夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
私のことを見つけ、優しく笑ってくれた紫。その隣にいる紅白の巫女はポカンと口を開けていた。
それにしても、どうして紫が此処にいるのだろうか? そりゃあ、こうして再会できたことは嬉しいけれど、今日は色々な人との出会いがあったせいで私の頭はちょっとこんがらがっている。
嘘っぱちのお月様は上の方で輝いているし、もう顔を出しているはずの太陽はまだ出てきていない。何が何やらさっぱりだけど、きっと私が寝ているうちに色々と変わってしまったんだろう。私は変わらない存在だけど、他の奴らは私がちょっと寝ているうちに色々と変わってしまうもの。
でもなぁ、紫だってそんな乱暴に扉を開けなくても良いじゃあないか。私はそう言う乱暴なのは……
「浅葱っ!」
なんて考えていると、ちょっと変わった巫女服の少女に私は抱きしめられた。
おう? おおぅ? な、何事ですか? いや、別に悪い気はしないけれど、そんないきなり抱きしめられても私には何が起きているのかわからないわけでして……
ちょ、ちょっと待ってね。此処は一度落ち着いて自己紹介から始めようじゃあないか。
とりあえず、浅葱の名前は私って……ああ、違う違う。私の名前は浅葱……あれ? そう言えば君、私の名前を呼ばなかったかい?
あら? でも、それはおかしいぞ。だって私がこの名前を決めた時に君はいなかったもの。それなのに、どうして君は私の名前を知っているんだい?
ま、まぁ、それは考えてもわからないこと。
「え、えとね。その……君はなんて言う名前なんだい?」
一度に色々なことができるほど私は器用じゃあないから、ひとつずつ一つずつやっていこうじゃないか。
「……私のこと覚えてないの?」
そして私の質問に、その少女は悲しそうな顔を浮かべながらそんな言葉を落とした。
ああ、ごめんね。ごめんね。私はどうにも忘れてしまうから……一度寝てしまうとそれだけ、色々私の頭の中から消えてしまうから……
「えと、で、でもね。もしかしたら名前を教えてくれれば思い出すんじゃないかなぁって思うんだ」
だから、君の名前を教えてもらえれば嬉しいな。
あら? でも、色々とおかしいぞ。この少女は私のことを知っているみたいだけど、この少女は人間だ。そして私のことを知っていると言うことは、私が起きていた時に会っていたと言うことだけど、それはおかしい。だって、私が一度寝てしまうと、次に起きる時はそれからずっと先のことだもの。私が寝ている時間は人間の寿命よりもずっと長い。
それなのに、どうして君は私のことを知っているんだい?
「霊夢。浅葱と再会できて嬉しいのはわかるけど、それは後にして。それよりも今はやらなきゃいけないことがあるでしょ?」
「……わかってるわよ」
紫の言葉を受け、漸く私は解放された。
ホント、この二人はどうして此処に来たのだろうか? 誰か説明してくれれば嬉しいんだけどなぁ。
「それじゃあ、さっさと終わりするわ。ようはあんたを倒せば良いんでしょ?」
輝夜の方を見ながら霊夢と呼ばれた少女が言った。
うん? 霊夢? あっ、なんだか聞いたことがある気がするぞ。どうにも曖昧だけど、私はこの霊夢を知っている……たぶん。
「はぁ、なんともせっかちねぇ。たまのお客様かと思ったら、こんな乱暴な奴らだったなんて。でも、いいわ。今まで幾人もの挑戦し敗れていった五つの難題。貴方たちにソレが解けるかしら?」
そして、何が何だかわからないまま、3人が戦い始めてしまった。
私が寝てしまっている間にこの世界も随分、騒がしくなったんだねぇ。なんて、まるで他人事のように思った。
でも、私は何をやっていれば……
3人の戦いの結果は紫と霊夢の勝利。その戦いの間、私は隅っこの方で小さくなっていた。だって、私には妖弾や霊弾を出したりする力はないもの。
そんな争いごとの苦手私だから、詳しいことはさっぱり。でも、霊夢は異常なほどに強いことはわかった。輝夜は月の民だからまだ強いのはわかる。でも、地上の民である霊夢が此処まで強いとは……う~ん、人間も成長するものだねぇ。
「さて、それではこの月をどうにかしてもらえるかしら?」
「……はぁ、わかったわよ。それなら貴方たちもこの終わらない夜をどうにかしなさいよ?」
うん? この嘘っぱちの月は輝夜が出していたの? それで、太陽が顔を出さなかったのは紫のせいってこと?
