舞姫 作:匿名コメは手加減って悪口言われるの前提?
① 歌の国
この世界において、国々の正式名称は忘れ去られて久しく勿論歌の国も通称にすぎない
ただ… この国場合、歌の女神の崇拝はどんな王家による支配になろうとも絶える事の無い…
絶やす事の許されない、そんなこの国はいつの頃からだろうか…
歌の国と呼ばれ、年に一度行われる女神の祭典は不可侵の物とされる様になったのは…
この祭典だけは例え他国からの侵略者と言えども例外なく何人たりとも妨げる事は許されない
ましてや、その日一日は争ってはいけないとされ例え些細な兄弟喧嘩であってもそれ相応のその報いを受ける事になるのは古からの教え…
歴史が如実に証明している事であるが故に、歌の女神に愛されしこの地は歌の国と呼ばれてきた
古い王家が倒され、新しい国家が打ち立てられようともその名を捨てた王家は早晩に打ち倒される事により歌の国と言う名だけは脈々と受け継がれていった
そして明日は、その女神の祭典の歌比べの日で今年は開催日間近に思わぬ超新星の出現により大きな話題になっていた
最初は、人魚姫であり水の精霊の巫女の出現に沸いた歌の国
公女観月が、先代舞姫である咲夜の娘達を伴い入国し妹は希に見る踊り手と讃えられていた母をも凌ぐ天才らしいとの噂の主
そして、その姉は久し振りに司祭の里の許し得て出場する司祭里の乙女だった
司祭の里は歌姫、舞姫の称号を得た者以外の女子が里を出る事を固く禁じ一切の例外も認めずに許され無い為幼くして既に舞姫と呼ばれ
他国からも注目されていた妹と違い… 今回、初めて里を出る事によりその存在を知られた真琴は未だ称号を得たばかりなのだろう
だが… そうであったとしてさえ最年少での出場者ではあっても既に優勝候補の一人となっている
その結果… 生涯に唯一度しか出場が許されない祭典であるが故に、今年の出場を辞退した者も少なく無いとの噂も流れている程だった
だが… その肝心の噂の主である、歌姫の真琴本人はと言うと…
あの日の夜、命が姿を消して数日が過ぎ祭典まで残り僅になったがその行方は全く掴めて居なかった…
如月様や公女は
「 大丈夫、きっとみこは独りで女神の封じられている場所を探しているのだろう 」
「 だから真琴は今、真琴がすべき事をしなさい 」
と言う理屈は解るけどあの成り行きで、一人出ていって何が出来ると言うのだろうか?
いえ、それ以前に無事で居るのかも解らないのに忘れて歌の練習に集中なんか出来るはずがない
そんなある日の事、水の精霊の奉納の踊りを稽古していたりんが
「 真琴様… この国どこかもう一ヵ所から奉納の踊りによる霊気の高まりを感じます 」
そう私に告げてきた
「 それがみこなら嬉しいのだけれど… 」
私が悲しみを隠すことなくそう言うと
「 私も確証が持てませんから… 一体どなたに相談したら良いのかすらわかりりません 」
と、心細げにつぶやくりんだけどそんな私達の会話をたまたま国王陛下に所用の凍夜が聞いていて
「 それは当然俺達二人に相談すべき事だろう? 」
一人の男がそう言いながら私達に近付きもう一人の男と入ってきた事に気付いて
「 凍夜様… 」
「 剣斗准騎士様… お気持ちは嬉しいのですがこの様な不確かな情報で貴殿方にお願いは出来ません 」
そう自信なさげに言うりんに
「 何故? 精霊の巫女の貴女の進言を軽んずる者は居ますまい 」
「 ましてや何の手掛かりもない現状では貴女のお言葉にすがる他は有りません 」
「 さぁ、水の精霊の巫女のりん様… 私達をお導き下さい、私達の舞姫の元へ 」
みこを想い、精霊の巫女のりんを敬う二人の男達が私達の前に膝まづくと自信無さげに私を見るりんに公女は
