舞姫   作:匿名コメは手加減って悪口言われるの前提?

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二人を襲う運命が動きだした…


訪ね人

 ①  歌の国

 

 

 王宮に着いた私達は王妃の勧めもあり、身体に染み付いた潮を…

 

 特に海に落ちたみこと、みこを助ける為に海に飛び込んでくれたりんは身体に染み付いた海水を洗い流す必要が有ると私と公女もそう思った

 

 私とみことりんは、この後ダンスパーティーに出ても恥ずかしく無いようなドレスを着せてもらいお互いの顔を見合わせる私とりん

 

 その時だった、みこの叫び声が響き渡ったのは…

 

 と、言っても声の小さいみこの場合それ程の事もないのだが…

 

 そんな事なんかよりも、目を大きく見開いて恐怖にひきつるみこの顔を見守るしかない… その事の方が私には辛く悲しかった

 

 ユカに、優しく抱き締められていたみこが落ち着くには暫くの時間が必要だった

 

 私達が謁見の間に来るのが遅いのを心配して、王妃が部屋に来た

 

 私はその美しく聡明なその女性を見ながら、 ( 確かこのお方はお母様の従姉だ ) と、そう聞いた記憶があると思い出した

 

 「 貴女は咲夜の娘ですね? もう一人はどうしたのですか? 」

 

 そう聞かれ私はみこを指し示すと

 

 「 それはおかしい… 貴女達は双子の筈なのにその子はもう一人の娘より幼く見える 」

 

 「 命は… 妹は物心がつく前から祭司長になる修行する者かのような食事しか摂りませんでしたから…

 

 そう… お父様がぼやくほどに食事を摂りませんし私も野菜や木の実以外を食べているのを見た記憶はありません… 」

 

 憂い顔で言う私を見ながら

 

 「 そうなのですか? 観月… 」

 

 そう聞かれた公女は

 

 「 私もそう食べる方ではありませんがこの娘と居ると私が大喰らいに感じる程です… 」

 

 その言葉に驚いて改めてみこの顔を見て首を振る王妃…

 

 「 現在の祭司長は観月、貴女の死んだ母の従兄弟…

そう考えれば命は貴女の幼い頃に似てなくもない… 」

 

 「 ところで… そちらのお嬢様は? 」

 

 改めてりんのことを聞いてきたけど

 

 「 それについては国王… 後程、叔父様の前でお話し致します

 

 命も大分落ち着いたようですのでそろそろ参りましょう」

 

 そう言っただけで謁見の間に向かった私達

 

 「 大変お待たせ致しまして申し訳御座いません、国王陛下 」

 

 「 詫びよりその見知らぬ3人の娘達の事とお前の予定より早い来訪など…

 

 色々聞かしてもらわねばならぬことがあるはず 」

 

 そう言われた公女は私を指し示すと

 

 「 この者が何者か、それはこの者の顔を見ればご存知の方もいらっしゃる筈…

 

 真琴、立ち上がって皆様にお顔を観ていただきなさい 」

 

 そう公女に言われた私は立ち上がり多くの人にじっと見詰められ何と無く居心地の悪い息苦しさみたいなものを感じていたのだけど

 

 「 咲夜媛… 」

 

 誰か一人が呟くと、それに続いて人々は口々にそう言い始めたので公女は

 

 「 そう、この二人は前の舞姫咲夜媛の娘達です 」

 

 そう紹介されるた命が国王の前に進み出ると、弱々しく微笑みながらお辞儀をすると

 

 それまで緩慢だったみこの動きは、一変して熱く激しい火の精霊への奉納の舞を舞い始めた

 

 私もこの踊りは初めて見るもので、お母様すら習得出来なかった物だ

 

 みこを見る人々の目が穏やかになっていたけどただ一人、目を大きく見開き口元を押さえているりんがいた

 

 私はりんに近寄り

 

 「 大丈夫、あの炎は浄化の炎… あの蒼白き炎が踊り手の恐怖や怒りなどの負の感情を焼き尽くし浄化するのです」

 

 「 では…、舞姫様は平気なのですね? 」

 

 そうりんに聞かれた私は

 

