遂にやって来ました7月22日……!!にこちゃんのお誕生日をにこちゃん推しの方々、そしてラブライブ!好きの皆さんで盛大にお祝いしましょう!!
と、言うわけで今回はにこちゃんのお誕生日記念回です。
勇気君とにこちゃんの未来のお話となってます。番外編として書いていますので気軽に呼んでいただければ、と思います。
可愛いにこちゃんを想像してください!それではどうぞ!
猛暑
今日はこの二文字が最も当てはまる1日だと思う。
真夏の太陽は痛いほど照りつけ、僕が踏みしめているアスファルトはその熱を反射する。
おまけにセミが煩く鳴き喚いているときた。もう最悪の1日だ。
「うぅ……暑い……」
汗で肌に張り付いたシャツをパタパタと煽って熱を逃がそうとするけど、その動作だけでまた熱気を感じてしまう。
暑いと口にしたところで気温が変わらないのは分かってたけど、言わずにはいられなかった。
でも、今日はハッピーな1日にしなきゃいけない。
今日は僕の幼馴染みである矢澤にこの誕生日だ。
今日、にこは19回目の誕生日を迎える。大学に入って初めて迎えるにこの誕生日だ。
そのにこのために今日は僕達が高校に通っていた頃の仲間達を呼んでパーティーをするはずだったのだけれど……
「まさか、昔みたいに花火を見に行こうなんて言うとは思わなかったよ……」
毎年、この街ではにこの誕生日でもある7月22日に大きな花火大会が行われる。僕がこの街を引っ越すまで、この日には必ずにことその花火大会に行っていた。
にこはその花火大会に行きたいらしい。
去年は高校の時の仲間達と誕生日パーティをやった。
今年も盛大に祝おう!って皆張り切っていたのに。にこ曰く明日1日遅れの誕生日パーティをするからいいらしい。
『たまには私の我が儘も聞きなさいよね』
この前、にこはそんな事を言っていた。正直、にこは昔から変わらず我が儘でいっつもにこの我が儘を聞いてあげてる気がする。今僕達が通っている大学も、にこが2人で一緒の所がいい!って言ってたからあの大学に決めたんだ。まぁ、選択肢の中には入ってたけどね。
でも、そんな事口にしたらにこの顔がニコニコじゃなくなるから言わなかったけどね。
「はぁ……早く行かないと」
とまぁ、心の中でにこに文句を言いながらも僕はある所へと向かっていた。
今日はにこの誕生日。ってことはにこが喜んでくれるようなプレゼントが必要。ということで僕はプレゼントを買うためにデパートへと向かっていた。
この街の中では多分1番の大きさを誇るあのデパートならきっとにこが喜んでくれそうなものがあるはずだ。
「ここかぁ……やっぱり大きいね」
目的地のデパートについた僕はデパートの中に入る。自動ドアが開いたその先には冷たい空気がフロア中に広がっていてまるでオアシスみたいだった。
「おっと。こんな所で休んでちゃだめだ。早くにこに合うようなプレゼントを探さないと」
とりあえず良さそうな物を探すためにお店の中を周って見ることにした。
あれから数10分くらい経った頃。僕は、ある物を見つけていた。
髪留めに使う淡い青色のリボン
さっきからこのリボンから目が離せなかった。
多分、いつも赤いリボンをつけているにこがこのリボンをつけてもきっと似合うと思う。それに、たまには違う色もいいんじゃないかな?
「よし。これにするか」
一見、ちゃちなプレゼントかもしれないけど、きっと喜んでくれるはずだ。
僕はそのリボンを手に取りレジへと向かった。
「さて、買い物終了。でも帰るにはまだ早いな」
買い物を終えた僕はデパートの中にあるベンチに腰を下ろして、これからどうするかを考えていた。にことは夕方頃に待ち合わせをしているけど、それまでの時間が結構余っていた。
「忙しいのもイヤだけど暇なのもそれはそれで困るよなぁ……」
大学に入ってからはサークルとかに入らないで毎日をマイペースに過ごしていた。高校時代のような非日常的な事はほとんど起こらない。悪く言ってしまえば退屈な毎日を過ごしていた。
逆に、にこは大学のサークルにアイドルサークルなるものがあるらしく、そこで活動をしていた。なんでも最近は芸能界からスカウトが来たらしい。半信半疑な所もあるけど、まぁにこならスカウトされてもおかしくないか。
にこは高校時代と大差のない生活を送っている。忙しいくて大変な事も多いだろうけど、何だかんだ言って楽しそうだ。
それに、にこは人気者だからなぁ……
「……ん?」
ベンチに座ってあれやこれやと考えていると、何か紅色に輝いている物を見つけた。
あのお店は……ジュエリーショップかな?