「 貴女を導く精霊様を… 精霊の導きを受ける自分自身も信じなさい 」
りんは私の顔を一度見て俯くと暫く考え込み
「 自信は有りませんが… 意識して霊気の高まりの位置を探ってみますから暫くお待ちください 」
そう言って再び奉納の踊りを舞い始めた
それを見た凍夜は、王都近辺の地図を持って来る様ユカに指示して暫く待つことになり…
どれ位の時間、りんが舞続けたのかわからない…
ようやく舞い終えたりんは、ユカに地図を示されると目を瞑り指をさ迷わせ… そして、さ迷わせた指がピタリと止まり
「 ここに有る洞窟中から霊気の高まりを感じます 」
それだけ告げると緊張感の解けたりんの身体が崩れ落ちた
「 りんを休ませて 」
公女はユカに指示し、私に向かい
「 どうやら命は、女神の封じられた場所を特定したようですね 」
と、言い切る公女に私は
「 観月様、何故そうと言い切れるのですか? 」
と、私は疑問を素直にぶつけてみた
「 真琴… 貴女はりんの話をちゃんと聞いてましたか? 」
逆に、呆れ顔でそう言われてしまったから仕方無く
「 すいません、聞いてませんでした… 」
情けないとは思うけど誤魔化しても仕方無いから正直に答えたら溜め息を吐き
「 命が心配なのは解りますが、どうやら居場所は特定されたようです
命の動きが止まり霊気を高める程の踊りを舞っている言う事はすなわち、女神様が封印された場所を見つけ結界を張っているのだとは思いませんか? 」
と改めて公女に指摘された私は
「 確かにその可能性は高いと思いますが… 私はそこには連れて行っては貰えないのでしょうね… 」
そう言わずにはいられなかったけど行きたいと言ったところで無理なことは解っていたのだからせめてその思いだけは口にした
「 その通りです…明日の歌の女神の祭典までに行って帰ってこれる距離では有りませんからね 」
勿論そんな事は薄々解っていたのだけど、ただ単に認めたくなかっただけなのだから…
「 みこも私が祭典に出ないで迎えに行けば二度と私には会ってはくれませんでしょうからね… 」
そう言って溜め息を吐き立ち上がった
「 ま… 真琴!? 」
驚きの声を上げた公女に私は
「 歌って来ます… いよいよ明日が祭典の本番なのだから… 」
今はみこの使命に対する執念を信じるしかない… そう思って自分を納得させるしか今の私にできる事はないのだから
② 女神の祭典
やっとの思いで見つけ出したみこを見た凍夜と剣斗の二人だけど、は目を背けたい程に変わり果てた命を見詰めていた
あの、長く艶やかな黒髪は艶を失い短く切り揃えられていた
もっとも戦士の風歌が髪切り鋏ではなく、ナイフで切ったのだから切り揃えてと言う表現は正しくない
勿論、それは風歌のせいばかりではない
青磁の様に艶やかな、シミひとつ無い白かった肌には幾条もの無情な爪痕が残り右目も包帯で覆われていた
( 命… )
恐らくは… 服に隠れている所にも多くの傷痕が有るのは想像に難くない
ただひたすらに、歌の女神が封印されているらしき祠の前で踊り続けるみこ…
意識が有るのか無いのか、それすらわからないままに踊り続けるみこは残念ながら凍夜達に全く気付いてはいなかった
その為に風歌はみこの護衛を剣斗准騎士に頼み、一団から少し離れて凍夜に命と再会してから今までの事をかい摘まんで話した
不安気な視線で自分達をチラチラ見る剣斗には自分の口からは話す自信の無い風歌はまず凍夜に話し…
凍夜の口から、剣斗を初めとする騎士団の面々に話して貰うことにしたのだ
風歌自身、折れた左腕をだらりと垂れさせている状態の癖に命を守れず傷だらけの姿にさせてしまった事をしきりに詫びていた
「 もう良い、話は解ったから風歌は手当てを受けて少し休め 」