 「 勿論みこに負担が無いわけでは有りません… ですがそれだけに得る物も大きいので多くの舞姫達はこの踊りに挑みましたが…

 

 精霊の巫女ではない舞姫が、あの踊りを習得出来たのは初めてだとお母様に聞きました 」

 

 

 

 

 みこの舞いが終わりになり、人々の拍手の中踊り終えたみこの顔はいつもと違っていた

 

 踊りの余韻から醒めると、人の視線に怯える小動物のように周りを気にしておどおどしているみこが今日は少し様子が違っていた…

 

 いつものように誰かの… 今はユカなのだけど… 背中に隠れてはいるけどチラチラ見えるみこの顔

 

 それは恐怖に怯えるそれではなく注目されているのが恥ずかしくて仕方無い… と、言った風情だった

 

 私はそのみこの変化をどう受け止めるべきかは解らなかったけど、取り敢えず私も自己紹介代わりに豊漁を喜び祝う歌を唄い祭典で唄いたいとお願いした

 

 そして最後のりんに人々の視線が集まり、その素性に興味を掻き立てられていた

 

 「 皆様は私達の入港の際に起こった騒ぎの事をご存知でしょうか? 」

 

 公女が問い掛けると

 

 「 確か… 貴女達の船から落ちた少女を堤防から飛び込んだ少女が救ったと言う話でしたな… 」

 

 「 あの時は大変でした… 小さな命が風に飛ばされパニックになった真琴まで後を追って海に飛び込もうとしましたから… 」

 

 そう言って溜め息を吐く公女と

 

「 本当に… 僕一人では真琴を押さえ切れなかった程だからね 」

 

 と、顔面引っ掻き傷だらけの如月様に言われてしまい私は顔を合わせる事ができなかった… それでも

 

 「 海に沈んでいくみこを見て、私は 『 こんなのは悪い夢だ 』 と、そう思いたかった 」

 

 「 そんな時でした…命が沈んだと思われる辺りに二人の少女の物らしき顔が見えたのは… 」

 

 「 観月様はユミと二人、乗組員達と救命艇で波間に漂う二人の元に向かい二人を引き上げたのですが… 」

 

 ユイの言葉を受け公女は

 

 「 命を助けてくれた少女の下半身は人間のそれではなかったのです 」

 

 「 成る程 」

 

 と、一人呟いて頷く老将が

 

 「 王妃様ならご存知有りませんか? 人魚媛の伝説と精霊の巫女の因果関係を… 」

 

 「 ……!、では… この子は… いえこの方と呼ぶべきでしょうか? 」

 

「 りん、皆様に自己紹介を 」

 

 そう言われた少女は

 

「 私はりん… 水の精霊の代理人、大海原の精を名乗る精霊様の導きにより舞姫様をお助けさせていただいた者です 」

 

 「… 水の精霊の代理人… やはり水の精霊は… 」

そのみこの呟きは余りに小さくて私は聞き逃した

 

 「 りんちゃん有難う… お陰でみこ、生きてる… 」

 

 「 さて、これからの事だけど明日の午前中に評議を開くとして今夜はこの3人の姫達を主賓のパーティーを開こうと思うが…

 

 観月と美月の4人のお嬢さん方も手伝って貰える… と、そう思って良いのかな?」

 

 「 勿論、私もそのつもりで3人にドレスを着せたのですからね 」

 

 公女の咳払いに如月様は私の手を取ると

 

 「 この国では最初と最後のパートナーは女性に選択権が有る

 

 本来ならこう言う事はマナー違反だけど僕達のお母さまである今は亡き大公妃様の尽力によりこの国に定着化したルール「 はい、そこまで… 兄さんはただルールを教えただけ」」

 

 そう如月様にはそれ以上の発言を止めさせておいて私の耳元に口を寄せ

 

 「 聡明な貴女なら兄が何を言いたかったか解りますね? 」

 

 そう言われて、自分でも解るくらいに真っ赤になって頷くと王妃が如月様を見ながら意味深に頷いていた

 

 

 

 

 私とみこ、そしてりんの社交界デビュー

 

 知らない人には到底信じられない話だけれど私も知らなかった事実だからしょうがないのだけど

 

