舞姫 作:匿名コメは手加減って悪口言われるの前提?
① 公女観月
私が大公家の公邸の門を叩いたのは陽が沈んで間も無い頃だった
「 私の名は真琴、大公様にお願いが有って参りました 」
でもつれない門番の返事は
「 本日の謁見はもう終わった…大公閣下にお会いしたくば又明日にでも訪ねて来なさい 」
そう言われて大袈裟ではなく実際の話…
いくら軽いとは言え命を背負ったままではもう一歩たりとも歩きたくなかった私は
「 ご迷惑はお掛けしませんからここに居て良いですか? 」
と、言ってやったら対応に困った門番は上の人間に相談してくると言い残し奥に引っ込んだ
だが、ツキは私に味方したようで命を背負っている私の姿を私室の窓から偶々見掛けた公女が私達を門の中に入れてくれた
「 私の名前位は知ってますね? 」
そう言われ正直に
「 はい、公女殿下のご尊名は伺ってますが何しろ奥深い山里育ちの田舎者ですから…お顔を拝見するのは初めてです 」
私がそう答えると
「 違う… その人公女様じゃない… 公女様はカーテンの後ろにいる 」
みこのその言葉に答える代わりに私達が案内された茶室のカーテンの陰からもう1人の女性が現れ
「 貴女の名は良く通る声でしたから貴女のその背負っている子の名を教えて下さい 」
そう言われて
「 この子の名は命、私の妹です 」
「 真琴と命… 貴女達の訪問目的はなんですか? 」
「 大したことでは有りません… こちらの、歌の国の本国で行われる歌の女神の祭典に出たいから紹介状を書いて頂きたいのです 」
「 二人分ですか? 」
私の答えに多分侍女であろう人が問い返してきたから
「 いいえ、妹は歌はやりませんから欲しいのは私たけ1人分で良いのです 」
「 では… 何故故に妹を態々背負って迄連れて来たのですか? 」
「 私達に何かしらの使命が有るから旅立たねばならぬと祭司長様から言われましたから… 」
「 私の記憶違いでなければ祭司長は貴女達のお父様ではないの? 」
知ってるなら聞くなよと思いながら私は答えた
「 お母さまから聞きました… 父親としては私達が里を出ることに絶対反対だけど祭司長としての立場上送り出さねばならぬ… なんだそうですから 」
公女は命を一瞥し
「 貴女はともかくこの子の事は相当心配したのでしょうに? 」
「 命はこう見えても夢見の占いや、踊りにより破邪の力を振るう事の出来る舞の女神の依り代なのてすから… 」
「 そう、この子が女神の寵児… 愛し子と呼ばれる舞姫なのですね… 」
「 信じられないのですか? 」
「 いいえ、こんな幼い子に何と酷い運命かと思っただけです… 」
その言葉にムッとした私は
「 幼いと言っても私達は双子なのだからみこもこう見えても15才です 」
私の言葉に驚いた二人は互いに顔を見合わせて
「 確かに祭司長の娘は双子だと聞いた覚えが有りますが… 」
命を見て頭を振り
「 やはり10歳にも見えません 」
との呟きを聞いた私は
「 信じる信じないは貴女達の自由だけどみこがいけないのです…ホンの少しの野菜と木の実しか食べないから全然育たなかったのですから… 」
不意に扉が開き
「 で、二人のお嬢様達は紹介状を貰った後の予定は決まっているのですかな? 」
お父様と同じか少し上くらいの男性の声がして命の身体が強張っているのが解る
「 予定と言う程の物はありません… 宿を探し本国に連れて行ってくれる船を探します 」
「(それはどちらもお勧め出来ませんな 」
「 でも私達に選択肢は他に有りませんから… 」
「 取り敢えず今夜はここに泊まるとは考えないのですか?)」
「 私達にそれをお願い出来る義理もなければ甘えるすべもないのだから早く紹介状を下さい
見知らぬ町を夜遅く命を連れ歩きたくはありませんから… 」
溜め息を吐き私の足から靴を脱がせると
「 見なさい血豆が破れて血塗れじゃないですか?