その凍夜の勧めにも風歌それを由とせず首を横に振り
「 主人の命様が未だ踊られているのに、従者の私が休む訳にはいきません… 」
と、言って頑なにみこの側を離れるのを… 目を離すのを拒んでいた
「 ならばせめて傷の手当てだけはして貰え、恐らくは明日祭典の最中に態勢を整えた奴等が再び襲ってくるはず
ならば、こちらもそれまでに出来るだけ回復しておくべきだろう? 」
凍夜にそう諭されて
「 確かにそうですね… 敵は未だ余力を残しての撤退したのだから明日に合わせて増援を待っていると見るべきなのでしょうね… 」
そう言ってようやく怪我の治療を受ける事を受け入れる気になり、その治療を終える頃ようやく4大精霊への奉納の踊りによる結界が完成し踊るのを止めた… と言うより力尽きて完全に意識も失ったみこの身体は崩れ落ちようとしていた…
「 命の手当ても頼む 」
そのみこの身体を抱き止め、その為に連れて来たと言っても過言ではないユカに治療を頼み
それまでは気力で意識を保っていた風歌も、その様子を見て安心すると気を失った
( さて… この状況をどう報告すれば良いのやら… )
勿論本来なら有りの侭に報告すべきなのだろうが、祭典で優勝目指す真琴の耳に入れて良い状態ではない位誰の目にも明らかだった
だからと言って国王や王妃、ましてや公女の観月には本当の事を報告しておかなければ後々煩いことになるのは火を見るより明らかなこと…
「 仕方無い、使者を二人立てて一人は真っ直ぐに命の身柄を無事確保出来たと報告させて…
もう一人は王都の近くで待機させ、祭典が始まってから詳しい事を公女に報告させるしかなかろう 」
ユカとユウとの話し合いでの凍夜の発言だ
「 確か美月のスタッフのユウ、と言ったな?
護衛を付けるから祭典が始まる迄、前市長の未亡人が一人で暮らす屋敷に潜んでいてくれないか? 」
そう、凍夜に言われて
「 フンッ! 」
と、小さく鼻を鳴らし
「 私だって命様から離れたく無いのに忌々しい… 私に観月様への第二の使者を務めろと、凍夜様は仰るわけですね?」
変わらぬ表情で薄く笑う凍夜は
「 さすが美月のスタッフだな… 察しが良い、お陰で話が早くて助かる 」
ユウは小さく溜め息を吐き
「 こんな時にそんな事を言われても私はちっとも嬉しくなんか有りませんっ!
と、言いたい所ですが… 残念ながら命様は私ではなく我が友のユカを慕ってますからね… 本当に残念な事ですけど… 」
そう言ったユウの顔は本当に寂しそうで…
みこを膝枕させながら、手当てを受けて休んでいる風歌を見守るユカを見ながら… そっと呟くユウだった
王宮にて
「 凍夜様の報告は舞姫様を発見、無事に保護下の元で歌の女神封印を解いて頂くとの事
尚、闇の者は舞姫様の目論みに気付いた節が有る故祭典会場の警備を強化の必要有りとの事です 」
報告を終えた騎士が退出しようとするのを見た私は慌てて
「 みこは… 命の様子を教えては頂けませんか? 」
と、伝令の騎士に聞いたけど騎士のが答えは
「 私は後詰めでしたから舞姫様には直接お会いして居りませんが、凍夜様から特に怪我等が有るとは伺ってませんから大丈夫かと思いますが? 」
そう聞いて私はホッとしたけど王妃と公女の顔が一瞬曇ったことに気が付けなかった
「 真琴、明日の舞台で貴女を飾るアクセサリーを選びなさい 」
そう言われたが私が持っているアクセサリーは…
この6色の宝石達を埋め込んだヘキサグラムを象ったネックレスだけなんだけどな…
と、それを手に取って公女を見ると
「 ユミ、持ってきた宝石等で真琴に似合う物を明日持って行けるように支度なさい
水の精霊の巫女であるりんも何の装飾品も着けさせずに公式の場に出させる等と…