 お父様以外の里の…神殿の幹部達のみこの扱いはまるっきり大道芸人…

 

 いいえ、それ以下の扱いで奉納の踊りが済んだら舞台から放り出されて ( 実際に投げられたわけでは在りません )

 

 薄暗い控え室に置かれた牢屋代わりの箱罠に閉じ込められカチカチのパンとコップ一杯のお水だけを与えられていたそうだ

 

 舞姫のために用意されたご馳走をみこを追い出して自分達だけで食べていたけどあの人達はバカだった

 

 みこがそういったご馳走に手を出さないことすら知ろうとしなかったのだから

 

 お父様やお母様の苦悩に気付きもしないで二人を羨み妬んでいたのだから

 

 如月様のエスコートで会場入り私は例えて言うなら両手一杯の喜びと恥ずかしさを抱えているみたいだった

 

 私のすぐ後を海軍提督のエスコートで慣れない王宮を歩くりんは… さしずめ生まれてはじめて見る華やかな社交界に参加して嬉しい気持ちと戸惑いを抱えていると言った感じだ

 

 でも… 私の前を歩くみこは違っていた

エスコートの申し出を断り保護者同伴と言った感じで歩くみこを見て…

 

 エスコートを断られた男達も苦笑いで諦めた

 

 誰もが皆父親や兄代わりで歩きたいと思った訳ではないからだろう

 

 ?、何だろう… みこが会場内を見回して何かユカに話し掛けている

 

 そのユカに何か言われたみこは驚き落ち着きを無くした

 

 会場に入ると年頃の男の子達の視線が私達3人に集まっているのが解る

 

 国王の挨拶が有り私達3人の紹介して、そしてパートナーを選ぶ時が来た

 

 勿論私は迷うことなく如月様に申し込んだし…

 

 りんは如何にも海の男と言った風貌の提督のご子息に申し込んでいた

 

 でもみこは… パーティーのダンス等踊ったことなどないし

 

 手を繋ぐ以前にまともに話したことなどない、そんなみこにパートナーを選べないどころかこれ以上に無い難題かも知れない

 

 結局、その場で固まって動けないまま女の子からのアプローチタイムは終わってしまった

 

 男の子達からのアプローチタイムが始まりフリーの男の子達がみこの周りに群がり…

 

 みこはますます硬直してしまった

 

溜め息を吐き周りを見回してどちらかと言うと女の子と見間違える顔立ちの男の子に声を掛けた

 

 「 貴方はみこには興味無いのですか? 」

 

 「 僕が興味無いのではなく、舞姫の方が僕に興味が無いのでは?」

 

 少年士官にそう言われた私は

 

 「 そうですね… 多少改善されているとはいえ対人恐怖症…

 

 特に男の方が苦手だったあの子が今どんな気持ちで居るかお解りになりますか? 」

 

 私にそう問われた彼は困惑の表情を浮かべて

 

 「 気持ちが解るとは言いませんが舞姫が泣き出しそうな顔をしているのは解ります

 

 ですが… それなら貴女は僕に一体どうしろと仰るのですか? 」

 

 と、逆にそう聞き返された私は

 

 「 こんな事を申しては失礼かも知れませんが、貴方の様に余り男臭く無い方にダンスの手解きをして欲しいのです 」

 

 そう言われて鼻面にシワを寄せ

 

 「 この僕が舞姫にダンスの手解きを? 笑えない冗談だ 」

 

 鼻で笑う少年士官に

 

 「 冗談… そうですか、冗談ですか…解りました、男の子達には任せられませんから提督様にお願いする事にします… 」

 

 そう言って溜め息を吐いて歩き出そうとしたら

 

 「 入場の際の命様との会話を教えましょうか? 」

 

 私同様にみこを気遣うユカの言葉に私は振り返り

 

 「 聞きたい…さっきから気になってましたから… 」

 

 「 そうですか…命様の言葉通りにお話ししますから一度しか言いませんよ 」

 

 そう念を押し

 

 「 会場内を見回してこう言ったのです…

 

 [ ユカ、みこが踊る舞台は何処? ]