もう、貴女1人で頑張らなくても良いのではありませんか? 」
そう言いながら公女でない方の女性が私の足を洗い手当てをしてもらうのを見ながら
「 でも… みこは貴方達にまだ馴染めていない… だからそんな失礼な状態ではお世話になる訳には… 」
そう言って渋る私に
「 ならみこが居なければお世話になっても大丈夫なんだね…
みこはまこちゃんの足が良くなるまで何処に隠れてるから大丈夫、みこの鞄の中には1年位食べなくても大丈夫な丸薬が入ってる
でも、その前に… 」
そう言って水の精霊の踊りを舞い私達が見とれている隙を突いて部屋を飛び出した
「 しまった… 今のこの領地はもう安全とは言えないのに… 」
慌てる大公様に
「 大丈夫… みこにはここから出ていく勇気は無いしあの子が隠れ家にしそうな場所の条件はわかっているから… 」
立ち上がろうとしたが足の痛みは思いの外酷くつんのめってしまった
それを見た大公様の後ろから出てきた青年が私を抱き止めると
「 さぁ、舞姫を迎えに行きましょうか? 」
そう言われて溜め息を吐き
「 すいません… お手数をお掛けします… 」
「 気にしなくても良いですよ貴女のようなレディとお近づきになれて光栄なのですからね 」
優しい笑顔でそう言って下さるその方に
「 その子未だ15歳なんだけど? 」
と、言われて青年は私と公女を見比べ吹き出し公女は顔を真っ赤にして怒っているようだった
「 多分… 命が探している場所は、見晴らしが良くて踊りの練習が出来る広さが有る場所ですがそんな場所はありますか?」
「 東の塔の最上階の屋根裏部屋、そこが最適かも知れません 」
「屋根裏部屋…如何にも秘密基地っぽくてみこが好みそう…」
「 秘密基地… ですか? そうですね… 実際、子供の頃の私達の秘密基地としてましたから… 」
私達のお転婆なな会話に呆れ気味な大公様や侍女のお姉さん方
屋根裏に入る梯子を昇り中を覗くと旅装のマントを敷きその真ん中で猫のように丸くなって寝ている命を見付けた
「良い感じ…決めた私達はここをお借りします」
そう言って命に向き合う形で寝転がり…
自分のマントを命と自分に掛けると思いの外疲れていた私はあっという間に眠りに落ちた
「ユカ、今夜は申し訳ないけどここで二人を見守って上げて
後でユウに食事や毛布などを持たせますからね」
「観月、このままそっと連れていった方が早くないのか?」
兄の言葉を鼻で笑いながら
「 無理、真琴はともかく妹の方は兄さんに対して警戒心を持っているから近付けば又逃げ出しますよ? 」
そう言われて
「 やれやれ嫌われたものだね… 」
溜め息混じりにそう呟くと
「 その心配は有りません… 妹の方はどうやら男の人が苦手なようですから 」
「 いや、それってあまり喜べる話じゃないと思うけど? 」
「 貴方自身が否定されてるよりはマシでしょ? 」
「 まぁ、確かにそう言われてしまったらそうなのかも知れないが… んっ! 」
梯子を降りてきた観月に思い切り足の甲を踏まれたのだ
「 さっき私と真琴の胸を見比べて笑った報いです 」
踞る兄を見下ろしながらそう言い放つ公女
そんな小さな日常を知る筈もなく私達は眠っていた
② ユイ
( 私は夢を見ているの? )
蒼白い顔色で横たわる自分の姿を見下ろし
( もしかして私はもう死んでしまった…? )
私の悲鳴にも似た叫びに
― 大丈夫、貴女は未だ死んでないし未だ死ぬべき時では有りません ―
― では私は未だ生きていても良いのですか? ―
― 貴女は貴女の使命を果たしてないし運命とも出会ってないけどその出会いが都合の悪い者が貴女を苦しめていた ―
― 私の運命と使命… ―
― 魔導師でなければ精霊の巫女でもない私には然程の力は有りません…
ですが、今の貴女を苦しめる小魔位は祓えます ―
― 貴女は何方なのですか? ―
― 私は間も無く貴女と出会う者… しかし、貴女と出会った時の私にはこの記憶はありません ―
― そうですか、それは残念な事ですね… ―
― さぁ、そろそろ身体に戻りなさい… 貴女のお友達が心配してます―
「 ちょっと待って… 未だ聞きたい事が… 」
それまで血の気の失せていたユイが飛び起きて
「 待って下さい 」
と、手を伸ばし叫んだ為に見守っていた観月やユイの友人達は驚いたが
