夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
ぽてぽてと鈴仙のあとに続いて暫く歩く。その道中にはモフモフの兎が沢山いて、なんとも愉快な感じ。うむ、良い雰囲気じゃあないか。
それにしても此処の建物は本当に大きいんだねぇ。こんなに大きいと私は迷子になっちゃいそうだ。君たちモフモフは迷子になったりしないのかい?
「あら? なんだかちっこいのがいるけど……鈴仙、それは誰?」
そして後ろから急にそんな声をかけられた。びっくりした。
あのね。そんな急に声をかけられてしまうと私は驚いてしまうから、声をかけるときはね――『はい、じゃあ今から声をかけますよー』とか言って……ああ、ダメだ。結局急に声をかけられるから私は驚いてしまう。
あと、“ちっこいの”はいただけない。そりゃあ私の身体は小さい方ではあるけれど、そんな呼ばれ方だと、まるで私が畜生か何かみたいじゃあないか。
「あっ、輝夜様。どうしてかはわかりませんが、永遠亭直ぐ前にあるてゐの仕掛けた落とし穴に嵌っていたので、連れてきたところです。これからのことを考えると、いっそ連れてきちゃった方が良いのかなって思いまして」
うん? なんと、あの穴はてゐが仕掛けたものだったのかい? んもう、どうしてアイツはそんなことばかりするのさ。私は別に悪いことをしてないと思うんだけどなぁ。
鈴仙が“輝夜様”と呼んだ人物を見てみると、其処には桃色の服を着た少女が立っていた。
ん~……こりゃあ、また懐かしい匂いのする人じゃあないか。
「へー、なんだか面白そうな奴ね。貴方、名前は?」
おぅ? 名前ですか?
ふふん、ようやっとこの時が来たか。それなら聞かせてあげようじゃあないか。なんてったって、今の私には素敵な名前があるのだから。そんな素敵な名前を君に教えてあげよう。
「私の名前は――「何やってるのよウドンゲ。早く来なさい」
わ、わた、私の名前は……浅葱って言います……
名前を教えてあげることができなかった。遮られてしまった。良い名前だと思うんだけどなぁ。
しかし、なんだろうか。こんなことが前もあった気が……ん~それはいつのことだったかなぁ。どうにも何かを思い出すのが苦手なせいで、そんなことすらわからない。ホント、困っちゃうね。
私の素敵な名前を遮った奴の方を見る。其処には赤と青のなんだか良くわからない模様の服を着た女性がいた。あら? なんだか見覚えのある人じゃあないか。
う~ん、急に色々な人が出てきちゃったなぁ。急に色々な人が出てきてしまうと、私は誰と話せば良いのかわからなくなってしまう。目が回っちゃうのだ。
「あっ、すみません」
「はぁ、もう私の方から来たから……って、えっ?」
赤青の女性は私を見ると固まってしまった。
でも、どうして固まってしまったのかはわからない。私は固いのより柔らかい方が好きなんだけどなぁ。だって、固い奴より柔らかい奴の方が優しいもの。
「え、えと……もしかして貴方は……」
ポカンと口を開け固まった赤青の人。
ん~……まさか君と再会できるとはねぇ。随分と久しぶりじゃあないか。でも、月へ行ってしまった君がどうして此処にいるんだい? 相変わらずわからないことの多い世界だ。
だからこそ面白いんだけどさ。
「おっすおっす。久しぶり、どう元気?」
「え、ええ、元気だけど……」
おおー、それなら良かったよ。月での生活のことはわからないけれど、此処地上だって良い場所だと私は思うんだ。ゆっくりしていきなさいな。
それにしても――
「どうして、君たちは地上にいるんだい?」
それはずっとずっと気になっていたこと。それをようやっと聞くことができた。
別に私を捨て、月へ行ってしまった君たちを恨んでいるわけじゃあないけれど、やっぱり気になってしまう。
「なっ! あんた、どうしてそのことを?」
急に大きな声をあげた鈴仙。超びっくりした。今にも泣きそうだ。
どうしてって言われても……そんなの匂いを嗅げばわかってしまうもの。
「落ち着きなさいウドンゲ」
「いや、でも、お師匠様……」
な、なんだか素敵じゃあない空気になってきたぞ。むぅ、どうしてこうなった。何か悪いことをしたつもりもないんだけどなぁ。
「大丈夫、この子なら大丈夫だから。はぁ……私たちはね。月の追っ手から逃げて此処で隠れているのよ」
なんと、そんな大変な状況だったのか。なるほどなるほど、それで月の住民である君たちが地上にいるんだね。
じゃあ、私に何か手伝えることはあるかい? できることは少ないけれど、私も頑張れるだけ頑張るよ?