 

 そう言われましたから私はこの会場全てが命様の舞台で、今夜は貴女の手を取り踊りたいと望む殿方と踊るのですよ… 」

 

 ( みこが驚く訳だ… )

 

 「 私にそう言われて目を大きく見開いて

 

 [ みこそう言うのは踊ったこと無いしパパ以外の男の人と手を繋いだ事無いから… ]

 

 と、そう仰って困り顔になってましたよ」

 

 「 それを僕に信じろと? 」

 

 「 別に貴方が信じなくとも構いません、取り敢えず真琴様にお話し出来たのですからね 」

 

 「 提督様は何処に居るのだろうか? 」

 

 私の独り言に

 

 「 ここからでは良く解りませんがもう探す必要はない様ですよ? 」

 

 そう聞いた私は振り返りみこの居る筈の場所を見た

 

 「 いい加減にしたらどうですか? 舞姫様は困ってるんですよ?こんな小さな娘を寄ってたかって… 男として恥ずかしいとは思わないのですか? 」

 

 「 オカマの見習い騎士が何かほざいてるぞっ! 」

 

 「 こらこら、陸軍の准将閣下のご令嬢にそのような失礼な事を言っては良くないぞ 」

 

 爆笑する有力者の子弟達

 

 「 だが…お嬢様も宜しくない

ちゃんとドレスアップして頂ければ誓いを捧げる騎士も居ましょうに…」

 

 げひた笑いで嘲笑され子弟達のリーダーらしき男に掴み掛かろうとするその手をみこが取り

 

 「 貴方様の申し入れ喜んでお受けします 」

 

「くっ…」

 

 そう悔しがるリーダーにみこは

 

 「 山奥から出てきた田舎者にその様なご厚情頂き感謝してます… 長い夜は未だ始まったばかりなのですから次のパートナーに誘って頂ければ私としても嬉しいのですが… 」

 

 ( どういう事だ? 人格が変わった? )

 

 「 初めまして… でも… みこで良かったの? みこはきっと貴方の足を一杯踏んで恥をかかせるよ?

 

 みこは練習したこと無い踊りを人前で踊ったことなどないから自信無いの… 」

 

 「 舞姫なのに? 」

 

 「 貴方もみこが才能だけで舞姫になったって思ってるんだね…

 

 でも、間も無く音楽が始まるからその前に…

 

 みこはパートナーの申し入れの受け取り方も知らないからそこから教えて下さい… 」

 

みこのその言葉に驚きながらも

 

 「 そうですね… 僕もちゃんと申し込みしてないからそこから始めましょう 」

 

 少年がみこの前に膝まづき右手を差し出すと

 

 「 麗しき舞姫の人生初のダンスパーティーのパートナーになる栄誉をお与えください 」

 

 みこの傍に居るユカが囁きを聞いたみこは差し出された手を受け取りその甲にそっと口付けしてハニカミながら

 

 「 みこで良ければ喜んで 」

 

 そう答えて申し込みを受け取った

 

 こうしてみこの生まれて初めての、ダンスパーティーが始まった

 

 一曲目は踊り以前に慣れないハイヒールにおぼつかなかったみこを上手にリードしていた

 

 二曲目はさすがみこって感じで、要領を掴み掛けてる

勿論パートナーの優しいリードがみこを不安がらせず踊りに集中させてるのも大きいのは確かな事

 

 人に合わせることが苦手な娘なのだから…みこは

 

 そして最後の三曲目はなんとか言葉を交わす余裕の出来たみこ

 

 でも… 今のみこを見たら、きっとお父様とお母さまはきっと複雑な顔をするだろうな… 何やら話をしている二人を見守っていた

「 みこ、大事な事を忘れてた… みこ、貴方の名前聞いてない 」

少年が優しく微笑むと

 

 「 ふっ、そうだった… 失礼しました舞姫様、僕の名は剣斗… この国の見習い騎士です 」

 

 そう名乗ると

 

 「 騎士の剣斗様だね? どうぞ宜しくお願いします 」

 

 「 まだ見習いですから… 」

 

