夢の続きをもう一度 作:にばんしぼり
霊夢に抱きかかえられながら、秋空の中をふよふよとお散歩。ああ、いや、別に歩いているわけじゃあないから、お散歩じゃなくて……えと、なんて言うんだろうね?
私のお腹は霊夢にがっしりと支えられているから大丈夫。でも私の足までは支えられていないから、ぷらぷらと揺れる。それがなんだか面白くて、今は良い気分だ。少しでも風が吹くと私の足はもっと揺れる。ぷらぷら、ぷらぷらと。それが面白い。
「それにしても、浅葱はいつ起きたのよ?」
「ん~……起きたのはちょっと前かなぁ。私が起きてからまだ一日も経ってないと思うよ」
確か、起きたときはもう既に夜だったと思う。だって、あの嘘っぱちのお月様が見えていたもの。
遠くの方に浮かんでいる鰯雲。秋かぁ。秋だねぇ。そんな秋はやらなきゃいけないことが沢山あるのだ。食欲から始まり、紅葉や行楽、読書はちょっと遠慮するけれど、それでもやらなければいけないことが沢山。そんなに多いものだから、私の目は回ってしまいそうになるけれど、それが秋と言う季節だもの
仕方無いね。
「そう言えばさ」
「うん? どうしたの?」
気になっていたことがあるんだ。君は近くにいて安心できる人だから、別に聞かなくても良いかなぁって思うけれども、やっぱり聞いておいた方が良いと思う。
「君はどうして私のことを知っていたんだい?」
私が一度寝てしまうと、次に目が覚めるのは早くても数十年後。長ければ数千年も寝たままになってしまう。最近は其処まで長い時間寝ていることはないみたいだけど、それでも霊夢のような人間が生きているウチに私が2度も目が覚めることは今まで一度もなかった。
だから気になったんだ。
「どうして? と言われても……だって、浅葱が寝てしまってからまだ二ヶ月も経っていないわよ?」
……うん?
「それはおかしいぞ」
「いや、そんなこと言っても事実だし……」
えっ……そ、それは本当かい? ちょ、ちょっと待ってほしい。だって、そんなことは今まで……あったかもしれないけれど、私は知らないからきっとなかった。
しかも2ヶ月? 流石にそれは早すぎじゃあないかい? 自分で言うのもアレだけど私はお寝坊さんだから、一度寝てしまうとなかなか……そうだと言うのに、何があったのやら。
ん~……ま、いっか。
起きることは別に悪いことじゃあないんだ。もしかしたら私がいるだけで、迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、起きていないと私が面白くない。
それなら、この
博麗神社へ行くまで霊夢とは色々なお話をした。
その時に聞いたことだけど、どうやら以前、私が起きていた時は、この霊夢と一緒に生活をしていたらしい。そう言われると確かにそうだったかもなぁ、なんて思うけれど、私は流されやすく騙されやすい性格だから、本当のところはどうなのかわからない。でも、そんなことはどっちでも良いのだ。だって、霊夢は素敵な人だから。
そんなことをぽそり呟くと霊夢は私の頭をポカリと叩いた。んもう、何故叩く。
ふよふよと飛びながら、会話をしているとようやっと博麗神社に到着。其処は何処か懐かしい匂いのする場所だった。
「どう? 何か思い出した?」
「ううん、全く」
でも、此処はなんとも素敵な匂いのする場所だね。そんな場所だから、きっと前の私は此処にいたのだろう。特にあの縁側なんてすごく居心地が良さそうだ。日がな一日、あの場所でごろごろしているだけで面白そうだもの。
そして嬉しいことに数日後、此処で宴会が開かれる。私もその宴会に参加して良いらしいからソレが本当に楽しみだ。
うむうむ、良い世界になったじゃあないか。
博麗神社へ着いてからは早速縁側へ移動して寝転んでみた。
秋特有の柔らかな日差しは心地よく、もうずっと此処にいたいです。
「ふふっ、相変わらずその場所が好きなのね」
ころころと笑うような霊夢の声。
相変わらずってことはきっと前の私もきっとこうやっていたのだろう。でも、仕方無いね。この場所はそれほどに素敵なのだから。
暫くの間、その縁側に寝転び全身で秋の日差しを思う存分堪能してみる。たまに吹く風も心地よく、良い季節だねぇ、なんて心の中でそっと思った。
一方、霊夢だけどそんな私の隣でお茶を啜っていた。一応、私の分のお茶も用意してくれたみたいだけど、其方は後でいただこうかな。
ゆっくりと流れる時間。話し声は聞こえやしないけれど、決して痛いような沈黙ではなく、風の音。その風によって揺れた葉々が擦れる音。そして、鳥や虫などの声は遠くの方から聞こえてくる。やらなければいけないこともあるけれど、今ばかりはこの時間を思う存分楽しませてもらおうじゃあないか。
「ねぇ、浅葱」
「ん~? どうしたの?」
静かにゆっくりと流れる世界の中で、霊夢と私の声が静かに響いた。
けれども、そんな音も直ぐに消え、また静かでゆっくりとした時間に戻る。
こてりと寝ていた身体を起こし、声を出した霊夢の方を向いてみる。そして霊夢の手には――
「……えと、霊夢?」
「どうしたの?」
あの……その手に持っているモノはなんだい? 私には首輪にしか見えないのだけど、いったい君はソレをどうするつもりなのかな?
