夏期講習(仮)の時間
さぁ!夏休みが始まった!
とは言っても一応受験生故、そんなに遊び惚けてもいられない。
殺せんせーは宿題を出さず、各自学習という形をとった。…正直一番めんどくさい…。
「おや、何か大変そうですねぇ。」
「自学って一番モチベーション保持が難しいからな…ってなんでいる!?」
「先生は夏休みでも生徒の様子を見守る義務がありますから。」
「ていうか俺の家知ってたのかよ…。ん?あれ?この前なんで矢田さんの家に…?」
「ヌルフフフフ、先生の粋な計らいです!」
おいおい…そのせいで俺結構大変な目にあってるんだが…。
矢田さんには黙っておこう…。
俺マジじぇんとるまん。
「自学のコツは自分がやりたい単元と克服すべき単元とのバランスを大事にすることです。
好きなことだけやっていてもいけないですし、克服ばかりしていても面白くありません。
暗殺と同じです。」
「おー真面目だ。」
「にゅやっ!?夜舞君は先生をなんだと思っていたんですか!?」
俺は岡島からもらった一枚の写真を見せた。
「あーーーーーーー!!!そ、それは!?」
「ちょっと岡島に頼まれてな、精神攻撃がどれくらい効くのかを確かめた。
あ、ちなみにこれ全員に回ってるらしいよ?
先生確かさっき『夏休みでも生徒の様子を見守る義務があります』とか言ってたっけ?」
「な、なんと残酷な…。では先生、ちょっと療養も兼ねて次の生徒のところへ行ってきます…。」
「その療養が矢田さんだったら殺すからな?」
「さっ、さすがに生徒に手は出しませんって!!」
「分かってるよそんなこと…。」
それだけ言うと殺せんせーは飛んで行った。
…いやさすがに出さないよな…?
***
「おっはよー!裕!」
「おう。」
「しかし今日も暑いねー。」
暑いならそんなに近づくなよ…。
あれか?俺の暗さが涼しいから寄ってくるのか?
なにそれ俺モテモテじゃん!!(利用価値的に)
「夏休みもしっかりあるんだな、暗殺補習。」
「仕方ないよ。私みたいな女の子はちょっとでも体動かさないとついていけなくなるもん。」
そっか、確か女の子は『お砂糖』と『スパイス』と『素敵な何か』でできてるんだったか?
素敵な何かとかブラックでしかないんだけど…。
矢田さんは多分『お砂糖』と『チョコレートカカオ68%』と『素敵な何か』で構成されてるんだと思う。だって甘そうで結構苦いんだもん。
「ん?なんか元気ないな?」
ちょっとした違和感だった。
ずっと一緒にいるからそれなりに気づく。
「えっ?そ、そうかな?暑いからじゃない?」
「そうか。」
気のせいか…?
人の心を読むのは緊急時だけだ、こういう力にはモラルってもんがある。
ほら、主人公が最初から必殺技使わないのと一緒だよ。
俺が主人公の話とか是非見てみたいもんだ、全力で打ち切りにしてやる。
「…ねぇ、裕はさ、これからのこと…考えてる…?」
矢田さんの声は弱々しかった。今まで聞いたことがないぐらいに。
具体的には言っていない…だが俺にははっきりと分かった。
とうとう突き詰められてしまった。
彼女がなぜ問うたか…その理由は分からない。
それに、理由を聞くことは許されない。
俺はその問題から避けていたのだ。
そんなやつが踏み込む隙があるほど世界は甘くない。
「さぁな、普通に生きて暮らせればそれでいい。」
「そう。裕らしいね。」
俺は彼女が求めていない答えを出す。
それに気付いていながら矢田さんも返事を濁さない。否定しない。問い返さない。
最も嫌った空気の完成だ。
***
「にゅやぁ…。船はやばい…。船はマジでやばい…。
先生頭の中身が全部まとめて飛び出そうです。」
なにそれ!見てみたい!!
この夏、E組のメインイベントとなる夏期講習(仮)がやってきた。
沖縄の離島らしいが…どこなんだろうね?
『普久間島』
通称伏魔島なんて呼ばれる島だ。
行き先が変更された訳じゃないので毎年A組はここに来ているようだ。
まぁ、安全第一健康第一家庭円満…あれ?最後の違うんじゃない?