 「 気にしなくて良いよ? みこは剣斗様と呼ぶから

それとみこの事を舞姫様と呼ぶのは止めて… みこには

 

 ちゃんと命って言うパパが付けてくれた名前が有るんだから 」

 

 「?、ですが貴女は舞姫なのだから仕方無いでしょう?」

 

 みこの真意がわからず戸惑う少年騎士に構わず

 

 「 ……、終わった…剣斗様、お嫌でなければ又いつか誘ってくださいね 」

 

 寂しそうに微笑みながらそう言って剣斗の手からすり抜けていった

 

 みこはその後もパートナーになった男の子達に舞姫とは呼ばないで欲しいと言い…彼等を勘違いをさせ続けた

 

 

 

 翌日の早朝、みこは私にも黙って旅立った

 

 私達にあてがわれた部屋の窓から飛び出して行ったのだ

 

 りん本人には黙って大海原の精に伝言を残してだ

 

 全く… 心配する私の気も知らないで…

 

 

 韋駄天の舞で、韋駄天の加護を得ている為一陣の風の様に走るみこ

 

 素顔をフードで半分以上隠していたってただ者ではないのは一目瞭然で… 当然の事ながら善からぬ者達に目を付けられた

 

 闇の者達には警戒してても、そうで無い者が自分を襲ってくるなど夢にも思って無いみこ…

 

 その様子に山賊達は舌舐めずりをしてみこの値踏みしていた

 

 「 なぁ、男か女かどっちだと思う? 」

 

 「 さあな… だがあの口許見りゃかなりの美形なのだから好きな奴ならどっちでも構わねぇだろ? 」

 

 「 違いねぇ、もうじき人里出ちまうからやるなら急いだ方良い 」

 

 そう言うと男一人がみこに向け矢を放った…

 

 矢はみこのフードを貫き、その突き刺さった矢の勢いで地面に押し倒され縫い付けられてしまった

 

 「 馬鹿野郎っ!死んじまったら元も子も無ぇだろうっ! 」

 

 一味の頭らしい男が矢を放った男どやしつけながらみこに近寄った

 

 倒れた時の衝撃で意識を失ったみこが起き上がれずにいるのを見て、突き刺さった矢を地面から抜き取ってみこを抱き上げた頭目

 

 すると、フードに隠されていたみこの顔がフードがずれて山賊達の目に晒され

 

 「 何だガキじゃねえか? 」

 

 「 だが、どっかのお姫様って言われたら信じちまう様な顔立ちだぜ? 」

 

 「 子供の居ない貴族ならかなりの礼金を弾んでくれるこったろうな 」

 

 ドサドサ… っと何かが倒れる音がした

 

 みこを抱えていた頭以外の山賊が倒されたのだ

 

 「 首を跳ねられたくないならその子を地面に下ろせ

いつまでもその薄汚い手で触ってるんじゃないっ!」

 

 そう威圧的に命じられて、そっとみこの身体をそっと地面に寝かせると鈍い衝撃を受けた山賊は声もたてずに崩れ落ちた

 

 『 やれやれ… 』

 

 と、言ってみこの身体をひょいっと担ぎ上げると馬に跨がり歩かせ始めた

 

 綺麗な水を湛えた泉の畔に着くと、みこの身体をそっと横たえて…

 

 懐から取り出したタオルを水に浸して、転んだ時に汚れた顔を綺麗にし唇の端にこびりついた血の塊を洗い流した

 

 泉の水を手にすくい取ると、そっとみこの口に注ぎ込み喉が小さく動き水を飲み込むのを見て一息ついた

 

 暫くしてみこが目を覚ますとその人は

 

 「 大丈夫か? どんな理由が有るにせよ自分の身も守れぬようなお前が山道に踏み込むのは死にに行く様なものだぞ?」

 

 キツいその言われようもきにしないで

 

「 助けてくれて有難う… 親切で言ってくれるのもわかる… でも… みこはみこがしなければならない事をしに行く、使命を果たすだけなのだから… 」

 

 みこのその答えに溜め息を吐きつつ

 

 「 誰か頼れる大人は居ないのか? 」

 

 「 みこにそんなお願いが出来る知り合いは居ないし誰に頼れば良いのかもわからない 」

 

