夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
浅葱……浅葱。ふふっ、何とも良い響きじゃあないか。
少しの可愛らしさと、少しのカッコ良さを持ち合わせた素敵な名前。うむうむ。こんな素敵な名前が決まったのだから、きっと今回は素敵なものになるはず。
それが嬉しかった。
どうにも私は嬉しいことがあると、ふわふわとしてしまうらしく、今回も例に漏れず私の心は何処かへ旅立とうとしていた。そうなってしまうと私の意思とはもう関係無しになる。何処へ旅立ってしまうのかはわからないけれど、どうにも上手くいかないのです。それで失敗ばかりしていると言うのに。
「あんたって人里の子よね? この後はどうするの?」
いつもならそのままフワフワと旅立ってしまう。けれども、今回は鈴仙がいたおかげでどうにか旅立たずに済んだ。だから鈴仙にはちゃんと感謝しようと思う。
「ううん。私は人里の子じゃあないよ」
そもそも私は人間じゃない。かと言って妖怪でも妖精でも神でもない。じゃあ、お前はなんなんだ? とか聞かれるとちょっと困っちゃうけれど、私はそう言う存在なんだ。私と似たような奴らはまだいるだろうけれど、私と同じ奴はもうきっといない。それに私と同じ奴が沢山いたら大変だもの。
そんな私は最後の存在。
「そうなの? じゃあ、あんたは何処から来たのよ?」
うーん、何処から来たんだろうね? それは私にもわからないかな。気がついたら私はいるし、気がついたら私はきっと寝ている。そんな存在だもの。
「何処から来たのかはわからないかなぁ」
「え、えと、良くわからないけど……じゃあ、この後はどうするつもり?」
どうすれば良いんだろうね? 私としてはぽてぽてと素敵なモノを探しに行きたいのだけど、何処へ行くのかは決めていない。計画を立てるのが苦手な私は何時だってそうしてきた。
さて、それじゃあどうしようか。せっかく鈴仙がこうして聞いてくれているのだから、其処は素直に応えておきたい。
ん~……
「じゃあ君の住んでいるところへ遊びに行っても良いかな?」
私は道を覚えるのが苦手だから、此処で鈴仙と別れてしまったらきっともう会うことはできない。それは悲しいもの。出会いの後には別れが訪れるものだけど、その出会いと別れの間に何かがあった方が素敵だと思うんだ。
「うーん、それはちょっと……でも、此処まで来てしまったのなら逆に連れて行った方が……」
私の提案に鈴仙は悩んでいる様子だった。
ああ、そんな、別に嫌なら断ってくれても良いんだよ? 君と出会えただけでも私は嬉しかったのだから。それに、迷惑をかけるのは良いことじゃあないもの。
「まぁ、いいわ。それじゃあ案内してあげるからついてきなさい。……と言っても直ぐ其処なんだけど」
あら、そうだったのか。そりゃあ、今回はまた何とも面白いところで目が覚めてくれたんだね。ただ、そのおかげで、鈴仙と会うこともできたのだから、良しとしようじゃあないか。
「うん。ありがとう」
ふふっ、この先にはきっと素敵なモノが待ってくれている。
ただ――
「君はどうしてそんな悲しそうな目をしているんだい?」
どうしてもそのことが気になってしまった。
私は何とも楽しい気分だと言うのに、君の目は随分と悲しそうなソレになっている。それだと、まるで私まで悲しいような気分になってしまいそうで、ソレが嫌だった。
私は何もできないけれど、もしかしたら力になってあげられることだってあるかもしれない。それなら、お礼も込めて頑張ってみようかなぁって思うんだ。
「……私の目はあまり見ない方が良いわよ」
けれども、鈴仙はそう言ってやはり悲しそうな顔をした。
そりゃあ、私は何かの力になってあげることは苦手だ。だから、もし鈴仙が悲しそうな目をする私に話してくれても何もできないかもしれない。でも、何かを話してくれなきゃ何も進まないのだ。
それに――
「私は君のその綺麗な赤い目が好きだよ?」
どうしてか赤い色には嫌な感情があるけれど、鈴仙の瞳の色は嫌いじゃあない。綺麗でカッコ良くて素敵だと私は思うんだ。