その様にりんに恥を掻かせるような真似は出来ませんし…
ましてやりんは来賓として正式にお招きしているのですからね
似合う物を見繕ってこちらも持って出掛けられる様に支度しなさい、それらの手配を貴女に任せて宜しいですね?」
と、そう言われたユミが頷き私とりんに向かい
「 真琴様、りん様、お聞きの通りですので私について来てください 」
幾つかの宝石や貴金属を着けて貰った私とりんが公女の前に戻ると
「 それらは私からのプレゼントですから貰って下さいね
ユミ… 貴女も二つ好きな物を選び、明日着けて出ると良いでしょう
ユウとユカは戻ってから渡してあげなさいね 」
そうユミに言うと
「 有り難う御座います、それはそうとそろそろお茶の支度は如何致しましょうか? 」
「 お願いします 」
それだけ言葉を交わすと
「 承知しました 」
と、言ってユミは部屋を出て行った
「 真琴とりんははお茶を飲んだら今夜は早目に休むのですよ? 明日の為に 」
そう私とりんに言って穏やかに微笑む公女だった
そして夜が明け祭典の当日、みこにとっては歌の女神救出のための決戦の時が来た
日の出前から、祠の前で水の精霊の破邪の舞をひたすらに舞うみこの頬には既に珠のような汗が流れ落ちていた
「 ユカに風歌、お前達は命から片時も目を離すな 」
ユカは黙って頷いたけど、何かを言い掛けた風歌には
今は踊りの破邪の霊力が結界の強化に向かっているようだが…
直に、女神を封じる邪悪な封印に向けるだろう
その瞬間から恐らく結界の力は今より弱まるが俺達にはそれがわからんが風歌、お前はどうだ? 」
「 …感じ取る位ならば… 」
そう答える風花に頷きながら
「 俺達にはそれすら出来ないからその時を教えてくれないか?
その後は、敵の一番の標的になるだろう命の護衛を頼むしユカも無理のない範囲で頼むぞ
俺もだが、多分命を守る為の戦いではあっても直ぐ側で守れるとは限らない
お前達二人が命を… 女神の封印を解く舞姫守る最後の砦だと言う事を忘れるなっ! 」
息を呑み頷く二人に笑いながら
「 未だ今頃は国王が祭典の開会を宣言する挨拶をしている位だろうから…
そうだなユカ、お茶を淹れてくれないか? 今のうちだけだからな… このように落ち着いていられるのは
もう暫くしたら、そんなゆとりも無くなるんだろうからな… 」
緊張の余り、血の気を失っているユカを気遣いそう声を掛けた凍夜
勿論、その気遣いに気付けないユカではなく顔色は仕方無いが血が滲み出そうな位にキツく噛み締めていた唇を開き
「 今からこんなに緊張していては、肝心な時に命様をお守り出来ませんね… 」
と、そう言って苦笑いしながらお茶の支度を始めたユカ
荒い呼吸を繰り返しながら力無く倒れこむみことその身体を受け止める風歌
お茶を淹れて人数分置くと剣斗にヤカンを持って貰い洞窟の外の騎士団の騎士達にもお茶の休憩をして貰うユカ
戦いの前ではあっても、のんびりと過ごした一時だった
祭典は前半の出場選手が全員歌い終え休憩の時間となった
「 さぁ、真琴様支度を始めましょう… 」
ユミに促されて支度に向かう私は、視線に気付いて振り返ったが勿論誰も居ない
立ち止まりいぶかしむ私に気付いて、振り返って話し掛けてきた
「 真琴様… 如何致しましたか? 」
「 視線を… みこの視線を感じたような気がしたのだけど… 」
私は自嘲気味に笑いながら
「 どうかしてますよね? みこがこの場に居る筈がないのに…私、変ですよね? 」
と、ユミに聞いたがユミは
「 それだけ真琴様が命様の事を心配されてる証しだと思いますよ? さぁ、お支度を始めませんとね… 」
そう言って、ユミは私を更衣室へと導いた
こっそりユミを呼び出し、裏口から来賓の控え室に居る観月の元に案内されたユウ