 女剣士の問い掛けに対し、みこは国王や王妃が聞いたらがっかりするような事をサラッと言った

 

 「 しょうがない… ならば、私がそこまで送ってやろう 」

そう言われて相手の顔をじっと見詰めて…

 

 「 その申し出は嬉しいけどこれ以上みこに関わらない方が良い、ろくな目には合わないのだから 」

 

 

 悲観主義のみこの言葉に

 

 「 さっきから聞いてれば、物事を悲観的事ばかり言ってるけどもう少し明るい展望は持てないのか? 」

 

 そう言われたみこは悲しみに沈む表情をうかべ

 

 「 無理… これでもみこなりに色々頑張って運命変える努力をしてきた… でも変わる度により陰惨な未来に変わっていくのに…

 

 でも… ここで取り敢えず出来る事を済ませれば何か変わるかも? ( いえ、変わって欲しい )」

 

 そう思い願うみこになにかを感じたらしい女剣士が

 

 「 私に手伝える事は? 」

 

 「 何もないけど興味有るなら見てても構わない 」

 

 そう言って旅装のマントを畳み、様々な装飾品を身に付けるとおもむろに立ち上がると水の精霊の奉納の踊りを始めた

 

 ( さすが泉の精が眠る泉、いつもより楽に霊気が集まる… )

 

 勿論霊力には縁の無い傍観者には何も感じるはずもないのだが、みこの踊りによっていずみむ水の精霊の結界が張られていた

 

さすがにこの段階になると霊気がみなぎる神聖な空気に変化した事に気が付いた

 

 目覚めはしたものの、まだまだ本調子には程遠い泉の精が霊力を取り戻す為に今の奉納の踊りで集めた水の精霊の霊気が込められた霊玉を渡し立ち去った

 

 

 

 その事実に気が付いた女戦士は慌て後を追い掛けたが程無く木の洞で踞るみこを見付けた

 

 「 何故貴女は私を信用しないのだ? 」

 

 「 別に信用してない訳じゃない、信用してなかったら踊りを奉納する時に立ち合わせはしない

 

 護衛の騎士から離れる踊りの最中はみこのように精霊の巫女ではない踊り手にとってもっとも無防備な時なのだから 」

 

 「 なら何故? 」

 

 「 これ以上みこの運命に巻き込まないため、だからもう放っておいて… お願いだからっ! 」

 

 みこが堪らずに叫び声を上げた…

 

 「 そうはいかない… 我が名は風歌、貴女の盾となる騎士になりたいゆえどうか我が誓いをお受け取り下さいっ! 」

 

 そう言って騎士の誓いを捧げる風歌に

 

 「 それはいけないよそんなみこには資格はないし貴女が命を投げ出す値打ちもないのだからね? でも…貴女のみこを守りたいって思うみこの価値って何?」

 

 今にも泣き出しそうな顔で聞くみこに

 

 「 さぁ… 何だろうか?少なくともその問で貴女を満足させる 答えを言う自信はない… 強いて理由を言うのなら泣いている貴女を放っておけない… からかな? 」

 

 「 みこは泣いてない… 」

 

 「 そうだな… 確かに涙は流してない、が… 私の目には、貴女は唇を噛み締めて泣いている子供にしか見えない 」

 

 それまで堪えていた涙が溢れ落ち

 

 「 …有難う… 」

 

 震える声でそう一言だけ言い誓いを受け入れた

 

 「 早速だけど山をふたつ越えた先にある神殿の廃墟に連れて行って欲しい 」

 

 「 身体の方は? 」

 

 「 もう大丈夫…と言いたいけど歩かないなら回復するから問題ない 」

 

 みこは風歌の手を借り馬上の人となると身体を休めることだけ考えていた

 

 二人は途中の町で2泊して3日目の昼前くらいに廃墟にたどり着いた

 

 地の霊玉を四方に配置して、四大精霊の結界を張る助力とする準備をして…

 

 豪快に食事を摂る風歌をじっと見詰めて微笑んでいるみこの視線に気付いた風歌は

 

 「 何がそんなにおかしいのだ? みこ… 」

 