「起きて起きて殺せんせー!!見えてきたよ!」「東京から6時間!」「殺せんせーを殺す場所だぜ!!」
どうやら到着したようだ。
ていうかみんなマジテンションたけぇな…。
「ようこそ普久間島リゾートホテルへ!サービスのトロピカルジュースでございます。」
ほうほう、サービスは良いのね。今はそんな気分じゃないから飲まんけど。
「ねぇ!ホテルからビーチに直行できるらしいよ!!後で遊びに行こうよ!!」
「いや俺ほら、視外線に弱いじゃん?」
「安心しろ夜舞、もう少ししたらビーチはE組の貸し切りになる。」
おいおいマジかよ、今の分かったの!?
さすが烏間先生…よく分かっていらっしゃる。
***
「うわっ!矢田さん危ない!!」
「あはは。ごめんごめん。ちょっと体勢崩しちゃって。」
グライダー操縦中に抱き着かれたら超危ない。
「それよかあいつ動きおかしいだろ…。」
「ヌルフフフフ。戦闘機の性能は結局のところエンジンの差です!」
堀越コスの殺せんせーは言う。
「殺せんせー、いいのか?明らかにおかしい動きしてるけど…。」
「大丈夫!大丈夫!先生、普通の操縦ぐらい出来ますよ。」
いやなんか地上の人が怪しい目で見てるからね!?
いかん!『人に見られたら死んじゃう病』が!!
俺今まで何回死んでるんだよ!!100万回死んだ夜舞かよ!!
と、こうしているのも暗殺の一環である。
別の班は今頃準備に取り掛かっているころだろう。
さぁて、今度こそ殺すよ。殺せんせー。
***
「夕飯はこの船上貸し切りレストランで、夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう!」
「…な、なるほどねぇ。まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか。」
「ところでさ…殺せんせー、黒くね?」
「えぇ、ちょっと遊びすぎました。」
「そういや前に色変わってた時もすぐ元に戻ってたな。脱皮って色も落ちんの?」
「先生の脱皮をなめてもらっては困ります!ほらこの通り!
本来はヤバい時の奥の手ですが…。あっ!!」
「ばっかでー、暗殺前に自分で戦力減らしてやんの。」「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ…。」
「夜舞君!嵌めましたね!!」
「いや俺は悪くない社会が悪い。」
さて、先生の一手を減らした。
あとは運任せ波任せだな、船だけに。
「さぁて殺せんせー、メシのあとはいよいよだ。」「会場はこちらですぜ。」「このホテルの離れにある…水上パーティルーム。」
「ここなら…逃げ場はありません。」
「さ…席につけよ殺せんせー。」
「楽しい暗殺。」「まずは映画鑑賞から始めようぜ。」
「まずは三村が編集した動画を見て楽しんでもらい、その後テストで勝った7人が触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始める。それでいいですね?殺せんせー。」
「ヌルフフフフ。上等です!」
「殺せんせー、まずはボディチェックを。いくら周囲が水とは言え、あの水着隠し持ってたら逃げられるしね。」
「入念ですねぇ、そんな野暮はしませんよ。
準備はいいですか?全力の暗殺を期待してます。君たちの知恵と工夫と本気の努力!
それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。
遠慮は無用!どんと来なさい!!」
「言われなくとも、始めるぜ殺せんせー。」
映画上映が始まった。
この時点で殺せんせーはもう気づいているだろう。
千葉と速水さんがいないことに、そして二人の匂いが山の上からすることに…。
ヌルフフフフ。俺がそれを考えないとでも思った?
心情把握は俺の十八番、ありとあらゆる殺せんせーの思考は想定済だ。
どう行動し、まずどこに注目するのかを。この四ヶ月しっかり見てきたんだからな。
***
映画が終わった。
「…死んだ、もう先生死にました…。
あんなの知られてもう生きていけません…。」
…もうすでに瀕死じゃねーか!!
『さて秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気づきでないだろうか、殺せんせー?』
本番はここからだ。
現在は満潮、昼間渚の班によってこの小屋は少し下げられている。
つまり、床は今水浸しになっているはずだ。
「船に酔って、恥ずかしい思いして、海水吸って、だいぶ動きが鈍ってきたね。」
「さあ本番だ。約束だ、避けんなよ。」
七人が一斉に触手を破壊した。
同時に小屋の壁が崩壊し、俺らがフライボードで殺せんせーの周囲に水圧の壁を作る。
やだなにこれ楽しい。
「射撃を開始します。照準・殺せんせーの周囲全周1m」
律の声を合図として一斉に射撃を始めた。当たらないように。
実は殺せんせー、当たる弾には敏感だが、当たらない弾には戸惑い焦るようだ。
最後に…千葉速水が水面から射撃する…。
当たれっ!!