気になった僕はその輝きを放っている所に歩いていく。
「うわぁ…っ…綺麗だ……」
輝きを放っている物体は赤い宝石が装飾されたペンダントだった。
燃え上がるかのような紅色の宝石を見つめている僕は、まるでにこの瞳を見つめているかのような錯覚を覚える。
「綺麗だ……」
思わず呟く
にこの瞳と同じくらい綺麗な宝石に思わず見とれてしまった。
「何かお探しですか?」
不意に後ろから声をかけられた僕はビックリして振り向く。そこには、女性の店員さんが笑顔で僕のことを見ていた。
「あ、いえ……これ、綺麗だなぁ〜って思って……」
やばい……買うつもりが無いのに来るなって怒られちゃうかも……
「あぁ!これ、とっても綺麗な紅色してますよね〜」
「えっ?あっ……そ、そうですよね!」
僕の心配も杞憂だったみたいで、怒られる事なんかなく、店員さんは笑顔で話しかけてくれた。
良かった気さくな感じの女性で…。怒られるかと思ったよ。
「このペンダントに装飾されているのはルビーっていう宝石なんです」
「あぁ、ルビー。聞いたことあります」
「あ、もしかして彼女さんへのプレゼントだったりします?」
「えぇっ?!ち、違います!」
にやにやと変な笑みを浮かべながら店員さんはそう訪ねてきた。僕も僕で慌てて否定する。僕には彼女なんていないし、そもそもこのペンダントを買うつもりなんてないのにっ!!
「なるほど……じゃあ大切な人、とか……?」
「えっいや、そういうわけじゃ……」
大切な人、か。
多分、この店員さんはそういう意味で聞いてきているんだと思う。
僕にとってそんな人は———
『勇気!』
その時、何故かにこの顔が浮かんだ。
「……!」
「どうかなさいました?」
「あ、いえ……」
なんで……にこを思い浮かべたんだろう。
いや、確かににこは僕にとってとても大切な人だ。この関係は壊したくないし、壊すつもりもない。けど、僕が言っているのは幼馴染みとして、だ。恋人のソレではない。
だいたい、今までの殆どをにこと一緒に過ごしているんだからそう思うのも難しいと思う。
僕にとってにこは大切な〝幼馴染み〟だ。
「ふふふっ…♪」
店員さんがまた気持ち悪い笑みを浮かべていた。それに意地の悪そうな顔で僕のことを見ている。
「な、なんですか……?!」
「大切な人、いるんですね♪」
「い、いませんって!!」
何か勘違いしてしまってる店員さんに必死に弁解する。
「それではですね……」
「はい……?」
すると、さっきまでニヤニヤと笑っていた店員さんの雰囲気が変わった。
真面目な顔になり、スチャッとメガネをかけて何処からか電卓を取り出す。
「今日買って頂けるなら、お安くしますよ?」
「————えぇぇっ?!」
あれから少し時間が経ち、日もだいぶ落ちて来た頃、僕はトボトボとにこと待ち合わせをしている花火大会の会場へと向かっていた。
本当はもっと笑顔でいなきゃいけないんだろうけど……今はとてもそんな気分じゃない。
「はぁ……ペンダント、結局買っちゃったよ……」
そう。あの店員さんに上手いこと口説かれてあの紅色ルビーのペンダントを買ってしまった。
本当ならするはずのない買い物をしてしまって僕の経済に大ダメージを与えてしまった。
いや、まぁ確かに綺麗で気に入ったペンダントだったけど……なかなか高級なペンダントだからにこにプレゼントしても遠慮しちゃうだろうし、幼馴染みって間柄であげるような物でもない気がする。
「う〜ん……僕が着けるのもなんか変だし……家にでも飾っておこうかな」
うん。そうしよう。きっとそれがいい。
一人暮らしを始めたわけだし、誰かに見られるわけじゃない。観賞用にはもってこいだと思う。
まぁ、たまににこが遊びに来ることもあるけどね。
「それにしても……なんであそこでにこが出てきたんだろう……?」