「 ユイ、一体何が有ったのか説明しなさい 」
そう言われて今見た夢を事細かく…
覚えている全てを話した
「 その少女はどんな子でしたか? 」
「会えば解りますが…長い黒髪と余り顔色の良くない7~8歳位の少女に見えました…
ただ…初対面の筈なのに何故か良く知ってるような気がしたのは気のせいでしょうか?」
「私にも解りませんが…ユイ、食欲は?」
主人の言葉に自身の体調を確かめてから
「ペコペコって感じです…」
恥ずかしそうに言うユイに
「急いでユミに消化の良い物を用意させますが…ユミ、お願いしますね?ユキは念のためユイを見守ってあげて、私は東の塔に行きます」
そう告げて立ち上がる公女に
「二人に会われるのですか?司祭の血を引く少女達の訪れと謎の病からの突然過ぎる回復は偶然とは思えませんから…」
「いずれにしても私達は魔道と親しい訳ではありませんが…」
そう言って顎の下に手をやり
「ですが、恐らくこれから嫌でも付き合わねばならぬかも知れません…」
「私の使命や運命も気になりますし…」
「取り敢えずユイは休みなさい、治り次第忙しくなりそうですから覚悟なさいね」
そう言い残して病室を後にした
時間は少し前に遡る
転た寝から目覚めたユカは天窓から差し込む月明かりを浴びて踊る命が妖精の様に見えた
「何故あの踊りなの…?」
「真琴様、どうかなさいましたか?」
私の独り言に気付いたユカが聞いてきた
「ちょっと気になっただけだから気にしないで」
興味津々…と、いった表情だがそれ以上しつこく聞いてこないのは主の躾なのだろうけど私自身説明と言うか理解出来てない事をあれこれ聞かれのは好きじゃないから有り難かった
「…やはりあの踊りは…貴女にお聞きしますが今この城に重病人が居るのでは有りませんか?」
私のその問い掛けに
「何故その事を?」
「やはりそうですか…
今、命が踊っているのは水の精霊の踊りのひとつで病魔を祓い治癒を願う踊りです」
「では…あの方は私の友人の為に?」
「そう、病人の為に…自分の無力に苛まされながら踊っています」
「無力?」
「私達は精霊の巫女でも魔導師でも有りませんから如何に完璧に舞おうとも病魔を祓う力が有るかは解りません…」
「でも、それでもあの方は踊って下さる」
「それは貴女達が私の怪我の治療をしてくれたから…
それに、あの子は舞の女神の依り代だからもしかしたら…と、期待しているのかも?」
やがて、力尽きて踊るの止めたみこは暫く立ち尽くしていたのだけど…
文字通りに力尽き崩れ落ちるのを私が抱き止め無ければ…
「真琴様、命様をこちらに…」
と、広げた毛布の上に寝かせるよう勧めてくれた
私がその言葉に甘え命を寝かせている所に公女が現れた
「どうかなさいましたか?観月様…」
ユカは不安を隠さず公女に聞いた
「ユイが…元気になりました…原因はさっぱりわかりませんが…」
と、前置きしユイと言う人が見たと言う夢の話をしてくれた
「真琴の意見を聞かせてください」
そう意見を求められた私は
「私には解らないしみこに手に負える相手だったのかわからないけど…
少なくともみこには人の夢枕に立つ力は無いからみこに何の関係もない」
「でも、命様は病魔を祓う踊りを踊っていたと…」
そう強く否定する私に尚も言ってくるから
「偶々です、少なくともみこが治したと言う事実が立証出来ない以上妙に期待されては困りますからもう何も言わないでください」
私は嫌な胸騒ぎで眠れぬ夜を過ごす事になった
夜明けより早く目覚めたみこは辺りを警戒しながら階下に飛び降りていった
暫くして戻って来たみこは嬉しそうな顔をしてその腕には緑色の小さな木の実を抱えていた
一応、一度だけ要る?って聞かれたけど断ったが押し付けられた
しばらくしてユカが目を覚ましみこがその実を食べているのを見て目を丸くして驚くのを見てやはり食べなくて良かったなと思った
見るからに酸っぱそうなその実をかっているるみこにユカが
「命様は酸っぱくないのですか?」
と、聞いたが
「この酸っぱさが身体には良いんだよ?」
と、だけ答えたが人の気配に気付いて身体を硬くしてかじっていた木の実を落とすみこを庇いつつ
「誰?」
そう問い掛ける私の声に
「観月です」
公女のその声に命の緊張が解けたようで
「真琴、足の調子はどうですか?」
「そっと歩く分には差し支えない程度には回復しました
