暗殺教室verβ   作:サクソウ

23 / 24
≪二学期編≫
プロローグの時間


竹林の事件…茅野の暗殺…フリーランニングケイドロ…イトナの編入…。

この二学期に入ってイベントがぐっと増えた。

思い返せば楽しいイベントであった。だが…俺は今何かしらの不安にかられている。

今までの不安とは比較にならないほど、強く、重い、何かが。

毎度のことで俺もそろそろ飽き飽きしているのだが…こういう勘はよく当たる。

 

「おはよ、裕。今日も浮かない顔だねー」

 

「そうだな」「否定しないんだ…」

 

矢田さんは憐れむような眼で俺を見た。

最近は山の麓で矢田さんと会うことが多くなっている。

暗殺教室のおかげでこの無駄に長い通学路も苦ではない。

それ故周りの景色を堪能することができ、もう秋なんだなと哀愁に浸る。

 

「もうすぐ中間だね」

 

「そうだな」

 

「もう!何考えてるか知んないけどもうちょっと構ってくれてもいいんじゃない!?」

 

そう言って矢田さんは俺を彼女の方へ引っ張る。

秋といえどもまだまだ夏は続いている、少し暑い。

 

「ご、ごめん。ちょっと秋が秋すぎて…」

 

「ふふっ、なにそれ」

 

訳の分からない言い訳は効果があったようだ。

 

「中間まであと三週間か…また勉強会でもやりますかね…」

 

「ん、裕から言うなんて珍し~。いいよ!やろっ!」

 

矢田さんはニッコリ笑ってそう言った。

その笑顔に幾度となく救われ、失いたくないと思ってきたが…今回はそうもいかなさそうだ。

 

***

 

「夜舞、ちょっといいか?」

 

昼休み、急に烏間先生に呼び出しを喰らう。

俺何かしたかしら…?あ、寧ろ問題しか起こしてねぇわ。

烏間先生の浮かない顔は久しぶりに見たなぁと楽観的なことを考える。

 

「はぁ、まぁすることなんて特にないですけど…」

 

「それじゃ、ついてきてくれ」

 

色々と解せないまま俺は烏間先生に校舎裏まで連れていかれる

不安が…的中した。

そこにいたのは白装束に身を包んだ男…シロだった。

 

「やぁ夜舞君、久しぶりだね」

 

「シロ…烏間先生!なんでこんな奴!」

 

「夜舞、悪いが少し落ち着け…」

 

「その呼び名もそろそろ飽きてきたのだけどね。そんなことはどうでもいいんだ。

ここに来たのは、君と取引…いや、契約を結びたいんだ」

 

「イトナがこちらに取られて戦力不足になったか?」

 

込み上げてくる怒りと吐き気を皮肉の意も込めて言葉にした。

今こいつとここでヤり合っても全く意味が無いし、そもそも烏間先生に止められる。

その二つの理由を自分に与えることで俺はやっとのことで理性を抑えた。

 

「イトナ…イトナか。どうだ?元気にやっているか?」

 

「自分で捨てたくせに随分な物言いだな」

 

「そう牙をむかないでくれ。そんな話をしに来たわけではないと言っただろう。

君は、私についてくる気はあるかい?」

 

「ッ!?…よくそんな浅はかな考えが思い浮かぶもんだな。

お前から逃げ出した俺が今更お前についていく義理も理由もない」

 

「君は意外と周りが見えていないようだ。

確かに君の言う通り、義理はない。だが、理由はある。

何と言ったかな…あの子」

 

「矢田さんを人質に?んなこと出来る訳ないだろ。

それにあいつはそんな軟な奴じゃないしな」

 

「確かに、身体的な人質は取ることは出来ないね。

しかし…彼女をA組に移籍させるという条件なら話は別だろう」

 

「矢田さんをA組に…。

別にいいんじゃないの?あいつならA組に居ても特に問題ないだろ…多分」

 

「なるほど、さすがは君だ。焦らず状況を冷静に判断できる。

君みたいな実験体を作れたことを誇りに思うよ。

だけどね…君は見なかったかい?竹林君がA組に戻った時の惨状を」

 

「…」

 

それならまたE組に戻ればいい、という言葉は言葉にならなかった。

俺ならそれでも全然かまわない。

しかし彼女となると話は別だ。

確かに矢田さんは大胆だが、竹林のように備品を砕くという行為を彼女は出来ない。

矢田さんは優しい、罪悪感も人並みに感じる。

もし何等かの方法で無理やりE組に戻ったとしても彼女に良い影響は与えないだろう。

 

「さて…少しだけ時間をあげよう。

明日、君の回答を期待しているよ」

 

そう言ってシロは立ち上がり、去って行った。

 

「夜舞…」

 

「烏間先生…授業、始まりますね…」

 

「あぁ、そうだな」

 

明日まで待たなくてももう分かっている。

この答えが矢田さんに良い影響を与えるかどうかは彼女次第。

今度は、俺が彼女の答えを待つ番だ。

 

***

 

放課後、俺はフェイバリットプレイスに行かず、教室でボーっとしていた。

本気でボーっとしていると、すごく落ち着く。

机にうつ伏せになると、生々しい木の匂いが鼻をつく。

 

「またあんたは何か悩んでるの?悩み事が絶えないわねぇ、ガキのくせに」

 

「ビッチ先生…中高生って一番悩む時期だと思うんすけど」

 

「相変わらず生意気。あーやだやだ、こんな男のどこがいいのかしら。

桃花の気が知れないわ」

 

「うるさいです、そんなビッチ先生を師匠という矢田さんの方が分からないです」

 

「だまらっしゃい。…それで、どうしたのよ、こんな夕暮れまで教室に残って」

 

「…哀愁に浸ってたんですよ、言わせないでください恥ずかしい」

 

「あら、夜舞のくせに嘘が上手なこと。言いなさい!窒息させるわよ!」

 

実際に窒息死させられるのだから末恐ろしいな。

あと今のは半分正しいから嘘ではない。

さすが矢田さんの師匠というだけあって俺の何かに気づいているようだ。

 

「…ビッチ先生は、嘘のつき方を知ってますか?」

 

「当ったり前よ、嘘をつくなんて吐いて腐るほどやってきたわ。

騙し、惑わし、手玉に取る、それが私の暗殺スタイルよ」

 

「すがすがしいまでの外道ですね…まぁ生きるためなら仕方ないですけど」

 

「あら、分かった口をきくもんじゃないわよ、ガキが。

生きるってこと…考えたことあるのかしら?」

 

「俺は…ありますよ、残念ながら。それじゃ、また明日です」

 

椅子から立ち上がり、リュックを背負う。そして椅子を直す。

当たり前だと思っていた日常。感じていた日常。

絶対、また戻ってくる。そう意志を込め、扉を開けた。

 

「気を付けて帰るのよー」

 

「ビッチ先生も、襲っちゃだめですよ」

 

「なんで私が襲う側なの!!?」

 

***

 

「俺、退学する」

 

朝礼で裕が教卓で放った一言は、教室を一気に凍らせた。

彼の目はいつになく真っすぐ前を向いている。

 

私たちがまた一歩前に進む時が近づいていた。

 




お読みいただきありがとうございました。

大分お久しぶりです。
最近何かと忙しくて二本の作品を同時に書くのが割と楽しいです(笑)
さて、今回からオリジナルストーリーを数話に分けてお送りしたいと思います。
今回はそのプロローグ、ということで少し短いです。
期待していただけたら嬉しいです。

では次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。