ピカッと光に包まれたかと思うと、吹き飛ばされた。
や、ヤったか…?
ブクブクブク…。プカァ。
いや何だあれ。
「これぞ先生の奥の手中の奥の手。完全防御形態!!
外側の透明な部分は…高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体です。
肉体を思い切り小さく縮め、その分余分になったエネルギーで肉体の周囲をがっちり固める。
この形態になった先生はまさに無敵!!
水も対先生物質もあらゆる攻撃を結晶の壁が跳ね返します。」
「…そんな、じゃずっとその形態でいたら殺せないじゃん。」
「そんなことないと思うよ、矢田さん。
エネルギーで囲ってるんだからいずれ崩壊を起こすハズだ。」
「その通り!よく分かりましたね、夜舞君。
このエネルギー結晶は24時間ほどで自然崩壊します。」
殺せんせーはこの形態の弱点さえ下調べ済で、俺らは完全に失敗した。
さすがにこの大勝負、力をかけていただけあって皆それなりに落胆し、疲弊しているようだった。
「ちょ、ちょっと夜舞君…肩借りていい…?」
「神崎さん?…ッ!!熱が!!」
神崎さんが寄りかかりながら崩れ落ちた。
周りを見ると他に数人が倒れている。
岡島は鼻血を流していた…すまん、なんか普通だな。
「裕!みんなが!!」
「疫病か何かか!?と、とにかく烏間先生を!」
「分かった!」
***
被害は10名。
疫病にしてもタイミングが良すぎる。
こんな一斉に…。
プルルルル…。
烏間先生の携帯電話が鳴る。
近くにいたので俺も一緒に聞かせてもらうことにした。
『…やあ先生、可愛い生徒がずいぶん苦しそうだねえ』
「何者だ、まさかこれはお前の仕業か?」
『ククク、最近の先生は察しがいいな。
人工的に作り出したウィルスだ。
感染力はやや低いが感染したら最後…潜伏期間や初期症状に個人差はあれ、一週間もすれば全身の細胞がグズグズになって死に至る。
治療薬も一種のみのオリジナルでね。あいにくこちらにしか手持ちがない。
渡すのが面倒だから、直接取りに来てくれないか?
山頂にホテルが見えるだろう。手土産はその袋の賞金首だ。
その様子じゃ、クラスの半数はウィルスに感染したようだな、フフフ結構結構。』
「もう一度聞く、お前は…?」
『俺が何者かなどどうでもいい。賞金100億を狙っているのはガキ共だけじゃないって事さ。治療薬はスイッチ一つで爆破できる。
我々の機嫌を損ねれば感染者は助からない。』
「念入りだな。」
『そのタコが動ける状態を想定しての計画だからな。
動けないならなおさらこちらの思い通りだ。
山頂の「普久間ホテル」最上階まで一時間以内にその賞金首を持ってこい。
だが先生よ、お前は腕が立つそうだから危険だな。
そうだな、動ける生徒の中で最も背の低い男女二人に持ってこさせろ。
フロントに話は通してある。素直に来れば賞金首と治療薬の交換はすぐに済む。
だが、外部と連絡を取ったり…一時間を少しでも遅れれば、即座に治療薬は破壊する。
以上だ。』
「待てっ!…切れた。」
そうきたか…。
これは誰かが行くしかない…。
「全員で行きましょう。元気な人は来て下さ…。」
「ダメだ。」
「夜舞君…?」「裕?」
「今の話を聞く限り、やつらは俺らを常に監視している。
殺せんせーの状態と生徒の状態が一度に見れるぐらいの監視カメラを仕込んでいるはずだ。
つまり、全員で行くと必ずバレる。
だからと言って渚や茅野さんだけに行かせたら何されるか分かったもんじゃない。」
「んじゃどうすんのさ?打つ手無しってことで降参すんの?」
相変わらず憎たらしい言い方だなおい。
残された最善策。
渚と茅野さんを危険な目に合わせず、皆を助ける方法…。
選択肢はもう1つしか残ってねーじゃねーか…。
「俺が行ってくる。」
お読みいただきありがとうございました。
とうとう夏休み編開始です。
まぁ予想では5話ぐらいになりますね、どうでもいいけど。
今のところ二学期前辺りで大きなオリジナルストーリーを挟む予定です。
では次回もよろしくお願いします。(なんか真面目だな、眠いからか…。)