有難う、ユカさん」
「あ、有難う…」
ぼそぼそと礼を言うみこに
「みこ…お礼を言うならもっと大きな声で言わないと相手に伝わらないよ?」
そう言ってからいつも後悔するその一言を言ってしまった…
これを言われると更に口ごもってしまい最後は口を閉ざしてしまう
「大丈夫ですよ…命様の心はちゃんと伝わりましたから」
そう言ってみこの身体をフワッと包み込む様に抱き締めた
ビクッ…と、震え一瞬硬直したけど直ぐに安堵の溜め息を吐きユカにその身を委ねたのを見た私が
「え…みこが?」
そう思わず声を漏らすと
「そんなに驚く事なのですか?」
そう聞いてくる公女に私は
「対人恐怖症だから…特に見知らぬ男性は全く駄目です」
「舞姫なのに?」
「踊りに集中ている時は他人の存在…視線は気にならないみたいだから…」
「そう…そんな子が出会って間もないユカに身を委ねるのを見れば驚くのも無理もない」
「 観月様、お二人のお食事はどうしましょうか? 」
私と公女の会話を聞いていたユイのその言葉に
「 みこはもう済んだよ 」
そうみこが答えると
「済んだっていったい何を食べたと言うのです?」
そう言われて私はみこから貰った木の実を公女に見せると小さな悲鳴をあげて
「 命はこれを食べたのですか? 真琴はどうしました…まさか貴女もこれを食べたのですか? 」
目を見開いて驚く公女に
「 私は悪い予感がしたから食べてません、みこの味覚や嗜好にはついていけないところがありますから 」
苦笑いを浮かべそう答えると
「 そ、そうですか…別に毒が有るとか言う訳では有りませんが猛烈に酸っぱいので… 」
公女のその答えに悪い予感が当たっていたのを知り内心ホッとしつつ
「 みこはそれをそのままかじってました 」
私がそう答えるとぶるぶるっと震えて
「 信じられない 」
そう呟くと
「 真琴はどうしますか? 」
そう聞かれた私は
「 みこは酸味と苦味を全く苦にしませんから…食事に関してはみこが行かないのなら私も遠慮します 」
そう答えると
「 え~っ…食いしん坊のまこちゃんがご飯食べないと身体がもたないよ?
しょうがない…みこ食べないけどお水飲んでるから行こ?
大丈夫、みこがお礼に地の精霊への奉納の踊りを踊るから 」
命がそう言って胸を張ると
「ではこうしてはどうでしょうか?今日のお昼に大聖堂前広場で地の精霊と水の精霊の踊りを奉納して貰えますか?
勿論、美月からの正式な依頼で報酬を出しますよ」
「ホウシュー?」
「お金を払います」
「オカネ?」
そんな噛み合わない公女とみこのやり取りに溜め息を吐いて
「すいません、公女様…みこはご存知の通りの子だからお使いとか一緒に買い物って経験無いからお金自体知らないんです…」
そう言って詫びると驚いたユカさんが
「それはある意味観月様より箱入り娘なのではありませんか?」
そう言われて苦笑いしながら
「(入ってるのは箱と言うより殻って感じだけど…自分の殻になんだけどね…)みこ、ご褒美をくれるって言ってるんだよ、公女様はね」
「ご褒美?じゃあね…みこあの木の実が欲しいっ!一杯一杯欲しい」
そう言われて公女は苦笑いしながら
「一杯有っても食べる前に傷みますよ?」
そう言われて公女を何言ってるんだろう?この人は…と言う目で見ながら
「薄く切って乾燥させると保存が効くし持ち運びが楽だよ?」
意外そうな目で見る公女に私は
「みこは読み書きは出来ないけど、薬草には精通してて薬作りの研究もしてますから…」
私はそう説明すると言われた公女は
「そう言うことは危ないからと教えて貰えないとばかり思ってましたから…」
そう驚いて言うので
「最初はお父様も教える気はないって言ってましたけど教えて貰う前は見よう見まねで薬を作って自分で試しては何度も死にかけましたから…」
そう言って俯く私に
「な…成る程、そではきちんと教えておかないと…ですね?」
「でも…本当に怖いのはみこは自分の身体で人体実験を平気ですろところかも?」
「親の心子知らず…でも、こんな事言ってて良いのですか?」
「みこは自分の悪口には心を閉ざし聞き流しますから…」
「そう、それが良いのか悪いのは解りませんが二人にお願いが有ります」
みこは何だろう?と言う表情でこちらを見私も
「何故でしょうか?」
私がそう聞くと