ジュエリーショップでの事を思い出す。
店員さんに“大切な人”と言われて真っ先に思い浮かんだのはにこだった。
でも、店員さんの言う“大切な人”と僕にとっての“大切な人”は近いようで違う。
確かに、にこは僕にとっての“大切な人”だし、僕はにこの事が好きだ。
ずっと一緒にいたいし、にこのことを守ってあげたい。それこそ、もう昔のようににこを悲しませる事なんか絶対にさせたくないと思う。
でも、僕がにこに対して思う“好き”は英語で言うlikeだ。loveではない。
決してにこを異性として見れていないわけじゃない。むしろ、にこはとても可愛い女性だし、こんな彼女がいたら嬉しいだろうなぁとも思った事があるくらい。
だけど、にこにそれを求める事は絶対にしなかった。
“友達以上恋人未満”
多分僕達の関係はこの言葉が1番表現しやすいと思う。
この世に産まれた時からずっと一緒で。
ちょっぴり君を悲しませてしまった時期もあったけれど。
笑ったり、泣いたり。喧嘩もそこそこしたっけ。
そんなにこと過ごしてきた今までがとても楽しくて、居心地がよかったから。
「多分、僕達の関係はずっとこのままなんだろうなぁ……」
チクリ
そう思うと、何故だか胸が少しだけ痛んだ。
「……?」
僕には胸の痛みが何処から何故やって来たのかは全く分からなかった。
いや、わざと目をそらしていたのかもしれない。
日常に埋もれてしまった幸せは気付かないもの。
その幸せは、失って初めて気づくのかもしれない。
僕はまだ、その事に気づけていなかった。
「あ、もうこんな所まで歩いてきたのか」
気がつけば僕はもうにことの待ち合わせ場所についていた。
あのデパートからここまで、そこそこの距離があったはずだけど、考え事をしているうちに結構なスピードで歩いていたみたい。
「でも、ちょっと早く着き過ぎちゃったな」
時計を見ると予定の時間より30分前を指している。
これだとにこを待たないといけないな。
「————遅いわよ」
「うわぁ?!」
後ろからいきなり名前を呼ばれた僕は驚きながら後ろを振り向いた。
そこには———
「なに変な声だしてんのよ……」
今日の主役であるにこがとても不満そうな顔をして僕の事を見て……いや、睨んでいた。
「遅い。レディーを待たせるってサイテーよ」
「ごめん……で、でもっ!レディーファーストっていう言葉もあってね?!」
「殴られたいの……?」
だめだ……!!今のにこには冗談というものが通用しない!
にこは自分の小さな拳を握り締め、プルプルと震わせていた。
いわゆる、激おこってやつだ。
な、なにかにこの怒りを鎮める方法は……!!
……そうだ!
「き、今日の服、可愛いね!とっても似合ってるよ!」
僕の選んだ方法はにこの着ている服を褒める。という在り来りなものだった。
にこは白いシャツに淡い水色のスカートといった涼し気な服装をしている。
現にとっても可愛いし似合っていると思った。嘘は全く言っていない。
こ、これでにこの怒りが収まれば……!!
「な、なによ……褒めても機嫌治らないわよ」
案の定、にこはまだブスくれたままだった。
怒りのボルテージは下がったけど、まだ半分以下にもなっていない。このまま放っておくといつMAXになってもおかしくないぞ……
その時、僕はにこのツインテールを結っている、いつもの赤いリボンに目がいった。
あ、そういえば……
「ねぇ、にこ。プレゼントがあるんだ」
「えっ?」
「はいコレ」
そう言って僕はプレゼント用の梱包をされた包みをにこに渡す。
「開けていいの?」
「うん。もちろん!」
にこは綺麗に包みを開く。
包みの中からはさっきデパートで買った水色のリボンが。
「これ……」
「プレゼントだよ。にこ、誕生日おめでとう!今日の服装ならこのリボンも似合うと思うよ?