 「 風歌は本当に美味しそうに食べるんだね? 」

 

 そう言われてふって笑うと

 

 「 みこもしっかり食えばその楽しさが解るって 」

 

 そう言われて曖昧に笑うみこに

 

 「 ちゃんと食べないから大きくなれないんだぞ? 」

 

 重ねて注意する風歌に

 

 「 幼い頃はね… 大きくならなければ不幸な未来の訪れも遅くなるって信じてたんだ… 」

 

 「 今は? 」

 

 悪びれることなく舌をだして笑って言うみこに風歌が聞き返すと

 

 「 多分肉や魚介類を食べず祈りと踊りの稽古だけで生きてきたみこは… そう、神殿で神に使える巫女と同じだから女神の依り代になれたのだと思う 」

 

 そう遠い目で語るみこに

 

 「 私には肉や魚を食べないなんて考えられんな… 」

 

 苦笑いを浮かべる風歌に

 

 「 うん、みこも別に人が食べるの迄駄目なんて言わないよっ♪ それに多分そうは見えないだろうけどお魚… ちゃんと捌けるんだよ?

 

 ママのお手伝いで良くやってたから簡単なお料理なら作れるんだよ? 」

 

 「 じゃあ… いつかみこに刺身作ってもらって良いか? 」

 

 「 えへへ… みこの大事な騎士様のお願いなら頑張るよっ♪でも… みこ川魚しか捌いた事ないから余りお大きい魚は不安かも? 」

 

 「 まぁそん時はおろすのを手伝うさ 」

 

 「 うん、そうだね… コツが掴めたらわりかし器用な方だし踊りだけじゃなくって山歩きでそれなりに鍛えて有るからね、崖をよじ登ったりとかしてたから

 

 でも、みこはそろそろ踊りを始めるから日が沈む迄はのんびりしてて良いからね

 

 後、どれだけ踊り続けたら良いのか解らないからみこに遠慮しないでごはん食べてね

 

 今のみこには風歌しか頼れる人は居ないのに、その風歌がお腹空いて力が出ないじゃ困るよね?」

 

 「 了解だ、みこの為にいつでも全力で戦える様にしておく 」

 

 そう答えあまり健全とは思わないがその様に神殿の巫女や歌姫、舞媛達が夜を徹して歌い踊り続けるのは然程珍しくはなく

 

 『 舞の女神の女神の依り代となるべく生を浮け、厳しい修行は勿論の事… 常日頃から自らを律し依り代となってからは依り代たるみこが踊りで人々を導くのは当然の義務として育ってきた 』

 

 そう言われてしまえばそれを止められる者はなく ( 表向きは ) 、下手に止めればその大願成就はすることなく終わるのだから止めるはずもない

 

 

 

 みこが地の精霊への奉納の踊りを踊り始めてからどの位の時間がたったのだろうか? 踊り始めて二度目の朝が近付く頃みこの踊りは豊作祈願の踊りへと代わり…

 

 夜の闇が白み始める頃になってやっと目当ての女神が目覚を覚ました

 

 「 風歌、みこの身体に触れて 」

 

 『 何だろうと 』

 

 と、そう 思いながらみこの肩に手を置くとそこに女神が佇んでいた

 

 「 みこ… この御方は? 」

 

 風歌のその問に

 

 ― 私はかつてこの地に豊かな実りをたらしていた者で人は私達の事を豊穣の女神… そう呼んでいた者です ―

 

 「 女神様、私は舞の女神の依り代の命と申します

女神様にはお休みのところ大変恐縮なのですが… 」

 

 ― 余り恐縮している様には見えませんが? ―

 

 「 女神様にはこんな幼子にそんなことまで望むのは酷では有りませんか? 」

― そなたは? ―

 

 「 私は縁有って命様に誓いを立て騎士となった風歌と申します 」

 

 ― 舞姫よ、貴女は部下に恵まれましたね ―

 

 「 みこは風歌を部下とは思ってません、風歌はみこを守りみこが使命を果たすのを手伝ってくれる大切な騎士様なのだから… 」

 

 ― ならば風歌、貴女に問います

 