どうしてそんなことをしたのやら……
「さてさて、今の貴方の名前は何ていうのかしら?」
そう言って紫が私に尋ねた。
私の頭の中はもうぐちゃぐちゃです。
「えとね、今は“浅葱”って言うんだ。どう? 素敵な名前でしょ?」
けれども、今ばかりは胸を張って自分の名前を言ってみる。だって、この名前が素敵なことには変わらないから。
そして、私の名前を伝えると紫は酷く驚いたような顔をした。どうしたのだろうか? 良い名前だと私は思うんだけど……
「こんなこともあるのね……ふふっ、そうね。素敵な名前だと思うわ」
驚いたような顔をしていた紫だったけれど、その表情は直ぐに柔らかくなりそう言って優しく笑ってくれた。
うむうむ、私もそっちの表情の方が素敵だと思うよ。
「まだ浅葱とは色々と話したいことはあるけど……これからの予定は? 数日後に博麗神社で貴方の好きな宴会が開かれるはずよ」
宴会! なんと、そんな素敵なモノが開かれるのですか? そりゃあ是非とも参加したいところだ。
「それ、私が参加しても大丈夫?」
ダメと言われたらどうしようか。もしかしたら泣いてしまうかもしれない。
「もちろん。貴方が参加してくれれば喜んでくれる人がたくさんいるわ」
そうなの? 私はまだ起きたばかりだから、この時代にどれだけ私を知っている奴がいるのかわからないのだけど……
とは言え、宴会には参加したい。賑やかな声と美味しい料理。宴会には素敵なモノが溢れているのだから。
ただ、問題なのはその宴会が開かれる予定である“博麗神社”って場所が私にわからないこと。私は直ぐに迷子になってしまうから、もしかしたらたどり着けないかもしれない。
それは嫌だなぁ。でも、どうすれば良いのかさっぱりわからないから困ったものです。
「私はこの後もやらなきゃいけないことがあるけど……霊夢、浅葱を神社へ案内してあげたら?」
「私はそうしたいところだけど……どう? 浅葱。ウチに来る?」
んと……つまり霊夢の住んでいる場所で宴会が開かれるってことなのかな? うむ、それなら私も問題なく宴会に参加することができそうだ。
「それじゃあ、お願いするよ」
私がそう応えると霊夢は嬉しそうに笑った。
うむうむ、良い笑顔じゃあないか。そう言う顔は私も好きだよ。
宴会かぁ。楽しみだなぁ。せっかく起きたんだもの、それなら全力で楽しみたいよね。
それから、霊夢に連れられて博麗神社へ向かうことになったのだけど、その前に輝夜や鈴仙、てゐや赤青の人に挨拶はちゃんとしておいた。その時、また遊びに来ても良いか聞くと、いつでも来て良いとも。ふふん、これでまた楽しみが増えたじゃあないか。
私がいつ寝てしまうのかわからないけれど、楽しみなことはたくさんあった方が嬉しい。出会いと別れは裏表。出会いがあれば必ず別れが訪れるもの。だからこそ、その出会いを大切にしたいんだ。
「それじゃ、行きましょうか」
「うん、よろしく。その博麗神社って場所は此処から近いのかい?」
たくさんの竹が茂っているせいで、なんとも見え難いけれど今は嘘っぱちの月もいないし、太陽も顔を出している。匂い的に季節は秋と言ったところ。秋はやらなきゃいけないことがたくさんあるからなぁ。とても全部はできないけれど、私も頑張ってみよう。
「近くはないわね。まぁ、飛んでいけそれほどかからないけど」
ああ、なるほど飛んでいけば……うん?
「ちょいと待って」
「どうしたのよ?」
飛んでいく? つまりアレかい? 飛ばなきゃいけないってことかい?
でもね、私は飛べるかどうかわからないのだけど……移動は基本的にぽてぽてと歩くくらい。走ることすら私は苦手だ。
「もしかして、また飛び方を忘れちゃった?」
クスクスと笑いながら霊夢がそう言った。
「あー、えと……ちょ、ちょっと待ってね。私だってもしかしたら飛べるんじゃないかなぁって思うから」
いや、飛べるような気もするんだ。でも、きっと私が飛んだのは遠い昔のことだから、ちょっと今は忘れちゃってて……
それから少しだけ頑張ってみたけれど、私の身体はなかなか中へ浮いてくれやしなかった。
う~ん、本当に飛べた気がするんだけど……どうやっていたんだろうね? もうちょっと練習すればできるようになるのかな。
「ふふっ、別に無理はしなくても良いわよ。今回は私が抱えてあげるから」
おおー、それは嬉しいよ。私が飛べるようになるのはもう少し時間がかかるから。
「ありがとう。霊夢」
「どういたしまして」
私がお礼の言葉を落とすと、霊夢は恥ずかしそうに笑ってから私の身体に腕を回した。
うむ、霊夢は優しい人じゃあないか。優しい人は私も好きだよ。
それじゃあ、よろしくお願いするよ。素敵な巫女さん。