あ、それともこんなちゃちなプレゼントだったら嫌だったかな……?」
「べ、別に嫌なんて言ってないじゃない!」
「そっか…!よかった」
「ま、まぁ!にこが貰ってあげるわ!」
そう言ってにこはもともと髪を結っていた赤いリボンをシュルリと取ると手馴れた手つきで僕が渡した水色のリボンのツインテールを作った。
「……どう?」
「うん!似合ってる。とっても可愛いよ」
やっぱり思った通りだ。涼し気な色のリボンはにこにとても似合っている。
「あ、あったり前でしょ?!にこに似合わない物なんてあるわけないじゃない!」
「あはは、そうだったね」
こうやってつっけんどんな事を言っているにこだけど、実は照れているんだ。にこは意外と照れ屋さんな所もある。
「ねぇ、勇気……?」
「ん?どうしたの?」
「……プレゼント、ありがとう。……大切にするわ」
顔を真っ赤にしながらにこはそう言った。
普段は肌の白いにこだから顔の赤さがとても目立っている。
「う、うん!」
にこの表情に少しだけドキッとしたのは内緒だ。
「花火までまだ時間がある訳だし、屋台でも周りましょ。お腹空いちゃったわ」
「そうだね、じゃあぼちぼち行こうか」
僕達は横に並んでゆっくりと屋台が並んでいる方へと歩いて行くことにした。
「やっぱり人が多いわねー」
「まぁ結構大きなお祭りだからね」
にこと僕は人混みの中を2人で歩いていた。
にこは歩きながらさっき屋台で買ったたこ焼きをぱくついている。
「1個もーらいっ!」
にこの食べているたこ焼きを見ていたら僕も小腹が減ってきた。にこがたこ焼きから目を離した隙にたこ焼きを頬張る。
「あっ…!ちょっと!それにこのよ!」
「え〜…これ僕が買ったんだけどなぁ……」
今日の出費はもちろん僕持ちだった。まぁこれはずっと前からやってきたことだし今日はにこのためにここに来たのだから当たり前の事なんだけど。
どうしてもデパートでした買い物の出費が大き過ぎた気がする。
あ〜あ……ホントに何であんなの買っちゃったのかなぁ……
僕はそんな事を思いながら左手に持っているお酒で喉を潤した。
「ぷはっ……」
一応僕は未成年だけど……まぁこんな時くらい羽を伸ばしてもいいじゃないか。
と言っても別にお酒が好きっていうわけじゃない。まぁ簡単に言うとにこの前でカッコつけているだけだったりする。
「あんたそれお酒?未成年でしょうが」
「まぁまぁ、そんな硬い事言わなくてもいいじゃないか。にこも少しだけ飲んでみる?」
「……じゃあ少しだけ」
にこは僕が渡したお酒に口をつけた。
「まずい……」
顔をしかめるにこ。
「ははっ!まだにこには早かったみたいだね」
「うっさい!だいたい、あんたも美味しいなんて思ってないでしょ!!」
「そ、そんな事……!」
「カッコつけてんのバレバレよ!!子供じゃないんだから!」
「なんだって?!にこなんてお子様体型じゃないか!!」
「ぬぁんですって?!」
「ぷっ……」
「「あははは!!」」
こんなやりとりをしているうちに、どちらが先かは分からないけど、不思議と笑いが込み上げてきた。
「久しぶりね、こんなにバカみたいな言い合いしたの」
「ほんとにね。昔はしょっちゅうだったのに」
「えぇ……」
少しだけ、昔の事を思い出す。小さい時はホントにくだらない事で言い合いをする事がしょっちゅうだった。
今はお互い大人になったからする事は殆ど無くなってしまったけど、久しぶりにしてみると楽しかったりする。
「ねぇ、勇気?言わなきゃ行けないことがあるの。
私ね—————」
にこが何かを言いかけた時、会場中にアナウンスが鳴り響いた。
『間も無く、花火の打ち上げが始まります』
そのアナウンスでにこの声はかき消されてしまう。
「ごめん、にこ。聞き取れなかった。もう一回言って?」
「……ううん、なんでもないわ!」
「え?そうなの?」
「そうよ!くだらないこと!」
「そっか…ならいいんだけど」
変なにこだだなぁ……
もしかして、酔っ払ってるのかな……?
「じゃあ、そろそろベンチでも見つけて座りましょ」
「うん、そうだね。……あ、あそことか空いてる」
沢山の人が場所を取ろうと流れる中、僕は丁度2人で座れそうなベンチを見つけた。
「ふぅ……疲れたわ……」
「ずっと歩きっぱなしだったからね……あ、暗くなった」
会場の灯りが消え、辺りが暗くなる。
多分、もうそろそろ花火の打ち上げが始まるんだ。
「……」
にこは真っ暗な夜空を見上げている。
その横顔は何故か少し悲しそうに見えた。
…………気がする。
『これより花火の打ち上げを始めます。ごゆっくりとお楽しみくださいませ』
そんな事を気にしている暇もなく、打ち上げ花火の始まりが告げられた。
ヒュルルルル……
ドンッ!!