 舞姫は貴女にとりどのような存在ですか? ―

「 私にとってみこは危なかしくって目の離せない妹みたいな… 多分みこの姉もそう思っているのでしょうね… 」

 

 ―そうですか… で、舞姫は私に何をさせたいのですか? ー

 

そう豊穣の女神に問われたみこは

 

 「 豊穣の女神の貴女にお願いする事はただひとつ

この国に豊かな実りをもたらして欲しい だけです 」

 

 そう答えると

 

 ― 何故この国の者ではない貴女が? ―

 

 そう更に問われて

 

 「 そんな事を言ったら国を持たないみこ達を助けてくれる人は居なくなる…

 

 それに… 闇の者達も国と言う枠組みに関係無く襲ってくるのに… 」

 

 ― そう考えられないのが人間の愚かさのひとつと言えるでしょうね ―

 

 「 だからみこは… 人々にお願いするには、まずみこ自身が率先して行動で示すしかないんだよ? 」

 

 ― それで命を落とすかも知れなくても? ―

 

 「 みこは未だその時じゃ無い、だから余り心配してないけど… それでも予定外を恐れていたら何も出来ないでしょ? 」

 

 そうみこが答えると

 

 ― 解りました、この時代の私の依り代は今王宮に居るからその者の元に連れて行って下さい

 

 それまでの間、舞姫の中の舞の女神の結界内で休むことにしますが宜しいですね?―

 

 そう問われたみこは

 

 「 はい、御心のままに… 」

 

 そう答えて、豊穣の女神を受け入れました

 

 そして、女神を受け入れて力尽きたみこの身体を受け止めた風歌はみこを連れて3日掛かりで王宮に戻って来たのです

 

 

 

 

 

 ②  帰還

 

 

 王宮の側まで来ていても、やはり当然の事ながら私に顔を合わせ難いみこには中々王宮に近付くことが出来ないでいた

 

 だから私は 『 王宮の付近を彷徨く、不審者達が居ます 』 と、言う報告を聞いて ( それは間違いなくみこに違いない ) と思いその不審者の詰問に向かう兵士達に同行をする事を国王に願い出た

 

 「 おい、お前達ここで一体何をしている? 」

 

 大柄の戦士風の女性が小柄な相棒の顔を見て抱き上げ隙を伺っているのを見た私は

 

 「 みこ、何故素直に帰って来ないの? 私はもう怒って無いのだから顔を見せなさい 」

 

 私の声に一瞬ビックっと震え

 

 「 嘘だ… まこちゃんの声、スッゴく怒ってる… 」

 

 「 これは黙って出て行ったことにではなく素直に帰って来て謝らない事にです 」

 

 黙り込んだみこに構わず風歌に

 

 「 みこがお世話なったお礼やお聞きしたい事も沢山有りますが、まずは国王様の所までご同行願えませんでしょうか? みこの返事を待ってたら一行に埒があきませんから… 」

 

 そう言った私の言葉に女剣士が頷き

 

 「 そうですね、私は早く戻ってお姉さんを安心させてあげてはと何度も言ったのですが… 」

 

 と、そう言ってくれた女騎士とみこ改めてを見て

 

 「 そうですか、なら話は早い… 貴女がみこを連れて王宮に入ってください、えっと… 」

 

 それまで目深に被っていたフードを外し

 

 「 私は風歌、命様に騎士の誓いを捧げ恐れ多くもみこと呼ぶ事を許されているものです

 

 ですので、まこ様もみこ様同様に私の事を風歌とお呼び下さい 」

 

 「 … 」

 

 返事に困っている私に風歌は苦笑いしながら

 

 「 初対面の者にいきなり真琴様ではなくまこ様と呼ばれたくは有りませんよね

 

 申し訳ありませんでした… つい二人だけで話している時の癖で馴れ馴れしい呼び方をしてしまいました 」

 

 と、頭を下げる風歌に私は

 

 「 そんな事気にしなくて良いです… そうして貴女に身を委ねてるみこを見れば、貴女が信頼するに足る方なのは一目瞭然ですが私が驚いているのは人見知りの激しいみこがそうして貴女に身を委ねていると言う事実にです 」

 




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