ああ、でもまだ首輪と決まったわけじゃあないんだ。聞いてみないとまだわからない。
「その手に持っているモノは?」
「首輪だけど……」
首輪でした。これはもうダメかもしれません。
でもまだちょっとだけ希望はあるから、まだわからない。もしかしたらきっと違うかもしれない。
「え、えと、その首輪をどうするのかな?」
「浅葱につけるのよ」
よしきた、逃げるぞ。私は私の自由のために逃げるのだ。
だいたい、どうして私が首輪なぞつけられなければいけないのだ。そりゃあ私は小さいし、力だって強くない、けれども私は畜生じゃあないのだ。
速く動くのは苦手な私。けれどもそんなことを言っている場合じゃあなくなってしまったから、一生懸命ぽてぽてと逃げることにした。
「ふふっ、捕まえた」
でもね、霊夢さんってば超速いの。そんなんだから直ぐに捕まりました。そんな霊夢は今まで見たこともない良い笑顔。絶望しかない。助けてください。
抵抗? できるわけがない。
おかしいなぁ。こんな予定じゃあなかったのに……どうしてこうなった。
じわりじわりと私の目には何かが貯まっていく。でも、私はそんなに貯めることできないから、それは今直ぐにでも溢れ始めそうだ。
「これからもよろしくね、浅葱」
泣きました。
太陽は沈んでしまい。私が起きてから2回目の夜が訪れた。
起きている間の私は寝ないし、食料だって必要じゃない。でも、食べることは好き。そして、私はそうだけど、普通は夜になったら寝てしまうものだから、この時間は一人で過ごすことが多かった。
そんな私の首には鈴付きの革でできた首輪。私が少しでも首を動かすと首に付いている鈴から綺麗な音が溢れる。
首輪は好きじゃあないけれど、鈴の音は好きだから、この首輪のことだって許してやろうかなって思わなくもない。でも、此処で私が許してしまうと、なんだかダメな気がして、やっぱり私は許さないことにするのだ。
本当ならこの首輪くらい直ぐに外すことができる。けれども、この首輪を外してしまうと霊夢はきっと悲しむだろうから、此処は大人な私が我慢するのだ。全く、霊夢も子供だなぁ。
「や。久しぶり。えと……今も浅葱でいいんだっけ?」
涼しくなった秋夜の風に打たれ、真ん丸からは少しだけ欠けてしまった本物のお月様をボーッと見ていると、そんな声をかけられた。
「おおー、萃香じゃあないか。おっすおっす。うん、私は浅葱だよ」
現れたのは子鬼である萃香だった。
君も相変わらずちっちゃいねぇ。ふふん、何時までも小さなままじゃあ、そのうち私の方が大きくなっちゃうよ?
これでも萃香とは長い付き合いの方だから、流石に萃香を忘れることはない。たま~に、意地悪するときもあるけれど、萃香は正直なやつだから嫌いじゃあないのだ。
「そうかい、そうかい。って、あら? 浅葱はまぁた首輪を付けられちゃったんだ」
「私もね、頑張ったんだ。でもね、霊夢は子供で私は大人だから仕様が無くつけているんだよ」
別に私に力がないからとか、断る勇気がないとかじゃあなく、私が大人だったからなんだ。
「ふふっ、浅葱らしいねぇ。そんなことより……一杯どうだい?」
「もちろん。いただきます」
真ん丸の状態からは少しばかり欠けてしまっているけれど、それでも綺麗なことに違いはない。それならお酒も進むし会話にだって花は咲く。そして何よりお酒って美味しいよね。
秋夜の少しばかり欠けた月の下、親しい人とお酒を楽しむ。
それはきっと素敵なこと。これだけでも起きることができて良かったと私は思うんだ。
そんなことを思い、クスリ笑うと私の首に付いた鈴がチリンと綺麗な音を溢した。