お腹に響くような重い音と共に、夜空に大きな火の花が次々と咲いた。
「わぁ……!綺麗だね!にこ!」
僕達はある程度この景色を見慣れていた。でも、何度見てもこの景色はとても綺麗で素敵だ。
僕は若干興奮気味ににこの方へと顔を向けた。
「えぇ……そうね」
「……?にこ……?」
どうしたんだろう。にこの様子がおかしい。いつものにこならもっと目を輝かせて花火を見ているはずなのに……。
「ねぇ、勇気……?」
「ん?どうしたの?」
次々と夜空に花火が打ち上げられる中、にこはギリギリ届くぐらいの小さな声で僕を呼んだ。
「私の小さい時からの夢って覚えてる?」
「うん。アイドル、でしょ?それがどうかしたの?」
にこは小さい時からずっとアイドルになりたいと言っていた。高校にいた時も全力アイドルを追いかけていた。
でも、なんで今更そんなことを聞くんだろう……?
「なれるかもしれないの。
本物のアイドルに……」
僕は、今年最大のビックニュースを聞かされた。
「えぇっ?!それ本当?!」
突然のビックニュースに思わず大きな声を出してしまう。あまりの衝撃的な事に打ち上げ花火の音なんて耳に届いていなかった。
「えぇ。本当」
「良かったじゃないか!!」
僕はにこの昔からの願いが叶った事を喜んだ。
にこが自分の夢を叶えようと必死に努力していたのを知っているから。尚更、自分の事のように喜べる。
「……えぇ。そうね」
だけど、当の本人は何故か余り嬉しそうにしていない。
「嬉しくないの?」
「複雑ね。……ちょっと遠くに行かなきゃ行けないのよ」
「そうなんだ……。どこまで行くの?」
「…………アメリカよ」
にこの言葉を聴いた瞬間、辺り一帯の音が消えた。
「————え?」
驚きを超えて声が上手く出ない。
別に、国内だったら会いに行ける。そう思っていた。
けれど、海を超えていたなんて。
「ダンスを1から学び直すことにしたの。……やるならしっかりやりたいから。それに、いつ帰ってくるかも分からないわ」
「そっか……」
にこは自分の決めた事にはストイックにやりたがる。
今回もそうだ。自分の夢が叶う可能性がある。だからこそ、浮き足が立たないように完璧にやる。
だけど、それは同時に僕達の日常を壊すことになる。
「いつ行くつもりなの?」
「明日よ」
「!!……早いんだね」
分かってはいたんだ。遅かれ早かれ僕達はそれぞれの道を見つける。ずっと一緒にはいられない事なんて。
その事は高校生最後の冬に学んだ。
……学んだはずだったんだ。
けれど心の何処かで、また逢える 。そう思っていた。きっと、またふざけて笑い逢える日が来るって。
でも、その願いは叶わないのかもしれない。
「皆には言ったの?」
「ママ達には言った。けど、あの子達には言ってないわ」
「……気持ちが揺らぐから?」
「……図星。バレバレね。……でも、あんたには……勇気にはちゃんと伝えたかったの」
「……どうして?」
「当たり前じゃない。ちっちゃい時からにこの事をずっと応援してくれて…あんたはにこの1番最初のファンなんだから!
勇気……
ありがとね?」
「っ!!」
やめてよにこ……
その言葉、まるで————お別れみたいじゃないか
にこが放つ言葉の一つ一つが胸に深く突き刺さる。
もう、今までのように、にこと一緒にいる事ができない。そう考えるだけで悲しくなってくる。
けど、そんなのにこだって同じだ。だけど、にこはそれを承知の上で行動を起こそうとしている。そんなにこの覚悟を踏みにじることは僕なんかにはできない。
「……そっか……」
「あ〜あ…!なんかシラけちゃったわね!にこ、もう帰るわ!明日の準備もしなきゃいけないわけだし。……じゃあね」
そう言ってにこは駆け出していった。
これが最後の会話になってしまうのかもしれない。
本当はもっとにこと話したかった。もっとにこの笑顔を見ていたかった。
そして、もっとにこと一緒にいたかった。
でも、それももう無理な話しだ。
「早過ぎるよ……にこ……」
さっきまで隣ににこが座っていたベンチを眺める。
なんだか、このベンチのように僕の心にはポッカリと隙間が空いてしまったみたいに感じた。
本当は行って欲しくない。
一緒にいたいんだ。
だけど……僕にそんな事をする権利はあるのか?……いいやない。そんな事、やっちゃいけないんだ。にこの夢を壊す事なんてしてはいけない。
……そんなこと……しちゃいけないんだ……!!
