち込んでいた…。

そしたら…急に膨れ上がって…

 

破裂したんだ。

 

そしたら研究員が言った『検体番号927番は失敗だ』って…。」

 

「つ、つまり…どういうこと?」

 

「俺らは…成功体だ…。少なくともその実験に関しては…。

だけど…あいつらは…人の命を使って…とんでもないことしてんだよ…。」

 

「で、でも!あの人らすごく優しいじゃん!」

 

「それは俺らが今のところ成功体だからだ!

いつ失敗するかも分からない!俺らの健康管理が、やつらの仕事だからだ!」

 

「そんな…。」

 

「それに…俺らが逃げることで、おそらくこの研究は中止だ。」

 

「どういうこと?」

 

「俺らという成功体がいなくなるんだ、プロジェクトは解散。

実験は中止になるだろう。」

 

「そう…なのかな…?」

 

「そうさ…だから俺らは逃げなきゃいけない。この実験を終わらせるためにも…!」

 

それから俺らは密かにこの研究所の構造を調べ始めた。

失敗は許されない、徹底して調べあげた。

そして、一年後、俺らはようやく脱走ルートを考えだし、決行することにした。

 

だが…俺らは間違っていた…そして失敗時の行動を決めていなかった…。

 

***

 

「夜舞、いいな?まず俺が出る、お前はAルートからだ。

Cゲートで合流。そこからは一緒に行動する。」

 

「分かってる、何度も確認したからね。」

 

「じゃ行くぞ、後で会おう。」

 

「うん。」

 

そう言って兄さんは出て行った。

 

俺も続いて部屋から出る。

何かおかしい…いつももう少し人通りがあるはずだが…?

まぁ作戦にとっては好都合でしかない。

そのまま進んでいく。

 

そして、俺はCゲートに辿りついた。

 

「夜舞!よし、ここまでは上手くいったな…さて、これからだ…。」

 

「そこまでだ!」

 

一斉に研究員が出てきた。

 

「部屋に盗聴器ぐらい仕掛けたということは考えなかったか?」

 

…こいつら、俺らの話を全部聞いてたのか…。

 

「逃げるぞ、夜舞…全力だ…。」

 

「抵抗しないでくれ。

と言っても、知られた以上生かしておく気もないがな。

お前らの体さえ残れば別に支障はない。」

 

そう言ってやつは拳銃を取り出した。

 

「へへっ、ここは最新設備が整っている割に古いもん使うんだな?」

 

「君らを殺すには十分すぎる。銃弾一発ですらもったいない。」

 

ダメだ…。完全に囲まれてる…。

 

「兄さん…使おう?」

 

俺には存在を消す能力があった。

恐らくやつらの研究の成果だろう。

兄さんにも何らかの能力があると言っていた。

ただ俺は、それが俺と同じものだと思っていた…。

 

「そうだな…最終手段だったが…。今だっ!!」

 

俺はとっさに消えた。

だが兄さんはやつに飛びかかっていた。

 

「兄さん!!なんで!?」

 

「もうお前の声は聞こえねぇが、言ってることは大体分かる!

その能力はお前だけのもんだ!俺にそんなたいそうな力はない!逃げろっ!」

 

「そんな!!嘘だ!兄さんも早く!!」

 

「この…鬱陶しい!!」

 

やつが兄さんを投げ飛ばした。

 

「くそっ!絶対逃がすな!!奴らのルートには徹底的に張り込め!!」「了解!」

 

「夜舞…もう逃げたかな…?」

 

俺は消えることは出来ても自分の力でもとに戻ることは出来なかった。

 

「兄さんっ!!逃げてっ!!」

 

ただ叫ぶことしか出来なかった。それが例え相手に伝わらなくても。

俺には…何も出来なかった。

 

「ゲートを閉めろ!!」

 

「ッ!!」

 

兄さんは俺を強引にゲートの外に押し出した。

 

「えっ!?どうやって…?」

 

「俺には夜舞の声は聞こえないし、姿も見えない…。

だけど夜舞の性格なら、百も承知だ。そこにいたんだろ?

ごめんな、一緒には行けない。

だから!夜舞!お前は逃げろ!!

お前が逃げれるなら、俺の一生も少なからず価値があったと思える…。

じゃあな、夜舞…さよならだ…。」

 

バン!!

 

ゲートが閉まる直前、俺は…兄さんが…撃たれるのを見た。

 

「クソガキが…。余計な真似するんじゃねーよ。

一匹逃がしちまったじゃねーか…。」

 

嘘だ…そんなの…嘘だ…。

兄さんが…兄さんは…。

俺は…ここで死んでも…別にいいのではないだろうか…。

別に…いいじゃないか…体が回収されてまた実験に使われるんだろ?

それなら…兄さんがいなくなったこの場所で…俺も…死にたい…。

 

『お前が逃げれるなら、俺の一生も少なからず価値があったと思える…。』

 

ダメだ…逃げなくちゃいけない…。

逃げた後、俺は人知れず死ねばいい。

逃げるんだ!それが兄さんが最期に残してくれた選択肢だから…。

 

***

 

俺は、兄さんが言っていた言葉を思い出し、キャリーケースを盗み出して、研究所を脱出した。

 

「兄さん…俺…逃げれた…。だから…もういいよね…?」

 

キャリーケースには多額の金が入っている。

 

「こんなもん…兄さんがいないと…全く、無意味だよ…。

なんで…持ってきたんだよ…?」

 

兄さんが言ってたから、そう俺は結論付けた。

もう…死にたい…。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

びっくりしたー…。

 

「どうも…してない…。あっち行ってて…。」

 

「嘘ついてる。嘘つきは泥棒の始まりなんだよ?」

 

「泥棒でもいい…だから、あっち行ってて…。」

 

「あなたの名前は?」

 

「名前…名前は…ないよ…。」

 

名付け親である兄さんが死んだのだ…。この名前も…死んだのだろう…。

 

「じゃあ私がつけてあげよう!なにがいいかなぁ、そうだ!