「 命の状態は… 真琴には未だ知らせられない、そう凍夜が判断するような状態なのですね… 」
「 はい… 心を乱してしまい、歌どころでは無くなってしまうと凍夜様が心配されまして…… 」
ユウが声を振り絞り公女に報告した
「 解りました… 貴女もこの会場で真琴の歌を聞いてなさい 」
とだけユウに告げ、貴賓室に戻った
今年の出場者の平均年齢は高い… と、言うか例年なら予選通過が難しい娘でも出場者の減少で通過出来た
真琴の出場で辞退したのは来年以降もチャンスの有る20歳以下の娘達
司祭の里から来た少女が出る以上、勝ち目は無いのだから… と、言って見送ったのだ
そのお陰で、毎年予選通過当確ラインで涙を呑む娘でも本選出場を果たした
勿論、そんな彼女達は優勝等目指していない
それ程の才能に恵まれて無い、そんな事位自覚している
だが巡り合わせの妙とでも言うのか? 今年はかなりの辞退者が予想されるから当確ラインは低いと噂され
今年が最後の数え年で二十歳の娘達がこぞって出場したのだ
そう… いつもなら本選出場も難しいと諦めている娘達が数多く出場した
だから今年は、例年とは違う盛り上がり方を見せていた女神の祭典
多くの娘と、その親達は既に優勝等端からあり得ない話で如何に晴れ舞台を飾れるか… と、しか考えていない
故に今年は優勝… 女神の神子を目指す者はほぼ居ない状態で、上位の神子に支える巫女を目指すか本選出場で満足する者かのどちらかだった
そして迎えた真琴の出番…
第一声から、他の出場者とのレベルの違いをまざまざと見せ付けた真琴の歌声を聞いて会場で見守る乙女達の安堵の溜め息が会場のあちこちから聞こえた
皆、一様に思ったのが
( 私達が競える様なレベルの方じゃない… やはり今年は回避して来年にして正解だった )
と、消極的ではあるが間違いではないのかも知れない
真琴の歌が司祭の一族の巫女としての霊気を高め…
その高まった霊気は歌の女神が封印されている洞窟の有る方向へと向かっていった
予測通りに体勢を整えた闇の攻撃が再開されたが、それほど強い訳では無く今回は風歌一人でみこを守って居る訳ではない
無論、個々が大して強く無いとは言うものの圧倒的な数で襲ってくる敵にこちらも無傷と言う訳にはいかず硬直状態に陥った
その状態を打ち破ったのがみこだった
( まこちゃん… )
みこの踊りが一段と熱を帯び、歌の女神の復活を望む舞の女神の助力により神力にも等しい霊力を封印にぶつけた
そして、更に舞い続けるみこの集める霊気に私から送られた霊気は歌の女神を優しく包み込みんだ
私達の霊気がついに邪悪な霊気を打ち破り、破られた封印から現れた歌の女神は初めは胎児の様に身体を丸めていたけど…
私達の霊気を取り込み、その力を僅かではあるが回復してぼんやりしているみこに語り掛けた
― 私は歌の女神… 貴女達のお陰でやっと解放されたことを感謝します
私はこれより歌姫にして、我が依り代となるべき乙女の元に参りますが…貴女はその傷を癒してきなさい、よろしいですね? ―
「 でも一体どうすれば… 」
女神様の言い付けに口答えするみこに
貴女の騎士に、案内して貰いなさい彼女が知ってますからね
それに彼女も傷を癒す必要が有りますが… それはわかりますね
では、後日再会致しましょう―
そう言うと女神様はみこの前から飛び去りその女神の後ろ姿を見送った凍夜は
「 正騎士竜兵と准騎士剣斗は二個小隊を率いて舞姫の護衛を任せ、風歌は舞姫を湯治場に案内せよっ! なお、王室への報告は私がしておくのでそちらは俺に任せてもらえば良い 」
その凍夜の命令に
「 凍夜様は同行なさらなくても… 」
と、言い掛けた剣斗を睨み付け