『引き留めるなら今のうちだよ』
……ダメだ!!そんな事しちゃいけないっ……!!
湧き上がった黒い感情を必死に押さえ込む。
『にこは止めて欲しくて僕に言ったのかもしれないよ?』
「違う!!そんな事あるわけないだろ!!!!」
僕は自分の脚を強く殴りつけた。
自分の拳で殴った脚と、周りからの目線が痛い。だけど、そんな事どうでも良かった。
こうでもしないと、今にもにこのことを追ってしまいそうだったから。
「素直に喜べないなんて……僕、最低だな」
自分自身に毒を吐きながら夜空を見上げる。
あれからどれぐらい経ったのだろう。真っ暗な夜空にはまだ花火が続々と打ち上げられている。
さっきまで綺麗に見えた花火も今は煩く爆音を鳴り響かせている火花にしか見えなかった。
思い返せばにことは本当に長い付き合いだった。
産まれた時からずっと一緒で。
どんな時も一緒だった。
いっぱい笑った。
いっぱい泣いた。
殴り合いの喧嘩だってした。
強がっているけど、本当は弱くて……そんな彼女の事を僕は絶対に守ってみせると誓った。
けれど、今まさににこは僕から離れようとしている。
今までの楽しかった日常が打ち上がった花火のように消えようとしていた。
「そんなの……嫌だよ……」
ずっと一緒にいたい。
君の笑顔を守りたい。
隣で君の笑顔を見ていたいんだ……!
「————!……そっか……」
僕はにこのことが——————
僕はベンチから弾かれるように走り出した。
自分の今やっている事が最低な事だと分かっていても、僕はにこの事を追った。
自分の気持ちに気付いてしまったから。
日常に埋もれてしまった幸せは気付きづらいもの。
その幸せは、失って初めて気づくのかもしれない。
だけど、失ってからではもう遅い。
僕は、失いかけてしまったモノを取り戻すために地面を蹴る。
「はぁっ…!はぁっ…!クッ……!にこ……!!」
口から酸素を取り入れようとするが、間に合っていない。喉の奥でひゅうひゅうと音が鳴り、心臓ははち切れそうなくらい脈を打っていた。
息苦しい。死んでしまうかもしれない。
でも、にこがいない日常なんて死んでしまったのと同然だから。
僕は走り続ける。
住宅街に入り、曲がり角を右往左往する。
近くでは花火の打ち上がる音が鳴り響いている。
そんな中、僕はにこの事をやっと見つける事ができた。
「にこっ!!!」
空気をありったけ吸い込んで叫ぶ。
僕の声は小さな住宅街に木霊した。
「———勇気……!!」
自分の事を追ってきた僕に気付いたにこ。
なんで……という顔で僕のことを見ている。
「はぁっ…!!はぁっ…!!やっと…追いついた……」
「……何しに来たのよ」
肩に手をつき、荒く息をしている僕に、にこは冷たくそう言い放った。
もう来るな
にこの睨みつけるような鋭い眼差しはそう言っていた。
だけど、僕は怖気づかない。失ってはいけないものに気が付いたから。
「君を止めに来た!!」
単刀直入に言い放つ。
御託を並べる必要なんてない。
僕達はお互いにお互いの事を知っているから。
「勇気……それがどういう意味だか分かって言ってんの?!」
「あぁ!分かってるさ!僕のやっている事が最低な事ぐらい!!」
「だったら……!!なんで止めるのよ!!にこの夢があとちょっとで叶うっていうのに……!」
この時、僕は確信した。
にこ……本当は君だって……
「にこ……そんなんじゃ君はアイドルになれないよ……」
「っ!!!!アンタねぇ!!自分が何言ってるか分かってる?!」
「分かってるさ。ねぇ、にこ?アイドルは見ている人達に笑顔を与える仕事、でしょ?」
「……それがなんだって言うのよ」
「きみ、泣いてるんだよ……!!」
溢れ出た涙はにこの頬を伝っていた。
「っ!!!!」
「君が泣いてるんじゃ他の人を笑顔にすることなんかできないっ!!」