「公女様と呼ぶのは止めてください、観月様も好きでは有りませんし…」
その言葉の真意を測りかねる私は
「貴女は公女様で私達より目上の聡明な方なのだからそう呼ぶしか…」
「では貴女達はお嬢様と呼ばれることに抵抗有りませんか?」
「私はそう呼ばれたこと無いから」
私がそう答えるとそれまで黙っていたみこが
「私はそう呼ばれてたけど大嫌いだった
私を殺したあの人達は、私の存在を認めて無いから名前でなくお嬢様と呼んでいたのだから…」
憎しみの隠った声で絞り出すように言うみこに驚いた私は
「みこ…そんな事…みこらしくないよ?一体…「パパとママが殺されたって風が教えてくれた…」」
信じたくはないけどみこの言葉に嘘だとは思えなかった
「お祖父様、パパとママがみこのせいで殺された…
闇に魅入られた人達から私を守る為に…まこちゃんが果たす使命はもう終わったよ…みこを里から逃がす事だったから」
言ってる事がバラバラで意味が解らずに居ると
「最初から話して下さい…でないと意味がわかりません」
公女が私の代わりに聞いてくれ、みこは頷いて静かに語り始めた
「みこが他の人と違う事に気が付いたのはあの疫病が流行った時…
闇に魅入られ司祭達は、私を神の貢物として生け贄にする事で疫病を鎮めると言い出した
でも、当時の祭司長のお祖父様が反対し自らが即身仏になってその声を封じ込めた」
「病気で死んだんじゃ?」
みこが悲し気な顔で首を横に振り
「今度は私を逃がしたパパを殺してママを生け贄した」
そう教えられた私が何も言えずに黙っていると
「みこが憎い?お祖父様もパパとママが死んだのはみこの…全部みこのせい、みこが女神の依り代だから…みこが生きてる限り闇は私を逃がさない
あの人達…闇に囚われた人達にとって魔王降臨の生け贄には最高なのだから」
「でも、それはみこの責任なんかじゃないよね?」
その私の問い掛けには何も答えずに
「みこの使命は二人の女神と三人の精霊捜索、そしてその方達の解放だから向こうに着いたら別行動になると思う」
みこの言葉に驚いた私が
「何故…祭典が終わるのを待つか私が祭典が諦めるかすれば良いんだよね?」
「魔王が現れた以上時間が無いしまこちゃんが祭典で歌うのは女神の救出には重要な鍵」
みこの言葉に納得出来ない私にそう答えるけど
「でも…それならみこ一人でどうするつもり?」
私のその問い掛けに
「今は解らないけど行けばなんとかなるのは解ってる
だからまこちゃんは今からご飯を食べなさい」
そう言うとみこは立ち上がり梯子に向かって歩き始めた…
梯子を降り始めたが、踏外し階下に落ち私達が遅いので心配して様子を見に来ていた大公に受け止められた
③ ユウ
大公が言うには国境警備隊から司祭の一族の住む里に何か異変の兆しが有るから調査隊を出すべきか指示が欲しい
そう連絡が有ったが悪い予感がするため私達の意見を聞きたいだった
その為、要点だけをかい詰まんだ話しを聞いたユイが
「 病床の私の夢枕現れたお方は、先程の女神の依り代として振る舞われていた命様でした」
そう告げたので、普通なら信じ難い話だがそのまま受け入れ国境警備隊には調査はせず警戒を強化するよう伝えた
公女宮の食堂で、ここの住人達が重苦しい沈黙を続ける中…
私は、たった一人だけ黙々と食事していた
「 そうですね… 食事が遅くなりましたから料理を全部出して貴女達も食事にしなさい 」
そう侍女達に言い美月のスタッフ達にも
「 私達が食事も摂らずに考え込んだところで事態は好転しません 」
「 ですが… 」
公女の言葉にそう言い淀ユウに公女は
「 食べる気がないのならユカに変わって命を看てなさい
ユカは私の言いたい事、わかりますね 」
そう言われたユカは意識の無いみこの頭を優しく撫でながら
「 はい、命様が意識を失われている今出来る事は限られていて…
今の内に、食事を食べておくのもそのひとつだと思います 」
「 その通りで、私に何が出来るかは解りませんが…
泣きたい気持ちを、食事と一緒にして呑み込んでる真琴の力になりたいのです 」
その告白に、美月のスタッフ達は一斉に食事を始めた
「 ユカさん私はもう十分食べたからみこを観てます 」
「 もう大丈夫なのですか? 」
「 ええ、取り敢えずは…でも念のため堅焼きのパンを少し貰って置いて良いですか?
