暗殺教室verβ   作:サクソウ

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追求の時間

「俺、退学する」

 

彼の一言は教室を沈黙へと追いやった。

何も聞いていなかった私ももちろん絶句する。というより状況が全く呑み込めていなかった。

退学、その簡単な二字熟語が難読漢字のように頭を駆け巡る。

 

「一言は言っとかなきゃと思って…んじゃ」

 

そう言って彼は立ち去ろうとした。

 

「…ちょちょちょ!!!? 夜舞君!!いきなりどうしたのです!?

先生、何かしましたか!?」

 

「そうだよ!!いきなりどうしたんだ!?」「まだE組の事根に持ってんのかよ!?」

 

殺せんせーを筆頭にクラスが騒ぎ出した。

私も必死に抗議の声を上げる。なんで?どうして?いきなり!?

 

「E組の事はあれでチャラにしたんだよな?何が不満なんだ!?」

 

学級委員長である磯貝君が彼の前に立った。

彼は、少しめんどくさそうな顔をして答える。淡々と、無感情に。

 

「チャラにしてもらったことをわざわざ掘り返すなんてめんどくさいことしない。

それに、不満なことなんて一切ないよ…それどころかすごく居心地がいいクラスになった」

 

「ならどうして!?」

 

「…さぁ?」

 

彼は冗談めいた声で言った。今だけはほんとに彼の感情が全く読めない。

ふと烏間先生を見ると、何やら苦悶の表情をしていた。ほんと…今日は色々おかしいよ…。

 

「夜舞君、ちゃんと話してください。このクラスのみんなには聞く権利があるはずです」

 

「…言えない、そんなシリアスな話でもないんだ」

 

「言ってくれ、夜舞。頼むから…」

 

クラスはまた静寂に包まれる。彼の言葉を待っているのだ。

諦めたような表情をした彼は静かに息を吐いた。

しかし意外なことに静寂を破ったのは彼ではなかった。

 

「あのさ、夜舞ー?お前が出ていくとして、矢田はどうすんの?

いいの?俺がもらっちゃうよ?」

 

「お前みたいな性悪に矢田さんは引っかからないさ、カルマ」

 

「俺はそういうこと聞いてんじゃないんだけど?

…逃げんの、夜舞?」

 

カルマ君の気迫が増した。だが彼は微動だにしない。

驚きも恐れもなく…まるでこの展開が全部分かってたかのように。

 

「…逃げるのは俺の得意分野であり専売特許だ。

ただ今回に限っては逃げるわけじゃない。俺はただ時を待つだけ…」

 

「訳分かんない言葉で話を濁してんじゃねーよ!!」

 

滅多に聞かないカルマ君の怒声。それほど本気なのだ。

彼を行かせないために。ここに留めておくために。

 

私だって…行かせたくない。

止めなくちゃいけない。理由を聞いて、なんだかんだでまた説教しなきゃいけないんだ。

殺せんせーなら力ずくでそれが出来るだろう。でもそうじゃない、私がやらないと私が納得できない。

 

「あぁめんどくせ!お前…ッ!?矢田!?」

 

考えることなんてない、ただ彼を止める、それだけに意識を、殺意を集中させ彼に抱き着いた。

だが彼はただ軽く私の頭を撫でた。上を見上げると彼は一瞬寂しそうな顔をした気がした。

彼はすぐに普段の顔に戻り、廊下のビッチ先生の方を向く。

 

「俺はもう迷わない。逃げたりなんてしないし、怖がったりもしない。

ビッチ先生、俺昨日聞きましたよね?嘘のつき方。

俺、やっぱ嘘つけないみたいです」

 

「裕ッ!!!…なんで…?」

 

私は今日初めて彼の名前を呼んだ。

直接問いかけた。…泣き声になった。

 

「特別な理由はない、この世の中はいつだって変則的で面白いんだよ。

またな、矢田さん」

 

それを彼が言い終えた瞬間、私…いや、クラスみんなの意識が朦朧とした。

緩くなった私の腕から彼は抜け出し、教室を出ていった。

行かせてしまった…止められなかった…。それを自覚した時、私は意識を失った。

 