次々と溢れ出る最低な言葉、にこの夢を壊そうとしている最低な自分。分かっていた。最低だっていう自覚はあった。でも……これ以上にこの悲しい顔は見たくないから。
「やめてよ……私はずっとアイドルになりたいと思ってやってきたの!!やっと巡ってきたチャンスなのよ……!?だから……!邪魔しないで!!!」
ポツリ、またポツリと涙を溢すにこ。
そんなにこを僕は、そっと抱き寄せる。
「ごめんね、にこ。でもね?気付いたんだよ。失っちゃいけないものに。」
「僕は…にこが隣にいる日常を失いたくない!」
にこは僕の胸の中で嗚咽を漏らし、子供のように泣きじゃくった。
あぁ……やっぱり僕は最低だ。ちっともにこの笑顔を守れてなんていないじゃないか。
でも…これ以上にこのこんな顔は見たくないから……
もう、にこが何処かへ行ってしまわないように
「それとね?もう一つ。僕はにこのことが————
好きなんだ」
僕はにこの事を強く抱きしめた。
「泣き止んだ?」
「……うん」
あれからどれくらい経ったのだろう。
数分、いや数時間かもしれない。時間の経過を忘れさせてしまうくらい僕はにこの事を強く抱きしめた。
にこは少しだけ腫れぼったくなった目を擦るとスッと僕の胸から離れた。
「……泣き疲れたわ」
「ははは、ごめんね?にこ」
「……これ、明日乗る飛行機のチケットよ」
すると、にこの右手には何処から取り出したのか、1枚の紙が握られていた。
?マークを浮かべている僕に対してにこは少しだけ呆れたようにした後、紙の端を両手で掴む。
そしてそのまま、紙をビリビリに引き裂いた。
「っ!にこ……」
「この意味、分かってる?責任…取りなさいよ?」
「っ!!うん…!!うん!!」
「もっと早く好きだって言いなさいよ……!バカ……」
ポスッ
再び、僕の胸に顔をうずめるにこ。
それと同時に、僕の胸が段々と湿っていくのを感じた。
「ねぇ、にこ。顔を上げて?」
「……ヤダ」
「いいから、ほら」
にこの顔を少し強引にこちらに向けた。そして、にこの首に腕をまわす。
「ちょっと…!」
「じっとして。……うん。やっぱり似合うよ」
にこの首から垂らされた紅いルビーのペンダント。先端に装飾されたルビーはにこの瞳と同じく紅色に輝いている。
「これは……?」
「もう一つの誕生日プレゼント、かな?……改めておめでとう。にこ。そして、これからも、これから先も、ずっと、ずーっと…僕の隣にいて欲しい」
僕の想いをにこに伝える。正直、にこの答えは分かっているけど。それでも口にしなきゃ収まらないくらいの想いを僕は抱えていた。
「勇気…。………はぁ、しょうがないわね!にこにーがあんただけのアイドルでいてあげるから!死ぬまで追いかけて来なさいよっ!」
「うん。もちろん!」
僕達は少しだけ歪な形だけど、永遠を誓った。
7月の暑い真夏の夜の
僕達の影は重なった。
それと同時に夜空に今日1番の花が咲く。
その光を受けたルビーは僕達の未来を祝福するかのように輝いた。
「大好きだよ……にこ」
7月の22日、今日はにこの誕生日だ。
そして、今日というこの日は僕達にとって、大切で特別な日になった。
いかがでしたでしょうか?
とても多い字数になってしまったことをお許しください(汗)にこちゃんの事を愛す余り、この膨大な字数になってしまいました(笑)
私自身、にこちゃんは将来アイドルを目指して欲しかったのでこのような記念回になったわけですが……皆さんはどう思いますか?
色々な意見があると思いますが、この記念回を楽しく読んでいただければ幸いです。
それではまた次回!よろしくお願いします!
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更新情報から下らないツイートまで……色々な事を呟いています。よければ是非!