みこも、この鬼ぐるみの入ってるパンがとても好きで薬草採りで山に入った時にはよく拾ってきてはお母さまに焼いてもらってましたから 」
私がそうお願いすると
「 それは賢明な判断だ… 私も公邸の料理人に非常食を用意させておこう、それと出港の準備もな 」
そう告げる大公様に
「 お父様は紹介状をお願いしますね? ユイ、ユカ、ユウは旅支度をなさい
今度の旅は永くなりますからそのつもりで用意するように… ユミはあの実を届く範囲のを採って袋に詰めてあげて
ユキは真琴を連れて二人に持たせる服を何着か用意
さぁ急いで食事を済ませなさい 」
今生の別れになるかも知れない別れを互いに抱き合い涙を流していた
そんな彼女達の姿を見ながらこれ以上巻き込んでも良いのか迷う私に
「 既にこの世界その物が巻き込まれているのだから気にしても仕方有りません 」
「 でも… 」
「 でもは要りません、出会いと別れは世の常 」
( 本当にそれで良いのかな… )
そう悩む私の前にその人は息を切らして駆け寄ってきた
第二公子の如月様だ
「 観月、僕も同行する訳にはいかないだろうか? 」
私は驚いて彼の顔をじっと観ていると私の視線に気づいた彼は顔を赤くし視線を反らしていた
「 真琴が気になるのは解りますが… 頼む相手が違いますよ? 言った筈、命は貴方に対して未だ警戒心を解いてないと… 」
「 だが… 」
ユカに抱かれているみこをみて
「 この状態でどうしろと?「 …なさい 」」
「 み、命様? 」
目を覚ましたのか寝言なのかは解らないけど命何か言ったらしい
一度深呼吸して
「 お兄さんが優しい人なのは解ってるけど身体が受け付けない… お兄さんはまこちゃんが好き? 」
真っ直ぐに見詰めながら問い掛けるみこに対し如月様も
「 好きだし守りたいと思っている 」
そう答えてくれたのが嬉しくてみこを見ると
「 なら一緒に行かないと後悔する… 何故ならまこちゃんもあの人達に狙われているのだから… まこちゃんは魔王に捧げられる魔王の花嫁なのだから 」
それを聞いた私は寒気を覚え自分の肩を抱き締めていると
「 それに… まこちゃんは意外にプレッシャーに弱いから祭典の時には励まして欲しいし… 守ってあげて欲しい 」
そんな事言ってくれちゃてるみこに何て言えば良いのか困っている私に公女は
「 命はああ言ってるんだけど真琴自身はどうなの?兄貴じゃ… 如月じゃ頼りない? それともタイプじやないとか? 」
「 そんな事… ちょっとキザだなって気がしないでもないけど優しいし… その…「 子供の頃夢見ていた王子様が目の前に現れたみたい…でしょ? 」」
呆れ顔でみこが口を挟み公女は自分の兄をじろじろ眺めて
「 王子様ねぇ~これが… 良かったね、王子様なんだってさ 」
「 父さん、良いだろう二人のお嬢様達の了解も得たんだから 」
息子のその言葉に思わず溜め息を吐き
「 頼り無い王子様だが居ないよりはマシか… 二人のお嬢様達を泣かさないようにな 」
だけど、この時の私は重大な事を忘れていた…… そう、とても大事な事を
8人乗りの馬車に進行方向に背を向けユミ、公女、大公様に如月様が座り
進行方向に向かってユイ、ユウ、ユカに私が座った
当然私の隣に座る物と思っていたらしい如月様はあから
さまに不機嫌な顔をしていた
公女は大きく息を吸い込み嬉しそうに
「 潮の香りがする…海が近い… 」
と、言う呟きを聞き命の表情が一瞬強張っていたが如月様と一緒に行く事に浮かれていた私は見落とした
港に着き荷物を積み込み…大公様とお別れをする事になり…
具合の悪そうな命は休ませ私はお礼を述べ
「 このお礼はきっと祭典の優勝で報いますね 」
私にそう言われた大公様に
「 そうだな… それも嬉しいことだが貴女が私の事をお義父様と呼んでくれる日が来てくれた方がもっと嬉しいのだが… 」
そう言われて顔が赤くなっているのが自分でも解るほど恥ずかしいと言おうか嬉しい言うのか解らなかった
「 ユミ… お前はこのまま観月達と行きなさい、お前の荷物は第二陣の者に持たせるから… さぁ急いで出港しなさい 」
そう言われて船は慌ただしく出港の時を迎えた
私達の船室に入ると命はベッドの上で毛布をすっぽり被って出てくる気配は無かった
その時ユカと交代でみこを見ていたユウは私に言った
「 顔色が酷く悪くて心なしか震えてるような… 船酔いでしょうか? 」
そう言われて