***

 

「矢田さーん?」

 

ぼんやりと意識が戻る。霞んだ視界に片岡さんが映った。

 

「ッ!?裕は!?」

 

「…私たち全員が気絶させれてたみたい…」

 

「夜舞君…もう戻って来ないのかな…」

 

「いやあのタコが何とかするんでしょ、どうせ」

 

カルマ君がしてやられた、と言った顔で話す。相当頭にきているようだ。

 

「あいつ…帰ってきたらフルコース確定ね」

 

最高の悪魔笑いを浮かべていた。

あ…これ帰ってこない方が正解かも…。

 

「あれ?ところで殺せんせーは?」

 

「あのタコなら用事でどっか行ったわよ」

 

ビッチ先生が廊下から教室をのぞき込んでいた。

 

「ビッチ先生!裕は!?

先生は起きてたんでしょ!?」

 

「ふっ、あの程度の殺気で気絶させられるなんてまだまだガキねぇ」

 

「話逸らさないで!!」

 

「…いい?桃花、世界には理不尽なことなんて山ほどあるのよ」

 

「え…先生…それって…」

 

「さ、話は終わり。一時間目は私の授業。

他の事に意識を取られてたら公開ディープキスの刑よ、覚悟なさい!」

 

結論から言うと、私は全く授業に集中できなかった。当たり前です…。

お蔭で何度…いやこれ以上は止めておこう。

 

***

 

昼休み、私は彼の情報を求めてビッチ先生の元を訪ねていた。

もちろん、簡単に教えてもらえるわけがない。

烏間先生も何か知っているようだったが、ビッチ先生でも敵わない人に私が敵うはずがない。ということでビッチ先生から聞き出すことにしたのだ。

 

「だーかーらー、私は何も知らないっての!」

 

「むぅ、絶対知ってる顔だ。あれ?殺せんせーはまたどこか行ったの?」

 

「そうね、昼休みが始まると同時に飛んで行ったわ」

 

「それって裕のとこ!?」

 

「…どうかしら?」

 

「教えて。ビッチ先生…私が、連れ戻すの」

 

ビッチ先生は若干戸惑ったようだった。あと一息…!

私が言葉を発しようとすると今まで黙って聞いていた烏間先生が口を挟んだ。

 

「イリーナ」

 

それ以上は言わなかった。烏間先生はビッチ先生を睨むように、諭すようにじっと見る。

するとビッチ先生は普段の表情に戻ってしまった。

 

「ダメよ、桃花」

 

そう言うとビッチ先生はつかつかと職員室の扉から出ていこうとした。

しかし扉を開け、少し立ち止まる。

 

「最後に一つだけ、私みたいな奴を疑うのは正しいけど…たまには信じてみるのもありなんじゃないかしら」

 

そしてビッチ先生はそのまま出ていった。

烏間先生がハァとため息をつき、こめかみを押さえる。

 

何…今の言葉がヒントになってるの…?

信じる…ビッチ先生を?いや違う、先生が言ったのは裕のことだ、絶対。

彼が言ったことを信じる。そんなのいつだって変わらない…ハズなんだけど…。

私は収穫が得られたのか何も得られてないのか分からないような気持ちで職員室を出た。

 

***

 

「やはり…あなたでしたね、シロ…!!」

 

殺せんせーは恐ろしい形相で白装束の男を睨む。

その後ろで彼は水槽の中に入れられていた。酸素を供給しているのだろうか、口にマスクのようなものを付けている。

目は閉ざされており、意識があるのかどうかさえ分からない。シロと呼ばれる男はゆっくりと静かに返答した。

 

「ほう…よくここが分かったものだ」

 

「夜舞君のにおいを辿ってきました、彼は私の生徒です、力ずくでも返してもらいます!」

 

「そうはいかないね、彼の水槽を破壊するなら気を付けた方がいい。

あの水は通常体に害はないが、空気と触れると酸化して彼の体を蝕む、一滴でも触れるとまぁ…死には至らないが後遺症が残るだろうね。

酸化する速度はお前の速さをゆうに超える。止められはしない」

 