「 立場と言うものが有る… 王都を守る治安局局長たる俺が何日も王都を開ける訳にはゆかぬ
勿論、俺だって本音を言えばついては行きたいのは山々だが… まあ報告やら何やらを片付けたら休暇を兼ねてご機嫌伺い出来るように頑張るさ 」
そしてニヤリと笑い
「 ユカ、舞姫の世話と剣斗が抜け駆けをせぬよう見張りを頼んで良いか? 」
その依頼にやはり意地悪く微笑みながらユカが
「 勿論、 『 命に悪い虫が着かないよう周囲の目配りを頼みますよ 』 そう、観月様から仰せつかってますから凍夜様から改めて言われる程の事ではありませんからご心配無く 」
と、宣言すると
「 悪い虫って、そんな… 」
そう情けない声で呟く剣斗に構わず
「 もっとも、それは凍夜様に対しても言える事ですけどねっ! 」
と、矛先は凍夜にも向いたが剣斗と違い一向に気にせず
「 口煩い小姑殿の懐柔が先決と言う訳か… 」
と言っておどけて見せる凍夜だった
馬車にみこ、ユカ、風歌を乗せ4人の歩兵が同乗し護衛の任に着き…
騎士、准騎士が各々の馬に乗り残る二人が馭者と控えの席に座って馬車を走らせるとそれを見送った凍夜は取り敢えず帰り仕度をさせ王都を目指す事にした
時は少し遡り…
真琴の歌が、クライマックスを迎えようとしているところに歌の女神は現れた
女神は真琴の歌声に合わせ歌うとざわついていた会場は一瞬で静まり返り… その歌声に聞き入った
真琴の歌が終わると…
静まり返っていた会場は、割れんばかりの拍手がその静寂を破った
― 司祭の血を引く歌姫よ、私は貴女を依り代として選び、貴女を求めます… 貴女は私の求めに応じ、私を受け入れてくれますか? ー
そう聞かれた私は、震えていることも自分が涙を流していることも気付いていなかった…
「 私もみこと同じ女神の依り代に? 私の歌にその資格が有るのでしょうか… 私には自信ありません… 」
― 舞姫と歌姫の貴女達の唄と踊りが、私を邪悪な封印から解き放ったのですよ?
もっと自信を持ちなさい ―
いつの間にか舞台に上がった王妃と公女は、ユミにも舞台に上がるように言い…
会場の人々も私に女神の依り代になる事を求めた
私はもう一度女神様を見ると、女神様は優しい眼差しで私を見詰めるだけだった
「 皆みこのお陰… 舞姫の… 咲夜媛の娘なのだから歌等と、私が歌を習いたいと言った時皆に反対されたのを…
みこが… みこだけがただ一人、私に味方してくれ賛成してくれた… みこだけが応援してくれたから私は歌を習えた… 」
静まり返る聴衆
元々私は踊りより歌の方が好きだった…
勿論踊りだって大好きだったし特にみこと二人山の女神を讃える踊りを踊るのは楽しかった…
でも… みこはいつからかその才能に目覚め私の追い付け無い高みを上り始めてしまった
それを見て私は思った… いつまで周りの都合で歌を唄わないのかと…
普通は7才から本格的に習い始める精霊の踊りを習い始める前に一人、独学で習得してしまったみこを見てお父様が踊りの稽古もする約束でやっと許してくれたのだから…
「 舞姫は? 舞姫様がなぜいないの? 」
その疑問で人々が騒ぎ始めた…
― 先程も申した通りに邪悪な力で封じられていた私の封印を解きに封じられていた場所に来てくれていました ―
そう言われて私は
「 みこは… みこは無事なんでしょうか? 」
― 私を受け入れば私が見てきた物を全て知る事が出来ますが… 受け入れず話だけ聞きますか? ―
「 私は貴女を受け入れます… と言うよりまだまだ未熟者の私をお導き下さい
私は今になってようやくみこがなぜあれほどまでに女神の祭典に出ること拘ったのかがわかるような未熟な私を… 」
私がそう答えると、女神様は三人の乙女に光を当て