( 船酔い?あっ!しまった… )
私は自分の迂闊さを詰りたかった
そんな事してもなんの役に立たなくても私は悲しい気持ちで一杯になりながら
「 みこは幼い頃のトラウマで底が見えない水の側には近付けないんです… 」
私がそうゆーと
「 では泳げ無いと言うのですか? 」
暗い気持ちで頷く私に
「 ま、まこちゃん… 気持ちを落ち着かせたいから踊りたい 」
みこに言われた私は
「 解りました、観月様にお願いします 」
そうゆーと
「 大丈夫でしょうか? 」
そう聞いてきたユカさんに
「 踊りたいと自分から言ったみこを信じるしか有りません…
私達が無理強いしてはいけないのだろうけどみこの意思なのだから見守ってあげようと思います 」
みこの荷物を手渡して
「 では私は観月様や艇督様に許可を頂きに参ります 」
命の支度が終わる頃ユウが観月と艇督が来たと告げた
勿論既に舞姫の状態のみこには対人恐怖症等微塵にも感じさせない
「 入って貰って下さい 」
入って来た艇督は不機嫌そうな顔をしていて公女は苦り切っていた
「 舞姫様が踊って頂けるそうだと聞きましたが… 」
みこはその先を言わせず
「 私は海は生まれて初めてですから海の神々にご挨拶をせねばと思いまして…
そう思って甲板の使わせて頂くお許しが頂きたかったのです 」
それで少し気を許したのか
「 フム、確かにここは海の神々の縄張り…そこに舞の女神の依り代たる貴女が黙って通り過ぎては仁義に欠けますな… 」
その言葉にちょっと苦笑いし
「 その様に高尚な物ではなく海を知らない私には海の女神を讃える踊りの神髄には程遠いのです
ですからこの機会に海の神々の御心に触れられたら… と、そう思いまして… 」
その答えが余程嬉しかったのかウンウンと頷き
「 確かに陸の上では海の神々の御心に触れることは出来ません
解りましたどうぞ心行くまで神々との対話をしてください
ただ、私達がそれを見ていても良いのでしょうか? 」
「 お仕事に差し支え無ければ… としか私には申せません
特別な儀式の躍りは舞いませんから見ていただいても差し支えはありません 」
そう聞くと艇督は吹き出し
「 確かに操舵手が見とれて舵取りが疎かになっていては困りますからな
解りました乗組員にはそう言っておきましょう 」
みこは海の女神を讃える舞と航海の安全祈願の踊り
水の精霊の踊りに風の精霊の舞を踊り力尽きた
船乗り達もみこの全身全霊を傾けた踊りを見て感じる所があったらしくその応対は変わっていた
④ 人魚媛のりん
海の女神と風の精霊の加護により船は予定より早く本国に着いた
港に入る堤防を通り過ぎる時に猛烈な風が吹きみこが吹き飛ばされ海に落ちた
屈強な海の男達が尻込みするなか一人の少女が海に飛び込んだ少女は潮の流れを物ともせず…
と、言いたい所だけど実際には海に落ちた子に中々近付けずに焦っていた
― 貴女が海に落ちた子を助けたい…… と、そう4願うのなら私も貴女を助けましょう ―
「 貴女は誰なのですか? 」
― 私は水の精霊の代理人の大海原の精、貴女と共に歩むことを望む者です ―
「 私は…… 一度、海で溺れる大切な友達を助けられなかった…
あの子が何者かは知らないけど… でも、もうあの時の気持ちは二度と味わいたくないしあの人達にも同じ思いをしてほしくない…
貴女のお力をお貸し願えるのなら… どうかあの子を助ける力をお貸しください、泣いているあの人達の為にも… 」
遠くに見える、甲板で泣く真琴達を見ながらそう言った
― では私と契約を交わして下さい ―
少女が左手を宙に掲げると蒼白い光がその身体を包み…
一瞬人々は少女の姿を見失った
だが… それまで潮の流れに負けていた少女が潮の流れをものともせず一気に溺れる子に近付いたからだ
それまで波に弄ばれていた、海に落ちた子が沈むのを見た少女もそれを追って潜った
沈み行くその姿を見つけ、一気に近寄りその小さな身体を抱き寄せると水面に浮き上がり乗っていた船に向かった
突風の中の悪意を感じた私は、怯えるみこの身体をただひたすらに抱き締めていた
その結果、悪意は私から奪う事に失敗したが私もみこを守りきれなかった
両者の手(?)から解き放たれたみこの小さな身体は宙を舞い、陸からの風に乗ってそのまま海に落ちてしまったのだから
半狂乱になった私は、みこを追って海に飛び込もうとしたがそれを許してはもらえなかった