ユウにしよう!私が前飼ってた犬の名前!」

 

「え…犬の名前…?」

 

「ダメ?」

 

「いや…好きにして…。」

 

「じゃあユウね!よろしく!」

 

純粋な笑顔…ただ純粋な…。

誰かに教えてもらったわけでも、ましてや本に書いてあったわけでもない。

だけど、これは…失ってはいけないものだと感じた。

俺の中で、兄さんの記憶と同じぐらい大切なもの。

 

『将来は何をしたい?』

 

決まった。俺は…。

 

***

 

「彼女は矢田桃花と名乗った。

俺は、矢田さんに命を救われたんだよ。」

 

そう言って彼は言葉を止めた。

 

「桃花が…そんなことを…?」「そうなの?矢田さん?」

 

「あの時の…?」

 

「そう。

それで…最後に、ここにいる全員に謝りたい。

E組創立を提案したのは、俺だ。」

 

「え?」「何?どういうこと?」

 

「全部話せと言われたからな。

この中学に入るために、受験するために、そうするしかなかった。」

 

「E組作ってこの学校に入れてもらったってことか!?」

 

「その言い方だとなんか不正合格したみたいだな…。

ちゃんと自分の頭で通ったよ…。

だが、テスト以前に俺にはどうしても越えられない壁があった。

受験申込。小学校を出ていない俺にはそれがどうしても出来そうになかった。

だから、理事長に掛け合ったんだ。」

 

「それで理事長と…。」

 

「だから、俺はこの教室を…この学校を抜けようと思う。

シロの一件もあるし…。」

 

「「「!?」」」

 

「い、いや、俺らさ、気にしてないからさ…。」「そ、そうだよ!別に出ていく必要なんて…。」

 

…私でも気づいた。人の気持ちに敏感な裕は当然気づいているだろう。

誰だって一度は『なんでこんな教室があるのだろう』と考えたことを…。

この教室を…恨んだことを…。

 

「みんな正直だな。このクラスにいた2年と2か月、割と面白かった。ありがとう。」

 

そう言って裕は出て行った。

追いかけられる…?私に、その資格がある…?

そんなの…ない…。

 

「矢田さん、君はどうしたいのです?

理屈や理論ではありません、君の気持ちはどうなのでしょう?」

 

「殺せんせー…私は…。」

 

私も一度はこのクラスを恨んだ。そのことは裕を恨んだのと同じ。

 

でも、裕は…私の傍にいてほしい。傍にいて…。行かないで…。

独占欲に近いその感情は、資格という鎖を打ち砕いた。

 

「裕!!」

 

「…来るとは思ったけど、ダメだ。いくら矢田さんのたの…。グハッ!」

 

私は頬を叩く代わりに、裕の脇腹に思いっきり拳を入れた。

ここで暗殺してきたのだ、女である私のパンチでも相当効いているだろう。

 

「ちょ…それは…予想外…。」

 

「これで!恨みっこなし!」

 

「え?」

 

「E組に対しての私の恨みは、全部今のパンチで相殺されました!

よって裕は私に何の遠慮も要らないのです!

それに…裕がいなかったら、私は今頃もっとひどかったよ…?

これからもずっと傍にいてよ、もっと迷惑かけてよ…。

私が、裕を守ってあげる。」

 

「!?いや、でも…。」

 

「ほら!グチグチ言わずに全員に殴られて!」

 

「は!?」

 

「当たり前だよ。だってこのクラスに戻るんでしょ?」

 

「い、いや、俺戻るなんて…。」

 

「そうだそうだ!」「一発殴らせろ!!」「夜舞のバーカバーカ!!」

 

「うわ!待てお前ら!!せめて一人ずつ…うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「矢田さん、君は本当に強い子ですね。

その心が、夜舞君を変えたのです。」

 

「やめてよ殺せんせー、私はそんなたいそうなことしてないよ。

ただ、裕と離れたくないっていう私利私欲だよ。」

 

「それはちゃんと夜舞君にも届いています。

もう君と離れようとはしないでしょう。」

 

「なっ!?そ、それはそれで…恥ずかしい…かも…。」

 

私は顔が真っ赤になった。

ちなみに裕も真っ赤になっていた、殴られすぎて。

 

「ヌルフフフフ。この教室は素晴らしい!ねぇ、あぐり?」

 




お読みいただきありがとうございました。

検体ってのは基本、内臓の一部などに使う言葉なのですが、
ここでは体全体が検体として扱われているということで検体番号とさせていただきました。
夜舞の過去編です、まぁアニメとかではよくありそうですね。リアルであったら恐ろしいですが。
修学旅行の際、嫌いなものを聞かれたとき夜舞が『研き…』と言いかけていたのは研究員です。
キリがいい時にプロフィール等載せていければなぁと考えています。

では次回もよろしくお願いします。
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