― 歌姫にして我が依り代になる真琴の力になってあげては貰えませんか? さぁ、貴女達も舞台に集まってください ―
そう言って呼ばれた三人の乙女達が集まり
「 私はこの祭典で、運命の方と出会うと言われていましたけど… 真琴様がその方なのでしょうか? 」
― 恐らくはそうでしょうしそれだから貴女を選んだのでしょうね… ―
そう言われ、納得した少女は私の手を握り
「 私の名は葵… 真琴様の側近くに居させて貰えますか? 」
と、そう聞かれ私は
「 私はこの国のお友達が未だ一人しか居ません…
水の精霊の巫女のりん様をそう呼んで良ければですがお友達になって頂けますか? 」
そう言われた女性 ( ひと ) は
「 お友達と言って頂けるのですか? 」
そう言って声を震わせるから
「 ええ、勿論… 良ければみこともお友達になってあげてくださいね? あの子はとても寂しがり屋なのだから…」
私は笑顔で答えた
「 私は礼拝堂でシスターのお勉強をしている碧と言う者です
未々未熟者ですが、女神様の依り代のお二人のお力になれればと思います…… どうか宜しくお願いします 」
そう尋常に挨拶されたので
「 未熟者なのは私も同じですしみこは…
あの娘は踊る事薬草の研究以外は何も興味ありませんから色々教えてと言うか導いて下さい 」
と三人に向かい頭を下げると慌て最後の一人の
「 私は茜と言いますが本来今日の舞台私が上がる予定じゃ無かったんです…
ですから何故私がこの場に呼ばれたのか理解出来ないのですけど…? 」
と、困惑の表情を見せる茜を名乗る女性に
「 つまり貴女は誰かの代理なのですね?
私は多分その本来出場する筈だった人には申し訳無い言い方なのだけど… その人はきっと貴女を祭典に導く役割を担っていたのでは? と思うのですが如何でしょうか? 」
そう三人に聞いてみた
― 歌姫よ… それは私にも解らぬ事であればその者達には尚更解らぬ事だと思いますよ ―
そう女神様は微笑みながら言い私も笑い、そして三人の乙女達にも
― 貴女達も唄いなさい… 歌姫の為に… そして自分達の為にも… ―
私が唄い始めると、3人の女性達も互いの顔を見て頷き合い唄い始めた
歌の女神様の暖かい光が私達を包み込んで、私を祝福してくれた
― 会場の人々は依り代と巫女達に労いと祝福を…
そして司祭の血を引く者達よ乙女達をくれぐれも宜しくお願いします ―
そう言うと女神様の気配は私の中に消えていき、それまでは黙って見守っていた王妃が感極まって私を抱き締め
「 さすが咲夜の娘… 女神の依り代の乙女、そして…
女神様の巫女様達よ… 我が国をお守りください 」
その王妃の言葉で我に返った聴衆達
人々は祝福の言葉を口々に叫び、手が赤く晴れ上がるほどの拍手を舞台の上の乙女達に贈った
そして、女神の巫女達も招かれた晩餐会の賑やかなその会場に内にあって唯一人浮かない顔をしている私
少し前にも公女に注意されたばかりだけど、気にするなと言われたからと言われてハイそうですかとはとてもじゃあ無いけど言えない…
不安は的中して、やっぱりみこはかなりの無茶をしていた
ただ… 今はみこの状態を教えて貰えない為それをきちんと教えて欲しかった
そんな私の前に、美月のスタッフの一人のユウが現れた
「 確か… 貴女はユカさんと共に、みこの捜索隊に同行していた筈…
そう… そう言う事なんですね… みこの怪我そんなに酷いんだ… 祭典前の私に伏せておかなきゃいけない程に…」
私に真っ直ぐに見詰められたユウは溜め息を吐いて
「 傷そのものはもう殆ど塞がってるようでしたが…
右目を失い身体中のいたる所に魔獣達の爪痕が…
あの長く美しかった黒髪も、ザンバラに短く刈られてました…
ページ句切り検討中です