暫く波に弄ばれていたみこの小さな身体… それが、海に沈んでいくのをみて気が遠くなった
人々のざわめきは、私にはなんの意味も持たず虚しく私の心には届かなかった
「 真琴、しっかりしなさいっ! どうやら命が助かったかも知れないのだからね 」
「 そんな嘘… 泳ぐどころか水が怖いみこが一体どうしたら助かると言うのですか? 」
気遣う如月様に荒ぶる感情をぶつける私に
「 人魚媛が命を海中から引き揚げてくれた… 」
「 人魚媛? 」
「 そうらしい… 今、救命艇で二人を引き上げているところだ… 」
そう言われた私が、ぼんやりそちらの方に視線を向けると小さな船にタオルでくるまれた見知らぬ少女とやはりタオルでくるまれ横たわるみこの姿があった
私の視線に気付いた公女は
「 真琴、安心しなさい… 海に落ちて直ぐに意識を失ったらしく海水を殆ど飲んでないようです 」
それを聞いてやっと安心した私は、身体中の力が一気に抜けてその場に座り込んでしまった
意識の無いみこが船室に運ばれていき、少女にも着替えて貰う為に船室に入っていくのを私はぼんやり見送っていた
着替えを終えて甲板に出てきた少女の姿を見て、なんとか立ち上がって彼女に礼を言いに近寄った
「 有り難う私は… 真琴、貴女が助けてくれた子の姉です 」
「 いいえ、そんな… 私一人の力ではありませんから… 」
「 私からもお礼を言わせて貰います 」
船室から出てきた公女が、そう少女に声を掛けると驚きの表情を浮かべ
「 み、観月様が私に…? ではあの子、いえあの方は一体… 」
その問い掛けに答えたのは公女で
「 あの娘の名は命、舞の女神の依り代で人は舞姫と呼ぶ娘です 」
「 まさかあの方が… でも、だからこそ精霊様が私の前に現れ力をお貸しくださったんですね… 」
その少女の呟きに
「 精霊? 」
と、思わず聞いてしまった
「 はい、その方は水の精霊の代理人の大海原の精と名乗りました 」
(水の精霊の代理人…)
みこが聞いたらその一言の重大性を知っていたけど残念ながら私にはなにもわからない初めて聞く言葉に過ぎなかった
「そう言えばまだ貴女のお名前を聞いてませんでしたね?」
( そう言えばそうだった… )
「 私は船頭ロンの娘でりんと言います 」
公女の言葉でやっとその事に気付いた情けない私
「 貴女に色々お願いしたい事も有りますがお礼も有りますし…
精霊の巫女の貴女を国王にお引き合わせする事無くお帰り頂いては私がお叱りを受けてしまいます
私を助けると思い王宮迄お付き合い願えませんか? 」
「 私からもお願いします、みこの話を聞いてあげて下さい 」
「 私達の主、観月様の願いをどうかお聞き届け下さるようお願いします 」
「 我々からもお願いします 」
精霊の巫女は困った様に
「 憧れの観月様にお願いと言われてお断りするような娘がいましょうか?
逆に私の様な漁師の娘が国王様の御前出て良いのか不安です 」
その言葉に私は
「 私は司祭の一族の者…その私にとり精霊の巫女の貴女は何者よりも尊き方
その現し身は漁師の娘ですが貴女はもう一国の王その人よりさえ尊き御方なのです 」
「 私が… その様には中々思えませんが観月様が来ても良いと仰って頂けるのなら喜んで御供致します 」
「 そうですか… では、精霊の巫女のりん、私と同行し国王と面会してくさい 」
「 はい、観月様 」
こうして私達は、精霊の巫女様と出会った
いよいよ船は接岸準備に入り上陸準備に入った船内は慌ただしい
船の接岸後に港に着いたリンの両親達は当然詳しい事情を知るわけはない
それでもリンの事を二人の娘だと知る者達のてによって迎えの市民達の最前列に押し出されていた
二人の王子しか得られなかった王家にとり現国王の弟である東の大公家の公女観月は国民にとって王女に等しい存在
故に観月の訪問の際に迎えに集まる市民達は観月に向かいおかえりなさいと声をあげ出迎える
その歓声の中久し振りに訪れた観月の一行の中に自分の娘がいようとはだれが想像できるだろうか?
驚きの表情で娘を見る二人に気付いた観月が二人に駆け寄り
「貴女のお嬢さんのお陰で舞の女神の依り代と言うかけがえのない至宝を失わずに済みました
そのお礼も有りますから今しばらくお嬢さんをお借りする我儘をお許しください」
と、言われこの時点ではまだ状況が呑み込めずにただ目を白黒させ
「観月様にご迷惑おかけするんじゃねえぞ!?」
そう声を掛けるのが精一杯だった
独り善がりです…はい