「それは嬉しいけれど……そうね。じゃあ、貴方は暫くの間、姫様の話し相手をしていてもらえるかしら? 私たちはこれからやらなきゃいけないことがあるの」
おおー、それくらいなら力のない私にもできる。ふふん、この浅葱さんに任せなさい。
「……良いのですか?」
そんな言葉を鈴仙がぽそりと落とした。
大丈夫だよ。だって私には何かができるほどの力はないもの。唯一できるのがただ何かを食べることだけ。
「大丈夫よ。この子だけは大丈夫。それにこの子を悪く扱うことなんてできないもの。さて、鈴仙。それじゃ私たちは準備に戻るわよ。あまりもたもたしている時間はないわ」
それは本当かい? そうやって私を安心させて、急に後ろから『わあっ』とかやらない? そんなことをされると私はちょっと困っちゃうのだけど。
あと、なんだか忙しそうだけど大丈夫? う~ん、タイミングが悪かったかなぁ。でもね、私は起きる時間を決めることができないんだ。
「よくわからないけれど……えと、貴方、名前は?」
そんな言葉を輝夜が落とした。
うん、私も今の状況がよくわからないや。
「浅葱って言うんだ。素敵な名前でしょ?」
「ふふっ、そうね。それじゃ、私の部屋へ案内するからついて来て」
そう言って輝夜はコロコロと笑ってくれた。
うむうむ、良い笑顔じゃないか。やっぱり固い表情よりも柔らかい表情の方が良いよね。私はそう思うんだ。
途中で出会ったモフモフたちと遊びながら、輝夜に連れられ暫く進むと、なんとも不思議な空間に着いた。部屋と言うか何と言うか……それでも、真ん丸で輝いている嘘っぱちの月は綺麗だと思う。
此処まで近づいて漸くこの月のことがわかった。この嘘っぱちの月は綺麗だとは思う。思うけれどこの月は……
「さて、浅葱……だったかしら?」
「うん、そうだよ」
う、うーん、よくわからない。よくわからないけれど、なんだか素敵じゃない匂いがする。だって、この嘘っぱちの月は良い奴じゃあないもの。
誰がこの嘘っぱちの月を用意したのかはわからない。でも、この月は力が強すぎる。少しの間なら大丈夫だと思うけれど、ずっと続いてしまえばきっと狂ってしまう奴らが沢山出てきてしまう。
そんなことになった時のために私がいるわけだけど……ソレはやりたくないなぁ。
「浅葱にはこの月、どう見える?」
「……素敵じゃない」
随分と懐かしい匂いのする月だけど、やっぱりコイツは嘘っぱちだ。私はいつもの月の方が好き。だって、この月じゃあきっとお月見だってちゃんとできない。この月の下じゃあ皆が笑えない。それは素敵なことじゃない。
「……そう」
私の言葉に輝夜はそんな言葉を落とした。その顔は少しだけ悲しそうにも見える。
それにしても、誰がこんな月を用意したんだろうね? お願いすればやめてもらえるかなぁ。そうだと嬉しいんだけどなぁ。
それから輝夜と色々なお話をした。
輝夜は月の民だから私の知らないことをたくさん知っていて、その話してくれる全てのことが新鮮。それと実際に月で兎がお餅をつくに使っていた臼や、月の石、蓬莱の玉の枝なんかも見せてくれた。
私は存在が存在だから月へ行けることは絶対にない。だから、輝夜とのお話はすごく面白かった。本当なら、この嘘っぱちの月をどうにかした方が良いんだけど、何か面白いことがあると、私は其方へ誘われてしまうため、私はもう月のことなんてすっかり忘れてしまう。
そんな性格なんです。
「っと、なんだか外が騒がしくなってきたわね。永琳のことだから大丈夫だと思うけれど」
どれくらいの時間、輝夜とお話を続けていたのかわからないけれど、きっともうあ太陽が顔を……あれ? 出してないぞ。
うん? 流石に朝になる時間だと思っていたんだけどなぁ。もしかしてアイツったらまた岩穴の中へ入っちゃったのかな?
そして、どうやら外の方は騒がしいみたい。私は何が何やらさっぱりだけど……どうしたんだろうね?
「それにしても、どうして夜が明けないのかしら? そんなことまではやってないはずなのに……」
あっ、やっぱり気になるよね。私もおかしいなぁとは思っていたんだ。
ああ、そうだ。そう言えば、この嘘っぱちの月をどうにかしないといけないんじゃあないか。う、う~ん、でもその前に太陽の方をなんとかした方が良い気が……
むぅ、色々なことが起こりすぎて何がなんだかさっぱりだ。私は頭の良い奴じゃあないから、こんな沢山のことが一気に起こるとどうして良いのかわからない。
「ちょっと外の様子を見てくるわ」
「うん? 私も一緒に行こうか?」
ほら、夜に一人でこんな広い家の中を歩くのは寂しいでしょ? それなら私も一緒にいてあげようじゃあないか。私にはそれくらいしかできないから、そのできることはちゃんとやりたいのだ。
「ふふっ、ありがとう。でも、大丈夫よ。それにすぐ戻って……」
そう言って、輝夜が優しく微笑んでくれた瞬間のことだった。
「ああ、もう! こっちに来ちゃ駄目だって……」
そんなあの赤青服の人の声と御札やら針やら霊弾やらがいきなり飛んできて、この場所の扉を吹き飛ばした。
ああ、ああ……これはダメだ。今にも泣きそうだ。なんだって今日はこんなにも色々なことが起こるのさ……
じわりじわりと霞んでいく視界。
そんな視界の先で、なんだか見覚えのある姿が見えた。忘れっぽい私ではあるけれど、流石に間違いではないはず。
「あら? まさか、貴方がいるとはねぇ。ふふっ、もう当分は会えないと思っていたのに、これは嬉しいわ」
手に持っていた扇で顔を隠しつつ、いつもの胡散臭い笑ではなく、純粋に笑いながら――私の大切な友人である紫がそう言った。そんな紫の隣には、頭の上に大きなリボンをつけ、紅白の巫女服のようなモノを着た黒髪の少女。
でもその服大丈夫? 脇出てるよ?