「……うん、ありがとう」
鈴仙はそう言ってくれたけれど、その顔はやはり悲しそうに見えた。
う~ん……私としては悲しそうな顔じゃあなく、楽しそうな顔を見たいんだけどなぁ。うむうむ、それなら私が頑張ってみるとしよう。私に何ができるのかわからないけれど、できるかぎり精一杯、鈴仙が笑ってくれるよう頑張ってみようじゃあないか。
そんなことを心の中でそっと誓ってみた。
鈴仙の言っていたように、目的地らしき場所は私が目覚めた場所から直ぐだった。ただ、その間に私が何度か穴へ落ちて泣いてしまったせいで、時間はかかった方じゃないかなぁ。でも、アレは仕方無いんだ。だって私だって落ちたくて落ちているわけじゃあないし、泣きたくて泣いているわけでもない。そう、全部あの穴がいけないんだ。
「どうしてそんなポンポン落ちるのよ……」
ため息混じりに鈴仙が言葉を落とした。
私もどうして落ちちゃうのかなぁって思っていたところだ。私だって頑張って落ちないようにはしていたのに。
「それじゃ、ちょっと此処で待ってて。あんたを招き入れて良いのか聞いてくるから」
「うん、わかった」
鈴仙が案内してくれた家は大きく、なかなかに立派な建物。これだけ大きいのならきっと色々な人が住んでいるのだろう。優しい人だと嬉しいなぁ。
ただ、鈴仙もそうだったけれど、匂い的にも此処に住んでいるのは――
なんてことを考えている時だった。それは久しぶりの再会。本当なら再会と言えば嬉しいものだけど、嬉しいものなはずなんだけど……
「おや? おやおや? これはまた随分と懐かしい奴がいるじゃないか」
私はソイツが苦手だった。
前に会ったのはかなりの昔のこと。けれども、ソイツの姿はあの時と変わっているようには見えない。どうせ性格だって変わってないんだろうなぁ……
「おーい、どうしたのさ? もしかして私のこと忘れちゃったかい?」
忘れるはずがない。私は忘れっぽい性格であるけれど、きっと君のことは忘れないだろう。
「…………何か用?」
できるだけ、こう……ムスっとしたような表情でソイツへ言葉を落とした。こうでもしないと、コイツは直ぐに私をいじめるのだ。意地悪されるのは好きじゃあないから、私はコイツが苦手だった。
「くふっ、やめときなって。あんたにゃ、そんな表情は似合わないよ」
あっ、やっぱり? 私もそうなんじゃないかなぁって思ってたんだ。うむ、それならいつも通りにいかせてもらおう。
……うん? 何かおかしい気がするぞ。とは言え、何がおかしいのかはわからないし、どう仕様も無いね。
「てゐはどうして此処にいるの? 君は地上の兎じゃあないか」
「私こそどうしてあんたが此処にいるのか聞きたいのだけど……まぁ、良いや。此処は居心地が良いからねぇ。だから此処で生活しているのさ」
ほえー、そんなこともあるものなんだね。此処辺は竹ばかりで私にはその気持ちが良くわからないけれど、きっとてゐにとっては違うのだろう。
それに、よくよく考えるとてゐが此処にいるのがおかしいのではなくて、むしろ他の奴らが此処にいる方がおかしい。だって此処にはまだ穢れだって沢山残っている。アイツらはその穢れが嫌で空へ昇っていったはずなのだから。
その後も、てゐとおしゃべりを続けていると鈴仙が戻ってきてくれた。
「あら、てゐと浅葱は知り合いだったの?」
「うん、そうだよ」
今では遠い昔のこととなってしまったけれど、てゐとはそれなりの時間を一緒に過ごしたんだ。てゐのことは苦手だけど、嫌いじゃあない。でも、意地悪されることだけはいただけない。
「ふーん。そうだったの……あっ、お師匠様から許可が出たから案内するわ。ついてきて」
おおー、お邪魔しても良いのかい? そりゃあ嬉しいよ。私は月へ行くことができなかったから、君たちと一緒にいるのは本当に久しぶりなこと。ふふっ、それはなんとも素敵じゃあないか。
お師匠様かー。どんな人なんだろうなぁ。どうかどうか優しい人だと私は嬉しいです。
ちょっとだけ嬉しくなったから、上を見上げてみると、竹と竹の隙間から嘘っぱちのお月様が顔を出していた。