「ならここのシステムから通常の手筋を踏んで水槽を開くまでです!」

 

「それには私が持っているICカードが必要だ、もっともそれはこの『対先生用防護服』の下にあるがね」

 

「にゅう…」

 

なす術なし、殺せんせーの顔は正直にその感情を表す。

それを見たシロは軽く鼻で笑った。

 

「それがお前の力の限度だ。お引き取り願おう、お前をここで捕らえてもいいが彼の研究が先だ」

 

「彼を…どうするつもりです」

 

「悪いようにはしないさ。命を取るなんて気は毛頭ない。

ただお前の改良版を作るためにはこいつの研究は必須だ」

 

「ッ!?もしかして…いや初めからうすうす気づいてはいたが…あなたは…!」

 

「これ以上の雑談は無用だ。帰れ」

 

「夜舞君…絶対に助け出します。なので少し待っていてください」

 

それだけ言うと黄色の超生物は超スピードで出ていった。

シロはそれを見届けるとマイクのようなものに口を当て、ボタンを押しながら喋る。

 

「感じたかい?今君の担任が君を諦めた。…ふっ…ふふふふ…はははははは!!」

 

彼は目を閉ざしたままだ。しかし、マスクにマイクが搭載されているのか、部屋にあるスピーカーから彼の声が部屋に響く。

 

「感じたさ。あの先生が簡単に諦めるわけないだろ。俺はただ待つだけだ」

 

***

 

俺は奴の笑い声に不快感を感じながら正直に答えた。

目を開けようとしてもどういうわけか激しい痛みに襲われて開けることが出来ない。

水そのものに仕掛けがしてあるのだろうか…。

 

「食えない奴だな、君は。少しは感情を荒立ててはどうだね」

 

「そんなことより、この水は何なんだ、全く目が開けられないんだが…」

 

「別にその水だから目が開けれない訳じゃない。もともと君は水中で目を開けることが出来ないだろう?」

 

んーそうだった。

俺はどうやっても目が開けれなかったんだったな。

 

「じゃあ別の質問していいか?」

 

「ふん、どうせここで終わる人生だ。聞く必要なんてあるのか?」

 

「ま、どうせ暇だし。大人しくついてきてやったんだから少しぐらいいいだろ?」

 

「俺は別に暇じゃないんだが…まぁいいだろう。多少なら答えてやる」

 

「そりゃどうも。んじゃ、ずっと聞きたかった…俺の研究ってどういうことだ?」

 

「ふふふ…やはりそれか。いいだろう!検体番号801番!

お前は俺の研究の最高傑作だ!」

 

「最高傑作…?」

 

「そうだ、不思議に思ったことはないか?お前がそんなに巧みに、常人ではなし得ないような殺気の扱いができることに!

殺気を相手にぶつければ気絶させることができ、殺気で自らを覆えば誰からも感知されなくなる!まぁ、見破る奴はいるようだが…。

それがお前の力だ」

 

「そうなのか…。でもこれが何の研究になるんだ?」

 

「ならもう一つヒントをやろう。

お前の殺気の源は、目だ。つまりお前の目はお前自身の殺気の塊と考えていいだろう。

その殺気は水を過剰に吸ってしまうんだ。だから目が膨張して痛みを伴う。

水分を過剰に吸収して膨張する、そんな現象をお前は見たことがあるはずだ」

 

「まさか…殺せんせー…か…?」

 

「そうさ!お前の殺気を凝縮し、固形化させたものこそが!

反物質と呼ばれる膨大なエネルギーであり―

 

 

 

あの触手さ!!お前は、タコのオリジナルだ!!」

 




お読みいただきありがとうございました。

夜舞奪還編、開始です。
さて、夜舞の能力についてようやく出てきましたね。これがやりたかった!
そのためにずっと伏線張り続けてたんですよ、いやぁマジで作家さんや漫画家さんを尊敬します。途中で矛盾出そうになりましたからね…。
まぁてなわけでこれから矢田さんがどう動くのか楽しみです(まだ書いてない)

では次回もよろしくお願いします。
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